事実関係と要旨

●第1 貸家契約が合意解除されている場合の建物と敷地の評価

 父親が賃貸していた建物について、借家人との間に、平成7年12月までに貸家を明け渡すとの和解(裁判上)が成立したが、その明け渡し期日の前である平成7年7月に父親は死亡してしまった。その後、平成7年11月に借家人は建物を明け渡した。争われたのは、この土地(と建物)についての相続税評価額(借家権控除)と小規模事業用地の評価減が行えるか否かである。なお、和解の内容は次の通りである。

 1) 賃貸借契約が昭和61年3月に終了したことを確認し、平成7年12月まで明け渡しを猶予する。
 2) 契約終了の日から明け渡しまでの賃料を免除(既に供託されていた賃料1億2000万円も賃貸人は放棄)し、賃貸人は、明渡しと引き替えに、引越料2200万円を支払う。
 3) 明け渡しの猶予期間中、賃借人は建物を無償で使用することができる。

▲ 課税庁の主張

 賃貸借契約は昭和61年3月17日に終了しており、相続の時点では賃貸借契約は存在しなかった。賃借人は、平成7年12月31日までの建物の占有使用を認められていたが、使用料は無償とされていたことからすれば、本件相続の課税時期において、本件建物について本件賃借人の借家権が存在したとは認められない。そうだとすれば本件土地の価額の算定について評価通達26の適用はないものと解すべきである。……(契約が終了しているとの形式的な判断)

▲ 裁判所の判断

 9年余りもの長期にわたって明渡しを猶予し、しかもその間に1億5000万円を下らない賃料相当損害金の支払を免除すべき理由は全くないのであるから、右明渡猶予期間中の本件建物の使用収益は、この種の類型の和解一般と同様に、実質的には終期の確定した賃貸借、言い換えると一時使用の賃貸借と異なるものではないと解するのが相当である。……(一時使用の賃貸借と同様)

 その終期は、平成7年12月31日と確定しており、その期間が比較的短期であること及び賃借人から期間の延長を請求する余地がなくなっていることからすると、右使用関係の存在は、本件土地建物の交換価値の評価に当たってはそれを無視し得るものということができ、本件土地建物については、評価通達が前提としているような経済的な価値を減少せしめる事情があるとはいえない。……(借家権控除を否定)

 本件和解により、本件賃貸借契約は、昭和61年3月17日に終了したことが確認されたものの、平成7年12月31日までの明渡猶予期間中の使用関係は実質的には一時使用の賃貸借と異ならないこと、本件賃借人は、同年11月14日まで本件建物を占有していたことが認められるところ……本件和解の後においても、本件賃借人は実質的には一時使用の賃貸借に基づいて本件建物を有償で占有していたのであるから……本件相続開始の直前においても未だ終了していたものとはいえない。……(小規模事業用地の評価減を肯定)

●第2 解除条件付き債権放棄と貸倒損失の計上

 日本興行銀行は、平成8年3月に、日本ハウジングローン(住専)との間で3760億円の貸付債権を放棄するとの合意をして、同年3月期の決算において貸倒損失として処理した。ところが、課税庁は興銀の貸倒損失を否認し、所得金額を3627億円とする更正処分を行った。争われたのは債権の回収可能性についての判断である。

▲ 課税庁の主張

 債権は平成8年3月末時点においてその全額が回収不能とは認められない。

 債権放棄に解除条件が付されているから本件事業年度に本件債権放棄が確定しているとは認められない。なお、解除条件は「日本ハウジングローンについて、営業譲渡の実行及び解散の登記が平成8年12月末日までに行われないことを放棄の解除条件とする」というもの。

▲ 裁判所の判断(地裁)

 正常資産及び不良資産のうち回収が見込まれるものの合計額は1兆2103億円とされ、一般行がJHL社に対して有している債権1兆9197億円を下回っており……本件母体2行がJHL社に対する債権を全額放棄したとしても、一般行の債権の全額を返済することは不可能であった。…… (興銀に廻る返済資金は無かった)

