発達障害大全
黒坂 真由子


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 発達障害は生まれつきのものです。ポジティブに表現すれば、「脳の個性」ということもできますが、個性ですから「治る」ことはありませんし、基本的な特性は変わることはないのです。

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 時間的変化だけでなく、場が変わるだけでも障害にならないことがあります。
 ある銀行員の方は、発達障害の特性から、職場でのコミュニケーションに悩んでいました。ところが、米国に赴任になった途端に悩みは「まったくなくなった」といいます。米国社会では、明確な言葉で説明するのが当たり前で、「空気を読む」必要がないからです。

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 ADHDは「注意欠如多動症」という日本語の名称の通りで、注意・集中力の欠如と多動、そして衝動性が見られる疾患です。
 「子どものころ、忘れ物チャンピオンといわれていました」というような方が、ADHDの典型です。授業中、先生の話を全然聞かないでぼうっとしていたり、空想の世界に遊んでいたり、自由に絵を描いたりしていたというケースもよく見られます。
 多動で落ち着かず、授業中におしゃべりをして怒られたりした経験がある方もいます。ただ、ここには誤解も多くて、「多動」というと皆さん、「席に座らないでうろうろしている」というイメージを持つのですが、そこまでの人はあまりいません。いつも体を揺らしているとか、椅子をガタガタさせているとか、その程度です。

 ASDには大きな特徴が2つあります。「空気が読めない」「場の雰囲気にそぐわない言動をしてしまう」などの対人関係やコミュニケーションの障害が第1の特徴です。親しい友人がいない、集団の仲間入りができないといった方もよく見られます。相手の表情や言葉のニュアンスをつかむのが苦手なので、孤立してしまい、学校や職場での活動が難しくなってしまうのです。
 「空気を読むこと」が求められる日本においては、苦労が多そうですね。
 そうですね。ただ、この側面がクローズアップされすぎたために「コミュニケーションが苦手な人=ASD」と決めつける傾向が生まれてしまいました。しかし、このひとつの特徴だけで、ASDだと判断することはできないのですよ。
 2つ目の特徴がないと、ASDとは診断できません。

 それは「こだわりの強さ」です。例えば小さい子であれば、電車を1時間でも2時間でも見続ける、おかずを全部食べてからでないと絶対に白飯に手をつけない、野菜は絶対に食べないなど、物事や自分の行動パターンについて極端なこだわりを持っていることが、診断の基準になります。
 なるほど。ASDと診断するには、「コミュニケーション障害」に加えて「こだわりの強さ」という2つの条件が必要ということですね。
 例えば、タイムカードの打刻をよく忘れる人がいるとします。ADHDの人であれば「うっかり忘れる」ために「打刻を忘れる」のに対して、ASDの人は「打刻する意昧がわからないから、やらない」という理由で「打刻をしない」のです。ASDの人には頑固なところがあり、自分の興味がないことはやらないという側面があるからです。
 そうなると、原因がADHDであれASDであれ、表面上は「またあの人、タイムカード押すのを忘れている」となるわけですか。

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 今外来に来られているADHDやASDの方々には、知的能力の高い方が多いのですよ。我々はWAIS−Wなどの知能検査を使ってテストをするのですが、IQベースで見ても平均よりも高い方が多い。また、大部分の方が4年制大学を出ています。有名大学を卒業している方も多数います。そのため、「あんないい大学を出ているのに、なんでこんなことができないのか」といわれてしまうわけです。大学までは地頭でそれなりにやってこられたのが、仕事においてはそうもいかなくなってしまうのですね。

P70

 ただ基本的には職種です。ADHDもASDも、個人プレーが向いています。自分1人で取り組める仕事で、結果を出している人は大勢います。発達障害はある意味、個性ですから、それを生かせる仕事を見つけることが大切になってくるのです。

P99

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      70   85   100  115  130
 知的障害|境界知能|知能テスト誤差|
   2%  14%
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        ┗━━グレーゾーン