◆ 支配株主である代表取締役が辞任した場合の退職金支給について


 商法上の役員を辞任しても、法人税法上の役員に該当してしまえば、辞任の事実自体が否定されてしまいます。

 そこで、法人税法上の役員の範囲を検討すれば次の通りです。

 《1》 取締役、執行役、監査役、理事、監事及び清算人
 《2》 法人の経営に従事している者で、使用人以外の者(施行令7条1号)
 《3》 法人の経営に従事している者で、支配株主グループに属する者(施行令2号)。

 ですから、支配株主の場合であっても、商法上の役員を辞任し、かつ、法人の経営に従事していなければ、法人税法の役員にも該当せず、退職金の支給は是認されることになります。

 しかし、経営に従事していた場合は、仮に、商法上の役員でなくても、法人税法上の役員とみなされてしまいます。

  法人税法施行令7条1号 …… 非使用人+経営に従事
  法人税法施行令7条2号 …… 支配株主+経営に従事

 「経営に従事」とは、仮に、電話番でも、掃除夫でも、該当してしまうとの解釈が成り立ちます。
 みなし役員になってしまうと、商法上の役員を辞任しても、法人税法上の役員になってしまいます。
 役員が、役員のまま、退職金の支給が受けられるのは、分掌変更通達が適用される場合に限ります。そこで、分掌変更通達を検討すると次のようになります。

 《1》 非常勤役員に該当するか否か。常勤していればダメ。
 《2》 非常勤役員に該当するとしても、実質的に法人の経営上主要な地位を占めていればダメ。
 《3》 監査役の場合も、実質的にその法人の経営上主要な地位を占めている場合はダメ。
 《4》 監査役の場合は、支配株主(法人税法施行令第71条第1項第4号に掲げる要件のすべてを満している者)の場合はダメ。

 つまりは、大株主の場合で、経営に従事し、法人税法の役員になってしまう場合は、次の要件を満たす必要があるわけです。

 《a》 経営に従事しない。仮に、電話番としても。経営に従事すれば役員になってしまう。
 《b》 経営に従事する場合は、非常勤になり、かつ、法人の経営上主要な地位を占めない。しかし、監査役の場合は、支配株主であれば、それだけでダメ。

 つまり、結論は次のようになります。

 《a》 給与を支払わない。経営に従事している(施行令7条1号2号)か否かの判断基準は、給与の支払いの有無だろう。
 《b》 給与を支払う場合なら、非常勤になり、かつ、法人の経営上主要な地位を占めないことが必要。しかし、支配株主の場合は、仮に、電話番として経営に従事している場合でも、それが立証できず、「経営上主要な地位を占めている」と判断されてしまうだろう。だから、給与を支払うのはダメ。
 《c》 監査役の場合は、非常勤で、経営上の重要な地位を占めなくても、支配株主ならダメ。だから、監査役にはならない。
 《d》 無報酬でも、使用人以外として経営に従事している(施行令7条1号)とみなされてしまう危険がある。だから、取締役会への参加などはダメ。

 質疑応答(タインズ)
 ■相談役になった前代表取締役に対する退職給与
 〔問〕
 A社は、機械部品の下請加工を営む中小企業の同族会社であるが、この度、代表取締役が代表取締役及び取締役を辞任し相談役になったので、創立以来20年間にわたる同人の代表取締役としての功労に報いるため、退職功労金2,100万円(退任時の月俸の30月分)を株主総会の決議に基づき支給した。

 A社としては、相談役就任後同人に対し月額40万円の報酬を支給しており、従来の代表取締役当時の月俸70万円に比し、50%以下に減額されていないが、取締役を辞任し相談役になったものであるから、職務内容が激変したものであり、したがって、この退職功労金は適正な金額である限り、損金の額に算入することができると考えているが、どうであろうか。

 〔答〕
 退職した役員に対し支給する退職給与は、不相当に高額でない限り、損金経理をして損金の額に算入することが認められる。〔法法36〕役員の退職とは、役員を辞任し、法人を退職するか、法人の業務に従事していても役員以外の者になることであると思われる。もっとも役員以外の者になっても、事実上法人の経営に従事している場合には、その者は、法人税務上役員として取り扱われる〔法令7〕から、退職としては認められないので、一般的には役員の辞任に際して退職功労金として支給した金額も退職給与として処理することは認められない。

 法人税基本通達9−2−23によれば、役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に対し退職給与として支給した給与については、その支給額が、例えば次に掲げるような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等によりその役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与として取り扱うことができるとされている。

 1 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く)になったこと。

 2 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で法人税法施行令第71条第1項第4号(使用人兼務役員とされない役員)に掲げる要件のすべてを満している者を除く)になったこと。

 3 分掌変更等の後における報酬が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。

 この通達は、役員の分掌変更後の職務の内容、役員としての地位が激変した場合には退職として取り扱うことを定めているのであって、その例示として、常勤役員が非常勤役員になったこと、取締役が監査役になったこと、報酬が激減したこと等をあげているのもであると思われる。したがって、A社の場合には、従前の代表取締役が代表取締役及び取締役を辞任し相談役になったものであり、完全に役員でなくなったわけであるから、報酬の額は激減しなくても、職務の内容、地位について激変があったものとして取り扱ってよいのではないかと思われる。

 ただ、A社は同族会社であり、おそらく前代表取締役は大株主であろうと思われるので、形式的に役員でなくなったとはいえ、事実上A社の経営に従事していると認められる場合には、法人税法上役員として取り扱われることになる。したがって、代表取締役を辞任しても、税務上は依然として役員として取り扱われる場合には、上記1の基準にある非常勤役員に該当するかどうかの判定、非常勤役員に該当するとしても、実質的に法人の経営上主要な地位を占めているかどうかの判定をした上で、退職金として損金算入が認められるかどうかを判断する必要がある。

 この点は、事実認定の問題であり、A社においていろいろな事実関係を踏まえて判断することになる。

 ところで、法人税基本通達9−2−23は、昭和54年以来改正はないが、平成14年5月に発行された「法人税基本通達逐条解説 二訂版(税務研究会出版局)」によると次の解説が追加されている。

 「なお、退職給与は、本来「退職に因り」支給されるものであるが、本通達では、引き続き在職する場合の一種の特例として打切り支給が認められている。このため、本通達は退職給与として実際に支給された場合を前提としているのであり、未払金等の計上については、消極に解すべきであろう。」


◆ 参考
T&Amaster 147号 プロからの税務相談
 戻る