子会社を利用した株式の移転と税務否認の可否

    ……旺文社事件の検討……

● はじめに

 東京地裁判決(平成13年11月9日判決)が注目を集めている。これは、テレビ朝日の株式を所有していた旺文社が、オランダの子会社を通じ、含み益課税を受けることなくテレビ朝日株の実質的な支配権を第三者(別の関係会社)に移転してしまったというものであり、旺文社が勝訴して100億円を超える課税処分を取り消すとの判決が言い渡された。ここでは外国子会社が活用されているが、判決が示した理屈は含み益を持つ国内子会社の場合にも適用になるはずである。

 訴訟において課税の理由として取り上げられたのは、法人税法22条の無償の譲渡であり、法人税法132条の同族会社の行為計算否認であるが、更に、裁判所は法人格否認の法理についても議論を進めている。そこで、これら3点についての課税庁の主張と、それについての裁判所の判断を検討してみようと思う。さらに、本件判決が唱える税法条文の解釈の仕方についても検討してみようと思う。

● 事実関係

 この判決は新聞等でも報道されたので御存じの方も多いと思う。争点は課税庁(本郷税務署)が原告(旺文社)に対して行った法人税の課税処分であり、その具体的な事実関係は次の通りである。

 原告(旺文社)は、100パーセント子会社であるA社(オランダ所在)の株主総会において、増資新株の全てをB社(オランダ所在)に割り当てる旨の株主総会決議を行った。ところが、新株の発行価額はA社の純資産額に比較し著しく低額だったため、新株の発行により、原告が保有していたA社株式の含み益の大部分はB社に移転することになった。この原告からB社への資産価値の移転について、本郷税務署長(被告)は原告に対する譲渡益課税を行った。この処分の適否が争われたのが本件訴訟である。

 原告が所有するA社株式には多額の含み益が存在したが、その原因は次のようなA社の設立の経過にあった。

 原告は、平成3年9月4日に、所有するテレビ朝日と文化放送の株式を現物出資(と幾らかの現金出資)することにより、オランダに原告の100パーセント出資の子会社A社を設立し、現物出資によって取得したA社の200株の株式については、法人税法51条(特定の現物出資により取得した有価証券の圧縮額の損金算入)の適用を受けた。この圧縮記帳によりA社株式について多額の含み益(簿価と時価との差額)が生じることになった。

 そして、この含み益の移動が課税の対象になったのであるが、その増資等の経過は次の通りである。

 原告は、平成7年2月13日、A社の株主総会において、新株3000株を発行して、その全てを額面金額をもってB社(原告と株主の一部を共通にする兄弟会社)に割り当てる旨の決議をした。その後、平成7年2月15日にA社による増資が実行され、これによって原告のA社への出資割合は従前の100パーセントから6.25パーセントに減少し、B社が93.75パーセントの株式を所有することとなった。


   原告(旺文社)         B社
     │100%→6%      │94%
     └──────┬──────┘
            │
         A社(オランダ)

 そして、この増資によって、原告が保有していたA社株式の資産価値は272億円から17億円に減少し、その差額である255億円相当額はB社に移転した。さらに、新聞報道、あるいは経済雑誌の記事によると、この増資の後日談として次のような事実が存在するようである。

 A社は、所有するテレビ朝日株を文化放送が100%の出資をするオランダ法人J社に無償で譲渡し、さらに、J社はこれを原告の日本子会社M社に無償で譲渡。最終的には、原告はM社の株式を第三者に譲渡して、テレビ朝日株の実質的な支配権を第三者に移転することになった。

 なお、事案の理解のためには、原告が、財団法人等を主要株主とする同族会社に該当することも指摘しておく必要がある。

 争点はB社に対する著しく低い価格での新株の割り当てであるが、今回の訴訟で問題になっているのはB社に対する受贈益課税ではなく、A社に対する譲渡益課税である。含み益を有する株式について、その含み益部分のB社への移転がA社の譲渡益を構成するか否かが議論されている。

● 法人税法22条2項の無償による譲渡

(課税庁の主張)

