中小企業の与信管理手法

 10年前(平成3年7月)に書いた与信管理についての原稿です。いまでも古くなっていないような気がしますので紹介します。

 一昨年までの4年間、倒産や債権回収を全く行わずに法律事務所を経営してきた。この間のトラブルは土地。たまに貸付金のトラブルが発生しても、担保資産の値上がりを待つだけで解決することができた。仮に、担保に不足がある場合でも、債権回収の努力をするのではなく、税務上の貸倒を認めてもらうための努力をする方が、はるかに有効な債権回収の手段になった。

 ところが、昨年から法律事務所を取り巻く環境も様変わりしている。まず、土地のトラブルが発生しなくなった。確かに、法律事務所はいまでも土地のトラプルを抱えているが、これは地価高騰時に撒かれたトラプルの種が、ここでの金融引き締めによって花を咲かせているというのが大部分であり、新たな取引によって発生したトラプルではない。

 代わりに発生したのが「企業倒産」と「貸付金の滞り」。私の事務所でも、今年、最初に受けた法律相談は会社倒産と貸付金の焦付きである。まず倒産し始めたのが、不動産開発業者、次が、不動産開発業者に資金を提供し、あるいは手形を受け取っていた取り巻き業者。これからは、多分、一般の製造業や販売業者の倒産の相談を受けることになるのだろう。

 政府の統計によれば、経済成長率は順調に伸びており、また、消費支出も手堅いとのことである。しかし、年5パーセント台まで引き下げられた住宅ローンの金利が年8パーセント近くにまで上昇し、そのローンで購入した5,000万円のマンションが4,000万円に値下がりしているわけである。ここで、ちょっとしたきっかけで消費支出に影がさせば、残業手当をあてにしていた住宅ローンの返済は滞り、マンションは購入価格でも処分できない……。このような状況が訪れても何の不思議もない。

 考えてみれば、今回の地価高騰前の法律事務所は、倒産と債権回収で成り立っていた。仮差押、本裁判、そして競売手続の三点セットで回収率ゼロの世界である。

 それに比べれば最近の5年間が異常な世界だったわけである。そろそろ正常な世界に戻っても不思議はない。商品を売り込むことよりも、代金を回収することに神経を使わなければならない世界である。

 さて、債権回収のもっとも有効な手段は与信管理。いままで倒産などということを考えずに商品を売ってきたが、ここで、『もしかしたら、この得意先は倒産するのではないか』このような視点で得意先を眺めてみるのも無駄ではない。7年前に思いついた中小企業向けの与信管理の手法を紹介してみたい。


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