債務不履行の時効期間

 注釈民法10号466ページ


 時効期間は本来の履行請求権の性質…民事売買か商事売買かが特に重要…によってきまる

 注釈民法10号466ページ
 損害賠償債権も契約上の債権であるから、履行請求権と同一の時効期間に服するとみてよい。

判例コンメンタール商法3上 277ページと281ページ


 商事契約解除による原状回復義務の履行不能に基づく損害賠償請求権(最高裁昭和35年11月1日判決)、商行為によって生じた債務の不履行による損害賠償請求権「五二八]……などについて、本条の適用を認めている。

 消滅時効は法律上権利を行使しうる時から進行する(民166条1項)。弁済期の定めのある借入金債務については、消滅時効の期間は履行期日の翌日から起算する[五四三]。返済期の定めのない消費貸借上の債務については、貸主はいつでも相当の期間を定めて返済の催告をすることができるので、消費貸借の成立後相当の期間を経過した時から消滅時効は進行するものと解されている(コンメンタール163頁)[五四四]。なお、前述したように、商事契約の履行不能による損害賠償請求権についても、本条の適用が認められるが、この損害賠償請求権は契約上の債権の変形したものと考えられるので、その消滅時効は、本来の債務の履行を請求しうる時から進行するものと解されている[五四五]。

 「五二八]
 商行為によって生じた債務の不履行による損害賠償請求権にも旧商法285条を適用すべきである(大判明41.1.21 民録14−15)。
 「債務者カ債務ヲ履行セサルニ因リ債権者ノ有スル損害賠償ノ請求権ハ債権ノ効力ニ外ナラスシテ唯本来ノ債権カ其形ヲ変シタルニ止マリ別箇ノ債権ヲ成スモノニ非サレハ本来ノ債権ニシテ商行為ニ因り生シタルモノナルニ於テハ損害賠償ノ請求権モ亦然ラサルヲ得ス而シテ……其消滅時効ニ関シテハ商法第285条ノ規定ヲ適用スヘキハ当然ナリ」

 [五四三]
 商行為によって生じた債務の時効期間は、履行期日の翌日から起算して5年である。(東京高判昭42.2.23 金融法務471−28)
 「訴外会社の本件貸金の借り受けが商行為であることはすでに認定したところにより明らかであるから、これによる同会社の債務の時効期間は5年である。そして、右債務の履行期は前示のように昭和33年1月20日であるから、その翌日から起算すると右5年の時効期間は昭和38年1月20日の終了をもつて満了する。」

 [五四四]
 返済期の定めのない消費貸借上の債務については、貸借が成立して相当期間を経過した時から、消滅時効が進行する(東京高判昭41.6.17 東高民時報17−6−125)。
 「返済期の定めのない消費貸借上の債務については、貸主は何時でも「相当ノ期間ヲ定メテ返還ノ催告ヲ為ス」ことによつて(民法第591条)その権利を行使し得るのであるから、……貸借成立のときから相当の期間を経過した時点からその消滅時効は進行する……」

 [五四五]
 商事契約の解除による原状回復は商事債務であり、その履行不能による損害賠償義務も商事債務と解すべきである。右債務の消滅時効は本来の債務の履行を請求しうる時から進行する(最判昭35.11.1  民集14−13−2781)。

 判例マスター


判決日付 昭和35年11月1日
裁判所名 最高裁第三小法廷 判決
出典 民集14巻13号2781頁、判時242号29頁、判タ114号33頁
評釈 北村良一・判解130事件・曹時13巻1号51頁、山中康雄・民商44巻6号977頁、戸塚登・別冊ジュリ49号134頁

 上告代理人小笠原六郎の上告理由について。

 商事契約の解除による現状回復(本件では特定物の返還義務)は商事債務であり、その履行不能による損害賠償義務も同様商事債務と解すべきである。そして右損害賠償義務は本来の債務の物体が変更したに止まり、その債務の同一性に変りはないのであるから、商事取引関係の迅速な解決のため短期消滅時効を定めた立法の趣旨からみて、右債務の消滅時効は本来の債務の履行を請求し得る時から進行を始めるものと解すべきである。従つて、右と同趣旨の原審の判断は正当であり、原判決には所論の違法はないので論旨は理由がない。
 よつて、民訴401条、95条、89条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