 平成8年2月15日に衆議院予算委員会で……原告の黒澤頭取が、母体行として債権の全額を放棄すると述べたことからすると、原告がJHL社に対する債権を放棄しないことは、社会全体を敵に回すに等しく、社会的存在としての銀行としては自己にとってこの上なく有害な行為というほかない上、代表者の言を翻すことによる社会的信用の失墜という面からも、もはや社会通念上許されない状態になっていた。……(社会通念上、回収は行えなかった)

 仮に政府の住専処理策が成立せずJHL社を破産手続によって処理せざるを得ない事態が予想されたとしても……原告が債権届出をしてその手続に参加することは、法的には可能であったとしても、原告にとって有害かつ無益であって経済的にみて非合理的で行うに値しない行為というほかない。……(破産手続でも回収は行えなかった)

▲ 裁判所の判断(高裁)

 取締役会を開催し……本件債権を本件事業年度において直接償却する必要性がある理由として、仮に本件事業年度において多額の債権償却特別勘定の設定をすると、前年度にこれをしていなかったことの責任を問われるおそれがある旨が説明されたほか、本件債権放棄に解除条件を付すことにすれば、債権放棄によって被控訴人に損害を与えたとしてする代表訴訟を防止する効果がある旨が説明された。…… (確定的な放棄はできないとの事情が存在した)

 日本ハウジングローンの正常資産及び不良資産のうち回収が見込まれるものの合計額は、その当時、少なくとも1兆円は残されていたことが推認され、この金額は、日本ハウジングローンの借入金総額の約40パーセントにも上るのであるから、このような日本ハウジングローンの客観的な財務状況に鑑みると、平成8年3月末時点において、本件債権が全額回収不能であったとはいえない。…… (平等弁済なら40%の回収が可能だった)

 債権の全額が回収不能であるとは、債務者の実際の資産状況、支払能力等の信用状態から債権の資産性が全部失われたことをいうのであって、責任財産がありながら、債権行使に対する社会的批判等の他事を考慮して債権者が当該債権を行使しないこととしたような場合などは、これに当たるものではない。…… (社会的な批判は回収不能には該当しない)

 解除条件の付された債権放棄に基づく損失の損金算入時期を、当該意思表示のされたときの属する事業年度としたときには、本来、無条件の債権放棄ができず、当該事業年度において損金として計上することができない事情があるにもかかわらず、法人側の都合で損金計上時期を人為的に操作することを許容することになるのであって、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとはいえない。…… (民法上の完全な債権放棄になることを防ぎ(解除条件)ながら、税務上は貸倒損失に落とすとの恣意性(二律背反性)が存在した)

●第3 交換契約か売買契約かが争われた事例 

 原告(個人)は所有地を三井不動産販売に対し代金5億8000万円で売却した。これと同時に、原告は同社から4億円で土地を購入した。そして、代金額は相殺し、差額の1億8000万円を現金で受け取った。しかし、原告が4億円で買い受けた土地は、同社が売却の直前に第三者から7億9000万円で購入した土地だった。争われたのは、譲渡所得の基因となる土地の売買代金の額である。


                  原告の認識      課税庁の認定
  土地として受け取った部分  4億0000万円   7億9000万円
  現金で受け取った部分    1億8000万円   1億8000万円
             合計 5億8000万円   9億7000万円


▲ 課税庁の主張

 本件譲渡土地の譲渡等の経緯、原告らの取引動機・目的、履行の形態などからすれば、原告らは、密接不可分である一連一体の取引を形式的に分断して本件譲渡契約と本件購入契約の二本立ての契約を行ったにすぎず、本件各契約による取引は、原告らが、本件譲渡土地の譲渡の対価として、本件購入土地及び本件差金1億8385万6880円を受領したもの、すなわち補足金(本件差金)付交換契約である …… (交換契約なら譲渡価格の認定は時価9億7000万円)

▲ 裁判所の判断

 資産を有償で譲渡しようとする者は、それが交換によって実現可能なものであっても売買の形式を選択することが可能であり、そのことは法的にみて特異な選択と評価されるものではない …… 自由に選択可能な法形式間において課税上の取扱いにのみ差異を設けている以上、納税者が選択した法形式に従った課税をするのが同法の趣旨であるとみるのが相当であり、納税者が選択した法形式を否認して他の法形式を前提とした課税をすることは明文の根拠がない限り許されない …… (納税者が選択した法形式を否定することは許されない)

