◆ 借方と貸方を理解してしまおう


 〜〜 会社法を理解するためには簿記の理屈の理解が必要です。〜〜
 〜〜 そこで学生に1時間で説明した簿記入門を紹介してみます。〜〜


 関根 まず、簿記の基本編から始めてみます。基本編では、借方と貸方の意味を理解する必要があります。各々の業界には共通言語がありますが、簿記で、借方と貸方の意味を理解せずに、左側、右側と言っていたら、何時になっても一人前にはなれません。

 さて、借方は左側で、貸方は右側です。


      借方         貸方
   ──────────┬──────────
   貸付金 100万円 │ 借入金 100万円
             │


 ここで、皆さんが悩んでしまうのは、借方に貸付金が入り、貸方に借入金が入ることです。これは逆ではないかと混乱するのです。

 太郎 言い方が逆ですね。借方に貸付金ですから。

 関根 なぜ、言い方が逆になるかというと、借方というのは、「借りてくれているお方」の意味なのです。

 太郎 なるほど。

 関根 貸方は「貸してくれているお方」です。簿記というのはイタリアで始まり、最初は貸金業者が始めたのです。つまり、カネを借りてくれる方と、カネを貸してくれる方の各々について、取引残高を管理するための人名勘定だったのです。


      借方         貸方
   ───────────┬──────────
   山田さん 100万円 │
   佐藤さん 200万円 │


 借りてくれているお方は山田さんで、100万円を借りてくれているのです。
 佐藤さんも200万円を借りてくれています。
 この二人の人名が借方に記帳されます。なぜなら、借りてくれているお方だからです。

 でも、融資をするためには資金が必要です。自分の手持ち資金だけを貸しているのなら、貸し金業者は気楽な商売ですが、それほどの手持ちの資金はありません。そこで他人から資金を借りてくることになります。それが貸してくれているお方で、貸方です。


      借りてくれているお方     貸してくれているお方
   ───────────┬──────────
   山田さん 100万円 │三菱さん 100万円
   佐藤さん 200万円 │


 三菱さんから100万円を借りてきました。そして、山田さんと、佐藤さんに融資を実行しているのです。簿記は、最初は、このような人名勘定から始まったのです。

 ですから、借方には貸付金が入って、貸方に借入金が入るというのは人名勘定で考えれば当たり前の話です。人名勘定をひとまとめにして、借りているお方を貸付金、貸してくれているお方を借入金として整理しました。


      借方         貸方
    ──────────┬──────────
    貸付金 300万円 │ 借入金 100万円
              │


 太郎 なるほど。

 関根 これで借方と貸方を間違えることはないですね。

 太郎 絶対、ないです。

 関根 山田さんや、佐藤さんというのは、まとめれば貸付金です。そして、三菱さんは借入金とまとめられるわけです。

 ◆ 複式簿記を理解してしまおう


 他人からは資金を借り入てない場合なら、借方の記帳だけで、融資金を管理することができます。貸方には何も記入する必要はありません。三菱さんや、住友さんからの借金がなければ、単に、人名勘定として、借方に山田さんと佐藤さんへの融資額を記帳しておけばよいわけです。これは単純な出し入れだけの記録です。

 ここで複式簿記の理屈を考えた人が立派なのです。山田さんや、佐藤さんに貸した資金はどこから出てきたのか、その理屈を考えてみてください。

 商売を始めるときは、まず、自己資金として200万円を準備し、現金200万円を確保します。これを簿記で管理するのです。


      借方         貸方
   ──────────┬──────────
   現金  200万円 │ 元入金  200万円


 でも、200万円だけでは足りないので、三菱さんから100万円を借り、手持ちの現金を300万円にしたのです。


      借方         貸方
   ──────────┬──────────
   現金  300万円 │ 三菱さん 100万円
             │ 元入金  200万円


 現金は借方に記載されます。
 そして、三菱さんは、貸してくれているお方ですから、貸方に記帳されます。
 そして、現金を山田さんと、佐藤さんに貸し付けたのです。


      借方         貸方
   ──────────┬──────────
   貸付金 300万円 │ 借入金  100万円
             │ 自己資金 200万円


 常に、借方と貸方は一致します。これが複式簿記です。
 つまり、借方は資金の使途であり、また、実在資産です。
 貸方は、資金の出所です。
 そして、借方と貸方は常に一致するのです。

