◆ 7回の商法の改正と税法

  
 商法は最近の数年間で7回も改正されています。商法が改正になれば、当然、税法も改正されます。さらに、法制審議会の会社法部会からは、「会社法制の現代化に関する要綱試案」が発表されて、商法の会社法部分と有限会社法の抜本的な改正が2年後には成立する予定になっています。

 現代化要綱試案では、商法第2編の会社法部分と、有限会社法、商法特例法等の各規定を一つの法典にまとめることにして、株式会社と有限会社の垣根を取り除き、最低資本金も300万円、あるいはゼロに引き下げ、取締役と監査役の関係などを大幅に自由化するなど多数の改正が予定されています。

 では、商法は、現代化要綱試案に基づく改正が成立した2年後にまとめて勉強すればよいのかというと、それは違います。改正の経過を知らなければ、新しい条文の位置付けが出来ません。各々の条文には、その条文が制定された歴史的な位置付けがあるからです。したがって、過去7回の改正の経過を理解することは、今後に改正される商法を理解するためにも必要なことなのです。

 そして、商法の改正に合わせて税法も改正されています。実務の処理で重要なのは、商法の改正ではなく、それに合わせた税法の改正であることは説明するまでもありません。商法としていかに有効な手段であっても、その処理を税法が認めない限りは誰も実行しません。

 たとえば、商法上の会社分割は、税法上は適格分割と非適格分割に分かれますが、実務では、経営戦略的な目的がある場合を除き、非適格分割が行われることはありません。では、適格とは何か、非適格とは何か、それを理解する為には税法の思想を理解することが必要です。そして税法の思想を理解するためにも、商法と税法の改正の歴史を理解する必要があるのです。
  

◆ 第1回改正(株式交換と時価主義 平成 年 月 日施行)

  
  

◇ 商法の改正

  
 ▲改正の要旨▲
 1 株式交換による完全親会社の創設
 2 株式移転による完全親会社の設立
 3 資産の評価について時価主義の採用
  

《×》株式交換と株式移転の意味

  
 株式交換と株式移転との2つの制度が導入されました。しかし、株式交換と株式移転は、実際には名前の異なる一つの制度です。株式交換は既存の会社を完全親会社とする方法で、株式移転は新しく完全親会社をつくるという手続上の差にすぎません。なお、完全親会社というのは、他の会社の発行済株式の全てを所有する会社で、この場合の子会社を完全子会社といいます。
旧条文新条文

 新設 

 商法352条(株式交換の意義、効果)
 会社は其の一方が他方の発行済株式の総数を有する会社(以下之を完全親会社と、他方を完全子会社と称す)となる為株式交換を為すことを得
 2 株式交換に因りて完全子会社となる会社の株主の有する其の会社の株式は次条第2項第6号の日に於て株式交換に因りて完全親会社となる会社に移転し、其の完全子会社となる会社の株主は其の完全親会社となる会社が株式交換に際して発行する新株の割当を受くることに因り其の日に於て其の会社の株主となる

 商法364条(株式移転の意義、効果)
 会社は完全親会社を設立する為株式移転を為すことを得
 2 株式移転に因りて完全子会社となる会社の株主の有する其の会社の株式は株式移転に因りて設立する完全親会社に移転し、其の完全子会社となる会社の株主は其の完全親会社が株式移転に際して発行する株式の割当を受くることに因り其の完全親会社の株主となる


 ソニー株式会社が株式会社ソニーコンピュータエンターテインメントを完全子会社にするための手法が株式交換です。ソニーが完全親会社になり、ソニーコンピュータエンターテインメントが完全子会社になるわけです。

 一方、株式移転は、新しく完全親会社をつくる方法です。つまり、日本興業銀行、第一勧業銀行、富士銀行が、みずほホールディングスを設立する方法です。両方とも、完全親子会社関係が作られるという意味では同じ制度です。
  

《×》株式交換と株式移転の功罪

  
 株式交換と株式移転は、実務では有効に活用され、みずほホールディングスなどを筆頭に、この方法による組織の再編成の事例が数多く存在します。しかし、その悪用事例も目立ちます。

 その先駆けになったのが日本興業銀行の取締役に対する株主代表訴訟(東京地裁平成13年3月29日判決、判例時報1748号171頁)で、事案は次のとおりです。

 日本興業銀行の株主が株主代表訴訟を起こしました。違法な融資などを理由とする取締役に対する損害賠償請求訴訟ですが、この訴訟の係属中に、日本興業銀行は株式移転を行うことになりました。その結果、日本興業銀行の株主(原告)は、同社の株主の地位を失い、みずほホールディングスの株主になってしまったわけです。

 このような事案について裁判所は次のように判決し、原告の請求を却下しました。

 「株主とは、文理上は被告である取締役が属する会社の株主であると解されるところ、この点につき株式移転によって原告が株主たる資格を喪失した場合に株主代表訴訟の当事者適格が維持される旨定めた特別の規定はなく、また、法律の文理に反して原告の当事者適格の維持を認めると解釈すべき特段の理由もない」。

 おそらく、日本興業銀行には悪意はなかったのだと思いますが、次の大和銀行事件は制度の悪用ではないかと疑いたくなる事案です。

 大和銀行は、ニューヨークで多額の投資活動を行い、多額の損失を計上しました。担当者一人に取り引きを任せっきりにしたために発生した損失ですが、このことについて取締役の善管注意義務を問う株主代表訴訟が起こされました。そして、大阪地裁平成12年9月20日判決(判例時報1721号3頁)は、大和銀行の取締役等に対して総額で7億7500万ドル(830億円)の支払いを命じました。

 損害賠償の根拠の一つは、昭和59年から平成7年にかけて財務省証券の無断取引等を行い、約11億ドルの損失を生じさせたことについて、取締役等に対して善管注意義務違反等を理由とする損害賠償の請求です。もう一つは、大和銀行が米国での刑事訴追について有罪答弁をし、罰金3億4000万ドルと弁護士報酬1000万ドルを支払わざるを得なくなったのは、代表取締役らが米国の法令を遵守しなかったことが理由だとする罰金等相当額の損害賠償請求です。

 このような訴訟について、7億7500万ドル(830億円)と、いままでには予想できなかった巨額の損害賠償金の支払いを命じる判決が言い渡されました。

 被告らは控訴し、争いは大阪高裁に移行したのですが、その後の新聞報道(平成13年12月11日日経新聞朝刊)によれば、取締役が連帯して総額2億5000万円を銀行に支払うことで和解が成立したということです。判決の認容額は7億7500万ドル(830億円)ですが、和解金として支払われたのはたったの2億5000万円です。

 なぜこのような低額の和解が成立したのかというと、平成13年12月11日に行われた株式移転による持株会社の設立が理由になっていると想像できます。つまり、大和銀行が新たに設立される大和銀行ホールディングスの完全子会社になることで、日本興業銀行について紹介した判例と同様に、株主の起こした株主代表訴訟は却下されることが予想されたからです。

 しかし、当事者の考えていることまではわかりません。ここでは、株式交換の必要性が先行し、株主代表訴訟についての和解は、その結果にすぎなかったのだと考えておくことにしましょう。
  

《×》持株会社という新たな存在

  
 株式交換と株式移転の制度ができたことで、株主は、株主代表訴訟を提起することができないとの矛盾が生じてしまいました。株式移転によって、今までの日本興業銀行の株主だった投資家は、みずほホールディングスの株主になり、同社が日本興業銀行の株式の全てを所有することになります。みずほホールディングスの株主は、日本興業銀行の取締役の責任や報酬、さらには配当額の決定などについて直接の管理ができなくなってしまったのです。

 さらに、税法上は、受取配当金の処理が問題になります。事業を行う持株会社もありますが、大部分の持株会社は事業は行わず、子会社からの配当だけを収入とすることになります。そして、子会社から受け取る配当金は非課税になります(法人税法23条)。つまり、100億円の受取配当を受け取っても、その配当は法人税の課税対象にはならないのです。

 しかし、持株会社でも経費は支出します。従業員を雇用し、賃料も支払い、銀行から融資を受けて増資に応じれば利息負担をするかもしれません。そのような経費が発生しますが、課税所得が存在しないのに、税務上の経費が発生することになってしまうのです。

 これは税務上は不利益な結果になります。もちろん、損益計算書は黒字です。100億円の受取配当が入金し、仮に、10億円の経費を支出した場合でしたら、損益計算書に計上される利益は90億円です。これを持株会社の株主に配当することになります。

 しかし、受取配当金が非課税なので税務上の収入はゼロです。そして10億円の経費を支出した場合なら、税務上の計算では欠損金10億円の会社になってしまいます。この問題は、その後の連結納税制度の導入で解決されることになりました。
  

《×》時価主義会計の導入

  
 市場性のある金銭債権(商法285条の4)、社債等(同法285条の5)、株式(同法285条の6)について、企業会計原則との整合性を確保するため、時価主義を採用することを可能にしました(商法285条の4第3項)。新しく会計学を学ぶ人達にとっては時価主義会計は当然かもしれませんが、取得原価主義の教育を受けてきた古い者たちにとっては、なぜ時価主義を採用する必要があったのか理解できませんでした。
旧条文新条文