 法人税法22条2項を適用する理屈を課税庁(被告)は、要旨、次のように主張している。

 原告は、A社の株式の価値のうち255億円を何らの対価を受けることなくB社に移転させている。このような結果を生じさせる増資決議は、A社の株式の価値の一部をB社に贈与する行為にほかならない。これはA社の株式の価値を時価により実現し、それを贈与したことになると解すべきであり、法人税法22条2項が益金発生の原因としている「無償による資産の譲渡」に該当する。

 説明するまでもないが、念のため補足すれば、租税理論として理解されている低額譲渡の課税の理屈は次のようになる。取得価格が1億円で、いま現在の時価が5億円の資産、これを仮に土地とすれば、この土地を第三者に2億円で譲渡する行為は、第三者に受贈益を発生させるのと同時に、贈与者にも含み益が実現したものとしての譲渡益課税の問題を生じさせる。なぜなら、1億円から5億円への値上がりは、贈与の段階で既に発生しており、これが贈与(譲渡)により実現するものと理解されるからである(最高裁第三小法廷平成7年12月19日判決 税務訴訟資料214号870頁)。

 課税庁は、このような課税の理屈を持ち出して、著しく低い価格での増資により、含み益相当がB社に移転したことをもって、これが原告の下で実現し、それがB社に移転されることになったと主張したわけである。

(裁判所の判断)

 この主張を裁判所は次のように批判した。裁判所が述べる論理は簡単であり、原告の株主総会での決議には意味が無く、取引として認識されるのは、A社がB社に対して行った著しく低い価額での新株の発行であるが、これはA社とB社の取引であり、原告はB社に対して何らの行為も行っていないとの理屈である。

 「本件増資の行われた法形式について検討するに……本件決議はA社の機関である同社の株主総会が内部的な意思決定としてしたものにほかならず、その段階では未だ増資の効果は生じていないのであって、B社が本件増資により資産価値を取得したとすれば、それは、法形式においては、A社の執行機関が本件決議を受けて同社の行為として増資を実行し、B社が新株の引受人として払込行為をしたことによるものである」。

 「株式の時価との差額がB社に帰属することとなったことを取引的行為としてとらえるとすれば、本件増資をして新株の払込を受けたA社と有利な条件でA社から新株の発行を受けたB社の間の行為にほかならず、原告はB社に対して何らの行為もしていないというほかない」。

(判決の認定に対する疑問)

 税務の常識に染まった者(私を含め)には裁判所の認定は驚きなのではないだろうか。相続税法基本通達9−4(同族会社の新株引受権)は「新株引受権の全部又は一部が当該法人の株主に与えられないで当該株主の親族等に与えられ、当該株主の親族等が当該新株引受権に係る新株を引き受けた場合」は、株主から親族に対する新株引受権についての贈与が行われたものとみなしており、この理屈は判例でも認められている(東京地裁平8年12月12日判決 税務訴訟資料221号861頁)。

 通達が定めているのは受贈者側の課税であり、本件判決で問題になっているのは贈与者側の課税だとの違いはあるが、それでも、相続税法基本通達9−4は、株主に対して新株引受権が与えられず、これが親族に与えられた場合は、これを株主(本件では原告)から新株引受人(本件ではB社)への贈与と認識している。つまり、判決が認定するような新株発行会社(本件ではA社)と新株引受人(本件ではB社)との関係に尽きるとの認識には止まってはいない。

 しかし、これは相続税法における課税の理屈であり、法人税法には適用にならないのかもしれない。相続税の場合は、本来は贈与ではないが、これを贈与とみなすとの相続税法9条を置くことによって可能になっている課税関係だからである。それに、相続税基本通達9−4により課税されるのは、贈与を受ける側であり、贈与をする側についての「みなし譲渡所得」のことまでは触れていない。そこで課税庁は、次のような判例を引用し、株主に対しても譲渡益課税が行われるべきだと論を進めている。

● 最高裁昭和41年判決との比較

(課税庁の主張)

 課税庁は、次のような最高裁昭和41年6月24日判決(民集20巻5号1146頁)を引用し、最高裁判決が、増資会社と新株主との間ではなく、旧株主から新株主へのプレミアム相当の経済的利益の移転を認識していると主張した。

