減資の課税関係


第1 株数を減少しない減資


 株数を減少しない減資には、1)有償の場合と、2)無償の場合がありますが、結局、この2つは同じ処理になります。会社の計算も、株主の計算も、共に、簿価純資産と払戻し金額のプロラタ按分計算ですので、計算結果は同じです。
 株主の課税関係について、「有償減資」「無償減資に近い名目的な有償減資」「無償減資」を比較してみたのが次の説例です。全て、考え方は共通になります。

  理論的には「簿価純資産」ではなく、「時価純資産」を採用すべき。しかし、「時価純資産」の算定は困難なので、妥協の産物としての「簿価純資産」と思える。


  −− 説例 −−
  資本構成(発行済み株数1万株)
  資 本 金 200万円
  資本積立金 150万円
  利益積立金 100万円

 ◆ 有償減資


 株主の取得価格が500円だった場合に400円の払い戻しを受けた場合の株主の課税関係(小数点計算を無視して)。


 現 金 400 / 有価証券 444
 譲渡損 133 / 受取配当  89


  注 簿価500円×払い戻し400万円÷純資産額450万円=444円
    残った株式の簿価は56円

 ◆ 無償減資に近い名目的な有償減資


 株主の取得価格が500円だった場合に10円の払い戻しを受けた場合の株主の課税関係(小数点計算を無視して)。


 現 金  10 / 有価証券  11
 譲渡損   3 / 受取配当   2


  注 簿価500円×払い戻し10万円÷純資産額450万円=11円
    資本350万円×払い戻し10万円÷純資産450万円÷1万株=8円
    現金10万円−資本等の金額からの払い戻し8万円=配当所得2万円
    残った株式の簿価は489円。

 ◆ 無償減資


 株主の取得価格が500円だった場合に0円の払い戻しを受けた場合の株主の課税関係(小数点計算を無視して)


 現 金   0 / 有価証券   0
 譲渡損   0 / 受取配当   0


  注 簿価500円×払い戻し0万円÷純資産額450万円=0円
    残った株式の簿価は500円。つまり、付け替え計算と同じ。

第2  株数を減少する減資


 株数を減少する減資には、1)強制有償消却と、2)任意消却(通常は有償)と、3)強制無償消却の場合があります。この3つは結局は同じ処理になります。会社の計算も、株主の計算も、共に、株式数によるプロラタ按分計算です。
 株主についての課税関係を例示すれば次の1)、2)、3)の通りで、結果は同じです。

  この3つの処理の税務上の最大の関心事はそれが適正時価による減資(買い取り)なのか否かになる。なぜなら、株数按分なので、対価が低い場合は譲渡損が計上されてしまうから。


  資本構成(発行済み株数1万株)
  資 本 金 200万円
  資本積立金 150万円
  利益積立金 100万円


 ◆ 強制有償消却


  株主の取得価格が500円だった場合に400円の払い戻しを受けた場合の株主の課税関係


  現 金 400 / 有価証券 500
  譲渡損 150 / 受取配当  50


  注 簿価500円×消却株数1=500円
    受取配当金の計算は・・・
     払戻金(400)−消却資本等金額(350)=50
     消却資本等金額=消却直前の資本等の金額(350万円)×消却株式数(1)/発行済株式総数(1万株)

 ◆ 任意消却(有償で買い入れて消却)


  現 金 400 / 有価証券 500
  譲渡損 150 / 受取配当  50


  注 簿価500円×消却株数1=500円

 ◆ 強制無償消却


  現 金   0 / 有価証券 500
  譲渡損 500 /


  注 簿価500円×消却株数1=500円

第3 減資についての大統一理論


 原則1 減資は、株数を減少する場合と、株数を減少しない場合の2つに分けて考えるべきである。有償か、無償かは、とりあえず無視する。
 結論= 株数を減少する減資と、株数を減少しない減資を一つの理屈に統一して理解することはできない。