 商法285条の4(金銭債権の評価)
 金銭債権に付てはその債権金額を附することを要す但し債権金額より低き代金にて買入れたるとき其の他相当の理由あるときは相当の減額を為すことを得
 2 金銭債権に付取立不能の虞あるときは取立つること能はざる見込額を控除することを要す

 商法285条の4(金銭債権の評価)
 金銭債権に付ては其の債権金額を付することを要す但し債権金額より高き代金にて買入れたるときは相当の増額を、債権金額より低き代金にて買入れたるとき其の他相当の理由あるときは相当の減額を為すことを得
 2 前項の場合に於て金銭債権に付取立不能の虞あるときは取立つること能はざる見込額を控除することを要す
 3 第1項の規定に拘らず市場価格ある金銭債権に付ては時価を付するものとすることを得


 従前は、すべて、取得原価主義でした。損益計算書も、貸借対照表も、全ては取得原価で作成されていたのです。したがって、工場を建築すれば、その建築費が貸借対照表に計上され、減価償却によって、建築費が耐用年数に応じて費用配分されるわけです。会計学の基本は取得原価主義だと思い込んでいましたら、いつの間にか、時価主義会計の時代になっていたのです。

 では、なぜ時価主義会計が導入されたのでしょうか。次のように考えれば理解しやすいように思います。つまり、会社が所有する工場設備と投資有価証券は、同じ財産であっても意味が異なるとの認識です。工場設備や原材料を仕入れた場合を例に考えてみます。

 例えば、100万円で商品を仕入れ、その商品を120万円で売却すれば20万円の利益が確保できます。100億円で工場を建築し、そこで商品を製造して販売し、工場への投資を回収しようとすれば、建築費である100億円を稼ぎ出せばよいわけです。

 つまり、取得原価である100億円が回収できるか否かが、減価償却の制度であり、取得原価主義会計の思想だったのです。このような考えのもとでは時価主義会計は登場しません。工場の建築や、商品の仕入などは、すべて経営者の管理下にあり、経営者の能力は、投下した資金を上回る資金を回収することによって評価されてきたわけです。

 ところが、会社が所有する有価証券は異なります。有価証券の価額は、経営者の管理下で実現するものではありません。所有する株式の価値は、その出資先(発行会社)がどれだけ利益を計上したかによって実現します。100億円の株式の価値は、所有者が管理できない発行会社の経営状況によって、120億円にも上昇し、また、80億円にも下落してしまうのです。取得原価には関係なく、発行会社が順調に利益を生むか否かで価値が変わってくるのが有価証券です。

 このように、投資用に所有する有価証券については、取得原価が幾らであるかとの情報よりも、いま現在の時価の方が有益な情報になります。そこで、市場性のある金銭債権、社債、株式については時価主義会計を採用することにしたのです。そして、会計原則との整合性を維持するために商法が改正されました。
  

◇ 税法の改正

  
  

《×》株式交換と株式移転

  
 商法に合わせて改正されたのが租税特別措置法です。税法には、国税通則法、国税徴収法、所得税法、法人税法、相続税法、消費税法という基本的な法律があり、それとは別に租税特別措置法があります。そして、所得税法などの基本法には、税法としての基本理念と原理原則があります。

 しかし、租税特別措置法は、国の政策を実現するための手段としての税法ですので、原理原則はありません。すべてが政策次第です。地価を下げようと思えば、土地の売買の税負担を重くし、輸出を増やそうと思えば輸出に関する税負担を軽くするとの政策税法です。その租税特別措置法の中に株式交換についての条文が書き加えられました。

 先ほどのみずほホールディングスと日本興業銀行の株式移転の例で説明しますと、日本興業銀行の株主は、同社の株式をみずほホールディングスに提供し、みずほホールディングスの株式を入手します。株主にとっては、これは株式の譲渡にあたります。

 譲渡というと売買を思い浮かべるのが一般ですが、譲渡と売買は同じではありません。例えば、債権譲渡という言葉がありますが、これは債権の売買だけには限られません。債権を移転する一切の行為を譲渡といいます。贈与、代物弁済、財産分与、競売など、所有権を移転する一切の行為が譲渡です。

 したがって、日本興業銀行の株主が同社の株式を提供するのも譲渡に該当しますので、株主に対しては譲渡所得課税が行われます。1株500円で購入していた株式が、その後の譲渡の時点では1株3000円に値上がりしていたとすれば、差額の2500円に譲渡所得課税が行われることになるわけです。しかし、株式交換と株式移転については、例外として、一定の要件を満たす場合には譲渡がなかったものとみなすことにしました。

 それが次の要件です。この要件を満たせば、譲渡はなかったとみなされ、帳簿価額の引き継ぎが認められるのです。

 1) 親会社が受け入れる子会社株式の価額が、株主が計上していた帳簿価額以下であること。ただし、株主が50人以上である場合は、子会社の純資産の帳簿価額以下であること。
 2) 株主が交付を受ける親会社株式以外の資産(金銭など)の価額が、交付を受ける株式など全ての資産の総額の5%未満であること。
旧条文新条文

 新設

 租税特別措置法67条の9(株式交換又は株式移転に係る課税の特例)
 特定子会社の株主である法人が、その有する特定子会社の株式につき株式交換等による移転があつた場合において、当該株式交換等により特定親会社から新株の割当てを受けたときは、当該株式交換等に係る交換時の直前における当該法人の当該特定子会社株式の帳簿価額を、その交換時における当該特定子会社株式の価額とみなして、当該法人の各事業年度の所得の金額を計算するものとする。
  1 当該新株の割当てに係る株式交換等による当該特定親会社の当該特定子会社株式の受入価額が当該法人の直前の旧株の簿価に相当する金額として政令で定める金額以下となつていること。
  2 イ及びロに掲げる金額の合計額のうちにイに掲げる金額の占める割合が100分の95以上であること。
   イ 当該特定子会社の株主が当該株式交換等により当該特定親会社から割当てを受けた新株のその交換時における価額の総額
   ロ 当該特定子会社の株主が当該株式交換等により当該特定親会社から交付を受けた金銭の額の総額及び当該特定親会社から交付を受けた資産のその交換時における価額の総額の合計額


 この文書だけではわかり難いので、みずほホールディングスと日本興業銀行を例にして説明すれば次の通りです。

 1番目は、株主から株式を引き取ったみずほホールディングスは、日本興業銀行の株式について、株主の帳簿価額を引き継ぐことが必要ということです。

 例えば、株主が日本興業銀行の株式を500円で購入し、現在の時価が3000円になっている場合でも、みずほホールディングスは、日本興業銀行の株式を500円で受け入れなければならないとの要件です。みずほホールディングスが500円で受け入れれば、日本興業銀行の株主に対する譲渡所得課税は行われません。

 しかし、このような処理は不可能です。日本興業銀行の株主は何千人といるはずです。その株主の一人ひとりの取得価額を調査することなどはできません。そこで株主が50名以上の場合は、株主の帳簿価額ではなく、日本興業銀行の純資産の帳簿価額(貸借対照表の資本の部の合計額)を採用することにしました。

 日本興業銀行は貸借対照表を作成していますが、その資産から負債を引いた簿価純資産が2000億円だとすれば、みずほホールディングスが有価証券として計上する価額は2000億円だということです。そのような要件を守れば、日本興業銀行の株主に対する譲渡所得課税は行われません。

 ただし、株主が50名未満の会社については、持株会社が出資金の帳簿価額として引き継ぐのは、各々の株主の帳簿価額であり、上記の例でいえば500円ということです。

 その結果、株主は持株会社の株式を1株500円で取得したことになり、持株会社も既存会社の株式を1株500円で取得したことになります。将来、その株式を3000円で売却することがあれば、その段階で2500円の含み益が実現したことになります。つまり、売却時点まで、含み益への課税を繰り延べるとの理屈です。

 2番目は、株主が交付を受ける資産の総額の95%以上がみずほホールディングの株式であるとの条件です。5%を超える金銭等の支払いを受けた場合は帳簿価額の引き継ぎが認められず、株主は株式を時価で譲渡したとみなされてしまいます。株式以外の資産の交付を受けた場合は、その段階で、株式の譲渡によって含み益が実現したと考えるからです。

 なぜ、5%というアローワンスを設けたかというと、株価の調整を現金の支払いで行う必要があるため、5%までなら金銭の支払いを認める必要があるからです。

 この2つの要件を満たせば、譲渡所得課税を行わないというのが株式交換と株式移転についての課税関係です。

 以上のことが租税特別措置法67の9(株式交換又は株式移転に係る課税の特例)として定められています。ここでは株式交換と株式移転を区別していません。なぜなら、株式交換と株式移転は名前の異なる一つの制度だからです。
  

◇ 中小企業に与える影響

  
 合併を行うための準備としての株式交換と株式移転があります。それと連結納税の準備としての株式交換と株式移転です。つまり、100%子会社をつくるための株式交換と株式移転の利用です。

