再建と倒産の選択基準を説明すれば

 民事再生法 …… 民事再生による再建には、《1》経常収支がプラスであることと、《2》最低でも6ヶ月分の資金繰りが可能であることが必要です。民事再生の場合は、担保権の実行を止めることができませんので、工場施設などを所有する場合は担保権者との協議が必要になります。具体的には、分割弁済を提案するか、あるいはスポンサーによる工場設備の買い取りです。民事再生の申立には裁判所への予納金(200万円から1000万円)と、同額程度の申立代理人への弁護士費用の支払いが必要です。しかし、民事再生を申し立て、最終的に再建できた会社は10%にも満たないのが現実です。

 会社更生法 …… 会社更生法ならば、抵当権の実行も止めることができます。しかし、租税債務について免除を受けることはできません(会社更生法168条3項)。会社更生法の場合は、経営者は追放され、管財人が会社の経営を肩代わりするのが原則です。会社更生法は重装備の再建手続ですので、少なくとも社員300名程度の規模の会社でないと採用できません。

 破産と私的整理 …… 破産と私的整理は同一の手続です。裁判所に申し立て、倒産整理を管財人に任せてしまう方法が破産であり、社長(又は弁護士)が自ら倒産処理を行うのが私的整理です。破産を申し立てる方が処理は簡単ですが、裁判所への予納金の準備と、破産申立の為の書類の作成について、弁護士への委任が必要です。

 さて、以上のような倒産処理は、どのような書籍にも説明がありますので、詳細は各々の専門書籍に譲るとして、次に説明するのは、裁判所を利用せず、商法と税法を意識した企業の生き残り戦略です。

 分割型分割 …… 営業の優良部門だけを分割型分割(兄弟会社の設立)してしまう方法です。しかし、会社分割は、「各会社の負担すべき債務の履行の見込あること」が要件(商法374条の2)になっていることと、債権者に対する催告手続が必要とされていますので、優良部門だけの分離には債権者からの異議が出てしまうはずです。さらに、租税債務については、「分割により営業を承継した法人は、当該分割をした法人の国税について、連帯納付の責めに任ずる」との連帯納付義務(国税通則法第9条の2)がありますので、優良部門を会社分割しても、租税債務から逃れることは出来ません。

 分社型分割 …… 営業の優良部門だけを分社型分割(子会社の設立)してしまう方法です。「各会社の負担すべき債務の履行の見込あること」との商法374条の2第3号の要件はありますが、「分割に因りて設立する会社が分割を為す会社に対し分割に際して発行する株式の総数の割当を為す場合」には債権者に対する催告手続は不要(商法374条の4第1項但書)で、また、国税通則法9条の2の連帯納付義務も適用になりません。なぜなら、分社型分割は、会社分割によって社外に流出するのと同額の出資金が分割会社の資産に計上されるからです。

 営業譲渡 …… 優良部門だけを営業譲渡してしまう方法もあります。ただし、この場合に注意すべきは、強制執行妨害罪(刑法96条の2)であり、詐害行為取消権(民法424条)であり、国税の第二次納税義務(国税徴収法38条)です。

 国税通則法38条は、「納税者がその親族その他納税者と特殊な関係のある個人又は同族会社……に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみられる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合……は、その譲受人は、譲受財産を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う」としているからです。

 この場合の納税義務の限度になる「譲受財産」は、資産(積極財産)の合計額であり、資産から負債を差し引いた純資産ではありません。

 別会社の設立 …… 事業は静かに廃業し、得意先を懇意な別会社に引き取ってもらう方法です。裁判所の手も借りず、また、会社分割や営業譲渡などの複雑な手法を採用せず、単に、廃業と別会社の設立との手順を採用する方法です。この場合に注意すべきは、売掛金、その他の資産について、一切、新会社には移転しないことです。これを移転した場合は、強制執行妨害罪(刑法96条の2)、詐害行為取消権(民法424条)、国税の第二次納税義務(国税徴収法38条)などが問題になってしまうからです。そして、新会社は旧社と同様の商号を利用しないことも重要です(商法26条)。

 そして、最後にウルトラCの倒産対策として……。生臭くなりますので、説明は省略しますが、倒産処理で必要なのは、傷口を広げず、再建の余力を残して決断を行うことです。その為には、余力を残した段階で専門家に相談することです。専門家なら、法律知識だけではなく、第三者としての冷静さと、経験から学習した大量の判断基準を提供することができます。

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