判決日付 平成14年9月3日
裁判所名 札幌地裁 判決
事件番号 平10(ワ)3159号
判決結果 一部認容、一部棄却
上訴等 控訴
事件名 損害賠償請求事件 〔拓銀ミヤシタ事件〕
  判時1801号119頁、判タ1133号194頁
  ◆ 経営破綻した拓銀の元取締役が、商品相場への投機資金を融資したことにつき、善管注意義務違反があるとして、拓銀に対する損害賠償責任が認められた事例

6 争点(7)(時効)について
 (1) 被告A、同B、同C及び同Dは、消滅時効を援用するので、以下、判断する。

 一般に、株式会社と取締役との間の取締役任用契約は、委任契約であり、商人である株式会社の付属的商行為ということができるところ、商法266条1項の定める取締役会の会社に対する責任は、委任契約に基づく取締役の善管注意義務及び忠実義務の不履行責任に基礎を置くものと解することができる。

 他方で、商法は、取締役の責任について特に規定を設け、266条1項各号において取締役が責任を負う場合を個別的に列挙して取締役の責任を明確化するとともに、その一部については無過失責任とした上、その責任は連帯して負うべきものとし、同条5、6項においては、その責任の免除を極めて厳格な手続のもとにのみ許容するなど、一般の債務不履行責任に比較して、極めて厳格な責任を定めていて、これらは、その規定の趣旨に照らして強行法規性を有するものと解される。このように商法が取締役に対する責任を厳格に定めていることからすると、その責任は、一般の債務不履行責任には止まらない特別の法定責任の性質をも有するものと考えられる

 また、商法は、企業の取引活動の迅速性の要請から、短期消滅時効を規定しているが、会社の内部関係というべき取締役の会社に対する損害賠償責任に迅速性の要請が及ぶものとはいえないし、取締役の会社に対する責任は必ずしも容易に判明するわけでもなく、商法自身が取締役同士がなれ合う危険性のあることを想定していることは、監査役の訴訟権限について説示したとおりであるから、商法が特に取締役の責任を厳格に定め、その責任免除を厳しく制限して、責任追及の手続を実効あらしめるために諸々の規定をもって臨んでいるのに、このような取締役の会社に対する責任を短期の時効にかからせることは、そのような法の趣旨に明らかに反するものといわなければならない。

 したがって、商法266条1項各号に定める取締役の会社に対する責任は、商法が特に定めた法定責任として、一般債権の時効期間である10年の期間の経過によって時効により消滅すると解するのが相当である

判決日付 平成11年3月30日
裁判所名 大阪地裁 判決
事件番号 平9(ワ)10437号
判決結果 請求一部認容、一部棄却
上訴等 控訴
事件名 損害賠償請求事件
  判タ1027号165頁、金融法務1558号37頁
  ◆ 証券会社外務員の株式投資信託およびワラントの投資勧誘に説明義務違反等があるとして、証券会社に債務不履行責任が成立するとされた事例

2 争点2について

 まず、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点につき検討すれば、民法166条1項により権利行使することができるときから起算するものであるところ、勧誘時と解するのは損失が生じるか未確定であるため相当でなく、一方当該債権者が第三者に相談したときなどを起算点とするのも時効制度の趣旨に照らし妥当ではないが、少なくとも損失額が確定したときには期限の定めのない債務として具体的請求権として発生し、右時点においては訴求するにつき法律上の障害がないことから、右をもって起算点と解すべきである。

 次に、本件の債務不履行責任について商事時効の適用があるか否かについては、商法522条の趣旨は商事取引における迅速性を確保するために定められたものであるところ、本件訴求債権の法的性質は、契約内容の核心部分というものではなく、むしろ契約関係の外縁部分として認められる債務であって、その内容も非定型的で、訴求するとしてもその義務の有無、内容の確定など困難な事情が生じるころは否めない。かかる性質を有する債務については、通常の商行為によって生じた債権とは異なり、右条項の趣旨が及ぶものとは考えがたい。よって、右商法上の短期消滅時効の適用はなく、時効期間は民法上の原則に戻り10年と解される。