 原則2 株数が減少する減資では、株主の譲渡損益の計算は、a)減少する株式と、b)所有し続ける株式とは独立して計算される。
 つまり、100株の内の30株が減少すれば、30株について売却したのと同じ処理になる。30株を金庫株として売却した場合と同様。
 無償減資なら、100株の内の30株が無償で消滅してしまったとの処理になる。30株を0円で売却したのと同様。残りの70株の帳簿価格は変わらない。
 したがって、低額譲渡の課税関係については、1)強制有償消却と、2)任意消却(通常は有償)と、3)強制無償消却の場合の3点について検討が必要になる。
 結論= 株数が減少する場合は、株式は、全て、独立した1株と認識し、その1株についての譲渡損益を計算する。低額譲渡の検討も同じ。

 原則3 株数が減少しない減資では、払い戻しを受けた金銭は、常に、全体の株式についての一部払い戻しとして計算する。
 したがって、払戻額が、時価に比較して、低額とか、高額との議論は生じない。
 株数が減少しない場合は、株主が所有する有価証券の帳簿価格は、純資産割合に応じて、譲渡原価と、残りの株式の帳簿価格に配分される。
 結論= 簿価の付け替え計算を行うが、これが純資産プロラタ計算で行われる。

 原則4 減資では、無償減資の場合を除き、常に、配当所得計算が問題になる。
 結論= 株主の所得計算で、配当所得になる金額は、常に、会社が計算した金額を採用する。

第4 大統一理論についての疑問


 疑問1
 1株当たりの資本等の金額が500円の株式を、個人が800円で購入し、これを発行会社に金庫株として800円で売却した場合は、300円の譲渡損(他の有価証券譲渡益とのみ通算)と、配当所得300円になってしまう。

 疑問2
 1株当たりの資本等の金額が500円の株式を、法人が800円で購入し、これを発行会社に金庫株として800円で売却した場合は、300円の譲渡損と、配当所得300円(全額あるいは一部の益金不算入)にしてしまうことができる。

 疑問3
 株主全員の持株について平等の強制消却(2株に1株を無償消却)を行った場合は、1株当たりの取得価格800円の株式を所有する株主は、800円の譲渡損を計上することができるが、株式の併合を行い、2株を1株にした場合は、有価証券の帳簿価格が付け替えになるだけで、譲渡損を計上することはできない。

 疑問4
 株主全員の持株について平等の強制消却(2株に1株の有償消却)を行って200円を払い戻した場合は、低額譲渡として、株主には300円についてみなし譲渡所得課税が行われ、発行会社には300円の受贈益課税が行われるが、株数を減少しない株主平等の減資払い戻しの場合は、みなし譲渡所得の課税も、みなし課税も行われない。

 疑問5
 会社の純資産価額(仮に、10億円)を超える価額(仮に、15億円)で株式の全てを買収した場合に、その後、株数の90%を有償で消却するとの処理をして、9億円の払い戻しを受けた場合は、有価証券の帳簿価格15億円の内の13億5000万円から9億円を差し引いた4億5000万円を損金に計上することが可能なのか。

 疑問6
 デット・エクィティ・スワップを実行し、債務超過の100%子会社に10億円を出資する。その後、株数の90%を無償消却したら、9億円は損金に算入できるのか。


第5 疑問の答え


 全ては金庫株(自己株式)の取得について株主に配当所得課税を採用したことから始まります。数年前に自己株式の取得(4つの場合)が認められましたが、国税庁は通達を作ることが出来なかった。通達を作れば自己株式を取得した場合の課税関係の矛盾が明らかになってしまうので、それに蓋をしたわけです。

 しかし、金庫株については法令を改正せざるを得なかった。これを譲渡と扱ったのでは幾つもの節税策を許してしまう。たとえば、会社が自己株式の100%を買い取ってしまうとの手法です。そこで、金庫株(自己株式)の取得について株主に配当所得課税を行うことにした。その結果が全ての矛盾の始まりです。

