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 「今まで親身に面倒を見てきた人が、成年後見制度を使わざるを得なくなり、しかも専門職後見人が選任された場合、ご家族は通帳を見ることができなくなります。そのあたり私自身、堅苦しさは感じますが、ルールなので仕方がないんです」

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 しかし、そうした”人間性”を、家庭裁判所はしっかり把握しているのか。
 答えは、はっきり言って「ノー」です。司法書士や弁護士などの団体が登録名簿を家庭裁判所に提出し、そこから選任することに異論はありません。彼らは成年後見制度を理解し、その役に立ちたいと思っている「はず」ですから。しかし、だからといって「誰でもOK」は、あまりに無謀です。

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 成年後見人の目安は月額2万円で、管理財産額が1000万円超〜5000万円以下の場合で月額3万円〜4万円、管理財産額が5000万円を超える場合は月額5万円〜6万円。

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 もう一つ、ここで触れておきたいことがあります。
 認知症の親がいると、金融機関はほぼ100%「成年後見人を立てていただかないと……」と言ってきます。ここで少し不思議なことがあります。厚生労働省の発表によると、2012年、65歳以上の認知症患者数は462万人にのぼっています。この人数は、65歳以上の高齢者の約7人に1人にあたります。一方、同年12月末日時点の成年後見制度の利用者数は約16万8000件となっています。そうなのです。認知症の患者数の多さに比べて、成年後見制度の利用者数があまりに少ないのです。

 このことについて、相続に詳しい行政書士に聞いたところ、「絶対にNGな行為ですが、誰かが代筆しているケースは多い」と答えてくれました。実は、金融機関から遺産分割の書類が届いたとき、いつもあっけらかんとしている私の妻は「実印も管理しているんだし、お父さんの署名、ほかの人に書いてもらっちゃえば?」と言ってきて、内心「なるほど」と思ったものでした。一法律的にアウトな行為ですが、「正直者はバカを見る」という言葉があるのも、また事実なのかもしれません。

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 介護施設の契約をすることになったのは2014年3月でした。この時点で、私はまだ成年後見人になっていませんでした。そのことを施設側に伝えると「ご家族であれば問題ありません」というではありませんか。
 そのまま私は「長男」として、父の介護施設の契約を行い、何ら問題のないまま現在に至っています。今日まで、介護施設の担当者から「成年後見人になってほしい」と言われたことは、ただの一度もありません。あるとき、この担当者に「施設の契約で成年後見人が立ち会うことはありますか?」と聞くと、「ご家族がいる場合は、みなさんご家族だけで、契約をしています」と話してくれました。

 もう一つ、成年後見人にならなくてもできたことがあります。それは「要介護認定」の申請です。本来、このサービスの申請は、89〜92ページで書いたとおり本人の意思に基づいて行う必要がありますが、実際には、親族などが代行できるように
なっています。例えば、所沢市の「要介護認定申請書」には、「提出代行者」の欄があり、そこには「成年後見人でなければいけない」という注意書きなどは一切ありません。

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 しかし、事業所が「成年後見人を立ててください」と言えば、利用者がほかの施設に流れてしまうことは確実であり、それが、事業者側が本来の、本人との契約に踏み切れない大きな要因なのだと言います。それゆえ、日本の介護施設のほぼ100%が「家族でもOK」としているわけです。

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 親が定期預金を行っている場合は、親と相談し「満期を待つか」「待たずに解約するか」を決めましょう。もし前者の場合は、親が銀行に出向き「自動解約」に変更すれば、それでOKです。満期が来たら、金利ともども普通預金に組み入れられます。たったそれだけの乎続きでいいのです。ぜひ実行してください。

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 一方、貸金庫を借り続ける選択をした場合は、子どもでも貸金庫の出し入れができる代理人登録を必ず行ってください。私の親の貸金庫には「不動産登記謄本」が入っていましたが、これは名義人以外でも必要となるケースがあり得ます。しかし、名義人が亡くなり、銀行がそのことを把握すると、銀行口座と同様に貸金庫も凍結されます。代理人登録をしていれば、凍結される前に出すことができますが、そうでなければ、その貸金庫を開けることは、ほぼ不可能になってしまうのです。