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芸能人や経営者の中には、軽井沢に別荘をもっている人が多い。高原だから夏はとても涼しいし、ゴルフ場もある。冬にはスキーやスノーボードも楽しめる。巨大なアウトレットモールがあるから、買い物を楽しむのもよい。東京駅から軽井沢駅までは、新幹線に乗れば1時間ちょっとで着く。なんといっても「軽井沢」という地名はブランドだ。
ある有名芸能人が軽井沢に建てたものすごくおしゃれな別荘が、テレビで特集されていた。番組でご一緒したとき「そういえぼ、あの別荘はその後どうなりました?」と訊ねたところ、「実はあのロケのあと一度も行ってないの」と言う。
別荘を買ってからそこを使う平均回数は、生涯を通じてたった8回だという調査結果を見たことがある。地方に別荘を建てたところで、せいぜい年に1回行くかどうかだという証だ。買って2〜3回出かけたら飽きてしまって、売り払ってしまう人も多いのだろう。
私は2019年まで群馬の昭和村というところで、畑を借りて体験農業をしていた。その畑のすぐ近くに、日立金属がバブル期に造った分譲の別荘地がある。200坪あるからけっこう広い。300万円で売りに出されていたので「あの別荘買いたいんだけど」と言ったら、妻から「絶対駄目」と猛反対された。
妻は私なんかよりもはるかに冷静に、客観的に物事を傭撤している。
「頭がカッとなって別荘を買ったところで、たぶん年に1回行くかどうかだ。リフォーム代や固定資産税、水道光熱費の支払いを考えたらバカバカしい。それならホテルのスイートルームにでも泊まったほうがコストパフォーマンスがよっぽどよい」
妻はそんなふうに見抜いているのだろう。
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従来から「2020年夏の東京オリンピックが終われば、アベノミクスの好景気と不動産バブルは崩壊する。オリンピック後にマンションの価格は下落する」と言われてきた。新型コロナウイルスによって、バブル的だった日本の好況は見事に崩壊した。おそらくここから1年ばかりタイムラグをおいて、不動産の価格は下がり始めるだろう。
バブル崩壊のときは、地方よりも大都市中心部のほうが圧倒的に下落率が高い。だから都心の一等地に不動産をもっていても、安全・安心ということは全然ない。
東京の不動産価格は、昔からずっとおかしかった。バブル経済のピークのとき(1992年)、銀座5丁目にある鳩居堂(老舗の文房具店)前の土地が1u3650万円を記録した。それが今や1u4592万円なのだ(2020年の路線価)。ハガキー枚分の広さの土地が67万5000円もするのだから、頭がクラクラしてくる。土地代が1坪(3.3u)1億5000万円もしたら、どんな商売だって普通は成り立つわけがない。なのにどういうわけか、銀座5丁日にはたくさんの店が軒を連ねている。こんな路線価は、どう考えても異常だ。
「斜陽産業」と言われる新聞社は、新聞や広告費の売上がすさまじい勢いで減少しているため、近年は不動産事業に転換しつつある。東京や大阪の超一等地に巨大ビルをもつ朝日新聞社が典型だ。だが都市部に不動産をもつという選択は、「ポストコロナ」の時代には決して勝ち組の生き方とは言えない。不動産バプルの栄華を極めていたと思ったら、そのバブルがはじけて痛い目を見るのだ。
少なくとも、これからの東京都心の不動産価格は「高値不安定」という不穏な状況に切り替わる。最悪のシナリオだと、そこから不動産バブル崩壊へと一気に突き進む。その点、地方の不動産価格はもともと「低値安定」だったし、アベノミクスや不動産バブルの影響はほとんど受けなかった。だから今後も状況はたいして変わらない。
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高齢者は介護ホームに入ってから、平均5〜6年で亡くなるケースが多いようだ。年間300万円かかるとして、6年なら1800万円かかる。入居10年ちょっとであれば、夫婦ともども私の貯蓄で生き延びることができる。介護施設で20年暮らすとなると、1人6000万円かかるからさすがに我が家でも厳しい。お金が足りなくなったときは、自宅や「B宝館」を売り払ってキャッシュを補填すればよいだけのことだ。
自分の預金と資産が総額いくらあるのか。子どもが介護の面倒を見てくれるとすれば、人的負担、金銭的負担はどこまで可能なのか。人生の総仕土げの時期をどうやって過ごすのかを、それぞれの家の財政状況によって判断しよう。いずれにせよ、無計画なまま「要介護」の日を突然迎えるのだけは、くれぐれも避けていただきたい。