平成29年12月13日出版予定 amazon
  
第1章 理屈が登場した組織再編税制

1 混乱と矛盾


 混乱と矛盾を極めていた組織再編税制だが、平成29年度税制改正によって、その矛盾の大部分が解消されることになった。法人税法は、立法趣旨によってシンプルに理解されるものだったが、平成13年の組織再編税制以降、細々とした要件で語られる法人税法になってしまっていた。完全支配要件、支配要件、共同事業要件という言葉だが、なぜ、それが必要なのかは誰も説明していない。

 完全支配要件についても、99%支配の会社について、今日1%を入手して完全支配要件を整えた場合と、100%支配の会社について1%を処分して非適格組織再編成を実行した場合のどちらが租税回避なのか誰も論じない。継続保有の意思という内心の意思を課税要件とすることの不合理性、つまり「汝は神を信じるか」という内心の意思を課税要件とする法人税法について誰も矛盾を感じない。いや、継続保有の必要性について、過去に、100%の親子関係という完全支配要件が存在したので、その継続が必要だという意味でしか理解されてこなかったのが組織再編税制だった。

 しかし、平成29年度税制改正は、@会社の一部門を分離独立させるスピンオフを採用し、A少数株主の排除のための現金交付(スクイーズアウト)や、B企業グループ内の分割型分割について継続保有要件を分割承継法人のみとするなど、現象面としては限られた改正でしかないのだが、それを再編税制の中に位置付けると、まさに再編税制の立法趣旨を明確にする基本的な改正事項として生きてくる。

 平成13年の組織再編税制の導入以降の法人税法は要件で語られることになってしまった。しかし、どのような法律であっても立法趣旨で語らない限りは合格答案は書けない。まさに、失われた16年だったが、それを取り戻してくれたのが平成29年度税制改正だ。そこで本書では、法人税法の基本に立ち戻り、組織再編税制を立法趣旨で語ってみようと思う。組織再編成の知識を、立法趣旨で位置付けてしまえば、多数の要件を記憶する必要はないし、多様な場面での応用が利く知識として生かすことができるはずだ。

2 再編時の要件(適格要件)


 再編税制の要件は、過去の要件、再編時の要件、未来の要件と3時点に区分すると理解が容易だ。過去の要件は5年50%超の支配要件であり(法人税法57条、第60条の3、第62条の7)、再編時の要件は完全支配要件、支配要件、共同事業要件などの適格要件だ。そして未来の要件は再編時点における継続保有の意思(法人税法施行令4条の3)になる。

┌──────────┬──────────────────┬────────┐
│   過去の要件  │      再編時の要件      │  未来の要件 │
├──────────┼──────────────────┼────────┤
│ 5年50%超の支配│完全支配要件、支配要件、共同事業要件│ 継続保有の意思│
└──────────┴──────────────────┴────────┘

 組織再編税制を論じる人達は、再編時の要件を基本として論じることが多い。しかし、これは形式要件でしかない。先ほど述べたように99%支配を100%支配に入れ換え、100%支配を99%支配に入れ換えても、どちらも租税回避とは論じられないからだ。つまり、再編時の要件は、その一時点(1秒)にのみ存在すれば足りる形式要件でしかない。

 そのことを明らかにしたのが平成29年度税制改正で導入された少数株主の排除のための現金交付(スクイーズアウト)だ。

 合併法人又は株式交換完全親法人が、被合併法人又は株式交換完全子法人の発行済株式の3分の2の株式を所有する場合は、その他の株主に対して現金交付によってスクイーズアウト(追い出す)することを認めた。

 改正前の再編税制でも、再編の直前に株式を買い取って完全支配にすることを認めていた。再編後に継続保有要件が求められるのは、支配要件の場合であれば50%超の株式を所有する支配株主のみであって、少数株主には継続保有は要求されていない。つまり、次の具合だった。

