東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件の判決要旨


 ◆ 条例を無効と判断した部分

 1) 事業税は、応益負担の税金ではなく、応能負担の税金である。例外4業種も、所得に代わる担税力の指標として収入を課税標準としているだけである。。

 2) 所得が担税力を適切に反映する場合は、所得を課税標準にすべきであり、外形標準課税をすることは許されない。所得が担税力を反映しない場合に限り、初めて外形標準課税を採用することが出来る。

 3) 地方税法「事業の情況」とは、所得が担税力を適切に反映しないといった事業自体の客観的な状況を意味するのであって、その時々の景気状況や経営の巧拙に基づく業績状況は含まない。

 4) 銀行業について、所得を課税標準とした場合に、適切な担税力を把握できないことは伺われない。貸倒損失を控除した所得こそが担税力を示す。

 5) したがって、銀行業については所得が担税力を適切に反映するものであって、原則通り所得を課税標準とすべきであり、外形標準課税を採用することは許されない。地方税法72条の19が外形標準課税を許す「事業の情況」にあるとは認められず、条例は同規定に違反して違法であり、無効である。

◆ 損害賠償義務を認定した部分

 1) 法的素養を有する者が地方税法72条の19とその引用する同法72条の12とを読めば、「事業の情況」とは、日常用語的な意味ではなく、例外4業種について例外的取り扱いをする根拠となった事情に準ずるものに限定されるのではないかとの疑義を抱くのが通常である。

 2) 主税局長は、都議会において、現行の事業税につき、所得課税という応能原則による課税が行われていることを認識しながら、これが応益原則に基づくものであると強弁し、かつ、銀行の業務粗利益が一般事業会社の売上総利益に相当するとの誤った説明をして都議会議員の判断を誤らせた過失がある。

 3) 全国銀行協会の杉田会長があるべき法解釈について適切な意見を述べているのであるから、これらの意見を虚心坦懐に聞いたならば、都知事も、法律や会計の専門的な知識が無くても、本件条例が法令に違反している可能性が高く、違法に原告等の権利を侵害することになることを認識しうるのが通常である。

 4) 外形標準課税の導入に適法性を唱える学者の意見や文献があったと主張するが、そのような学者は、その数だけを見ても違法性を主張する学者に比して圧倒的に少数である。

 5) 全国知事会議の「法人事業税課税実施問題研究会」が、法改正によらず、条例により外形課税を実施することが可能としたが、しかし、これは本件のように一地方団体のみが単独で外形標準課税を導入することを前提したものではないし、同案においても「主として製造業を行う法人に限定」しており、「銀行業等」が外形課税標準の対象として適当であるとの報告でもない。

 6) 繰延税金資産や当期利益の減少につき広く新聞報道され、当期利益や自己資本比率が悪化したとの評価を受けることは、原告等の信用を著しく低下させたと認められる。原告等の被った無形の損害の金銭的評価は原告一行についてそれぞれ1億円を下回らない。


◆ 問題になった地方税法の条文

 第72条の19(事業税の課税標準の特例)

 法人の行う電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業以外の法人又は個人の行う事業に対する事業税の課税標準については、事業の情況に応じ、第72条第1項、第72条の12及び第72条の16の所得及び清算所得によらないで、資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数等を課税標準とし、又は所得及び清算所得とこれらの課税標準とをあわせ用いることができる。