 では、なぜ100%子会社をつくる必要があるかという点は、第2回目の商法改正の項で明らかにしていきます。

 株式交換と株式移転の制度が導入された段階では、合併等についての税法は改正されていませんでしたし、連結納税制度もありませんでした。

 ですから、株式交換と株式移転は、まさに日本興業銀行などが持株会社を設立し、組織再編成を行う場合の特例であって、中小企業には関係がなかったのです。

 しかし、その後の商法と税法の改正で、組織再編成税制や連結納税制度が導入され、そのことによって、株式交換と株式移転が中小企業でも利用できる手法として再認識されることになりました。
  

◆ 第2回改正(会社分割 平成13年4月1日施行)

  

◇ 商法の改正

  
 ▲改正の要旨▲
  1 新設分割の創設
  2 吸収分割の創設
  

《×》会社分割は四つの制度

  
 新設分割と吸収分割という制度が創設されました。新設分割と吸収分割との二つの制度は、株式交換と株式移転が名前の異なる一つの制度だったのとは逆に、会社分割という名前の四つの制度です。

 《1》分割型(人的)分割で、新設分割
 《2》分割型分割で、吸収分割
 《3》分社型(物的)分割で、新設分割
 《4》分社型分割で、吸収分割

 まず、《1》の分割型分割で新設分割ですが、これが本当の意味の会社分割です。商法には会社を2つに分割する制度が存在しないため不自由でしたがが、それは分割型分割が認められたことで解消されました。一つの会社を2つに分割するとの意味で、分割型分割が、まさに、会社分割といわれるに相応しい手法です。

 分割型分割によって設立する会社の株式は、全てが、分割する会社の株主に割り当てられます。分割する会社の株主は、従前から所有していた株式に加えて、分割によって設立した会社の株式を手に入れることになります。つまり、会社を分割し、兄弟会社を作る手法が分割型分割です。
旧条文新条文

 新設

 商法373条(新設分割の意義)
 会社は其の営業の全部又は一部を設立する会社に承継せしむる為新設分割を為すことを得


 次が《2》の分割型分割で吸収分割です。これは一部、または全部合併と同じです。2つの会社が登場し、一方の会社の営業の一部、あるいは全部を他方の会社に吸収合併させるとの手法です。営業の一部を吸収分割したのなら一部合併であり、全てを吸収分割したのなら、それは通常の合併と同じことです。
旧条文新条文

 新設

 商法374条の16(吸収分割の意義)
 会社は其の一方の営業の全部又は一部を他方に承継せしむる為吸収分割を為すことを得


 その次が《3》の分社型分割で新設分割です。これは現物出資による子会社の設立と同じです。分社型分割によって設立する会社の株式は、全て、分割する会社に割り当てられます。分割型分割と分社型分割は、両方とも会社分割なのですが、意味合いはまったく異なります。

 最後が《4》の分社型分割で吸収分割ですが、これは現物出資による既存の子会社に対する増資払込と同じことです。

 分割型分割か分社型分割か、新設分割か吸収分割か、この組合せで四つの制度が作られることになりますが、さらに、これを変形した手法も可能とされています。

 その一つが非按分型の分割型分割です。通常の分割型分割の場合は、新設会社が発行する株式は、株主の持株数に応じて平等に割り当てられますが、これを不平等に割り当てるのが非按分型分割です。AとBの二人の株主が出資する合弁会社について、新設する会社の株式をBにのみ割り当てるとの方法で、合弁関係を解消する際などの利用が予想されています。

 次が、分割型分割と分社型分割を併用する方法です。新設会社が発行する株式の一部を株主に割り当て、残りを分割する会社に割り当てる方法です。つまり、《1》と《3》又は《2》と《4》を併用した分割方法です。
  

《×》会社分割の諸要件

  
 会社分割による営業の承継は、特定承継ではなく、合併と同様の包括承継ですから、雇用関係を含む会社の契約関係は新設会社(又は承継会社)に当然に移転します。しかし、契約当事者に与える影響が大きいことから、雇用関係については「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」が準備され、債権者に対しては債権者保護手続(商法374条の4)を行うこととされています。

 ただし、分割する会社に全ての株式を割り当てる分社型新設分割の場合は、分割する会社に残していく債務について債権者保護手続は不要とされています。なぜなら、分割によって流出する純資産と同額の出資金が分割する会社に計上されることになり、債権者を害することがないからです。この場合も、新設会社に移転してしまう債務については債権者保護手続が必要とされていますが、これは重畳的な債務引受(分割する会社も債務を負担する)にすることによって省略することが可能です。
旧条文新条文

 新設

 商法374条の4(債権者に対する公告、催告)
 会社は第374条第1項の承認の決議の日より二週間内に其の債権者に対し分割に異議あらば一定の期間内に之を述ぶべき旨を官報を以て公告し且知れたる債権者には各別に之を催告することを要す但し分割に因りて設立する会社が分割を為す会社に対し分割に際して発行する株式の総数の割当を為す場合に於て分割後も分割を為す会社に対し其の債権の弁済の請求を為すことを得る債権者に付ては此の限に在らず


 会社分割は、「営業の全部又は一部」を移転する制度ですから、単なる資産の移転では要件を満たしません。しかし、「営業」の概念は不明確であり、総務(人事・経理・庶務)部門の会社分割も認められるとの解説(旬刊商事法務1616号36頁)もあります。

 また、会社分割の場合は、各会社が負担する債務の履行可能性が必要とされ、その履行可能性を記載した書面を会社に備え置くことが要求されています(商法374条の2第1項第3号)。分割後の一方の会社が債務超過になってしまう場合などは問題になりますが、債務免除が予定されている場合などは、履行可能性についての要件も満たされると解説されています。

 分割型新設分割の場合は、新設会社に移転する純資産額だけ、分割会社の純資産額が減少します。この減少部分に見合う金額について、分割会社の資本金、資本準備金、あるいは利益準備金等を減額する必要がありますが、どの部分から減額するかは分割計画書に記載するところによります(商法374条第2項第6号)。その場合は、合併の場合と同様に、新設会社は利益準備金やその他の利益剰余金を承継することが認められています(商法288条の2第2項第3項)。
  

◇ 税法の改正

  
  

《×》組織再編成税制の新設

  
 分割型分割と分社型分割、それに新設分割と吸収分割で四つの組合せができますが、この四つのどれに該当するかによって税務の取り扱いが異なってきます。

 《1》分割型分割で、新設分割 …… 本来の意味での分割
 《2》分割型分割で、吸収分割 …… 営業の一部合併、または全部合併
 《3》分社型分割で、新設分割 …… 現物出資による子会社の設立
 《4》分社型分割で、吸収分割 …… 現物出資による営業承継会社の増資

 商法が会社分割の制度を導入したのを受け、新しい制度が税法に導入されました。それが組織再編成税制です。

 組織再編成税制は、分割だけではなく、合併、現物出資、事後設立までも包括した組織再編成に関する税法として位置付けられます。合併などについて、それまでの取り扱いとはまったく異なる理念が導入され、条文も全面的に入れ替えになりました。

 組織再編成税制では、持分比率100%要件、50%要件、あるいは持分比率とは無関係な共同事業要件が導入され、その要件を満たさなければ、すべての資産を時価により譲渡したとみなされます。

 たとえば、会社を分割して新会社を設立する場合は、既存会社は営業の一部を新設会社に移転しますが、税法上の適格要件を満たさない場合は、営業と共に新設会社に移転する資産は、全て、税法上は時価で譲渡されたとみなされます。

 したがって、仮に工場部門を分割して移転した場合なら、その工場の土地建物と、その中に存在する機械装置の全てを、その時点での時価で売却したとみなされるわけです。そして、売却の対価として新設会社の株式を手に入れたとみなされます。

 分社型分割で、子会社を設立した場合なら、ここまでの課税関係で終了しますが、分割型分割の場合は、さらに、株主に対する配当所得課税が行われます。

 なぜなら、売却の対価として手に入れた新設会社の株式を、次に、株主に交付したとみなされるからです。非適格の分割型分割の場合は、利益積立金の引き継ぎが認められず、資本積立金として引き継がれますので、みなし配当所得としての課税が行われてしまうとの理屈です。

 そして、株主が受け取ったのが、新設会社からの株式だけではなく、現金、その他の資産がある場合は、株主に対しては、受け取った現金などを対価として株式を譲渡したものとみなしての譲渡所得課税が行われることになります。

 非適格の場合は、このような二重、三重の課税が行われますが、100%要件、50%要件、共同事業要件を満たしていれば、適格要件を整えた組織再編成として、資産は帳簿価額で引き継がれ、利益積立金もそのまま新会社に引き継がれることになりますので、既存会社にも、その株主にも、何の課税も行われません。

 さて、組織再編成の適格要件とは何なのでしょうか。それは次のような二つのグループに分けて考えることになります。

 《1》100%要件と50%要件を備えた企業支配関係要件グループと、《2》共同事業要件グループという二つのグループです。ここで、理解を深めるために合併の例を紹介してみます。会社分割と合併、現物出資、事後設立には同様の組織再編成税制が適用されるからです。
  