判決日付 平成4年12月21日
裁判所名 東京地裁 判決
事件番号 昭60(ワ)15282号・平元(ワ)14359号
判決結果 一部認容
上訴等 控訴
  判時1485号41頁、判タ843号221頁
  ◆ 建物建築に関する監理業務契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求債権は、請負人の瑕疵担保責任が除斥期間の経過により消滅した場合には、同時に時効により消滅すると解した事例

 (2) なお、監理契約に基づき建築士が負担する債務は、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認し、工事が設計図書のとおりに実施されていないと認めるときは、直ちに工事施工者に注意を与え、工事施工者がこれに従わないときは、その旨を建築主に報告すること等を内容とするものであり、それは建築主のために一定の事務を処理することを内容とするものであるから、監理契約の法的性質は準委任契約であると解すべきである。

 そうである以上、その債務不履行に基づく損害賠償請求権は原則として監理終了の時から10年(商法第522条の適用がある場合は5年)で時効によって消滅することになるが、それ以前に請負人の瑕疵担保責任が除斥期間の経過によって消滅した場合は、その工事瑕疵に関する監理者の責任も同時に消滅すると解するのが相当である。何故ならば、監理者は、建築主の建築物完成の目的実現に寄与すべく、工事が設計図書のとおりに実施されるよう請負人の施工を監理するものであるから、その責任は請負人の責任との関係において補充的責任たる性質を有するものであるところ、瑕疵を生じさせた請負人の瑕疵担保責任が消滅した後においても監理者の責任が存続することは、均衡を失することになるし、また、建築物は時間の経過によってその瑕疵の存否の判断が困難になる場合が多いが、請負人の瑕疵担保責任が消滅した後においても、監理者の責任が監理終了の時から10年間(あるいは5年間)は消滅しないことになると、監理者の立証に支障を生じるおそれがあるからである。

判決日付 平成2年6月14日
裁判所名 東京地裁 判決
事件番号 昭62(ワ)17965号
判決結果 一部認容
事件名 損害賠償請求事件
参照条文 民法415条、民法416条、商法522条
  民法1編2編3編
 商法
出典 判時1378号85頁
  ◆ パーマ作業中にパーマ液が頬等にかかつた事故について、一次刺激性接触皮膚炎の限度で因果関係を認めた事例
  ◆ 美容契約の債務不履行による損害賠償債権は商行為による債権ではないとして、商法上の消滅時効には該当しないとした事例

判決日付 平成2年2月6日
裁判所名 東京地裁 判決
事件番号 昭62(ワ)8037号
判決結果 一部認容
事件名 損害賠償請求事件
参照条文 民法145条、民法415条、民法634条、民法637条、商法522条
民法1編2編3編
商法
出典 判時1367号38頁
評釈 下森定・別冊法時4号54頁
  ◆ 機械の改造工事を目的とする請負契約について、瑕疵修補請求権の除斥期間の始期を機械の引渡しの日ではなく試運転を行つた日とした事例
  ◆ 請負契約上の瑕疵修補債務の履行不能に基づきなされた損害賠償請求権について、消滅時効の援用権について喪失が認められた事例

判決日付 昭和58年9月28日
裁判所名 東京地裁 判決
事件番号 昭50(ワ)4671号
判決結果 棄却(控訴)
事件名 宮田自転車商品化ノウ・ハウ事件
参照条文 民法412条、民法415条、民法703条、商法512条、商法522条
民法(第1編第2編第3編)
商法
出典 判タ536号260頁、特許と企業179号59頁
  ◆ 自転車の商品化に関するノウ・ハウの譲渡契約の成立、及びこれに基づく原告の対価請求権の取得を肯定しながらも、消滅時効の完成による抗弁により、原告の請求を棄却した事例