P27

 種類や性質や系統など、何らかの基準に従って区分することを「分類」と言いますよね、ディープラーニングがやっているのは.区分だと考えてください。
 例えば目の前に猫がいたら「これは猫である」。あるいは、目の前に犬がいたら「これは猫じゃない」。その分類をしているのがディープラーニングだと理解すれば良いでしょう。

 P28

 「分ける」というのは「分かる」と同義とはよく言ったものです。私たちは分類をすることで、物事を理解し、日常を過ごしているのです。

 そう言えば「仲間意識は仲間はずれの始まり」という、あるお坊さんの、言葉が一時期ネットで話題になりました。仲間意識とは同じリンゴであるというグルーピングであり、ミカンとは違うという仲闘はずれ=セパレーションでもあります。物分かりが良すぎるのも困ったものです。
 そう考えると、ディープラーニングがあらゆる場面で活躍しているのも納得できます。僕は人間の知能の根底には分類があると考えています。分類機能をデイープラーニングで代替しているからこそ、人工知能は飛躍的な発展を遂げているのかもしれない、とさえ思えますね。

 P37

 そして、後者の大多数が「人工知能って、人間の脳を人工的に作っているから人工知能って言うのでしょう?」と受け止めています。言い換えると、人間がやっていることを機械がやれば人工知能になるのです。

 P40

 人間の脳自体を模倣する、再現するという観点では、ディープラーニングだけでは全く足りません。そもそも人間の脳がどういうふうに機能しているか自体が、いまだに全然分かっていないのです。模倣をするにしろ再現をするにしろ、ある特定の機能のうち特定の動きを少しだけ、といった程度です。
 つまり人問の脳を人工知能で模倣して作るなんて「神話」なんです。第1次人工知能ブームの最初の頃に少しあったかな?という程度です。

 P43

 人工知能を作るにあたって、必ずしも人間の脳を模倣する必要はありませんし、それを目指している研究者なんてほとんどいないでしょうね。なぜなら、まず脳の究明に時闇を費やす必要が出てきますからね(笑)。

 P44

 きっと本書を読まれている読者の皆さんは、総合的に見て人間に勝る人工的な脳が秘密裏に作られていると思っていませんか?ある日突然、そのような研究が世界レベルで公表され、あっという間に仕事が無くなり、人工知脳の奴隷として働くしかないという妄想にかられているのではありませんか?
 そうした脳の登場こそ、未来学者であるレイモンド・カーツワイルが提唱する、人工知能が入間を超える瞬問を指す「シンギュラリテイ(技術的特異点)」だと思われているのではないでしょうか?
 相当な勘違いです。もはやSFです。

 P73

 「人工知能は意味を理解していない」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
 先ほど紹介した車の画像認識を思い出してください。意昧を理解していないというのは、車の一種であるトラックだと認識して「これはトラックです」と言つているわけではないということです。読み込んだ画像の特徴から分類した結果、「これはAです」と言っているだけです。

 P80

 「なぜ?」が無いディープラーニング
 僕の中では重要な点だと思うので、繰り返しになりますが説明します。
 ディーブラーニングには「なぜ?」が無いし、「なぜ?」とも考えません。考えないから、日の前の問題しか解けない。思考に奥深さが生まれないのです。これは人間も同じですね(笑)。

 P108

 一方で、デイープラーニングでも膨大な行列計算処理が行われています。グラフィックボードのやっている計算処理とディープラーニングのやっている計算処理は似ているのです。そこで、NVIDIAはゲームのチップ開発の技術を用いてディープラーニング用のマシンを開発することにしました。GPUは、数千〜数万ぐらいの並列処理が普通にできます。
 要は普通のPCと違って、極めて特定の領域に特化した機械だと覚えていただければ良いです。その機械の誕生で、ディープラーニングは進化して「お手軽」になったと理解してください。