 ですから、今回の資本関係税法を理解するための基準は「金庫株の取得」の課税関係です。そして、全ての矛盾は、「法人税課税+配当所得課税」と「有価証券譲渡益課税」の税率の差にあるわかです。この税率差を利用した節税を防ごうとしたが、その理屈が破綻してしまったということだと思います。

 この破綻の意味内容は次の通りです。まず、次のような計算式が成り立ちます。

 金庫株としての売却 = 株数減少有償減資
 株数減少有償減資 = 株数減少名目的(仮に10円)有償減資
 株数減少名目的(仮に10円)有償減資 ≒ 株数減少無償減資
 株数減少無償減資 = 株数維持無償減資+株式の併合
 株数維持無償減資+株式の併合 = 株数維持無償減資
 株数維持無償減資 ≒ 株数維持名目的(仮に10円)有償減資
 株数維持名目的(仮に10円)有償減資 = 株数維持有償減資

 したがって、
 株数が減少しようが、減少しまいが、
 有償減資だろうが、無償減資だろうが
 全ては
 金庫株としての株式の売却に等しくなります。

 そして、
 有償減資でも、無償減資でも、株式消却でも、株式無消却でも、単純に一つの方法で作り出せるのと同時に、別の方法を2つ組み合わせれば実行可能。そしたら、それを区別する理由はないということになります。

 第1の方法 金庫株の有償買い取りと、その消却。その後の減資。
 第2の方法 株数減少有償減資
 第3の方法 株数維持有償減資とその後の株式の併合

 第1の方法 金庫株の無償買い取りと、その消却。その後の減資。
 第2の方法 株数減少無償減資
 第3の方法 株数維持無償減資。その後の株式併合。

 第1の方法で譲渡損が計上できるのなら、同じ結果を作り出せる第2の方法でも、第3の方法でも譲渡損が計上できるのでなければ法律ではありません。

 株数を減少(消却)する減資でも、大統一理論の疑問に掲げた節税が出来てしまうのですから、株数を減少(消却)しない減資でも譲渡損が計上できることになったら、さらに、幾つもの節税テクニックが可能になってしまうはずです。

第6 未解決の疑問(その1)


 上記のように、有償減資(株数維持も、株数減少も)の場合はもちろん、株数減少無償減資も譲渡損が計上できるはず。譲渡損が計上できないのは株数維持無償減資に限る。

  貸借対照表
 資産 10億円
 負債 10億円
 資本  0億円

 株主の帳簿価格 100万円  
     有償減資        無償減資        金庫株
 株式  消却なし 消却あり  消却なし 消却あり     
 渡辺説            ダメ   ダメ    ok 
 奥田説            ダメ   ok    ok 
 関根説  ok   ok   ダメ   ok    ok 
                              
 分子  払戻額  減少株数   0   減少株数 減少株式
 分母 純資産額   総株数 純資産額   総株数 総株数 
  

 渡辺淑夫氏の解説

 最近の某会計専門誌の記事で,株式の消却を伴わない無償減資の場合には帳簿価額の損金算入はできないが,株式の消却を伴う無償減資の場合には対応する帳簿価額を損金算入することができるという解説が記載されていることに気付きました。


 しかしながら,もしもそういう考え方に立ちますと、ご質問でも懸念されているように,子会社が株式の消却を伴う無償減資さえすれぱ,親会社では子会社の資産状態のいかんを問わず,子会社株式についてその帳簿価額の損金算入を自由に行うことができることになりますから,評価減の是非の問題もさることながら,これでは株式の消却を伴わない無償減資の場合に比較してあまりにも税務上の取扱いが違い過ぎます。
 そもそも,同じ無償減資でありながら,株式の消却を伴うかどうかでこれほど経済実態に違いがあるとも思われませんし、場合によっては,増減資の形を借りて子会社への贈与の無税化を図る事例を誘発するなど,課税上の弊害も少なくないと思われますから,株式の消却を伴う無償滅資の場合には,帳簿価額の損金算入だけが生ずるという考え方にはとうてい賛成できません。