 売買契約における売買代金は、必ずしも常に移転される財産権の客観的価値を反映したものとはなっていないものと解される。所得税法は、このような売買契約の実情にかんがみ、当事者間において合意された金銭による対価の額と移転される財産権の客観的交換価値との間に不均衡があり当該資産に係る増加益がみかけ上は過少であったとしても、原則としてこれに介入せず、結果として当該資産の増加益に対する課税が繰り延べられることになってもやむを得ないものとし、当事者が決定した代金額をもって譲渡収入金額を計算しようとする態度をとっているものと解される。…… (売買契約で合意する代価は時価である必要がない)

 所得税法は、売買契約における譲渡所得と交換契約の譲渡所得について、その課税標準を異にすることを容認し、前者については、当事者間で合意された代金額を原則として尊重するという態度に出ているものである。したがって、当事者間においてなされた2つの売買契約において、結果として双方の有する財産権の交換的な移転の要素があったとしても、そのことから直ちに、当事者間の意思の合理的な解釈として、2つの売買契約を交換契約であると認定することは、特段の事情がない限り許されないというべきである。…… (売買契約を交換契約と認定することは許されない)

●第4 違約金の収益計上時期(東急不動産)

    ====== 省略 =================

●第5 認知判決確定後の更正の請求の時期

 昭和63年9月に発生した相続について、原告は、平成元年12月に認知の判決を得て、相続人に対し民法910条に基づく価額請求の訴訟を起こし、平成8年11月に判決を得て、平成9年2月に相続人から5000万円の支払いを受けた。その後、相続人が平成9年3月に相続税について減額更正(5000万円の支払いの事実に基づき)の請求を行ったため、課税庁は平成10年1月に原告に対して相続税法35条3項に基づく相続税の決定処分を行った。争点となったのは決定処分についての除斥期間の問題である。

▲ 争点(課税の時期)

 課税庁の主張 …… 被認知者から民法910条に基づく価額の請求を受けた他の共同相続人が法32条2号の事由が生じたことにより更正の請求ができることとなる時期は、他の共同相続人が被認知者に対して現実に支払うべき価額金の額が確定した時、すなわち、被認知者が支払を受ける価額金の額が確定した時と解すべきである。

 納税者の主張 …… 税法は侵害規範(国民に負担を求める規範)の代表的なものであり、法的安定性の要請が強く働くから、税法の解釈、特に租税実体法の解釈は一般的にいって法文から離れた自由な解釈は許されていない。特に、法32条2号は、民法における用語(概念)が用いられている(以下「借用概念」という。)規定であるところ、借用概念について、税法独自の解釈を認めることになると、納税者の経済生活における予測と安定性を阻害することになるからこれについては、他の法分野におけるのと同じ意義で用いていると解すべきである。

▲ 裁判所の判断

 相続税法32条2号の文言に照らすと、認知の裁判の確定によって新たな相続人が生じた場合において、それ以前に他の共同相続人間で遺産分割がされていたときにおける同号に基づく更正の請求は、文言どおり同裁判の確定したことを知った日から4か月以内に限ってすることができ、この期限以後はすることはできないと解するのが相当である。

●第6 第三者に対しての増資の方法による資産価値の移転

 原告(旺文社)は、100パーセント子会社であるA社(オランダ所在)の株主総会において、増資新株の全てをB社(オランダ所在)に割り当てる旨の株主総会決議を行った。ところが、新株の発行価額はA社の純資産額に比較し著しく低額だったため、新株の発行により、原告が保有していたA社株式の含み益の大部分はB社に移転することになった。この原告からB社への資産価値の移転について、本郷税務署長(被告)は原告に対する譲渡益課税を行った。この処分の適否が争われたのが本件訴訟である。

▲ 課税庁の主張(法人税法22条2項+同族会社の行為計算否認)

