P87
極めて簡略化して言えば、勉強の出来不出来には「生まれながらの資質」の問題がついてまわる、特に得意科目、不得意科目が生じる要因については、明らかに資質の差が大きいように思われる。
P92
一方、早期教育、幼児教育の世界は、「資質」によるふるい落としが機能しない。教育熱心な親のつきっきりの指導があれば、どういった分野であれ、ある程度の成果は出やすい。
ビアノの初歩、サッカーの初歩、あるいは小学校・中学校初期段階の学習項目ならば、自ら指導できると感じる親は少なくない。どんな分野でも、初歩的領域は内容が高度でないため、年齢が下がれば下がるほど、親の熱心さが成果に反映しやすい。
しかしこれが、高校段階の高度な競争、高度な学習項目になると通じなくなる。
難しい課題を前にしても萎えない気持ち、持続的に努力を重ねられる精神力、そして厳しい競争を受け入れる意志は、幼児教育や親の指導の成果というより、生まれながらの「資質」に還元するのが妥当と考える子育て経験者は多いのではないか。
将来、東京大学理科皿類に合格させるために、5歳から英才教育を施す……。ここに成功の予感を持つ者はどれほどいるだろう。
勉強であれ、サッカーであれ、ピアノであれ、早期教育や親の用意した優れた環境が、東京大学理科V類合格、日本代表のプロサッカー選手やプロのピアニストの誕生に、大きな効果があるならば、そのノウハウが確立し広く喧伝されているはずである。しかしそういうノウハウを耳にすることは少ない。
むしろ、幼児から思春期前まで、放置していても勉強ができた、ずっとサッカーボールを蹴っていた、何時間でもピアノを弾いていたという例が多いのではないか。こういう「適性」や「資質」を持ったうえで、思春期以降に厳しい課題や指導に接し、ようやく成果にたどりつく、というケースの方が多いのではないだろうか。
親の手によつて、人工的にトップアスリートや旧帝国大学医学部合格者を輩出することは、不可能だと思う。
早期教育を行うならば、将来を見据えて}つのことに焦点を絞るのではなく、様々な領域の習い事に触れさせ、どこに「適性」があり、何を苦手とするかを見出す基準程度にとらえるのがよいのではないか。
将来OOにさせたいから、五歳からそれに向けての教育を}心に行うというのは、(そこに「適性」がなければ)子供に息苦しさ、生き辛さを与えるだけだろう。そして、そういう事例は少なくないはずだ。
P110
目を引くのが、理科3類の志願者の約60%が浪人生である点だ。志願者が浪人優勢となる非常に珍しい状況である。しかし入学者の比率は、現役生が圧倒している。1年長く勉強したアドバンテージは、有効性を失っていると言わざるを得ない。特に2016年の入学者の現役占有率は80%超であり、必死の思いで勉強してきた浪人生にとっては、凄惨な結果となってしまった。
最難関の理科皿類だけに、ひやかし受験が多いのではという穿った見方もできるが、志願者全体の平均点は他の類との比較でも高止まりしており、ひやかし受験の影は感じられない。
ちなみに現役・浪人別の倍率に換算すると、2016年の東大理科皿類は、現役生の倍率は約2.7倍程度である一方、浪人生の倍率は18倍にまで上がってしまう。やはり、時間のアドバンテージは非常に希薄と言わざるを得ない。
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とはいえ、国立医学部を十分狙うことができる学力を持ちながら、滑り止めの私立医学部に入学する受験生もわずかながら存在する。こういう受験生は親が医師である確率が非常に高い。特に首都圏では、自宅から通える国立医学部が受験者人口に比して非常に少なく、地方の国立医学部か首都圏の私立医学部か、という選択を迫られる場合が多い。