 株式の消却を伴わない無償減資の場合と同様に旧株の帳簿価額をそのまま残存株式に引き継がせるべきであり、そのうえで評価減の是非を検討するならするという取扱いが最も実態に合うのではないかと思われますし,現行税法の規定からも,文理上そのように解する余地がないわけでもないと思います。

第7 未解決の疑問(その2)


 商法375条(減資)と213条(減資と共にする株式の消却)の組合せで、
 a) 自己株式だけを消却することができるか。
 b) 特定の株主の所有株式だけを消却することができるか。
 c) 出来るとした場合、株券提供公告はどうクリアーしたらよいのか。

 つまり、特定の株式(特定の株主が所有する株式と、会社自身が所有する金庫株)について、212条(金庫株の消却)の規定ではなく、商法375条(減資)と213条(減資と共にする株式の消却)の組合せによる処理が可能なのか否かの問題。

 これが可能であれば、特定の株式の減少と減資を同時に行うことが可能になる。これが不可能なら、株数の減少(金庫株の取得と消却、あるいは株式の併合)と減資は同時に行われた別々の手続になってしまう。

 つまり、株式を消却する減資(株数プロラタ計算)の課税関係が採用されるのか、あるいは、1)金庫株の取得(株数プロラタ計算)と消却、その後の無償減資、または、2)株式の併合と、その後の有償減資(純資産プロラタ計算)との課税関係が採用されるかの違いである。


◆ 可能説
 全株主の同意による213条の適用はokだと思います。定款を変更してからの213条ならokなのですから。
 それに、無償による消却なら、誰も害しませんので、213条でokだと思いますし、210条の自己株式の場合も、誰も害しませんので、これも213条でokだと思います。
 375条と213条の組合せによる自己株式の消却には何の問題もないと思います。そもそも消却が認められている株式で、株主平等にも違反せず、条文の文理にも違反しません。
 引用条文でダメと書いてあるのならダメですが、そのように直接にダメと定めた条文は存在しません。
 商法を作るときは上場会社を前提にしますので、一部の株主の同意による消却などは考えられず、また、212条に金庫株の消却をおいたので充分と考えたのだと思います。しかし、税法を考え、これを同時に行う人達が存在する。これは想定の前提に入っていなかっただけなのだと考えます。

◆ 不可能説
 213条は、強制消却で、株主平等原則が働きますから、当然の解釈として、特定の株式、あるいは金庫株の消却は出来ないとの理解です。
 「株式会社・有限会社法〔第2版〕」2002年10月15日 江頭憲治郎 有斐閣の210頁には次の記述があります。
  無償であれ有償であれ、強制消却は株主・社員の平等を害する可能性があるので(所有株式・持分数に按分比例的に行うことが困難な場合)、法律で認められた場合にしか行うことができない(商213条1項、有24条1項)。

 

第8 未解決の疑問(その3)

 100%株式を有する株主が、発行会社に対し、50%相当の株式を無償で譲渡する。これは株主にとっては所得税法59条であり、会社にとっては受贈益課税ですね。

 でも、100%株主の場合は例外だそうです。つまり、次の2つは等価だとのこと。

 1)50%の株式を会社に無償で譲渡する。
 2)50%の株式について無償減資(株式数を減らす)をする。

 さらには次の場合も等価ですね。

 3)50%の株式について無償減資(株式数を減らさない)をして、その後に株式2株を1株に併合する。

 だから、1)について、株主について所得税法59条の問題にも、会社について受贈益との問題も生じないと、「税研」の107で武田教授が論じています。

 これは常識としては納得なのですが、でも、形式判断、つまり、低額譲渡は59条であり、受贈益だとの理屈を無視しても良いものでしょうか。

 これは100%株主の場合ですが、仮に、5人で20%の株式を有する場合に、全員が平等の割合で行った取り引きでも理屈は同じですね。