第1号 管財業務ニュース 平成5年9月1日  東京地方裁判所民事第20部発行

 破産管財業務における税務 


 破産管財人は,破産者の税務関係を処理するに当たり,財団債権となる公租公課の支払をなす一方で,税務申告を利用することにより破産財団の増殖を図ることができる場合もあることから,この点に留意して処理する必要がある。

第1 破産会社の税務申告

 1 破産会社の事業年度

 申告の前提として事業年度の把握が不可欠であるが,破産会社の事業年度は以下のとおりとなる。

  解散事業年度=事業年度開始の日〜破産宣告の日
  清算第1期事業年度=破産宣告の日の翌日〜事業年度の末日
  清算第N期事業年度=事業年度末日の翌日〜事業年度の末日
  清算確定事業年度=事業年度末日の翌日〜残余財産確定の日

 2 解散事業年度の税務申告

 会社が事業年度の途中で破産した場合,破産宣告を受けた日でその事業年度は終了したものとされ(法税14T),宣告日までを解散事業年度といい,破産宣告の日の翌日から2か月以内にその年度の所得をべ一スにした確定決算に基づいて納税申告書を税務署長に提出しなけれぱならない(法税74T)。なお,この期間内に提出できないような場合には期限の延長申請をすることができる。
 申告義務が破産管財人にあるかは疑義があるが,実務では,この申告をすることにより破産財団には次の利点があることから,破産管財人には申告をしてもらう場合が多い。

 (1) 預金利子等に対する源泉税の還付

 配当や預金利子等の所得について源泉徴収されている場合に,確定申告をすることによって課税所得が生じないことになるときは,源泉徴収税額が還付される(法税79)。個人の場合も同様である(所税139)。

 (2) 中間納付金の還付

 事業年度が6か月を超える法人は事業年度開始の日から6か月を経過した日から2か月以内に中間申告することとなっており(法税71),その申告にかかる法人税を中間納付している場合に,確定申告をすることによって課税所得が生じないことになるときは,中間納付額が還付される(法税80)。

 (3) 欠損金の繰戻し還付

 破産会社が青色申告法人の場合,次のようなときは,欠損金の繰戻し還付を請求することができる。欠損金の繰戻し還付の請求は申告期限内に確定申告をすると同時にしなけれぱならない(法税81V)。青色申告をしている個人の場合も同様である(所税140)。

  @ 宣告日の属する事業年度に欠損が生じている場合

 この場合には,前年度の確定申告に基づき納付した法人税のうち,この欠損金に相当する所得に対応する部分の税金の還付を受けることができる(法税81T)。もし前年度分の法人税を滞納しているときは,これによって納付の必要がなくなる。
 破産法人については,例外的な場合を除いて破産宣告日を期末とする事業年度の所得金額は欠損であるから,これらの還付を受けられる場合に該当するのが通常である。

  A 破産宣告の日前1年以内に終了した事業年度に欠損が生じている場合

 この場合,当該事業年度の日前1年以内に開始した事業年度の確定申告に基づき納付した法人税のうち,この欠損金に相当する所得に対応する部分の税金の還付を受けることができる(法税81W)。もしその年度分の法人税を滞納しているときは,これによって納付の必要がなくなる。

 (4) 確定申告の必要性

 以上の理由から,@前年度に法人税を納付あるいはそれを滞納しているとき,A解散事業年度に中間納付額(滞納も含む)や源泉徴収税額があるときは,忘れずに確定申告と還付謂求をされたい。申告書やその添付資料の作成のために必要があるときは,事前に裁判所の許可を得て税理土の補助を受けるのも一つの方法である。これを怠ると,多額の還付金を受けられなかったり,免れることができた法人税を財団債権として支払わなけれぱならないことになるので注意されたい。

 なお,還付等の利益が些少で手続に要する費用にも満たないと思われる場合には,裁判所に相談されたい。以下の場合も同様である。

 3 更正の請求

 単純な計算ミスや税法解釈の誤りで,間違って過大な申告を行った場合は,確定申告書の提出期限から1年以内に限って,税務署長に対し更正の請求をすることができる(税通23T)。個人の場合も同様である。

 4 仮装経理に基づく過大申告の減額更正

 通常の場合は,仮装経理による過大申告がなされている法人税について,減額の更正をした場合の過納法人税額は直ちに還付されることなく,その減額更正の日の属する事業年度後5年以内に開始する事業年度の各事業年度の所得に対する法人税額から順次控除されることとなっている(法税70)が,破産の場合には,その後の法人税から法人税額が発生する余地がないので,控除されていない残額は直ちに還付されることになっている(昭和46・9・27国税不服審判所裁決)。
 減額の更正を受ける対象は,仮装経理をした事業年度の申告期限から5年を経過するまでという期間制限があり,減額を受けるには,受けようとする事業年度の修正の経理をして,その決算に基づく確定申告書を提出する必要がある(法税129U)。

