民事信託の活用
 東京弁護士会遺言信託研究会
P266

                  遺言公正証書

(前文省略)

                   遺言の趣旨

第1条 遺言者は、遺言者の所有する左記の不動産(以下、1の不動産を「居住用不動産」、2の不動産を「賃貸用不動産」、あわせて「信託不動産」という。)を、別紙「遺言信託」記載のとおり信託する。

1 居住用不動産
(1)土地(省略)
(2)建物(省略)

2 賃貸用不動産
(1)土地(省略)
(2)建物(省略)

第2条 遺言者は、遺言者の有する○○銀行○○支店の遺言者名義の預金のうち、金○○万円を、遺言者の二男C3(昭和○○年○○月○○日生。以下「二男C3」という。)に相続させる。

第3条 遺言者は、遺言者の有する信託不動産及び前条記載の財産を除くその余の一切の財産を、遺言者の長女C2(昭和○○年○○月○○日生。以下「長女C2」という。)に相続させる。

第4条 遺言者は、遺言者の死亡より前にまたは同時に長女C2が死亡したときは、本遺言で長女C2に相続させるとした財産を、長女C2の長男D(平成○○年○○月○○日生。以下「孫D」という。)に相続させる。

第5条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
   東京都○○区○丁目○番○号
      弁護士  甲
           昭和○○年○○月○○日生

2 遺言執行者は、別紙記載の信託に関する手続のほか、遺言者が借用中の貸金庫の開庫、貸金庫契約の解約、預貯金債権その他の金融資産の名義変更、払戻し、解約等、生命保険の請求手続など本遺言執行に必要な一切の行為をする権限を有する。

3 遺言執行者は、第3条または前条により長女C2または孫Dが取得する財産から、遺言者の公租公課、介護費用、医療関係費用その他の全ての債務を弁済し、葬儀・納骨・法要関係の費用ならびにこの遺言の執行に関する費用及び報酬を随時支出することができるものとする。

4 遺言執行者は、必要と認めるとき第三者にその事務を委任することができる。

5 弁護士たる遺言執行者に対する報酬は、相続開始時点における遺言執行者の弁護士報酬規程に従うものとする。

第6条 (付言)
(省略)

【別紙】

                    遺言信託

1 信託の目的

 受益者の住居を確保し、また、受益者に生活費、医療費、療養看護費、施設利用費など生活に必要な費用を交付するため、信託不動産を管理運用し、もって、受益者の幸福な生活を確保することを目的とする。

2 受託者

(1) 受託者は次の者とする。
 住所 ○○県○○市○丁目○番○号
 職業 ○○
 受託者氏名 C2(遺言者の長女)
 生年月日 昭和○年○月○日

(2) 長女C2が本信託の引受けをせず、もしくは引受けをすることができないとき、または信託法第五六条第一項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了したときは、当該時点において成年に達していることを条件として、受託者は次の者とする。
 住所 ○○県○○市○丁目○番○号
 職業 ○○
 受託者氏名 D(長女C2の長男)
 生年月日 平成○年○月○日

(3) 孫Dが本信託の引受けをせず、もしくは引受けをすることができないとき、又は信託法第五六条第一項各号に掲げる事由により受託者の任務が終了したときは、受託者は、信託監督人が公証人の認証を受けた書面により指定した者とする。

(4) 受託者は、事前の書面による信託監督人の同意を得た上で、辞任することができる。

(5) 受益者または信託監督人は、受託者に義務違反、管理の失当または任務の懈怠その他不誠実もしくは不適切な行為があると認められる場合には、受託者を解任することができる。

3 受益者

(1) 第一受益者
 第一受益者は遺言者の妻B(大正○○年OO月OO日生。以下「妻B」という。)とする。
 ただし、遺言者の死亡より前にもしくは同時に妻Bが死亡したとき、または、妻Bが受益権を放棄したときは、第一受益者は遺言者の長男C1(昭和OO年○○月OO日生。以下「長男C1」という。)とする。

(2) 第二受益者
 第一受益者となった妻Bが死亡したときは、妻Bの受益権が消滅し、長男C1が第二受益者として受益権を取得する。なお、妻Bの死亡より前に長男C1が死亡していた場合には、第5項に基づき、妻Bが死亡したときに、本信託は終了する。

(3) いかなる受益者も、事前の書面による受託者の同意なく、受益権の譲渡または質入れその他の担保設定等の処分をすることができない。

4 信託監督人

(1) 受益者が妻Bであるときは、信託監督人として、次の者を指定する。ただし、妻Bの任意後見人もしくは成年後見人(保佐人、補助人を含む。以下同じ。)として、次の者以外の者が就任したときは、信託監督人として、当該任意後見人もしくは成年後見人を指定する。
 東京都OO区○丁目○番○号
 弁護士 乙
 昭和○○年○○月○○日生

(2) 受益者が長男C1であるときは、信託監督人として、長男C1の成年後見人を指定する。ただし、長男C1に成年後見人がいないとき(成年後見人がいなくなったときを含む)は、受託者である長女C2その他利害関係人が裁判所に信託監督人の選任の申立てをするものとし、その後、長男C1に成年後見人が就任したときは、信託監督人として、当該成年後見人を指定する。

