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 545万円。これは、1994年の日本における所得の中央値だ。この数字は、2022年には423万円となった。にもかかわらず、社会保険料は年間4万円から、30万円に増えた。私たちは、この30年で実に貧しくなった。

 ところが、この話が個人の年収になると、とたんに「自業自得」と言われないだろうか。

 なぜ、より年収が高い業界へ転職しないのか。なぜ、出世しようと思わないのか。正社員になれないのは、努力不足ではないか。そう言われると、私たちは反論したくなるはずだ。

 今も精いっぱい頑張っているんだ。そんなことを、なぜ外野であるあなたに言われなくてはならないんだ。 そもそも、会社の売上が伸びないから、給与が上がりようもないんだよと。

 しかし、この反論が握りつぶされるグループがいる。男性だ。日本には、男性差別がある。そのことを強く実感したのは、婚活の場へ足を踏み入れたときだった。

 私が登録した結婚相談所には、年収300万円を下回る男性がいなかった。相談所のスタッフによると、年収の低い男性は多くの結婚相談所で、登録を拒否されるのだという。

 当然ながら、年収300万円以下の女性は登録可能だった。中には「家事手伝い」と称して、無職の女性も多数登録していた。

 男性が顔と年齢で女性を選ぶように、女性は金で男性を選ぶ。結婚相談所ではその現実が、どこよりも生々しく表れていたように思う。

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 続いて、弱者男性という言葉が現代社会に生まれるに至った歴史的経緯を押さえておく。 そのためにはまず、2015年にネット論客の一柳良悟氏が生んだ「キモくて金のないおっさん(KKO)」という概念について語る必要がある。

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 電通総研がまとめている「世界価値観調査」によると、日本の未婚女性は先進国25か国のなかで最も幸福度が高いという結果が出ている。それに比べて、日本の未婚男性は25か国中、幸福度がなんとワースト1位なのである。世界一幸せな日本の未婚女性と 、 世界一不幸せな日本の未婚男性。 なぜ、 同じ未婚でここまでの差が生まれてしまっているのだろ うか。

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 一方、3章で書いたとおり、いわゆる「3K労働」と呼ばれる危険で過酷な仕事は男性の比率が多い。これを、男性社会学者のワレン・ファレルは1993年に著の神話』の中で「ガラスの地下室」と表現した。