 原告は、保有していたアトランティック社株式の価値のうち255億円を何らの対価を求めることもなく新株主であるアスカファンド社に移転させた。したがって、本件決議は、原告が保有するアトランティック社株式の価値の一部をアスカファンド社に贈与する行為にほかならない。これは、法においては、同価値を時価により実現したものと解すべきであるから、原告から社外流出した限度において、法22条2項の「無償による資産の譲渡として課税の対象となるものである。

▲ 裁判所の判断

 本件増資の行われた法形式について検討するに……本件決議はアトランティック社の機関である同社の株主総会が内部的な意思決定としてしたものにほかならず、その段階では未だ増資の効果は生じていないのであって、アスカファンド社が本件増資により資産価値を取得したとすれば、それは、法形式においては、アトランティック社の執行機関が本件決議を受けて同社の行為として増資を実行し、アスカファンド社が新株の引受人として払込行為をしたことによるものである。…… (増資決議と、その後の増資の効果を分けて考える)

 アスカファンド社の払込金額と本件増資により発行される株式の時価との差額がアスカファンド社に帰属することとなったことを取引的行為としてとらえるとすれば、本件増資をして新株の払込を受けたアトランティック社と有利な条件でアトランティック社から新株の発行を受けたアスカファンド社の間の行為にほかならず、原告はアスカファンド社に対して何らの行為もしていないというほかない。…… (増資による利益は発行会社からの給付である)

●第7 固定資産税評価額の適法性を判断

    ====== 省略 =================

●第8 東京都の銀行課税を違法と判断

 東京都が、資金量が5兆円以上である銀行に対し、課税標準を業務粗利益とし、税率を3パーセントとする法人事業税を課税するとの条例を制定した。銀行は、条例の無効確認を求めるとともに、条例の制定に関係する一連の行為が違法であるとする国家賠償を求めた。

▲ 裁判所の判断(条例無効論……要旨)

 事業税は、応益負担の税金ではなく、応能負担の税金である。例外4業種も、所得に代わる担税力の指標として収入を課税標準としているだけである。

 所得が担税力を適切に反映する場合は、所得を課税標準にすべきであり、外形標準課税をすることは許されない。所得が担税力を反映しない場合に限り、初めて外形標準課税を採用することが出来る。

 「事業の情況」とは、所得が担税力を適切に反映しないといった事業自体の客観的な情況を意味するのであって、その時々の景気状況や経営の巧拙に基づく業績状況は含まない。

 銀行業について、所得を課税標準とした場合に、適切な担税力を把握できないことは伺われない。貸倒損失を控除した所得こそが担税力を示す。

 したがって、銀行業については所得が担税力を適切に反映するものであって、原則通り所得を課税標準とすべきであり、外形標準課税を採用することは許されない。地方税法72条の19が外形標準課税を許す「事業の情況」にあるとは認められず、条例は同規定に違反して違法であり、無効である。

▲ 裁判所の判断(不法行為論……要旨)

 法的素養を有する者が地方税法72条の19とその引用する同法72条の12とを読めば、「事業の情況」とは、日常用語的な意味ではなく、例外4業種について例外的取り扱いをする根拠となった事情に準ずるものに限定されるのではないかとの疑義を抱くのが通常である。

 主税局長は、都議会において、現行の事業税につき、所得課税という応能原則による課税が行われていることを認識しながら、これが応益原則に基づくものであると強弁し、かつ、銀行の業務粗利益が一般事業会社の売上総利益に相当するとの誤った説明をして都議会議員の判断を誤らせた過失がある。

 全国銀行協会の杉田会長があるべき法解釈について適切な意見を述べているのであるから、これらの意見を虚心坦懐に聞いたならば、都知事も、法律や会計の専門的な知識が無くても、本件条例が法令に違反している可能性が高く、違法に原告等の権利を侵害することになることを認識しうるのが通常である。

 外形標準課税の導入に適法性を唱える学者の意見や文献があったと主張するが、そのような学者は、その数だけを見ても違法性を主張する学者に比して圧倒的に少数である。

 全国知事会議の「法人事業税課税実施問題研究会」が、法改正によらず、条例により外形課税を実施することを可能としたが、しかし、これは本件のように一地方団体のみが単独で外形標準課税を導入することを前提したものではないし、同案においても「主として製造業を行う法人に限定」しており、「銀行業等」が外形課税標準の対象として適当であるとの報告でもない。