《×》合併を例にした組織再編成税制

  
 組織再編成税制を、合併を例にして検討してみましょう。まず、適格合併になるか否かが問題です。適格合併の要件を整えていればよいのですが、その要件に欠け、非適格合併になってしまった場合は、被合併会社から合併会社への資産の移転は時価による譲渡とみなされてしまいます。

 つまり、被合併会社が、帳簿価額1億円で、時価が10億円の土地を所有していれば、それを合併会社に10億円で譲渡したものとみなしての法人税課税が行われるわけです。

 さらに、非適格の場合は、被合併会社の利益積立金の引き継ぎが認められず、全てが資本積立金として受け入れられますので、含み益(帳簿価額と時価に差がある資産)、あるいは利益積立金を持つ会社が被合併会社になる場合は、株主に対して配当所得課税が行われてしまいます。

 つまり、非適格合併の場合は、次のような2つの処理がなされたとみなしての譲渡益課税と、配当所得課税の2つの課税が行われてしまうことになるのです(法人税法62条)。

 このことを、仮に時価が8億で簿価6億の資産を所有し、負債はゼロの会社(非合併会社)を想定して、非適格合併の場合の課税関係を説明してみます。
  


       貸借対照表
  ───────┬───────
  資産  6億円│負債    0円
         │資本金  3億円
         │資本積立金2億円
         │利益積立金1億円
  


 第1ステップ …… 被合併法人は所有する資産を時価8億円で合併法人に譲渡し、売却益2億円を計上すると共に、譲渡の対価として合併法人からの新株式を取得する。
  


 ◆被合併法人の仕訳
  株 式  8億円 / 資 産  6億円
           / 売却益  2億円

 ◆合併法人の仕訳
  資 産  8億円 / 資本金  3億円
           / 資本積立金5億円
  


 第2ステップ …… 被合併法人は、取得した新株式(時価8億円)を、自社(被合併法人)の株主に残余財産として分配する。その結果、被合併法人の株主は、1)払込資本5億円の払い戻しと、2)留保利益3億円の配分を受けることになり、2)について配当所得課税を受ける。
  


 <被合併法人の仕訳
  資本金  3億円 / 株 式  8億円
  資本積立金2億円
  利益積立金3億円

 ◆被合併法人の株主の仕訳
  新株式  8億円 / 旧株式  5億円
           / 配当収入 3億円
  


 仮に、被合併法人の株主に対し、合併法人の株式の他に、現金、その他の資産が配分された場合は、上記の処理に追加し、残余財産の分配金(配当以外の部分)を受けたものとみなして、有価証券の譲渡益課税が行われることになってしまいます。
  

《×》適格合併の場合の適格要件

  
 適格合併の要件を整えていれば、譲渡益課税も、配当所得課税も行われません。資産は税法上の帳簿価額で合併会社に引き継がれ、利益積立金も、そのまま合併会社に引き継がれます。

 そこで、適格合併になるための要件ですが、これは次の三つのいずれかに該当し、かつ、被合併法人の株主に合併法人の株式以外の資産が交付されないものとされています。

 第1の場合 …… 100%の持分関係にある会社の合併

 合併法人と被合併法人のいずれか一方が他方の発行済株式の100%を所有している場合、あるいは同一の株主によって両社の100%の株式が所有されており、その株式の全てが継続して所有されることが見込まれている場合(法人税法施行令4条の2第1項)です。

 株主が個人の場合は、同一の株主には、同族関係にある親族と同族関係にある会社の持分を合計します(法人税法施行令4条)。
  


 ┌─────┐     ┌─────┐
 │合併法人 │     │ 株 主 │
 └─────┘     └─────┘
  ↓……100%所有   ↓   ↓……100%所有
 ┌─────┐  ┌─────┐┌─────┐
 │被合併法人│  │合併法人 ││被合併法人│
 └─────┘  └─────┘└─────┘
  


 特定の株主xがA社とB社の株式を100%所有する場合でしたら、A社とB社を合併するのは適格合併です。

 ところが、10名の株主で合計してA社とB社の株式を所有している場合は適格合併にはなりません。1人の株主が100%の株式を所有するのではなく、各々の株主は10%の株式しか持っていないのです。それでは100%支配との要件を満たしません。

 しかし、10名の株主が存在する場合も、株式交換の制度を利用し、組織再編成についての適格要件を整えることが可能です。10名の株主がA社とB社の株式を所有している場合は、A社とB社は合併できません。特定の株主xが100%の株式を所有しているとの関係がないからです。

 そこで株式移転をするわけです。株主10名は、所有する株式を全て新しく設立した持株会社に譲渡して、持株会社の株式を10%ずつもらいます。あるいは株式交換です。株主10名は所有するB社の株式を全てA社に譲渡し、A社の株式を受け取ります。そうすれば、A社がB社の株式100%を所有するとの関係が出来上がります。

 その後、A社とB社を合併させれば適格合併になるのです。

 なお、合併後に株式を売却する予定がある場合は適格合併になりません。その株式の全てが継続して所有されることが見込まれている場合との要件が存在するからです。

 第2の場合 …… 50%超の持分関係にある会社の合併

 合併法人と被合併法人とのいずれか一方が他方の発行済株式の100分の50を超える株式を所有している場合、あるいは同一の株主によって両社の100分の50を超える株式が所有されており、その株式の全てが継続して所有されることが見込まれている場合のいずれかで、かつ、次に掲げる要件のすべてを充足する場合(法人税法施行令4条の2第2項)です。

 1)被合併法人の従業者のうち、その総数のおおむね100分の80以上に相当する数の者が合併法人の業務に従事することが見込まれていること。
 2)被合併法人の主要な事業が合併法人において引き続き営まれることが見込まれていること。

 つまり、特定の株主xが、100%の株式ではなくても、52%の株式を所有している場合です。48%は他の株主が所有していてもかまいません。

 そのような関係にあるA社とB社を合併させる場合には、第1の要件は満たせません。しかし、52%は所有しているので第2の要件は満たせるのです。

 その代わり、A社とB社を合併するときは、従業員の80%は存続会社に引き継がれなければならないのです。合併と同時にリストラしてはいけません。それが第一の要件です。

 そして、二つめの要件として、合併をしたら、被合併会社の業務を継続して営まなければならないのです。つまり、店舗として所有する不動産を取得するのが目的の合併で、A社を吸収合併した後にA社の事業は廃止してしまうとの合併は、適格要件を満たさない合併になってしまうのです。

 第3の場合 …… 共同で事業を営むための合併

 持株関係にはないが、その合併に係る被合併法人と合併法人とが共同で事業を営むための合併として第2の場合の1)と2)の要件に加え、次の要件を備えている場合(法人税法施行令4条の2第3項)です。

 1)被合併法人から引き継ぐ事業と、合併法人の事業が相互に関連すること。
 2)被合併法人から引き継ぐ事業と、合併法人の事業の規模が5倍以内であるか、被合併法人の常務クラス以上の役員を引き継ぐかのいずれかの要件を満たすこと。
 3)合併法人から交付を受けた株式について、それを継続して保有することが見込まれる株主の持株数が80%以上であること(被合併法人の株主数が50人を超える場合は要件とされない)。

 これは多数の株主が存在する上場会社を念頭に置いた要件です。上場会社では、100%要件、あるいは50%要件を満たすことは不可能です。そこで導入されたのが事業の関連性という要件です。

 しかし、あまりの大手企業が零細企業と合併するのは、買収と評価されて非適格になります。それが、事業の規模が5倍以内との2)の要件です。

 さらに、80%の株主が継続して株式を所有するとの要件を定めてしまったら、上場会社の合併は不可能です。大手銀行には数千人の株主がいると思いますが、その中の80%以上の株主が株式を持ち続けるということはあり得ません。

 そこで、被合併法人の株主が50人を超える場合は、3)の80%の継続保有との要件を外したのです。つまり、上場している会社の合併の場合は、合併後の株式の売買は自由に認められるのです。

 以上のとおり、組織再編成税制における適格要件は、《1》100%要件と50%要件を備えた企業支配関係要件グループと、《2》共同事業要件グループの二つに分けることができるのです。
  

《×》適格要件を整えた合併の課税関係

  
 適格合併の要件を整えていれば、譲渡所得課税も配当所得課税も行われません。資産は帳簿価額で合併会社に引き継がれ、利益積立金もそのまま合併会社に引き継がれることになります。

 帳簿価額1億円で、時価10億円の土地を所有する会社の合併でしたら、合併法人にも帳簿価額1億円として引き継がれます。資本構成が、資本金3億円、資本積立金2億円、利益積立金1億円だとすれば、すべて、そのまま引き継がれるのです。利益積立金が資本積立金に組み入れられることはありませんので、配当取得課税も行われません。

 ここまで説明してきたことで明らかなように、会社分割が商法によって認められても、税法上の適格要件が整えられない場合は、会社分割、あるいは合併、現物出資を実行することは困難だということです。適格合併の要件を整えていない組織再編成を実行すると、会社には法人税が課税され、株主には所得税が課税されるということになってしまうのです。
  

