P248

 しかし、番組の軸が固まるまでにはかなりの時間がかかりました。番組は「古今東西の文学作品の中から、絶望を描いた言葉を紹介し、生きるヒントを探す」という文言で始まります。実はこれを書いた時、迷いがありました。「生きるヒント」としていますが、本当のところは、生きていくことを無条件の前提として番組を作っていないからです。
 病気、事故、災害、死別、失業、失恋……。

 受け入れがたい現実に直面して絶望した時に「生きていこう」と思うのは、とてもとても難しいことです。

 たとえドラスティックな出来事がなくても、何度も同じ失敗を繰り返す自分に絶望したり、周りの人が立派に見えて自分は生きる価値すらないと思うこともあります。努力しても結果が出ないことも、いくら心を尽くしても人に裏切られることもあります。この先、とても生きていける気がしない、ため息しか出ないと思うことはしょっちゅうです。だからこの番組を作っているのです。

 そして現に、日本では年間二万人以上の方々が自ら命を絶っています。その方々を否定したくありません。同じく生きづらさを感じている心の友ですから。だからといって、自殺をすすめたくありません。心が通う方がいなくなると悲しいから。
 つまり、
 自殺をどう考えるか。

 P251

 死が救いに思われるほどの絶望をすくいとって言葉にしていく。