 そして、資金の出し手というのは見えません。抽象的な存在です。
 でも、借方というのは実在性があるのです。現金なら札束として見えますし、山田さんに対する融資金なら貸付証書として見ることができます。

 ◆ 仕訳の理屈を理解してしまおう


 仕訳を集計した結果が貸借対照表です。借方が実在資産であり、貸方が出所の説明です。出所は他人資本の場合もあり、自己資本の場合もあるのが複式簿記です。


  ┌────────┬────────┐
  │        │        │
  │  資産    │ 他人資本   │
  │   300万円│  100万円 │
  │        ├────────┤
  │        │        │
  │        │ 自己資本   │
  │        │  200万円 │
  │        │        │
  │        │        │
  └────────┴────────┘


 そこで記帳の技術が登場します。いま現金300万円を、山田さんと佐藤さんに貸しました。この取引には記帳の技術があります。借方に山田さんに100万円と書いたら、貸方に現金100万円と書くのです。


 山田さん 100万円 / 現金 100万円


 つまり、借方の現金をマイナスするのではなく、反対側に書くのです。簿記ではマイナスは使いません。もし、マイナスを使えるのなら次のような仕訳になります。


 山田さん 100万円 /
 現 金 ▲100万円 /


 簿記ではマイナスは使いませんから、反対側に書くことによって、数字を減らすのです。


      借方         貸方
   ───────────┬──────────
   現金   300万円 │ 三菱さん 100万円
              │ 元入金  200万円
   山田さん 100万円 │ 現 金  100万円


 つまり、現金は相殺され、次のようになります。


      借方         貸方
   ───────────┬──────────
   現金   200万円 │ 三菱さん 100万円
   山田さん 100万円 │ 元入金  200万円


 複式簿記というのは、結果としては、借方が実在資産で、貸方が資金の出所の表示なのです。従って、理屈の問題として、借方と貸方のバランスが取れるようになっているのです。

 実在資産が100万円なら、その資金の拠出側は100万円です。
 実在資産が300万円なら、資金の拠出側は300万円になります。
 右左が、ちょうどバランスが取れるという技術を利用したのが複式簿記です。

 ◆ 経費と収益の概念を理解しよう


 山田さんに100万円を融資したのなら、現金を100万円だけ減らさなければならない。それが次の仕訳です。


 山田さん 100万円 / 現金 100万円


 現金をマイナス100万円として、借方に書いても結果は同じです。でも、簿記ではマイナスは使いません。たぶん、簿記が発明された頃には、マイナスの概念は存在しなかったのだと思います。ですから、次のような仕訳は使わないのです。


 山田さん 100万円 /
 現 金 ▲100万円 /


 いままでの説明では、経費は発生せず、収益も発生しませんでした。しかし、三菱さんから融資を受け、山田さんにカネを貸しているのですから、支払利息と、受取利息が発生します。従業員に対しても給料を支払う必要もあります。

 そこで、まず、経費を説明してみます。三菱銀行に利息10万円を支払った。
 どういう仕訳になりますか。

 太郎 利息を支払うから……。

 花子 現金がマイナスのときはマイナスは使わないで左側になる。

 関根 仕訳のコツは、まず、分かるほうを最初に特定するのです。そうすると、利息10万円を支払ったのですから、現金が減りますね。つまり、借方のマイナスですが、しかし、マイナスは使わない。だから、貸方に10万円を計上することになります。


    ???  10万円 / 現 金  10万円


 では、借方は何になるでしょう。必ず相手科目があります。何しろ、複式簿記ですから。
 そして、簿記では、利息の支払いには支払利息という科目を使います。

 どのような科目を使うのかは、簿記についての共通言語として、慣れとして記憶していただく必要があります。理解してしまえば当たり前のネーミングですから、決算書などを見ているうちに覚えてしまいます。


    支払利息 10万円 / 現 金  10万円


 どちらかが分かれば、仕訳は簡単です。だんだん慣れてくれば分かるようになります。

 では、次に、山田さんから20万円の利息が入ってきたとしましょう。これはどういう仕訳になりますか。

 太郎 現金が入るから ……。

 関根 借方に現金になるでしょう。


    現  金 20万円 / 受取利息 20万円


 貸方には受取利息という科目を使います。

 これらの取引を、全て、まとめると次のようになります。


      借方         貸方
   ──────────┬──────────
   貸付金 300万円 │ 借入金  100万円
             │ 自己資金 200万円