《×》会社分割の種類

  
 合併の例を検討しましたので、次に会社分割について検討してみます。

 商法が認める会社分割は、分割型分割と分社型分割の二つで、この二つにはそれぞれ新設分割と吸収分割の方法がありますので、組合せは四つになります。

 さらには、分割型分割と分社型分割を同時に行う方法も認められていますし、分割型分割については非按分型(株主に株主を不平等に割り当てる)も認められています。

 分割型分割と分社型分割を同時に行う方法というのは、A社が分割してB社を設立する場合に、B社の株式の50%はA社の株主に割り当て、残りの50%はA社に割り当てるなどといった方法です。これは分割型分割であると同時に、分社型分割にもなります。

 非按分型分割というのは次のような処理です。兄Aと弟Bが会社を経営しているが、兄Aと弟Bは仲が悪い。そこで会社を分割し、兄Aと弟Bの会社を作りたい。通常の会社分割だと、新しい会社を作っても、二つの会社の株主は兄Aと弟Bになってしまう。

 そこで、新しい会社の株式は全て弟Bに割り当てることにする。旧社の株主は兄Aと弟Bが所有しますが、弟Bの株式は資本減少の手続などによって消却してしまう。そうすれば、旧社は兄Aが経営し、新社は弟Bが経営することができます。このような会社分割も商法上は認められています。しかし、税法上は認められていません。非按分型の会社分割は非適格になってしまうのです。
  

《×》会社分割の適格要件

  
 会社分割は、合併と同様に、異質な二つの類型に区分して考える必要があります。《1》一つが同一グループ内で行う会社分割であり、《2》他方は共同事業を行うために資本関係のない会社間で行われる会社分割です。

 そして、各々について適格要件が定められ、これを満たせば適格分割として課税関係は生じませんが、満たさない場合は、分割による資産の移転について譲渡益課税が行われ、株主に対する株式の割り当てについては配当所得課税が行われてしまいます。

 では、同一グループ内の会社分割とは何なのか。これを簡単に言ってしまえば、特定の株主xの立場で考えて、分割後の会社が100%、あるいは50%超の持株関係になる場合の会社分割で、次のような類型が想定されています。
  

《×》同一グループ内の会社分割

  
 1)分割型新設分割…… 兄弟会社を作る方法です。新設法人の株式の割り当てを受けるのは分割法人の株主です。グループ内の組織再編成として行われます。
  


   ┌────┐      ┌────┐
   │ 株主x│      │ 株主x│ …… 100%関係
   └────┘      └────┘     又は50%超の持株
     ↓     →    ↓  ↓
 ┌───────┐ ┌─────┐┌─────┐
 │  法人a  │ │分割法人a││新設法人b│
 └───────┘ └─────┘└─────┘
  


 2)分社型新設分割…… 子会社を作る方法です。新設法人の株式の割り当てを受けるのは分割法人自身です。これは「現物出資による会社の設立」と同様の結果を生じさせる手法です。これもグループ内の組織再編成として行われます。
  


 ┌───────┐ ┌───────┐
 │  法人x  │ │ 分割法人x │ …… 当然に100%
 └───────┘ └───────┘     の持株関係
          →    ↓
            ┌─────┐
            │新設法人b│
            └─────┘
  


 これらは特定の株主xが存在する場合に可能な手法ですので、上場企業のように多数の株主が存在する場合は、1)の分割型新設分割は行えません。上場会社が行えるのは、2)の分社型新設分割と、次の共同事業を行うための会社分割に限られます。
  

《×》共同事業を行うための会社分割

  
 共同事業を行うための会社分割には持株関係は登場しません。多数の株主が存在する会社が分割し、あるいは一方の会社の営業部門を他方の会社が吸収するとの方法で行われる会社分割です。これについては、合併の場合と同様に、相互の事業の関連性があり、相互の事業の規模が5倍以内であることなどの要件が要求され、次のような類型が想定されます。

 ただし、これら類型も、特定の株主xの立場で、100%、あるいは50%超の持株関係にあれば、グループ内の組織再編成にも該当することになります。

 1)分割型吸収分割…… 分割部分は既存の会社に吸収されます。その意味では、「一部合併」と同様の結果を生じさせる処理です。
  


 ┌──────────┐┌────┐ ┌─────┐┌───────────┐
 │法人a  営業の一部││ 法人b│→│分割法人a││営業の一部+承継法人b│
 └──────────┘└────┘ └─────┘└───────────┘
  


 2)分社型吸収分割…… 次の類型も、分割部分は既存の会社に吸収されます。その意味では「既存の会社に対する現物出資」による増資と同様の処理です。
  


 ┌─────┐┌─────┐   ┌─────┐
 │ 法人a ││ 法人b │ → │分割法人a│
 └─────┘└─────┘   └─────┘
                   ↓
                  ┌──────────┐
                  │承継財産+承継法人b│
                  └──────────┘
  


 このように、同じ会社分割との言葉でも、上記のような異質な二つの類型に区分して考える必要があるのが税法の適格要件です。
  

《×》適格現物出資


 合併と会社分割に併せて、現物出資と事後設立についても適格要件が定められました。現物出資と事後設立は、経済的な効果が分社型分割と同じだからです。

 従前の特定現物出資の制度は、《1》新たに法人を設立するための現物出資であり、《2》持分割合が95%以上で、《3》持分割合が95%未満になることが見込まれていないとの三つの要件を満たすことが必要でした。

 組織再編成税制では、特定現物出資の制度を廃止し、適格現物出資の制度に整理しました。適格現物出資は、新たに法人を設立する場合だけでなく、既存の法人に対して現物出資による増資を行う場合にも適用されます。また、合併や会社分割は国内にある会社に限られますが、現物出資の場合は外国法人に対して行うことも可能です。

 適格事後設立が認められる要件は、適格分割の場合の要件とほぼ同様です。

 なお、適格現物出資が認めたられたことによって、資産を譲渡し、譲渡損を計上するとの節税スキームが否認されてしまう場合があります。後に説明するデット・エクイティ・スワップですが、これが適格現物出資の要件を整えている場合には、資産(債権)は簿価で承継されることになりますので、債権の譲渡損益は認識されないことになってしまいます。
  

《×》適格事後設立


 事後設立も、その経済的効果は現物出資、あるいは会社分割と同じです。そこで、一定の要件を満たした事後設立は、適格事後設立として、資産の譲渡損益の繰り延べが認められることになります。

 事後設立は、会社分割や現物出資の場合と異なり、私法上の取引は「売買」ですので、代金が支払われることと、その代価が時価になるとの特徴があります。つまり、一度は譲渡損益が認識され、それが子会社株式の帳簿価額の修正損として計上されることになるわけです。そして、子会社は、購入した資産等の帳簿価額を譲渡資産の簿価まで修正することになります。

 適格事後設立が認められる要件は次のとおりです。

 《1》資産等の譲渡が子会社の設立時に予定され、かつ設立後6月以内に行われること。
 《2》資産等の譲渡の対価が子会社の設立時の払込金銭の額とおおむね同額であること。
 《3》事後設立法人が子会社の全株を保有していること。
 《4》事後設立法人が子会社の全株を継続して保有する見込みがあること。
  

《×》適格要件の思想

  
 組織再編成税制についての説明は以上のとおりですが、これだけの説明で組織再編成税制を理解することは困難です。組織再編成税制の基本的な思想についての説明がありません。

 なぜ、100%の支配関係があれば適格になり、50%要件の場合は従業員の80%を引き継がなければ適格にならないのかという基本思想の説明が必要です。単純に要件を記憶することも可能ですが、税法も法律である以上は、その根底に存在する基本思想を理解しておく必要があります。

 では、基本思想とは何か。これについては「別冊商事法務252 企業組織と租税法」の中で、経団連担当者阿部泰久氏が立法過程を語っています。

 「当初は、私どもも、商法の会社分割制度の創設だけに対応した税制ができればよいということで、租税特別措置的なものを考えておりました。つまり、株式交換・移転の税制は、租税特別措置法によって手当てされているので、『会社分割制度に対応した必要最小限の部分を考えていけばよい』との意見が強かったのです」。

 つまり、法人税法、所得税法に手をつけず、政策立法である租税特別措置法で手当てすればよいと考えていたわけです。

 「しかし、主税局の方は、この機会に組織再編成税制全体を見直したい、との意向でした。理由は二つあります。一つは、分割というものは、既存の合併や現物出資などの制度と経済的な効果は同じであるということです」。

 「そこで、主税局から最初に出てきた提案は、このいわゆる時価以下主義を放棄して、原則時価主義に変えたいということでありました」。

 「国際的な潮流としては、もろもろの結合を取得と見る、すなわちパーチェス法で見るというものでした。それは、企業が結合した時点で、時価による資産の移転が行われたものとみなして譲渡損益を認識する、というものです。一部例外的にプーリングもあるかもしれないが、基本的にはパーチェスだということでした」。

 これには経済界はビックリしてしまったそうです。つまり、合併しても、分割しても、すべてを時価で売却したものとみなすということです。会社には含み益があります。大多数の上場会社は大昔に取得した土地を所有しています。帳簿価額は1億円で、今は10億円に値上がりしているという土地ですが、合併しても、分割しても、これを10億円で売却したとみなされてしまうのでは、分割も合併もできません。