(3) 信託監督人は、やむを得ない事由があるときは、辞任する二とができる。

5 信託の期間

 本遺言の効力が発生したときから、妻Bおよび長男C1のいずれもが死亡したときまで。

6 受益権の内容

(1) 居住の利益
 受託者は、受益者に対し、居住用不動産を居住のために無償で使用させるものとする。

(2) 受益者に対する支払い

ア 受託者は、賃貸用不動産から生ずる賃料その他の収益から公租公課、保険料その他の必要経費及び信託監督人の報酬を控除し、残った収益から、毎月末日限り、○○万円を受益者に支払い、剰余金は将来の不時の出費に備えて蓄積しておくものとする。

イ 受託者は、受益者(受益者が妻Bのときは、受益者が扶養する長男C1を含む)の医療費、療養看護費、施設利用費等の不時の出費が必要になったときは、事前の書面による信託監督人の同意を得た上で、本項(2)アにより蓄積した剰余金から、相当額を受益者に支払う。

ウ 受託者は、賃料収入の減少等により剰余金が不足し、将来の不時の出費に備えることが困難になった場合には、事前の書面による信託監督人の同意を得た上で、本項(2)アの毎月の支払額を減額することができる。

7 管理に必要な事項

(信託の本旨)
(1) 受託者は、本信託の目的(第1項)が、受益者の住居及び生活に必要な費用を確保することを主眼としていることを理解し、同目的に従って、信託不動産の管理その他の信託事務を処理しなければならない。

(分別管理)
(2) 受託者は、信託財産に属する財産と固有財産とを、次の各号に掲げる財産の区分に応じ当該各号に定める方法により、分別して管理しなければならない。
ア 信託不動産 信託による所有権移転および信託の登記手続をする。
イ 預金 受託者の固有財産と区別できるような口座名義による預金口座で管理する。
ウ 金銭 ○○円を超える金銭は手元に保管せず、超過した金銭は本項(2)イの預金口座に随時預け入れるものとする。

(信託不動産の管理運用)
(3) 受託者は、信託財産の維持・保全・修繕又は改良(賃貸不動産にかかる未払賃料請求及び明渡請求等を含む)を、受託者が適当と認める方法、時期及び範囲において行う。ただし、工事費用その他信託事務に必要な費用が○○円を超えるときには、事前の書面による信託監督人の同意を必要とする。

(4) 信託不動産のうち、建物については、受託者において火災保険に付する。

(居住用不動産の管理運用)
(5) 受託者は、居住用不動産について、その老朽化、受益者(受益者が妻Bのときは、受益者が扶養する長男C1を含む。以下、本項(5)において同じ)の身体の状況その他受益者の居住が困難と判断したときは、事前の書面による信託監督人の同意を得た上で、居住用不動産を換価処分し、その処分代金をもって、他の不動産を購入あるいは賃借し、または、受益者を施設に入所させる等により、受益者の住居を確保するものとする。なお、不動産の購入等に必要な契約は、受託者の名をもって行わなければならない。

(賃貸用不動産の管理運用)
(6) 受託者は、賃貸用不動産については、他に賃貸し、また賃貸しているものは賃貸人の地位を承継し、安定的な収益を図るものとする。

(信託帳簿の作成)
(7) 受託者は、本信託開始と同時に信託帳簿の作成を開始するものとする。なお、信託帳簿は、一の書面その他の資料として作成することを要せず、他の目的で作成された書類又は電磁的記録をもって信託帳簿とすることができる。

(計算期間、信託財産開示資料の作成、報告)
(8) 信託財産に関する計算期間は、本遺言の効力が発生したときまたは毎年一月一日から、同年一二月末日または信託終了日までとする。当該計算期間の末日を計算期日とし、財産状況開示資料を作成して、各計算期日から二か月以内に、信託監督人に報告する。なお、財産状況開示資料は、信託帳簿に基づいて作成し、信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の概況を明らかにするものでなければならない。

(第三者への委託)
(9) 受託者は、本信託事務の処理につき、事前の書面による信託監督人の同意を得た上で、専門的知識を有する第三者に委託することができる。

(10) 本項に定めのない事項については、信託の本旨(本項(1))に従い、その都度、信託監督人と協議して決めることとする。

8 信託終了、清算

 期間満了その他の事由により本信託が終了したときは、受託者は、信託財産に属する債権の取立て及び信託債権に係る債務を弁済し、残余の全ての信託財産を、次項に定める帰属権利者に引き渡し、かつ、信託不動産につき信託登記の抹消及び帰属権利者への所有権移転登記手続を行う。また、信託不動産にかかる賃貸借契約、保険契約その他一切の権利義務を帰属権利者に承継させる。

9 信託終了時の帰属権利者

 本信託終了の際、残余の全ての信託財産の帰属すべき者(これを帰属権利者という。)として、長女C2を指定する。ただし、本信託終了の際、長女C2が死亡もしくは辞任していた場合、または解任されていた場合(以下「死亡等」という。)には、孫Dを、孫Dも死亡等していた場合には孫Dの法定相続人を、帰属権利者として指定する。

10 信託の報酬

(1) 受託者の報酬
    無償とする。

(2) 信託監督人の報酬
    毎月○○円を支払う。

              以 上