  注)仮装経理とは,架空売上,架空在庫の計上,仕入債務の過少計上といった事実に反する経理のことであり,貸倒損失を計上しなかったり,資産の評価益を上げてしまったりというのは税法解釈の誤りであり,粉飾経理には該当するが,仮装経理には該当しない。

 5 清算事業年度の税務申告

 清算各事業年度においては,清算中の所得に対し,解散していない法人と同一の方法で計算した所得金額の申告と予定納税が義務づけられており(法税102,105),破産会社の場合に予納申告が必要か否か争いがあったが,平成4年10月20日最高裁第三小法廷判決(判時1439・120)により,破産会社の破産管財人には,予納法人税が財団債権か否かを問わず,予納申告・納付義務があることで一応決着がついた。したがって破産管財人は清算各事業年度の予納法人税を申告・納付をしなければならなくなった。

 ただ,実際に破産管財人が納付する必要があるのは,予納法人税のうち,財団債権に該当する部分,土地重課税部分(最三判昭和62・4・21判時1236・43)だけであろうから,清算事業年度中に土地の処分のない破産事件については予納申告をする必要性に乏しいこととなるので,かような事件の場合には,事前に裁判所に相談願いたい。
 土地重課税制度は平成3年度改正により,短期譲渡に限らず通常譲渡の場合にも課税されるようになり,税率は土地保有期聞の長短により譲渡利益金額の10%から30%まで段階的となった(租税特別措置法62の3ないし63の2)。なお財団債権となる税金の課税標準額は,売買代金から別除権者に対する弁済金額を差し引いた残額を基準として算出された譲渡利益額である(前掲最三判昭62・4・21)。

 財団債権以外の予納法人税,予納事業税等の破産法上の取扱いについては,劣後的破産債権として扱うべきとの高裁の裁判例が最近出た(東京高判平4・3・19判タ803・87)ことに注意願いたい。

 6 清算確定事業年度の税務申告

 法人の破産の場合,特別の場合を除いて残余財産はないから,清算所得は発生しないのが通常であり,清算確定申告をして清算所得がないことが確定されると,預金利子等に対する源泉徴収税額が還付される(法税104TB,109,100T)。財団預金が多額であった場合には,かなりの金額が源泉徴収されているので,清算確定申告をして還付を受けるメリットが大きい。

 清算確定申告は,残余財産が確定した日の翌日から1か月以内にしなければならない(法税104T)。破産の場合には残余財産がないことの確定の日は財団財産全部の換価処分を完了した日と解されるから,その結果を収支報告書(還付が見込まれる預金利子等に対する源泉税を含まない。)を裁判所に提出した土で速やかに清算確定申告をする。

 なお,税務署によっては残余財産がないことが確定した日は破産終結決定時であるとの見解をとるところもあるが,そうするとその後に受ける還付金を追加配当しなければならなくなり合理的でない。国税局直税部法人税課も前記見解をとっている。

 7 消費税の税務申告

 消費税法上,会社は事業者となり,国内において行った課税資産の譲渡につき消費税を納める義務がある(消税2,4,5T)。
 破産会社は「事業として」の反復性と継続性を有しないとして,納税義務は生じないとの見解もあるが,破産の場合,法人税法第3章第2節清算の適用が認められるとする判例の流れからすると,消費税の申告,納付義務があると解さざるをえず,その場合の消費税は財団債権として扱われる。したがって破産管財人が,資産を売却する場合,外税にして転嫁しておく(もしそうしないと内税とみなされる。)ことが望ましい。

 なお,破産会社が小規模な会社である場合には,免税業者とされている場合があり,この場合には当然消費税を納税する義務はない(基準期間の課税売上高が3000万円未満の事業者については免税事業者とされている。消税9T)。
 個人の場合も,破産者が事業者である場合には同様である。

 8 破産管財人の源泉徴収義務(破産者が個人の場合も同様)

 (1) 管財事務としての給与,報酬の支払

 破産管財業務を遂行するため履行補助者を雇用した場合の賃金や給料の支払いおよび税理土の補助を受けた場合の報酬の支払については,破産管財人に源泉徴収義務がある(所税183,204)ことから,支払に際しては源泉徴収を忘れずに願いたい。

 (2) 給与,退職金の配当

 配当表に基づく配当は,給与,退職金の支払の性質を失い,所得税の源泉徴収義務を負わない。従来「源泉徴収するのが適当である。」としていたが,取扱いを改める。

 (3) 労働債権を和解で支払った場合

 管財人は執行機関として労働債権を支払うことになるから源泉徴収義務はない。

 9 交付要求に対する延滞金の減免等

 破産管財人としては,交付要求を受けるとほとんどの場合延滞金が付いているので,延滞税の減免申請をしてもらいたい。地方税の場合申請をすればかなり認めてくれるし,国税の場合でも減免してもらった事例がある。
 なお,破産管財人は,国税徴収法上執行機関であり(国徴2L),破産管財人が交付要求金額に相当する金額を確保した日の翌日から当該交付要求庁に交付するまでの間の延滞金は免除を受けることができる(税通63WL,同法施行令26の2@)ことから,この申請も合わせて願いたい。
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