 そこで主税局と交渉すると、「原則は時価主義ということで考えたいのだが、一定の要件というか、経済的な合理性が説明できるものについては、資産の簿価による移転を認めたい」とのこと。そこで、経済的合理性についての要件を考えようということになったそうです。

 「主税局は、当然100%はオーケーと言っております」。なぜなら、株主の投資活動の継続であり、事業に対する支配の継続だからです。

 しかし、100%だけでは困るので、「われわれは、『企業グループの実態を、もっと広く見て下さい』との主張をしまして、『ではどうしますか』という議論がしばらく続きました。こちらの言い値は、25%でした」。

 「しかし『それでは広すぎる』とされて、『ではどうすればよいのか』と、いろいろな数字が途中で飛び交いました(笑)。残念だったのは、主税局の側から一瞬『80%でどうか』という提案があったのに対して、これを受け入れなかったことです」。

 「結局どうすればよいかということになり、税法によりどころを求めるのはやめて、『商法に乗っかってしまえ』となり、50%超という基準になりました」。ここで50%要件というのが導入されたわけです。

 しかし、グループ内の組織再編成だけでは上場会社の合併がフォローできません。三井銀行と住友銀行の合併はダメになってしまいます。三井銀行の株式を100%所有する人はいませんし、住友銀行の株式を50%所有する人もいません。三井銀行と住友銀行が合併したら、株主の投資価値の継続とはいえなくなってしまうわけです。

 そこで「考え出されたのが、『共同で事業を行うために再編成をする』ことは適格と認めるということです」。

 しかし、「余りにも規模が大きく違う者同士が行う共同事業は、やはり、大きい方が小さい方を取得しているのではないか」との議論になり、「売上金額・従業員数・資本金等が、大体1対5以内ということ」に決まったそうです。

 つまり、同等規模の住友銀行と三井銀行が合併するのなら、それは合併といえるけれども、新日本製鐵が、隣にある小さな鉄工所を吸収合併したときは、合併ではなく、工場の買い取りとみなされるのです。

 しかし、大手銀行が小さな地方銀行を吸収して救済するときには、5倍の要件を超えてしまいます。その場合は不適格になるというのなら救済合併はできません。そこで役員引き継ぎ要件を取り入れたそうです。しかし、これは形式的なもので、一期だけの継続就任でok。「途中で死んでしまえば、それで終わりということ」だそうです。

 このような説明を聞くと、まさに理屈も何もないのがわかります。新日鐵が隣の鉄工所を吸収合併するときも、隣の鉄工所の社長を新日鐵の取締役にすれば、共同事業要件を満たすことになってしまうわけです。

 「この要件から大きく外れてしまったものが、単独で行う新設型の分割です。上場会社が事業部門を二つに分け、新設会社の株式を旧会社の株主に交付するような場合は、グループ内再編でもなければ共同でもありません」。したがって、上場している大会社の分割型分割は、いまの税制では不可能です。

 さらに、「共同で事業を行う者の投資価値というものは継続しなければいけないのではないかが問題となり、株式の継続保有というものが大きな議論になりました」。これについては、「株主が50人以上である場合についてはフォローし切れないが、そうでない50人未満のところについては、きちんと継続要件をかけるということになった」そうです。

 50名という基準は株式交換でも登場します。中小企業では、株主は50名未満のものが大多数ですから、その人たちは株式を継続して持っていなければいけないのです。でも、上場会社が合併するときは株主は何万人もいるわけですから、株式を継続して持っていてもらわなくてもよいとの理屈です。
  

《×》失われた基本理念

  
 所得税法や法人税法には基本理念がありました。民法や刑法にも基本理念があります。同じように税法にも基本理念がありました。ただ、租税特別措置法には基本理念はありません。租税特別措置法は国の政策を実現するための税法ですので、ときとして土地の売却益に対する課税を軽減し、あるいは重課するとのご都合主義が採用されています。

 しかし、組織再編成税制によって、法人税法も基本理念を失ってしまいました。財界と主税局とのネゴによって、100%、あるいは80%、50%という要件を決めたからです。

 同時に、商法も基本理念を失ったように思います。商法の基本理念は株主平等であり、債権者保護だったと思います。しかし、今の商法には株主平等も、債権者保護という基本理念もありません。では今の商法の基本理念は何か。たぶん、自己責任と、そのための情報開示ということではないかと思います。何をやってもかまわないが、その代わり情報を開示しなさいということです。

 では、税法の基本理念は何でしょうか。今までの税法は、課税の公平と簡素化が基本理念でした。しかし、いまの法人税法にはその基本理念は存在しません。いまの法人税法にあるのは租税回避の防止という思想です。

 しかし、租税回避の防止という理屈は、前提として基本理念が存在し、その基本理念を悪用するものを租税回避というわけです。しかし、いまの法人税法は、基本理念が存在せず、租税回避の防止の必要性だけが唄われています。

 何故、基本理念が失われたかというと、何度も商法が改正されましたが、税法は、それを矛盾なく追いかける必要があったからです。商法の改正は、大企業を前提にします。しかし、税法は、大企業だけではなく、中小企業にも、零細企業にも適用されます。

 大企業は、上場しており、多数の株主が存在しますので、不明瞭な処理は基本的には行いません。法律どおりの処理をしてくれます。しかし、中小企業は商法を利用して、節税のために、税法の裏をかいた会社分割や合併をするかもしれません。そういう節税策を防止するために、所得税法や法人税法は租税回避の防止を取り込んだ条文にならざるを得ないのです。

 つまり、100%要件や、50%要件、あるいは株式の継続保有の要件は、租税回避防止のための要件なのです。

 100%要件が、なぜ租税回避の防止になるかというと、これは次のような事例で説明することが出来ます。例えば、特定の株主xがA社を経営しており、A社には飲食店部門と不動産賃貸部門があるとします。株主xとしては、不動産賃貸部門を売却してしまいたい。しかし、会社が不動産を売却したら、法人税が課税され、さらに、それを株主に配当した段階には配当所得課税が行われてしまいます。

 そこで会社分割をして、飲食店部分をA社に残し、不動産部門をB社として独立させた後に、株主xはB社の株式を売却してしまいます。そうすれば有価証券譲渡益の課税だけで済ませることができるのです。

 会社分割が、そのような租税回避に使われてしまうのを避ける必要があります。そこで100%要件や、50%要件を定め、株式の継続保有を要件とするとの組織再編成税制が完成するわけです。

 組織再編成税制が定める100%要件、50%要件、共同事業要件を理解するときには、その基本理念は租税回避の防止なのだとの意識で、税法の条文を解釈しなければならなくなったのが現在の法人税法です。
  

《×》合併と繰越欠損金

  
 組織再編成によって大きく改正されたのが合併と繰越欠損金の関係です。青色申告の確定申告書を提出した年度に発生した欠損金は、その後7年間(平成16年税制改正前は5年)について所得から繰越控除することができます。しかし、合併をした場合には、被合併会社が有する7年内の繰越欠損金は切り捨てになり、合併存続会社が利用することは出来ませんでした。

 そのため、繰越欠損金を有する会社を存続会社とする逆さ合併との手法があり、それが税務処理として否認されるなどの事案が紹介されていました。

 「逆さ合併」とは次のような概念です。本来であれば事業を行っているA社を存続会社とし、休業状態のB社を消滅会社として合併すべきところ、この方法ではB社の繰越欠損金が利用できなくなってしまいます。そこで、逆に、B社を存続会社とするが、しかし、その実態はA社の事業の継続であり、合併の目的は、単にB社の繰越欠損金を利用することだけにあるという事例です。

 しかし、このような事案は否認されるのが常でした。平成13年1月22日裁決も次のように判断しています。

 「B社は、5年内の青色繰越欠損金を利用するために、逆さ合併の形式を採用してA社を吸収合併したのであり、これは法人税法57条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰り越し)の規定の趣旨に反し、繰越欠損金の損金算入は認められない」。

 しかし、組織再編成税制によって、このような手法は必要がなくなりました。適格合併が行われた場合に、合併存続法人の繰越欠損金が利用できることは当然として、被合併法人に繰越欠損金があるときは、これも合併存続法人の繰越欠損金とみなして、合併後のA社の所得計算において利用することができることになりました(法人税法57条2項)。

 適格合併というのは、既に述べてきたように、一定の要件を整えた合併です。つまり、1)100%の持分関係のある会社間の合併、2)50%を超える持株関係があり、かつ、従業員等の80%が承継され、かつ、事業が承継される合併、3)相互に関連する事業を共同で営むための合併で、事業が相互に関連し、かつ、事業の規模が5倍以内であり、さらに合併法人から交付を受けた株式を継続して保有することが見込まれる株主の持株が80%以上であること。この三つの要件のいずれかを備えた合併が適格合併になります。
  

《×》繰越欠損金の制限

  
 適格合併の場合であっても、次のような事実があるときは、B社(消滅会社)の繰越欠損金だけではなく、A社(存続会社)の繰越欠損金も使えなくなってしまうとの恐ろしい結果になります(法人税法57条3項)。