 P109

 米国なら年収2000万円クラスで採用されています。一方、日本の場合、社内の給与規程がどうとかこうとかで、出せて年収800万円とかですよね。果たして、世界と戦う気があるのでしょうか。お金が全てではないですが、重要な要素の一つです。お金で解決できることはお金で解決した方が良いのに、社内研修もしない、人材も育てない、採用にお金をかけない、それでも人工知能はやりたい、っていうのは何かが間違っていると思いませんか。

 P112

 頭の中は責任と保身のせめぎ合いです。どうせ世界とはガチで戦えないし、この技術がスタンダードになるかどうか分からないから、本音では様子見しておきたい。失敗したときの責任は取りたくないから。でも、やっているというアピールはしておきたい。

 P119

 3大メガバンクの件に関して言えぱ、大規模なリストラの理由を人工知能のせいにしているだけです。マイナス金利政策の長期化で利ザヤが縮小して、融資業務で稼げなくなったので、仕方無くリストラせざるを得ない言い訳に人工知能を使っているだけです。
 今もし人工知能によって本当に3万人もの仕事を奪えるなら、その人工知能を世界中で販売すれば良いと思います。めちゃくちゃ売れるでしょう。セールスマンとしてその3万人を雇えるぐらいに。

 P120

 要は、人工知能は「忖度」ができないのです。空気が読めないですから(笑)。事務作業
はある意味で忖度の集合作業みたいなもので非常に人間味があります。そうした作業は人工知能には難しいです。

 P125

 事務作業全般なんて、イレギュラー対応の集合体の極みです。20世紀は工業化の時代でもあり、自動化の時代でした。もしその流れを受けて自動にできていたら、とっくの昔に自動化されています。それがいまだにされていませんから、事務作業全般が人間の能力の上で成り立つイレギュラー作業だらけという証左ではないでしょうか。だから、そう簡単には人工知能で代替されません。少しずつです。
 こういう流れを無視して、いきなり人工知能がドンとやってくる!という話はウケが良いかもしれませんが、開発者からするとちょつと迷惑ですね。そういう話はあまり信用しない方がいい、とこの場で付け加えさせてください。

 P128

 例えば、東京23区内って坂が多いですよね。速度は出せないし、ハンドルは握っているだけじゃなく、どちらかと言えばハンドルを回すことが多い。1秒でも手を離せない道は、まず自動運転は無理でしょう。

 P132

 今はまだ、完成度の高い映画の予告編を見させられているようなものです。2分間だけ顧客を満足させる映像は作れても、残り118分のクオリティが完成していない、一番良い2分間の予告編を見せられて、残り118分間もさぞかし凄いのだろうと思って見たらクソだったという経験が皆さんにもありますよね。
 自動運転に関しても同じです。技術は凄い、それ以外が追いついていないのです。

 P144

 でも、人間が見て98%か99%の正答率を誇る分野を、99.9%や99.99%にまで高める取り組みは、2018年現時点では難しいでしょう。この特性を分かっていないまま、ビジネスに取り組もうとすると大火傷では済まない。「上がやれと言っているからやる」では絶対に上手くいかないです。

 P145

 本書を読まれている読者の方にも知ってほしいのですが、着手はニュースになりますけど、成功しなかった場合は、その後にニュースにはなりません。だから、実際は失敗したのに、世間的には成功していると思われているというギャップが生じてしまう。それが一番怖いです。

 P162

 さて、そのとき気になるのは、ロボット導入の費用感です。Pepperもそうでしたけど、結構良いお値段がしましたよね。だから「ロボットは高いから、それぐらいなら人闇のままでいいわ」と考える人もいるでしょう。コスト面で不安だという声もあるようです。