   支払利息 10万円 / 現 金   10万円
   現 金  20万円 / 受取利息  20万円


 太郎 現金が20万円だけ増えるのだから、それを合わせて書くと、借方が現金20万円で、その反面として貸方に受取利息20万円が記帳されるのですね。


  ┌─────────┬─────────┐
  │         │         │
  │  資産     │ 他人資本    │
  │   300万円 │  100万円  │
  │         ├─────────┤
  │         │         │
  │         │  自己資本   │
  │         │  200万円  │
  │         │         │
  │         │         │
  ├─────────┼─────────┤
  │ 現金 10万円 │         │
  ├─────────┤受取利息 20万円│
  │支払利息 10万円│         │
  └─────────┴─────────┘


 関根 そうです。そして、現金20万円の増加は自己資本の増加なのです。なぜなら、20万円の収入があり、誰が儲けるかと言ったら、それは事業主でしょう。事業主が20万円だけ儲かるのでしょう。

 ですから、受取利息や、支払利息は、自己資本の増減を示すものなのです。実在資産でも、資金の出所の記録でもなく、事業主の儲けの記録なのです。そこで、実在資産の部分と、増減の記録の部分を次のように切り離します。


  ┌─────────┬─────────┐
  │         │         │
  │  資産     │  他人資本   │
  │   300万円 │  100万円  │
  │         ├─────────┤
  │         │         │
  │         │  自己資本   │
  │         │  200万円  │
  │         │         │
  │         │         │
  ├─────────┼─────────┘
  │ 現金 10万円 │利益   10万円
  └─────────┘
            ┌─────────┐
   利益   10万円│         │
  ┌─────────┤受取利息 20万円│
  │支払利息 10万円│         │
  └─────────┴─────────┘


 上の枠が貸借対照表で、下の枠が損益計算書です。

 簿記の技術で、借方と貸方は常に一致します。一致するけれど、その内容は異なるのです。そして、最後に自己資本分が増えるわけです。

 つまり、初めは、借方と貸方の合計はイコールでした。事業を継続している間に、資産と負債が増えたり減ったりしました。その理由は利息の支払いだったり、利息の受け取りだったりするわけです。上記の図で示せば、その増加の結果が10万円です。

 太郎 それが剰余金ですか。

 関根 そうです。200万円が株主拠出金で、10万円が留保利益であり、剰余金です。これが翌期には元入金として始まります。つまり、元入金210万円から翌期はスタートするのです。


  ┌─────────┬─────────┐
  │         │         │
  │  資産     │  他人資本   │
  │   310万円 │  100万円  │
  │         ├─────────┤
  │         │         │
  │         │  自己資本   │
  │         │  200万円  │
  │         │         │
  │         │         │
  │         │  留保利益   │
  │         │   10万円  │
  └─────────┴─────────┘

 ◆ 仕訳は理解できたでしょうか


 さて、どこまで理解したか、次のような取引で考えてみて下さい。

 銀行から5000万円の借金をして、200万円の利息を差し引いた残額から、別の借金について1200万円を返済した。その残りから800万円を定期預金にして、最終残金を当座預金にした。

 これを弁護士が理解しようとしたら、どうやって理解します。この言葉どおり、取引の流れとして理解しなければならないのではないですか。でも、仕訳が分かっていれば簡単です。

 太郎 まず借方に現金5000万円が入るでしょう。貸方に借入金が5000万円でしょう。利息200万円を差し引くから、現金200万円が貸方に計上されて。


   現 金  5000万円 / 借入金  5000万円
   支払利息  200万円 / 現金    200万円


 花子 現金は貸方かな。

 太郎 現金が減るのだから、貸方に現金200万円と入れるわけですね。

 花子 減るほうが貸方にというか……。

 太郎 貸方の現金に対して、借方に支払利息の200万円を計上するわけでしょう。

 花子 貸方に借金があるのだから、現金は200万円が減少するのですね。

 太郎 まず、借方に現金5000万円と書いて、貸方に借入金として5000万円と書くでしょう。

 その後に、現金200万円の利息を差し引くのだから、その分、現金が減り、貸方に現金200万円が計上されるわけでしょう。そうしたら、それと合わせて利息の200を借方に書くことになりますね。