 X社は、A社、B社、C社の株式を所有していたが、これら3社の増資に際し、独占禁止法対策として、A社とB社の株式をX社の役員に信託的に譲渡して株主名義を変更し、この役員が両社から新株の割り当てを受けることにした。C社については、X社が増資払い込みを行わなかったため失権株になったが、その後、増資を完了させたいとのC社の求めに応じてX社は同社の役員を新株の引受人として指名し、この役員がC社から新株の割り当てを受けることになった。このような事案について最高裁は次のように判断している。

 「所有する増資会社の株式を一時自社の重役に信託的に譲渡し株主名義を重役個人に書き替える方法により、または増資会社から第三者指名権を与えられて自社の重役個人を指名する方法によって、これら重役等に各社の増資新株の割当を受けさせ、それぞれその新株を取得させた」。

 「移転の対象となった経済的利益は、いわば同社(X社)所有の増資会社株式について生じる新株プレミアムから構成されるものとみられ、その利益の移転は、同社所有の増資会社株式の値上り部分(同社の取得した第三者指名権も株式の増加部分と同視して妨げない。)の価値の社外流出を意味するものということができる」。

 「これら株式の値上りが被上告会社の右株式の取得価額(記帳価額)を上回るものがあるならば、その部分は同社の未計上の資産であり……かかる未計上の資産の社外流出は、その流出の限度において隠れていた資産価値を表現することであるから……このような隠れていた資産価値の計上は、当該事業年度において資産を増加し、その増加資産額に相当する益金を顕現するものといわなければならない」。

(裁判所の判断)

 裁判所は課税庁の主張を次のように批判した。いったんは新株引受権が旧株主に割り当てられたことにより旧株式が具体的に増価した場合(最高裁の事例)と、本件とは事実関係が異なり、本件では、増資決議前には抽象的な含み益があったのみで、旧株主(原告)の所有株式が具体的に増価したとみることができないから、増資の決議によって譲渡したと認定する具体的な増価分は存在しない。

 さらに、本件は最高裁判決とは事案が異なると次のように指摘している。株式の割当自体は増資会社が行うものであって、旧株主は新たな引受人との間で直接的な行為をしない点において共通しているが、最高裁の事案においては、いったん新株引受権が旧株主に具体的に帰属し、それが付着した旧株式自体を旧株主が譲渡することが可能であり、第三者指名権の行使の場合もそのような譲渡行為と同視することが可能であるが、本件の場合は、原告とB社との間には直接的な行為があったと同視し得る事情は見当たらない。

(判決の認定に対する疑問)

 この点についても、税務の常識に染まった者は驚きを禁じ得ないのではないだろうか。判決は、新株引受権が旧株主に割り当てられた場合と、これが直接に第三者に割り当てられた場合を区別し、後者の場合は、1)具体的な増額分は存在せず、2)原告とB社との間には譲渡と同視しうる直接的な行為が存在しないと判断する。

 しかし、判決は増資の意味内容について誤解しているように思える。まず、1)の具体的な増額分が存在しないとの指摘であるが、新株が会社の純資産を下回る価額で発行されることによって、そこで唐突に含み益(具体的な増額分)が発生するわけではない。

 これは、会社の純資産額を下回る価格で発行された新株が旧株主に割り当てられた場合を想定すれば明らかだと思う。新株の発行は、旧株主がもともと保有していた含み益を旧株式と新株式に再配分するにすぎない。つまり、新株の旧株主への割り当てによって「旧株式が具体的に増価」するとの理屈はもともと存在しないわけである。

 次に、2)の原告とB社との間には譲渡と同視しうる行為が存在しないと指摘するが、それは譲渡という概念を、売買あるいは贈与との概念と混同した理解ではないか。税法上の譲渡は、売買、あるいは贈与との私法上の法形式による場合だけではなく、所有権(資産価値)を移転する一切の行為と理解されている。