 つまり、消滅会社と存続会社との間の50%を超える持株関係が合併の直前に成立している場合には、その成立した日以前に生じた繰越欠損金は利用できなくなるとの制限です。

 たとえば、A社には4年前に発生した繰越欠損金10億円があるとします。そして、A社は、20%の持分を持っていたB社について、ここで第三者が所有していた株式を買い取り、100%の子会社にしてからB社を吸収合併しました。

 このような合併を行った場合は、100%持分の子会社の吸収合併として適格合併になりますが、しかし、この合併を行ったが為に、A社が保有していた繰越欠損金10億円は利用できなくなってしまうのです。なぜなら、A社の繰越欠損金は、B社との「50%を超える持分関係」が生じるより前に発生した繰越欠損金だからです。

 なぜ、消滅会社だけではなく、存続会社の繰越欠損金も問題になるのでしょうか。これは、どちらを存続会社にするかによって結論が異なるとの当事者の恣意的な判断を許さないという、組織再編成税制の思想の一つの現れです。

 なお、上記の制限は、繰越欠損金だけではなく、会社が所有する資産の含み損についても適用されます(法人税法62条の7)。固定資産の含み損や債権の評価損(貸倒損失)は、繰越欠損金と同質だからです。

 この制度は、《1》100%または50%超の持株関係にあるグループ企業間の組織再編成に適用される制限ですので、《2》相互に関連する事業者間で行われる組織再編成には適用されません。《2》の場合は制度を悪用されるおそれがないと考えられているためです。
  

《×》資本積立金と利益積立金について商法との別離

  
 組織再編成税制の導入と同時に、資本積立金と利益積立金について、税法基準が採用されました。
  


        貸借対照表
   ───────┬───────
   資産  −−−│負債    −−−
          │資本金   700万円
          │資本積立金 300万円
          │利益積立金 500万円
  


 このような資産構成の会社について、資本の拠出者の立場で考えますと、資本金700万円と資本積立金300万円は株主の拠出金です。しかし、利益積立金500万円は利益の留保金です。

 したがって、この会社が解散し、株主に1500万円を払い戻せば、資本金と資本積立金の合計1000万円については、拠出したものを返してもらうだけなので課税関係は生じませんが、残りの500万円については配当所得としての課税関係が生じます。

 さて、この会社が解散するのではなく、利益積立金(商法では利益剰余金)を資本組み入れしたらどうなるか。つまり、利益積立金の資本組み入れによる増資です。

 これを仕訳で考えますと次のようになります。つまり、利益剰余金が100万円減少し、資本金が100万円の増加になるわけです。

 会計上の仕訳  利益剰余金 100 / 資本金 100

 この結果、貸借対照表は次のようになります。つまり、資本金が800に増えて、利益積立金は400に減るわけです。
  


        貸借対照表
   ───────┬───────
   資産  −−−│負債    −−−
          │資本金   800万円
          │資本積立金 300万円
          │利益積立金 400万円
  


 改正前の税法は次のように考えました。利益積立金100万円は資本金に組み入れられたのだから、一度は株主に100万円の配当金が支払われ、そこで配当所得課税を行い、その後、株主は受け取った100万円を会社に対して増資払込をする。このように理解したわけです。つまり、配当所得課税を行ったわけです。

 このような処理なら、商法上の決算書と税法上の決算書は辻褄が合いました。というより、商法の決算書と税法の決算書の辻褄を合わせるために配当所得課税を行うとの処理をしていたわけです。

 しかし、商法は勝手に改正され、税法が辻褄を合わせる限度を超えてしまいました。そこで、税法は商法に離縁状を渡したわけです。「商法さん、勝手にいろいろ改正をするなら税法はついていきません。税法は独自の世界をつくります」というのがここでの改正なのです。

 では、どのような税法独自の世界をつくったかというと、商法が、利益積立金100万円を資本金に組み入れても、税法は無視することにしたのです。税法は何の処理もしません。

 したがって、商法上は資本金が800万円に増加し、利益積立金が400万円に減少しても、税法上は相変わらず資本金は700万円で、利益積立金は500万円とみなすことにしたのです。

 しかし、資本金は法律上の概念ですので、商法上の資本金が800万円になったのに、税法上の資本金を700万円にしておくことはできません。そこで、税法も、資本金が800万円になったとの事実を認めることにしました。そうしますと、そこで100万円のずれが生じます。その100万円のずれについて、税法は、商法の処理とは離別し、株主の拠出金の範囲内の移動とみなすことにしました。つまり、税法では資本積立金を100万円だけ減じることにしたのです。

 税法上の仕訳  資本積立金 100 / 資本金 100

 株主の拠出分である資本金と資本積立金のグループと、利益の留保部分である利益積立金(欠損金)グループの混同は認めないとの思想です。この結果、税法上の貸借対照表は次のようになります。
  


        貸借対照表
   ───────┬───────
   資産  −−−│負債    −−−
          │資本金   800万円
          │資本積立金 200万円
          │利益積立金 500万円
  


 このように商法上の貸借対照表と離別し、税法独自の貸借対照表を作ることにしたのが第2回の商法改正に応じた税制の改正です。
  

◇ 中小企業に与える影響

  
 会社分割と組織再編成税制は、中小企業にも大きな影響を与えます。その幾つかを紹介すれば次の通りです。

 1)父親が2人の息子に会社を相続させる場合

 父親が経営する会社に、飲食店部門と不動産賃貸部門が存在する場合は、父親は分割型分割を行い、会社をA社とB社に分けておきます。そして、A社の株式を長男に相続させ、B社の株式は次男に相続させます。この方法は、会社が何棟かの賃貸ビルを所有している場合にも使えます。ビル毎の会社に分割型分割を行っておけば、相続人に対して各々の会社を承継させることが出来ます。

 2)会社を分割し、会社をM&Aで譲渡してしまう方法

 父親が経営する会社に飲食店部門と不動産賃貸部門が存在したら、不動産賃貸部門を分割型分割で独立させた上で、不動産賃貸業を経営する会社の株式を第三者に譲渡してしまう方法です。

 会社が不動産を売却すれば譲渡益に対して法人税が課税され、譲渡代金を株主に配分すれば株主に対して配当所得課税が行われてしまいます。それを防ぐ方法として、株式自体を譲渡してしまうとの手法がありますが、父親が経営する会社には飲食店部門があって、株式のすべてを売却することができません。そこで、分割型分割を利用しての会社の譲渡です。

 しかし、この方法は採用できません。なぜならば、分割型分割で適格要件になるためには、分割後の会社の株式を継続して保有するとの意思がなければならないからです。

 ただ、会社の分割時に継続して保有する意思があればよいのですから、不動産部門を譲渡する計画が持ち上がる前に、飲食店部門と不動産賃貸部門を分割しておけばよいわけです。分割時点では継続保有の意思があったが、その何年か後に、不動産所有会社を譲渡して欲しいとの申し入れがあったとの事情なら、遡って会社分割の適格性が否認されることはありません。

 3)会社を分割し、出資持分の相続税評価額を引き下げる方法

 飲食店部門と不動産賃貸部門を別会社にしてしまえば、類似業種比準価額の業種分類が別のものになりますので、出資持分の評価が異なってくるかもしれません。逆に、土地の所有割合が大きく、相続税における株式の評価で不利益を受ける土地保有特定会社については、別の会社と合併し、土地の保有割合を引き下げるとの手法が使えます。

 4)倒産予備軍の会社が、優良部門を分割型分割する方法

 飲食店部門はそこそこの利益を計上しているが、不動産部門はバブル時の借金で資金繰りが廻らない。そのような場合は、飲食店部門だけを分割型分割、あるいは分社型分割で別の会社にしてしまう方法があります。その後に、不動産部門を解散してしまうとの方法です。

 会社分割について、商法は各々の会社の債務の履行可能性を要件にしています(商法374条の2第1項3号)。したがって、本来であれば、存続会社が解散することになる会社分割は許されません。しかし、この条項が主張されることは実際には希なことだと想像できます。

 会社分割について、商法は債権者に対する催告手続を要求しています(商法374条の4)が、分社型分割で、分割に際して発行する株式の全てを既存会社に割り当てる分割については債権者保護手続を省略することが可能です。そして、国税通則法9条の2は、分割によって営業を承継した法人は、既存会社の租税債務について連帯納付義務を負うことにしていますが、そこから分社型分割を除外しています。

 したがって、分社型分割を行い、分離すべき営業についての資産と負債について、同額の移転をし、別会社を設立するとの手法なら、債権者保護手続は不要で、租税債務についての連帯納付義務も発生しないことになります。その後、新しく設立した会社の出資金を譲渡するとの手法なら、不良会社から優良部門だけを切り離すことができるかもしれません。

 5)リストラをするために不良部門を分割型分割する方法

 おそらく会社分割という制度を作った目的の一つはこれにあったのだと思います。うるさい従業員を一つの営業部門に配属しておき、その営業部門を会社分割で分離してしまう。そして、独立採算で商売をさせるのですが、当然、利益は確保できません。そして、分割した会社は倒産してしまうことになるとの手法です。