 花子 両方が一致しなければいけないから、両方に200万円ですね。

 太郎 返済分については、貸方の現金が1200万円だけ減るのだから、貸方に現金1200万円と書いて、減る理由は返済金だから借方に1200万円。


   ????  1200万円 / 現 金  1200万円


 花子 交互に金額を書いていくのですね。

 関根 そうですね。交互の金額を書いていく。簿記なんて、それだけの技術なんです。最初にわかる言葉をどんどん書いて行けばよいわけです。借入金5000万円で、それに利息を支払ったというのは現金が出ているのだから、現金が貸方で、支払利息は借方になる。

 次に、残額から1200万円の借金を返済すると、借入金が減る。そして、800万円を定期預金にしたのだから800万円の現金が減る。差額が当座預金に残るわけですね。

 花子 返済金ではなくて、借入金の減少ですね。

 関根 そうですね。

 花子 これも借入金で、これも借入金になる。


   借入金  1200万円 / 現 金  1200万円


 関根 借入金という箱と考えると分かりやすいかな。箱から減らすわけです。
 借入金を減らさずに、弁済と書いたら、借入金の5000万円が残ったうえに、弁済が1200万円だけ増えてしまう。でも、借入金を減らすのだから、ここでは借入金と書くことになります。

 定期預金をしたのだから800万円の定期預金の増加。定期預金は資産だから、要するに貸付金と同じ。そして残りが当座預金になる。当座預金も、銀行に対する貸し金と同じ。

   定期預金  800万円 / 現 金 800万円

 花子 貸借対照表をつくるときに、両方とも借入金になってしまうのを、どうやって勘定を合わせるんですか。


   現 金  5000万円 / 借入金  5000万円
   支払利息  200万円 / 現 金   200万円
   借入金  1200万円 / 現 金  1200万円
   定期預金  800万円 / 現 金   800万円


 関根 同じ科目は相殺されるから、結果として現金2800万円が残り、借入金が相殺されて、借入金は3800万円が増えると答えが出てくるわけです。

 そして、支払利息は200万円で、定期預金は800万円です。現金の残りは当座預金になるのです。

 複式簿記で考えれば、流れ図として提供される実際の取引が、借方と貸方に分類され、貸借対照表科目と損益計算書科目とに区分されることによって、取引の内容が目で見て分かるように整理されるわけです。つまり、電卓を入れなくてもミスチェックができるほどシンプルに整理されるわけです。


   当座預金 2800万円 / 借入金 3800万円
   定期預金  800万円
   支払利息  200万円


 貸借対照表に残るの当座預金、定期預金、それに負債側に借入金です。
 そして、損益計算書に計上されるのが支払利息の200万円です。

 貸借対照表の中で現金が動いている限りは損得なしです。
 三菱さんから借りたのを、住友さんに返しても、損得はなしでしょう。

 でも、損益計算書に数字が書き込まれれば、それが損得になるわけです。それはだれが負担するのかというと事業主が負担することになるのです。それが留保利益であり、損失と言うことです。収入があれば自己資本が増えるし、経費を支出すれば自己資本が減るという単純な構造です。

 ◆ 期間損益計算を理解しよう


 関根 事業年度と損益計算の理屈を説明します。会社の収支は、本来は会社の一生をもって計算するのが正しい計算です。設立時の拠出金が200万円で、解散時に残った財産が500万円であれば、その差額の300万円が会社の利益です。

 しかし、会社の解散時まで利益の計算が出来ないのでは、株主に配当をすることができず、法人税を課税することもできません。そこで、人為的に事業年度を区切り、事業年度ごとに利益計算をすることにしています。

 その為に必要なのが、減価償却、繰延資産、それに引当金の理論です。
 たとえば、事務所用の建物を4000万円で購入したとします。その仕訳を考えてみてください。
 借方が建物ですね。建物は見える資産で、実在資産ですから。
 貸方は現金の支出でしょう。