 繰延税金資産や当期利益の減少につき広く新聞報道され、当期利益や自己資本比率が悪化したとの評価を受けることは、原告等の信用を著しく低下させたと認められる。原告等の被った無形の損害の金銭的評価は原告一行についてそれぞれ1億円を下回らない。

●第9 米国籍の娘の銀行口座への送金に対する相続税課税

 父親は米国に居住する娘に、平成9年2月4日に北海道拓殖銀行から日本円に換算して2000万円をアメリカ合衆国にある娘名義の預金口座に送金した。なお、娘は昭和61年には米国国籍を取得し、平成3年からは米国に居住している。しかし、父親と娘の間には贈与契約に関する書面は残されていない。そして、平成9年9月に父親は死亡した。この送金が、贈与(死亡年中の贈与なので相続税の課税対象に取り込まれる)の事実の有無が争われることになった。

▲ 裁判所の判断

 父親から娘に対し本邦に所在する現金が贈与されたといえるのは、本件各送金以前に、父親と娘との間で、本件各送金の原資に当たる邦貨に関する贈与契約が成立しており、その履行のために本件各送金手続が執られた場合に限られるというほかない。…… (贈与の事実の認定には贈与契約の存在が必要)

 本件各送金以前に、父親と娘との間で贈与契約が成立していたとすれば、それは口頭によるものであったことになるが、被告は、父親と娘との間の贈与契約は、平成9年2月5日以前に成立していたものと思料される旨主張するのみであって、それを裏付ける立証は何らできていない。…… (贈与契約の存在が立証されていない)

 遺言(一部取消・変更)公正証書(乙4)中には、その作成日である平成9年2月5日以前に父親が娘に対し相当額の生前贈与をした旨の記載があるが、本件各送金が同証書の作成前にされていること、及び同証書が父親の一方的意思によって作成されたものであることに照らすと、上記記載から贈与契約自体の存在を推認することはできない。…… (一方の言い分には証拠価値はない)

 親子間における財産分けのためにされたもの……何らの話合いもなく親が子に対して一方的に送金することも不自然とはいい難く。

 本件各送金に係る金員が相続税の課税価格に加算されるためには、父親と娘との間で本件各送金に係る贈与契約が本件各送金以前に成立していたことが必要であり、本件各送金以前の贈与契約の成立は、相続税の課税根拠事実に当たるというべきである。したがって、この点に関する主張立証責任は被告が負担すると解すべきところ、前述のとおり、被告は自己の主張を裏付ける立証ができていない。…… (だから、国側の敗訴)

●第10 建築物の供用が開始される前の小規模宅地の適用

 相続税の更正処分について、1)株式の評価についての評価差額に対する法人税額の控除の可否、2)小規模宅地の適用と貸家建付地の適用の可否、3)更正決定に理由附記がされていないことの3点が争われた。

▲ 裁判所の判断

  借地権(都心)を設定していたが、その地域が住宅都市整備公団による再開発事業の対象となり、権利変換によって敷地と建物の持分を取得することになっていた。ところが、権利変換がされ、建物が除却された後、施設建築物の供用が開始される前に相続が開始した。

 そこで、敷地の持分のうち、事業用部分については小規模宅地の特例の適用と貸家建付地の評価減が認められるか否かについて訴訟が提起された。東京地裁は、相続開始時には、被相続人の行っていた不動産の貸付業は建物の建替えのために一時中断していたものの建替えが完了すれば、再び、事業を再開することが確実であったとして小規模宅地評価減の特例適用の要件を充たしていると認めた。

 しかし、当時の国税当局の見解が小規模宅地の評価減適用に消極的であったことから他の土地について小規模宅地の特例を適用して申告してしまったために、本件土地については、措置法69条の3第4項に定める記載要件と添付書類の要件を充たしていない。

 しかし、本来特例適用の実体的要件を充たしているのに、課税当局がそれを充足しないという内部的規範を確立し、これを外部にも示していたのであるから、被相続人がこれに従って申告を行ったことも無理からぬところがあり、この点について、措置法69条の3第4項にいう「やむを得ない事情」がある。