 P186

 2018年現時点のチャットボットは、事前に決めておいた内容を返してくるだけです。会話をしているのではなく、事前に用意しておいた回答を、質問に応じて返しているだけです。つまり、膨大なQA集みたいなものだと考えればいいでしょう。
 ディープラーニングが登場して以降は、事前に用意しておいた回答に加えて、ネット上の膨大なテキストデータを解析し、人間が入力した文章に対して、もつとも適切だと思しき一文を返せるようになりました。つまり、膨大なQA集を作成する作業量が少し減りました。
 あるいは、ユーザーとの対話を通じて、文章と返答の内容を理解しようとする実験も行われました。それが2016年3月にMicrosoftが開発した人工知能「Tay」です。会話理解研究のために試験的にリリースされたのですが、不適切な発言を連発したため開始から16時間後にサービス停止となりました。

 P191

 人工を作ることは、人間と同じ認知の方法で、人間を解釈することと同義だと僕は思います。でも言葉の場合、1つの言葉に紐付く情報が多すぎて、全てを認知できない。
 人間は情報量を意識せずに言葉を発していますよね。受け手も、情報量の多さを意識することは無い。そのやり取りを、改めて可視化するのはすごく難しい。
結局、人工知能を作ろうとする人間が、そもそも入間を理解していなかったのです。チャッとボットを扱う業界で、話題作り以外に、例えば生産性向上といった成果が出てこない理由は、この点に集約されるのではないでしょうか。

 P194

 無い状態を想像できるようになって、それは初めて「意味を理解している」と言えます。何々して無いという否定の状態が想像できれば、意味を理解していると言えます。無い状態
の理解こそ絶対条件なんですよね。
 人間が凄いのは、無いときに想像力と言うか妄想力で「ある状態」をイメージして、何かを作れてしまう点だと言えます。
 第1章で紹介したエイブラハム・ウォルドの話も、今ある飛行機から「無い状態」の飛行機、つまり戻ってきていない飛行機の存在を思い浮かべ、どうなっているだろうかと想像し答えを導き出しました。2018年現時点で、ここまで到達している人工知能は存在しないですね。

 P199

 繰り返しますが、先に意味を理解できる強い人工知能が誕生して、その後にシンギュラリティに到達します。意味を理解する人工知能が誕生しないと、人間が全ての分野で人工知能に負けるような事態にまでは至りません。

 P208

 今まで多くの書籍では「人工知能時代の大失業に備えよ!」といった脅威論や、逆に「人工知能を恐れてはならない!」といった楽観論のいずれかに偏っていたように感じています。技術的に考えて、着手可能な領域はどこか?といった観点から、人工知能に代替される仕事は何かという議論を深められたのは有意義でした。
 多くの人が人工知能と聞くと「人工的に作られた知能を持つ機械」だと認識しています。したがって、自分の仕事が機械に代替されてしまうのではないか?という恐怖心は持っているでしょう。
 その恐怖心につけ込んだ商売に騙されて、右往左往している人は意外と多いです。そこで、この章では人工知能が社会に浸透するにつれて、私たちはどのような変化に対応しなければならないのかについて話していきたいと思います。

 P210

 1900年代は、そういうスキルを束ねてより大きな仕事に取り組むために、組織が生まれて、会社が生まれたに過ぎません。そういう意味では、人工知能に仕事を奪われていっても個人事業主が大勢いた昔に戻るだけで、別に死ぬわけでも無いですし、恐れる必要は何もありません。

 P211

 2017年10月には、あるアパレル店の店員採用基準として、インフルエンサーとしてSNS上で何人フォロワーがいるかが重要という報道がなされて大変話題になりました。もはや、こういう能力が求められて当たり前の時代になったのです。

 P214

 シンギュラリティの時点から恥世紀を見たら、古代より酷い奴隷制じゃないか、という見方も出てくるかもしれません。みんな、お金のために働いていると言っても、やっていることは奴隷と変わらないじゃない、と思うのではないでしょうか。資本主義の名を借りた奴隷制ですよ。
 9割ぐらいの人は奴隷のように働いていませんか。日本なんか特に、過労死までしますから。死ぬまで働くって奴隷と何が違うのですか?
 未来の社会科の教科書には「20世紀まで奴隷制がありました」って書いてあるかもしれませんね。