 花子 貸方に4000万円の現金ですね。

 関根 そうですね。現金のマイナスだから、貸方に現金4000万円ですね。では、借方は何か。これは建物でしょう。建物は実在資産ですから。


   建物 4000万円 / 現  金 4000万円


 でも、建物は、毎年、ぼろくなり、古くなって、最後には取り壊しが必要になります。つまり、実在資産としての4000万円の価値は、毎年、減少していくわけです。それが減価償却です。

 そして、事業年度計算という概念が登場します。たとえば、1月1日から12月31日までの1年、あるいは4月1日から3月31日までの1年と、1年ごとに区切るというのがルールなわけです。

 さて、建物を取得したときには、建物は最後には壊れるわけですから、建物として計上するだけではなくて、少しずつ経費で落としていかなければならない。それが減価償却です。

 減価償却を定義すれば費用配分です。建物の取得費を30年間にわたって費用配分する。減価償却は、損益計算書から見れば費用配分なのですが、貸借対照表から見れば資産の再評価なのです。30年でゼロになるとしたら、毎年、3%分を、実在資産からマイナスし、経費に割り振っていく必要があります。それを減価償却というわけです。

 さて、建物を4000万円で購入し、今年の減価償却が100万円だったら、どういう仕訳になりますか。

 花子 建物が減るのかな。

 関根 そう。建物は貸方側に書く。建物が減るのですから。

 花子 右側に。

 関根 そうです。貸方に書くわけです。建物は100万円だけ減るのだから。

 花子 建物は100万円と書くわけですね。

 関根 本当は減価償却引当金と書くのだけれども、建物は100万円だけ減ると考えれば良いわけです。そして、借方が減価償却費になります。それは先ほどの利息の支払いと同じです。


   減価償却費 100万円 / 建物 100万円


 太郎 そうですね。

 ◆ 減価償却の意味を理解してしまおう


 関根 減価償却は、費用配分であり、資産の再評価であり、さらには、自己金融なのです。自己金融というのは、100万円の経費に計上すれば、建物が減った分だけ、現金か何かで資産を残さなければならなくなるわけです。それが次に資産を買い換える資金になるわけです。10年が経過し、建物の価値がゼロになったとには、1000万円の現金が残るわけです。もちろん、その間、ずーと、100万円の欠損を計上していたのではダメですけど。

 仮に、その間、毎年300万円の収益を確保していれば、そこから減価償却費100万円を差し引いた残額の200万円が利益になり、これが株主に配当されます。でも、その方法なら、毎年、100万円の現金が残っていきます。つまり、建物が、結局は現金として残るから、次に建物が買えるわけです。

 5000万円の建物を減価償却せずに、300万円が儲かったら、儲かった、儲かったと喜んで、300万円を配当してしまったら、10年後に建物がなくなったときには何も買えくなってしまいます。

 たとえばアパート経営で、入ってきた家賃を生活費に使ってしまったら、アパートが朽ちたときに建て替えることができません。家賃が500万円の入金なら、そこから減価償却費の100万円を差し引いて、利益は400万円と計算し、400万円だけ生活費として使うようにしなければならないのです。

 ですから、減価償却費、費用配分であり、資産の再評価であり、自己金融なわけです。

 減価償却には、定額法と定率法があります。その他に、生産高比例法や、取り替え法というのもあります。でも、通常は、定額法と定率法です。

 定額法というのは5000万円を10年で償却するなら、毎年500万円ずつ経費に計上するという方法です。定率法というのは5000万円を10年間で経費に落とすのなら、毎年2割(仮に)を償却するという方法です。最初は5000万円に2割を乗じた1000万円が償却費です。翌年に、次には4000万円に2割を乗じた800万円です。次には3200万円に2割を乗じるわけですが、このように、乗じる率は同じですが、計算される償却額は低減していきます。


   取得価額 1000
   耐用年数  10年
   残存価額  10%
┌───┬────────┬────────┐
│   │ 定額法の場合 │定率法の場合  │
├───┼───┬────┼───┬────┤
│   │償却費│残存簿価│償却費│残存簿価│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 1年│ 90│ 910│206│ 794│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 2年│ 90│ 820│164│ 630│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 3年│ 90│ 730│130│ 501│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 4年│ 90│ 640│103│ 397│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 5年│ 90│ 550│ 82│ 316│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 6年│ 90│ 460│ 65│ 251│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 7年│ 90│ 370│ 52│ 199│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 8年│ 90│ 280│ 41│ 158│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│ 9年│ 90│ 190│ 33│ 125│
├───┼───┼────┼───┼────┤
│10年│ 90│ 100│ 26│ 100│
└───┴───┴────┴───┴────┘

