取り壊しによる損失、立退料など

● 取り壊しによる損失、立退料、取り壊し費用

 参考  国税速報平成3年11月18日号 読者の相談コーナー

 アパートを所有しているが、老朽化が激しいので取り壊そうと思う。次のような目的で取り壊した場合の、取り壊しによる損失、立退料、取り壊し費用は、どのように扱われるか。


 1) 跡地に賃貸マンションを建築するために取り壊した場合。
 2) 跡地に自分の居宅を建築するために取り壊した場合。
 3) 跡地を更地で譲渡するために取り壊した場合。

● 取り壊しによる損失(資産損失)

 事業の用に供されている固定資産の取り壊し、除却、滅失、その他の事由により生じた損失は、資産の譲渡に関連して生じたものを除き、事業所得の金額、不動産所得の金額、山林所得の金額の必要経費に算入する(所得税法51条1項)。

 業務の用に供されている資産の損失の金額は、資産の譲渡に関連して生じたもの、または、所得税法72条1項(雑損控除)に規定するものを除き、その者の損失を生じた年の属する年分の不動産所得の金額、雑所得の金額を限度として必要経費に算入する(所得税法51条4項)。

 つまり、事業又は業務の用に供されている建物等の取り壊しによる損失は、その取り壊しがあったときに一時に償却したものとみなされるので、任意の取り壊しによるものも含め必要経費に算入される。

 ただし、土地を譲渡するための取り壊しであることが明らかな場合は、取り壊し等による損失は、譲渡所得についての譲渡費用とされる(所得税基本通達33−8)。この取り壊しは、土地等の価値を増加させるための行為であり、取り壊し等による損失の金額は、土地の譲渡による収入金額に対応するものであることから、その建物が業務用、非業務用(居住用)にかかわらず譲渡費用として取り扱われる。

 したがって、1)の敷地に賃貸マンションを建築するためや、2)の敷地に自宅を建てるための取り壊しによる損失は、不動産所得の必要経費に算入することができる。ただし、取り壊す貸し室の数が10室未満の場合は、建物の貸付を形式基準で判定すると業務規模になるので(所得税法26ー9)、必要経費に算入される金額は、その年の不動産所得の金額を限度とすることになる。3)の跡地を譲渡するための取り壊しによる損失は、譲渡所得についての譲渡費用として控除される。

● 立退料の取り扱い

 賃借人に対する立退料は、それが建物及び土地を譲渡するために支出するものである場合は、譲渡所得についての譲渡費用とされる(所得税基本通達33−7(2)。

 譲渡のためでないときは、立退料の性格は、過去の賃貸収入の修正と考えれれる余地があることから、不動産所得の必要経費に算入されることになる(所得税基本通達37−23)。

 したがって、1)の敷地に賃貸マンションを建築するためや、2)の敷地に自宅を建てるための立退料は、不動産所得の必要経費に算入することができる。3)の跡地を譲渡するための取り壊しによる損失は、譲渡所得についての譲渡費用として控除される。

 関根注:取り壊す貸し室の数が10室未満の場合でも、必要経費に算入される金額がその年の不動産所得の金額を限度とするとの制限はない。なぜなら、これは資産損失についての所得税法51条の制限であり、所得税法37条の制限ではないから。不動産所得にマイナスが生じれば、他の所得と通算することができるはず。

● 取り壊し費用の取り扱い

 所得税法51条1項、4項に規定する損失は、資産そのものについて生じた損失の金額をいう(所得税基本通達51−2)ので、資産損失が生じたことに伴い支出する取り壊し費用や除却費用などは、所得税法51条の規定に基づいて必要経費に算入されるのではなく、所得税法37条によって必要経費に算入される。

 ただし、土地を譲渡するための建物取り壊し費用は、譲渡所得についての譲渡費用になる(所得税基本通達33−7(2))。

 したがって、1)の敷地に賃貸マンションを建築するための取り壊し費用は、建て替えが通常の期間内に行われたものであれば、事業拡大のための支出して、不動産所得の必要経費に算入される。2)の敷地に自宅を建てるための取り壊し費用は、既に不動産所得を生ずべき業務を廃業した後の支出として、家事費として取り扱われる。3)の跡地を譲渡するための取り壊しによる損失は、譲渡所得についての譲渡費用として控除される。

 これらを一覧表にすると次の通りになる。


┌───────┬─────────────────────────┐
│取壊し資産  │   業務用資産(アパート、店舗等)       │
├───────┼────────┬────────┬───────┤
│取壊し目的  │ アパート建替 │ 居宅に建替え │ 譲渡のため │
├───────┼────────┼────────┼───────┤
│ 資産損失  │51条     │51条     │譲渡費用   │
│(償却費相当)│ 1項 事業規模│ 1項 事業規模│       │
│       │ 4項 業務規模│ 4項 業務規模│       │
├───────┼────────┼────────┼───────┤
│ 立退料   │37条     │37条     │譲渡費用   │
├───────┼────────┼────────┼───────┤
│ 取壊費用  │37条     │家事費用    │譲渡費用   │
└───────┴────────┴────────┴───────┘



事例集 所得税・消費税誤りやすい事例集(平成12年12月)
 東京国税局 課税第一部所得税課
【情報公開法第9条第1項による開示情報】

    所得税
     誤りやすい事例集
    消費税
    (平成12年12月)

       東 京 国 税 局
      課税第一部  所得税課


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      ┃所 得 税 編┃
      ┗━━━━━━━┛
5 各種所得金額の計算
 3 事業、不動産所得共通事項
  (10) 資産損失・立退料・取壊費用(原則的な取扱い)
 ┌──────┬───────┬──────────────┐
 |従来から所有|       | 左の場合における取扱い  |
 |している建物|取壊しの目的 ├────┬────┬────┤
 |の状況   |       |資産損失|立退料 |取壊費用|
 ├──────┼───────┼────┼────┼────┤
 |      |譲渡目的   |譲渡費用|譲渡費用|譲渡費用|
 |      ├───────┼────┼────┼────┤
 |      |建替後業務用資|必要経費|必要経費|必要経費|
 |業務用資産 |産として使用 |    |    |    |
 |      ├───────┼────┼────┼────┤
 |      |建替後非業務用|必要経費|必要経費|家事費 |
 |      |資産として使用|    |    |    |
 ├──────┼───────┼────┼────┼────┤
 |      |譲渡目的   |譲渡費用|    |譲渡費用|
 |      ├───────┼────┼────┼────┤
 |      |建替後業務用資|家事費 |    |家事費 |
 |非業務用資産|産として使用 |    |    |    |
 |      ├───────┼────┼────┼────┤
 |      |建替後非業務用|家事費 |    |家事費 |
 |      |資産として使用|    |    |    |
 └──────┴───────┴────┴────┴────┘