 本件では、旧株主が、株主総会において、第三者に対し新株を割り当てるとの決議を行うことにより、自己が保有する含み益を第三者に譲渡することを承諾している。これは、たとえば、家主が借家人に対し将来の賃料を第三者に支払うよう指示するのと同様であり、その行為(譲渡)の段階で賃料債権が具体的に確定し、あるいは第三者との間で直接の取引として行われることは必要とされないはずである。

 なお、判決は、上記のような決議が「発行済株式の過半数の株式を保有する株主が存在しない会社」で行われた場合を想定し、「決議に賛成した株主については自らの意思で当該決議をした点において、全株式を保有する株主と何ら異なることはない……決議に賛成した株主全部につき、その株式の保有割合を問わず、含み益が顕在化したものとして収益を認定し、これに対する課税をすることにならざるを得ないが、被告自身もそうした結論を是認するものとは思われず」と、課税庁の主張を批判するが、これは見当違いの批判だろう。上記の決議を行ったのが100%の持分を有する株主ではなく、一般の上場会社のような多数の株主が存在する株主総会での決議だった場合には、そこに含み益を譲渡(この場合は無償で)するとの客観的な意思を推定することはできないからである。

 さらに、旧株主が増資に応じないため、旧株主が失権し、その後、当該株式が旧株主の指名権によって第三者に割り当てられたとの最高裁の事案について、本件判決は、「旧株主による指名権が行使された」との事実をもって本件との差異と指摘するが、これが株主総会でB社への割り当てを決議するとの方法による指名権の行使と如何ほどの違いがあるのだろうか。少なくとも、経済的実態としては差異は存在しない。

● 同族会社の行為計算否認

(課税庁の主張)

 原告は同族会社の行為計算否認の適用を主張する。本件では、第三者割り当ての総会決議を行うことにより、旧株主(原告)から新株主(B社)への新株プレミアム相当の経済的利益の譲渡をしたものであり、原告が合理的に行動したとすれば、1)B社から滅失価値相当額に見合う対価を受領するか、2)B社から増資対価を払い込ませるかをしたはずであるのに、無償で自己の資産の減少となる本件決議を行い、対価を受領等しなかった原告の行為は、営利を目的とする法人の行為としては極めて不自然・不合理な行為である。

(裁判所の判断)

 このような課税庁の主張について、裁判所は、次のように、1)の理屈は認められるが、2)の事実によっては原告の資産に増減はなく、したがって、被告が主張する「普通採った方法である一つと比較した場合において、何ら法人税を減少させるものではない」と判断し、被告の主張を排斥している。つまり、原告が合理的に行動し、2)の方法を採用した場合には課税所得が発生しないのであるから、本件行為により課税所得が発生しなかったとしても、これは同族会社の法人税を不当に軽減する行為には該当しないとの理屈である。

 1)の方法を採用し、B社から対価を受領するとの対応をしていれば、その対価は原告の益金となったのであるから、現に行われた行為は原告の法人税を減少させることになる。

 しかし、2)の方法により、B社に増資対価を払い込ませる方法を選択した場合は、新株の実質的価値に見合う価額が払い込まれているのであるから、原告については形式及び実質の両面において資産の増減がなく、益金は発生せず、法人税が課されることはない。

(判決の認定に対する疑問)

 これについても判決の結論には疑問を提起せざるを得ない。仮に、2)の方法を採用し、B社が正当な増資の対価を払い込めば、確かに、その時点での原告に対する課税関係は生じない。

 しかし、その後、原告が所有株式を売却した場合に、2)の方法を採用していた場合には含み益相当が実現し、これに譲渡益課税が行われるが、そうではなく、本件のように著しく有利な発行価格による新株の発行を行わせ、その段階で含み益を消滅させてしまっている場合には、後の譲渡の段階での含み益課税は行えないことになってしまう。つまり、裁判所が判断するのとは逆に、2)の方法を採用した場合においても同族会社の法人税を不当に減少させる行為に該当することになるわけである。

 それに、本件で原告が行った株主総会での新株発行の決議は、自己の含み益を何らの対価なく第三者に移転する行為であり、これを正常な取引に引き直すとすれば、原告が新株式を引き受け、これを第三者に譲渡するとの方法であり、そのような方法と比較すれば、本件行為が同族会社の法人税を不当に軽減する行為に該当することは疑いのない事実である。