 それで、何に違いが生じるかというと、思想の違いなわけです。つまり、固定資産を購入した場合は、最初は値下がり率が激しいだろう。だから、より大きな金額を償却しよう。だから、建物は最初の1年で2割も減額する。会計性の安全性(保守主義)から定率法を採用する。このような思想なのです。

 ◆ 繰延資産を理解してしまおう


 今度は繰延資産という概念です。

 太郎 逆になるわけですよね。

 関根 逆にはなりません。建物の減価償却費と同じです。たとえば、弁護士会のビル建築のために、弁護士が負担金を支出したとします。400万円の負担金です。この場合の仕訳を考えてみてください。

 花子 現金の支出ですから、借方がビル400万円で、貸方が現金400万円ですか。

 関根 そう、借方がビル400万円で、貸方が現金400万円でしょう。でも借方のビルは、俺の不動産ではないじゃないですか。だから、ビル、これは、簿記では建物というのだけども、建物400万円を計上するのは間違いになってしまうのです。

 何しろ、所有権を有せず、売却もできない。それが繰延勘定なのです。つまり、ビルを建築するための支出でも、本当は経費なのです。だから、本当なら、借方は経費になるはずなのですが。


 会費(経費) 400万円 / 現 金 400万円


 でも、弁護士会のために支出し、今後は弁護士が利用できる財産です。ですから、支出時の一時の経費にしてしまうのはおかしい。しかし、売却できないビルです。10年間は使用できる便宜があります。


 建設協力金(繰延資産) 400万円 / 現 金 400万円


 経費なのか、あるいは資産なのか分からないヌエみたいな存在です。これを繰延資産として資産計上を認めたわけです。同様の支出には、開発費、開業費、創立費などがあります。

 このヌエのような存在を繰延資産として計上し、その後、仮に、10年間で償却し、経費に落とすことにしたのです。


 繰延資産償却(費用) 40万円 / 建設協力金(資産) 40万円


 ですから、資産価値が全く認められず、恣意性の高い繰延資産については、純資産の計算には含めず、配当原資には廻せないことにしています。

 ◆ 引当金を理解してしまおう


 逆に、繰延資産というヌエのような存在が、今度は反対側にも登場してきます。例えば、退職給与引当金です。退職給与引当金は現時点での借金ではないですね。従業員が退職したときに、初めて発生する債務です。つまり、将来、実現する債務です。

 しかし、実現するのは確かなのだから、毎期、積み立てておかなければいけない。そこで、今期には経費100万円を計上し、その見返りに退職給与引当金という債務を計上しますが、本当の借金ではない。


  退職金繰入額(経費) 100万円 / 退職給与引当金 100万円

 ◆ 決算処理を理解してしまおう


 色々な取引をして、結果、1年が経過し、借方と貸方に多数の取引が記帳されます。


  ┌─────────┬─────────┐
  │         │         │
  │  資産     │  他人資本   │
  │         │         │
  │         ├─────────┤
  │         │         │
  │         │  自己資本   │
  │         │         │
  │         │         │
  │         │         │
  │         ├─────────┤
  │         │         │
  ├─────────┤ 収益      │
  │  費用     │         │
  └─────────┴─────────┘


 そして、決算をして、貸借対照表と損益計算書を作ります。


         貸借対照表
  ┌─────────┬─────────┐
  │         │         │
  │  資産     │  他人資本   │
  │         │         │
  │         ├─────────┤
  │         │         │
  │         │  自己資本   │
  │         │         │
  │         │         │
  │         │         │
  │         ├─────────┘
  │         │  利益
  └─────────┘

         損益計算書
            ┌─────────┐
     利益     │         │
  ┌─────────┤ 収益      │
  │ 費用      │         │
  └─────────┴─────────┘


 増加した利益について、利益処分案を作成し、株主総会で配当を決議します。
 仮に、100の儲けだが、30を配当すると決議するわけです。

 このように事業年度が終わり、貸借対照表が作成され、100の儲けから配当を支払い、法人税を納めた残りが、利益剰余金として自己資本の部に計上され、また、事業年度が開始する分けです。

