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 ところで、先述した「素人ナンパもの」のカメラマンをした後、今度は「女だけでナンパものを撮ったら面白いんじゃないか」と平野さんに提案され、「レズナンパもの」を撮ることになりました。レズ女優の女の子と私と二人で街へ出て、素人の女の子をナンパしてワゴン車に連れ込み、レズプレイを撮影するというものです。

 一度もナンパされたことのない女が、女をナンパするなんておかしな話です。とにかく最初の頃は手当たり次第声をかけまくっていましたが、無視されるばかりで誰も話を聞いてくれません。見ず知らずの人に声をかけるだけでも勇気がいるのに、無視され続けるとものすごく精神が疲弊していきます。

 それでも、何人も声をかけていくうちに、10人に一人くらいは話を聞いてくれる女の子が出てきました。次第に確率が上がっていき、最終的には百発百中。どういう子が立ち止まって話を聞いてくれるか、パッと見で判断がつくようになったのでした。

 そこで私たちが編み出した声をかける条件。

 早足でなくゆっくり歩いているというのが第一条件で、外見だけでいうと次の通りです。
 ミニスカートやホットパンツなど肌の露出が多い服を着ている。地味な色の服より派手な色の服を着ている。ダボッとした服よりピタッとした服を着ている。ヒールが高い靴をはいている。ブランドもののバッグを持っている。

 つまり、パッと見で“女”という記号を身に着けている子ということです。そういうわかりやすい記号を身に着けている子は、女として品定めされたがっていることが多いということなんです。声をかけられるのを期待している子は自ら目印をつけてくれている(ブランドものの持ち物が目立つような物欲が強い子は、てっとり早くお金を欲しがっているというのもありますが)。

 一方、そういう記号を身に着けていない女の子は、コンプレックスが強かったり、過剰な自意識があったりして、警戒心が強い人が多いです。ナンパ師にとっては絶対声をかけてはいけない子。ジーパンやダボッとした七分丈のパンツをはいている。靴はスニーカー。古着系。個性的すぎる格好。

 それはまさに私の上京当時のファッションそのものなのでした。どうりで声がかからないはずです。実際その時の私は、声がかかっても絶対無視してやるぞ!と意気込んでいましたし。
 私に声がかからなかったのは、顔が可愛くないからというよりも、女としてのわかりやすい記号を身に着けていなかったからなんだ。ナンパをする側になってみてそのことに気づき、コンプレックスがまた一つ解消されたのでした。