● 法人格否認の適用

 法人格否認の法理について、課税庁はその適用を主張していないが、このことについて裁判所は次のように指摘している。

 被告は、「法人格否認の法理の適用を主張して本件の具体的な事実が同法理適用の要件を満たしている旨の指摘もしていないから……原告とA社との関係について……法人格否認の法理の適用を前提として主張しているものと解することはできない」。

 しかし、本件で課税庁が法人格否認の法理を主張しなかったのは正しい判断だと思う。仮に、法人格否認の主張をしても、その要件である、1)法人格の濫用と、2)法人格の形がい化との要件(最高裁昭和44年2月27日判決)が本件において認められる可能性は皆無だと思う。仮に、私法とは別の税法的な法人格否認との法理が存在すれば別であるが、しかし、そのようは法理は存在しない。

● 取締役の任務懈怠

 訴訟において主張されていないが、本件では、取締役の任務懈怠と、そのことによる取締役に対する損害賠償請求権の計上との理屈が成立し得るのではないだろうか。原告は、A社の100%株主であるにもかかわらず、A社の株主総会で議決権を行使し、A社の純資産額と比較し著しく低額な払い込み価格での新株の発行を決議し、それをB社が引き受けることを承諾している。

 これは営利を目的とする原告の行為として不合理であり、そのような決議を行った取締役は、商法254条の3(取締役の忠実義務)を持ち出すまでもなく、委任義務違反として会社に対し損害賠償義務を負うことになるのではないか。そうだとすれば、会社は、新株の発行によって失った含み益相当額について、取締役に対する損害賠償請求権を取得することになる。

 この場合に、現実に会社が取締役に対して損害賠償請求権を行使したか、又、行使する予定があるかは法人税法の収益の認識においては問題にならないはずである。仮に、取締役に対する損害賠償請求権が行使されない場合は、それは債権の放棄であり、その段階での役員賞与課税、あるいは寄付金課税が問題になるだけだからである。

 しかし、この理論構成には次のような疑問が残る。つまり、今回の著しく低い価格での新株の発行は、原告の株主であるセンチュリー文化財団等の意向を受けての株主権の行使と思えるからである。仮に、株主全員の了承の上で行った行為であれば、それによって会社に損害を与えたとしても、取締役は、会社に対する損害賠償請求権を負担することにはならないだろう(ただし、そのような株主の事前の同意自体が同族会社の行為計算否認の対象であることについて那覇地裁平成7年7月19日判決 税務訴訟資料213号163頁)。

 仮に、株主の一部(少数株主)の承諾なく行われた行為であり、取締役に対する損害賠償請求権を認識するとしても、255億円との高額な損害賠償金では、これを弁済すべき資力が取締役にあったとは思えない。この理屈を通すと、損害賠償請求権と貸倒損失の両建て経理との結果に終わってしまうかもしれない。しかし、指摘するまでもなく、原告が行った新株の発行は、経済的合理性を無視した行為であり、従前の課税の実務からすれば到底是認できない行為であることは議論するまでもない事実である。

● おわりに

 本件判決を批判してきたが、あるいは、これは税法の常識に染まった者の勘違いであり、正しい条文解釈によれば本件判決のような結論がでるのかもしれない。確かに、新株の第三者への低額割り当てについて譲渡益課税を行うとの条文は存在しないし、同族会社の行為計算否認の条文は改めて指摘するまでもなく課税要件としては不明確である。したがって、業界の常識に染まらない一般市民の視点で条文を読めば、本件判決は、条文の正しい解釈の方法を示しているのかもしれない。

 しかし、そのように条文を国語的にのみ読むことには疑問があるのではないだろうか。各々の法律は、その法律が作り出す全体構造があり、その全体構造の中でひとつひとつの条文が読み込まれていくことになる。納税者を勝訴させたとの意味では在野としては歓迎したい判決であるが、しかし、既存の税法の理屈から大きくかけ離れた判決だとの意味では戸惑わせる判決でもある。

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