 つまり、損益計算書は、自己資本の部の増減についての1年間の記録を集計した結果なのです。貸借対照表をB/Sといい、損益計算書をPLと現しますが、その関係は次のようになります。


 B/S ――――――――――― B/S ――――――――――― B/S
     ←―――PL――――→     ←―――PL――――→

 ◆ 利益処分案と株主持分等変動計算書を理解してしまおう


 自己資本は、損益計算書の結果によって増減しますが、さらに、利益処分によっても増減します。

 期末の貸借対照表から、利益処分案に従った配当を差し引いたのが、翌期末の貸借対照表になり、そこに、その年度の損益計算書の結果(利益と損失)が加減される分けです。

 つまり、損益計算書の結果によって貸借対照表が作られ、貸借対照表から利益処分案による配当などの支出を差し引いた結果が、また、貸借対照表になり、そこに再度、損益計算書の結果が加減され、また、貸借対照表が作られるとのリンクが成立します。

 つまり、貸借対照表に、損益計算書と、利益処分案を差し引きすると、翌期の貸借対照表が出てくるという関係になっていたわけです。

 ここについて会社法の改正が影響を与えます。会社法は、配当を1年間に一度に限らず、1年中、場合によっては365回の配当を可能にしました。だから、利益処分案では上記のリンクが作れません。そこで、株主等持分変動計算書という書式が、会社法では採用されることになったのです。

 1年間の資本の部の増減を株主資本等変動計算書で管理しましょうということになったわけです。つまり、損益計算書は1年間の資本の部の増減を管理するものだけれど、株主持分変動計算書は自己資本の部を管理するものとして二つのリンクによって翌期の貸借対照表ができるという関係になるわけです。

 商法の時代は、決算を行い、留保利益から配当をすれば、そこで、その事業年度の処理は終了でした。又、翌年度の損益計算書を作成し、その結論としての貸借対照表の資本の部が作られます。

 しかし、会社法では、臨時株主総会での配当決議が可能です。1年中、何度も、配当を支払うことが可能です。つまり、貸借対照表の資本の部が、1年中、変化し続けるわけです。

 その為に、今年の貸借対照表の資本の部と、来年の貸借対照表の資本の部を繋ぐのが、損益計算書だけでは繋げなくなってしまった。それで登場したのが株主資本等変動計算書なのです。


 B/S ―――――――――――― B/S ―――――――――――― B/S
     ←――――PL――――→     ←――――PL――――→
     ←株主資本等変動計算書→     ←株主資本等変動計算書→


 事業年度中に、資本の部から留保利益を配当することもできるわけです。

 ですから、貸借対照表の資本の部は、損益計算の結果としても変動しますが、事業年度中に支払った配当によっても変動するわけです。その為に、損益計算書と株主資本等変動計算書の両方でリンクしないと翌期の自己資本が出ないわけです。

 会社法では、損益計算書と、株主資本等変動計算書というものをリンクの輪として使用し、翌期の貸借対照表につなげるという関係になるわけです。

 ===== 訂正中 ======

◆損益計算書を分析すれば
  売上
  売上原価
  売上総利益
  販売費一般管理費
   営業収益
  営業外収益
  営業外費用
   経常利益
  特別損益
   税引き前利益
   納税充当金
   税引き後利益 …… 企業の目的
          …… 配当可能利益

◆貸借対照表を分析すれば
  株主拠出金と内部留保の区別の重要性
  商法の時代の区別
  会社法の時代の区別
  税法の区別 …… 解散を前提にすれば

◆減資と配当という概念を分析すれば
  減資 …… 株主拠出金の払い戻し(株主にとっては利益ではない)
  配当 …… 内部留保の払い戻し(株主にとって利益)
  自己株式の買い取り

 応用編 ―――――――――――

◆税効果会計による税引き後利益の緻密化
  計上年度の違いを調整
  繰越欠損金の節税効果の認識
◆時価主義会計
  費用配分する資産と投資資産の区別
◆減損会計
  費用配分する資産についての時価主義の導入
◆企業結合会計
  パーチェス法とプーリング法
  暖簾(営業権)という概念