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 日銀が市場の急変におびえ、今後、金融正常化への歩みを遅らせるようであれば、「永遠の金融緩和」のリスクが一段と高まる。すべてが異次元緩和のツケであるが、植田日銀の前途には数多の困難が待ち受けている。


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 異次元緩和は、物価目標2%の持続的、安定的な達成を目指し、2年程度での達成を想定して開始されたものだったが、結局、黒田総裁の10年の任期中、延々と続けられた。

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 とはいえ、黒田総裁や安倍首相が述べたように、異次元緩和の期間中に雇用が大幅に増えたのは事実だ。しかし、これも額面通りに受け取ることはできない。前述したとおり、異次元緩和の開始前10年と開始後10年を比べると、実質GDP成長率はほとんど変わっていない。実質GDPが力強く伸び、雇用と賃金の増加とともに一人ひとりの生活が豊かになったわけではなかった。

 異次元緩和の10年で、雇用は増えても、実質GDP成長率が以前と大きく変わらなかったのはなぜなのか。

 したがって、異次元緩和の前後で実質GDP成長率が以前とほとんど変わらないのは、就業者数の伸び率の高まりを労働生産性の仲び率の低下が相殺してしまったことを意味する。

 これには技術進歩の取り込み不足などもあるだろうが、最も大きい理由は、就業者の非正規比率が高まった結果、一人当たりの労働時間が減ったことである。模式的にいえば、1日8時間働く正規雇用1人に代えて、1日4時間働く非正規雇用を2人雇えば、雇用は増えても生産量は変わらない。パートタイムを中心とする非正規雇用の比率が上がったので、雇用の伸びの割に生産量は増えなかったというわけだ。

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 異次元緩和がもたらす様々な副作用はきわめて深刻なものである。負の遺産は、異次元緩和を終えたのちも、日本経済を苦しめる。対応を誤ると、これまで直面したことのない不測の事態を招いたり、もはや浮上すらおぼつかない長期の停滞を招いたりするリスクを孕む。その詳細は、第3章以降で論じていくこととしたい。