 再編前に株式を購入して完全支配要件を整える  = 是
 再編行為の中で完全支配要件を整える(現金対価)= 否
 支配要件の再編後に少数株主が株式を売却する  = 是


 そうであるなら、再編行為の中で、3分の1の株主に現金対価を支払い、100%支配を確保する再編行為が禁止される理由はない。つまり、99%支配の株主が再編直前に100%支配にする場合と、100%支配の株主が再編直前に99%支配にする場合の矛盾を解決したのが平成29年度税制改正だ。要するに再編時の要件は形式要件であって、直前に整えても、再編行為の中で整えても問題にしないという位置付けだ。

┌─────────┬─────────────────────┬───────┐
│   過去の要件 │        再編時の要件       │ 未来の要件 │
├─────────┼─────────────────────┼───────┤
│5年50%超の支配│親会社が株式の3分の2以上を支配する場合は│継続保有の意思│
│         │他の株主への現金対価による追い出しを認める│       │
└─────────┴─────────────────────┴───────┘

 支配株主が存在しない場合のスピンオフ(会社の一部門を分離独立させる)税制の採用も、このことを証明している。完全支配も、支配要件も存在しないところでの会社分割を認めたのだ。もちろん、共同事業要件も要求されない(法法2十二の十一ニ、2十二の十五の二、三)。

 支配株主が存在しない場合のスピンオフこそが、もっともシンプルな分割型分割と定義することができる。支配関係を前提にしないので、5年50%超の過去の要件は問われず、二重の含み損も発生しないので将来の継続保有の意思も問われない(法令4の3H)。

┌──────────┬──────────────────┬────────┐
│   過去の要件  │      再編時の要件      │  未来の要件 │
├──────────┼──────────────────┼────────┤
│    不要    │       不要         │   不要   │
└──────────┴──────────────────┴────────┘

 完全支配要件、支配要件、共同事業要件という再編時の要件は、まさに、形式要件としてしか意味を持たず、創設当初の再編税制が完全支配要件、支配要件、共同事業要件の存否を簿価承継の要件としてしまったために引き継がれている制度の尻尾に過ぎない。

3 過去の要件(5年50%の支配)


 組織再編税制における実質要件は過去の要件だ。つまり、5年50%超の支配関係が必要とされる。ただし、これが要求されるのは完全支配要件と支配要件の場合に限り、共同事業要件では要求されない。なぜなのか。これこそが組織再編税制に存在する2つの肝の1つだ。

 支配株主の元に存在した会社は、親鳥の懐に抱かれていた雛とみなし、雛が抱えた青色欠損金と資産の含み損の承継を認める。したがって、外部から購入した子会社が購入時点で有する青色欠損金と含み損は承継できない。親鳥の懐で発生したものではないからだ。ただし、親子の間に5年50%超の支配関係があれば無条件で承継できる。この場合の親鳥(支配株主)の要件が5年50%超の支配なのだ。

 なぜ、これを100%として完全支配を求めなかったのか。おそらく妥協の産物だろう。そして5年の支配を要求するが、これは会計法の縛りだ。会計法30条、31条は、国の債権は5年を超えては請求できず、5年を超えては履行できないことになっている。

  …… 省略 ……

4 未来の要件(継続保有要件)


 完全支配関係がある場合の組織再編については、兄弟合併を例に取れば、「当該合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続すること(略)が見込まれている場合」という要件が課されている(法令4の3A二)。なぜ、組織再編後の継続保有が要求されるのか。これが組織再編税制に存在する2つ目の肝だ。

 再編時の要件として完全支配要件、あるいは支配要件が課されているので、この状態が将来においても継続することが必要だと理解されていたと思う。しかし、これは違うのだ。

 継続保有要件は二重の含み損の利用を防止するために存在する。仮に、簿価3億円、時価1億円の土地を所有する会社が、これを分社型分割で切り出した場合は、親会社が2億円の含み損を有する子会社株式を所有し、子会社は2億円の含み損の土地を所有することになる。

  …… 省略 ……