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 また、そもそも銀行員は「選ばれること」が好きな人種とも言えよう。子どもの時から勉強ができたため、気付いてみれば、少しでもいい大学、少しでもいい会社、少しでも上のポストへという志向がビルトインされている。やや古い言葉だが、「偏差値社会の落とし子たち」であることは間違いない。絶対的価値の軸があるわけではない。「少しでもいい」ということが重要なのだ。こうなると選ばれた結果ではなく、選ばれること自体が喜びの源泉になり、そしてそれが目的化してしまうことになる。手段の目的化は古今東西どこでも見られるが、選抜自体が目的になってしまったのだ。

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 しかしながら、年齢とともに仕事の面白さや感性が変化してくるのも事実だ。金融の持つ社会的機能を折々実感することはあるものの、それ以上に、巨大組織の中で競争をしながら、自分自身が浮かび上がっていかなければいけない。トライアスロンの渦中にある事実に気付き、そのための膨大な労力と、時としては仕事上の無駄もあえて甘受しなければならない。おかしいとは思いつつも自分の価値観が変わってくるわけだ。若者は銀行を目指す、そしていつの日かまた銀行を去っていく。

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 であれば、銀行員は自身の身の振り方をあらためてよく考えて行動すべきではないだろうか。2〜3年ごとの人事異動を重ねるうちに、ややもすれば、自分の人生は人事部が決めてくれるものと思い込んでしまっているのではないか。

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 銀行でいったん出世街道から遅れてしまった場合、復活するのは極めて難しい。ウサギに抜かれたカメがゴール前で逆転するストーリーは、銀行には当てはまらない。確かにどこの銀行でも、前の資格昇格で同期に遅れた人を、次の資格昇格で例外的に復活昇格させる「リカバリー政策」を実直に実施している。しかし、私が銀行の人事部時代に見てきた限りでは、「リカバリー組」はもともと実力的に微妙な水準にあり、リカバリー後の本人の慢心や周りの醒めた目もあり、結局、花開かないまま沈んでいってしまうケースが多かった。

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 いずれにせよ、「銀行人事にリカバリーはない!」という事実は肝に銘じておくべきである。もちろん、資格昇格や人事異動で同期に遅れていることがわかったらすぐに転職したほうがいいと言っているわけではない。がんばれば、少なくとも一部の層はリカバリーを認められるであろうし、また、そもそも銀行はトップ層だけで回っているわけではなく、いろいろな人の存在によって支えられている。持ち場や役割に応じた仕事のやりがいはあるに違いない。

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 ゴルフの一言アドバイスや格言は、それこそゴルファーの数だけありそうだが、有名なもののひとつで我々の参考になるのは、「フィニッシュの形をイメージしてスイングしろ」というものだ。これは転職を考えるに際しても当てはまる。要するに毎回思いつきで転職をするのではなく、初めて転職する時から、自分なりのキャリアプランを想定して仕事を選ぶべきということである。

 当たり前と言われそうだが、私の見る限り、きちんと将来を見通して転職しているのは2〜3割で、大半は「衝動的」「感情的」と言われても仕方のないものである。上司へのあてつけの「辞めてやる」転職、不定愁訴の「何となく転職」が典型だ。前述したような「邦銀→会計系コンサル→外資系投資銀行」の転職ケースほど完全調和を期す必要はないが、目はしっかりと開けて、遠くも見ながら動くべきである。転職の世界では、「始めよければ終りよし」ではなく「終わりよければすべてよし」と考えたほうがうまくいきそうだ。

 では、転職の最終ゴールでのフィニッシュはどのように考えたらいいのか。人によっては何十年も先になる話を考える、というのは無理難題だろう。そこで、銀行員の一般的なフィニッシュをいくつかに類型化して示してみると、@起業型、A積み上げ型、B短期決戦型の3つに分けられる。ここからひとつずつ説明していこう。


 大手都市銀行に勤め、その後、
 税理士になった方に聞いたことがある。

 銀行に勤めていた頃は、
 直属の上司の為に働き、
 直属の上司に評価されることが嬉しくてたまらなかったと。

 では、何ですか。
 日本経済の為でもなく、
 銀行の為でもなく、
 東京支店の為でもなく、
 直属の上司の為に働くのですか。

 「そうです」というのが、彼の答だった。

 「直属の上司の為に働く」

 直属の上司に優秀な部下と評価される。
 それが受験勉強的な人生の目標になる。
 常に目先の目標に向けて努力し続ける。