興銀を敗訴させた高裁の逆転判決

   東京高裁平成14年3月14日判決

 1) 無条件の債権放棄をすれば法人税基本通達9−4−1(子会社等を整理する場合の損失負担等)によって損金計上することが可能だった。
 2) 解除条件付きの債権放棄にしたのは株主代表訴訟対策だった。
 3) 債権償却特別勘定を選択しなかったのは銀行の都合だった。
 4) 銀行の権利行使に対する社会的批判等の事実は回収不能に当たらない。

 結論に結びついた理由部分は、債権放棄をしたくない事情(株主代表訴訟)があり、そのために解除条件を付けた(民法上は確定的な債権放棄とはいえない)のにもかかわらず、税務上では貸倒処理するとの恣意的(二律背反的)な処理が否定されたということのようです。
 このような解除条件の付された債権放棄に基づく損失の損金算入時期を、当該意思表示のされたときの属する事業年度としたときには、本来、無条件の債権放棄ができず、当該事業年度において損金として計上することができない事情があるにもかかわらず、法人側の都合で損金計上時期を人為的に操作することを許容することになるのであって、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえない。

 税務訴訟の判決では、形式的判断基準と、実質的判断基準が上手に使い分けられているというのが拙文の結論ですが、今回の興銀事件でも、この二つの判断基準が地裁判決と高裁判決の違いを生じさせていると思えます。つまり、次のような判断基準の違いです。

 実質的な判断基準 …… 法的措置を講ずれば、ある程度の回収を図れる可能性がないとはいえない場合においても、諸般の事情を総合的に考慮し、法的措置を講ずることが、有害又は無益であって経済的にみて非合理的で行うに値しない行為であると評価できる場合には、もはや当該債権は経済的に無価値となり、社会通念上当該債権の回収が不能であると評価すべきである(地裁判決抜粋)。

 形式的な判断基準 ……  これをもって日本ハウジングローンの破綻後の整理条件についてまで被控訴人ら母体行の債権を非母体行の債権に劣後させる旨の合意がされたものとはいえないし、社会的、道義的にみて本件債権を行使し難い状況が生じつつあったとはいえても、法的にみて本件債権が劣後化していたとまでいうことはできない(高裁判決抜粋)。

 地裁は実質基準を採用しました。「あの当時の事情として、興銀が債権を回収できなかったことなんて当たり前じゃないですか」との判断です。これは正しい事実認識だと思います。しかし、高裁は、「でも、債権放棄の効果が法律的に確定していたわけではない」との判断です。これも正しい法律判断です。

 両方とも、判決としては説得力を持った判断だと思いますが、しかし、結論は逆です。原告勝訴でも、被告勝訴でも、説得力をもった判決が書けるのが優秀な裁判官だということを興銀事件は証明していると思います。

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