 あるいは会社を分割することによって複数の賃金体系を導入するとの方法です。銀行が会社を分割し、デリバティブ部門と小口リテール部門に分離して、各々の会社は、それぞれ独自の賃金制度を導入します。この方法で、一つの会社では出来なかった複数の賃金体系を採用することが可能になります。

 6)借地権や借家権を貸主の承諾なく移動してしまう方法

 会社分割は、特定承継ではなく、合併と同様の包括承継と理解されています。したがって、会社を分割し、借地権や借家権を別会社に移転し、その後に会社の持分を譲渡するとの方法で、賃貸人の承諾なく、賃借人の地位を譲渡してしまうことができます。

 しかし、この方法が本当に可能なのかについては疑問があります。分割型分割の場合は、本来の意味での会社分割ですが、分社型分割は、現物出資による新会社の設立と同様だからです。また、分割型分割であっても、合併の場合は権利移転側が解散して消滅しますが、会社分割では依然として存続し続けるため、合併と同様に律して良いかには疑問が残ります。

 さらに、許認可権限などを会社分割によって移転してしまう方法もあります。会社分割による移動が可能か否かは、各々の業法に定めるところによりますが、移転を可能としている業法も少なくないからです。
  

◆ 第3回改正(金庫株 平成13年10月1日施行)

  

◇ 商法の改正

  
 ▲改正の要旨▲
 1 自己株式の取得
 2 自己株式の処分の手続
 3 自己株式の消却の決議
 4 子会社の判定について議決権基準の採用
 5 利益準備金として積み立てるべき額の改正
 6 法定準備金の減少手続
 7 額面株式の廃止
 8 単元株制度の創設
  

《×》自己株式の買い受けの自由化

  
 会社は、定時総会で決議をすれば、配当可能額の範囲内で自己株式を買い取ることができることになりました。その代わり、特定の株主から買い受けるときは、他の株主が、自分の株式も買い取って欲しいと申し出る参加権を認めることになりました。
旧条文新条文

 商法210条(自己株式の取得、買受の制限)
 会社は左の場合を除くの外自己の株式を取得し又は質権の目的として発行済株式の総数の20分の一を超ゆる数の自己の株式を受くることを得ず
 ◆1 株式の消却の為にするとき
 ◆2 営業の全部を承継せしむる吸収分割、合併又は他の会社の営業全部の譲受に因るとき
 ◆3 会社の権利の実行に当り其の目的を達する為必要なるとき
 ◆4 第230条の8の2第2項、第245条の2、第245条の5第3項、第349条第1項、第355条第1項(第371条第3項に於て準用する場合を含む)、第358条第5項、第374条の3第1項(第374条の31第5項に於て準用する場合を含む)、第374条の23第5項、第408条の3第1項若は第413条の3第5項又は有限会社法第64条の2第1項 の規定に依り株式の買取を為すとき
 ◆5 第204条の3第1項又は第204条の5に於て準用する同項の請求を為して株式を買受くるとき

 商法210条(自己株式の取得、質受)
 会社が自己の株式を買受くるには本法に別段の定ある場合を除くの外定時総会の決議あることを要す
 2 前項の決議は左に掲ぐる事項に付之を為すことを要す
 ◆1 決議後最初の決算期に関する定時総会の終結の時迄に買受くべき株式の種類、総数及取得価額の総額
 ◆2 特定の者より買受くるときは其の者
 6 第1項の決議を為す場合に於ける議案の要領は第232条に定むる通知に之を記載又は記録することを要す第2項第2号に掲ぐる事項に関する議案の要領を記載又は記録するときは次項の規定に依る請求あり得べきことをも記載又は記録することを要す
 7 株主は第2項第2号に掲ぐる事項に関する議案の要領が記載又は記録せられたる前項の通知を受けたるときは取締役に対し会日より5日前に書面を以て其の事項に係る議案を売主に自己をも加へたるものと為すべきことを請求することを得此の場合に於ては第256条の3第7項の規定を準用す

 したがって、オーナー株主から株式を買い取るための決議を定時総会で行う場合には、その買い取りに社員株主が参加し、オーナー株主と同額での株式の買取りを要求する事態も想定されます。

 ところで、非上場の中小企業が定時総会で決議し、自己株式を買い取る場合には、定時総会の時期が問題になることがあります。

 例えば、6月に定時総会を終了した後、7月にオーナーについて相続が発生してしまったとすると、会社としては相続人から株式を買い取ってあげたいが、相続税の申告期限(10ヶ月)までに定時総会を開催することができないということになります。

 このような場合は、脱法として、譲渡制限のある株式の会社による買取りという方法を利用することが可能かもしれません。さらに、脱法を考えるのなら、融資の見返りに自己株式を担保にとって、その後、担保権を実行してしまうとの方法も可能かもしれません。なぜなら、商法210条は「会社は、自己の株式を買受くるには、定時総会の決議がある」ことを要するのであって、担保権の実行として取得する場合は、定時総会の決議は不要だからです。

 自己株式を処分するときは、新株の発行と同様にみなすことにしています(商法211条)。したがって、譲渡制限がある会社が自己株式を売却する場合は株主総会の特別決議(商法343条)が必要になります。
旧条文新条文

 商法211条(取得した自己株式の処分)
 第210条第1号の場合に於ては会社は遅滞なく株式失効の手続を為し同条第2号乃至第5号及第210条の3第1項の場合に於ては相当の時期に株式又は質権の処分を為し第210条の2第1項の場合に於ては株式を買受けたる時より6月内(同条第2項第3号に定むる場合に在りては同号の権利を行使することを得べき期間内)に取締役又は使用人に譲渡さざりしときは相当の時期に株式の処分を為すことを要す

 商法211条(取得した自己株式の処分)
 会社が有する自己の株式を処分する場合に於ては左の事項は取締役会之を決す但し本法に別段の定あるとき又は定款を以て株主総会が之を決する旨を定めたるときは此の限に在らず
 ◆1 処分すべき株式の種類及数
 ◆2 処分すべき株式の価額及払込期日
 ◆3 特定の者にして之に対し特に有利なる価額を以て株式を譲渡すべきもの並に之に対し譲渡す株式の種類、数及価額
 2 株式の譲渡に付取締役会の承認を要する旨の定款の定ある場合に於ては前項第1号及第2号に掲ぐる事項に付第343条に定むる決議あることを要す

  

《×》親子会社の判定について議決権基準の採用

  
 親会社、あるいは子会社の判定基準が、持株割合から、議決権割合に改正されました。会社による金庫株の取得を認めたことで、会社の支配の基準が持株数から議決権数に変更されたことと整合性を合わせるための改正です。
旧条文新条文

 商法211条の2(子会社による親会社の株式の取得の制限)
 他の株式会社の発行済株式の総数の過半数に当る株式又は他の有限会社の資本の過半に当る出資口数を有する会社(以下親会社と称す)の株式は左の場合を除くの外其の株式会社又は有限会社(以下子会社と称す)之を取得することを得ず
 ◆1 株式交換、株式移転、会社の分割、合併又は他の会社の営業全部の譲受に因るとき
 ◆2 会社の権利の実行に当り其の目的を達する為必要なるとき

 商法211条の2(子会社による親会社の株式の取得の制限)
 他の株式会社の総株主の議決権の過半数又は他の有限会社の総社員の議決権の過半数を有する会社(以下親会社と称す)の株式は左の場合を除くの外其の株式会社又は有限会社(以下子会社と称す)之を取得することを得ず
 ◆1 株式交換、株式移転、会社の分割、合併又は他の会社の営業全部の譲受に因るとき
 ◆2 会社の権利の実行に当り其の目的を達する為必要なるとき

  

《×》法定準備金の減少手続

  
 法定準備金の限度額と、その減少手続が改正されました。まず、改正前には資本の4分の1に達するまで利益準備金を積み立てることが要求されていましたが、それが資本準備金と合計して4分の1でよいと改正されました。
旧条文新条文

 商法288条(利益準備金)
 会社は其の資本の4分の1に達する迄は毎決算期に利益の処分として支出する金額の10分の1以上を、第293条の5第1項の金銭の分配を為す毎に其の分配額の10分の一を利益準備金として積立つることを要す

 商法288条(利益準備金)
 会社は資本準備金の額と併せて其の資本の4分の1に達する迄は毎決算期に利益の処分として支出する金額の10分の1以上を、第293条の5第1項の金銭の分配を為す毎に其の分配額の10分の1を利益準備金として積立つることを要す


 さらに、株主総会の決議により、資本準備金と利益準備金の合計額から資本金の4分の1に相当する金額を控除した残額について、資本準備金又は利益準備金を取り崩すことができることになりました(商法289条)。

 したがって、10億円の増資をして、5億円を資本金に組み入れ、残りの5億円を資本準備金として計上していた場合には、3億7500万円の資本準備金を取り崩し、これを資本準備金以外の積立金として利用することが可能になりました。つまり、株主に対する配当原資としての利用が可能になったのです。
  

《×》額面株式の廃止

  
 1株の額面を5万円にするという制度がなくなりました。会社の登記簿謄本の額面の記載は抹消されています。

 改正前は、債務超過の会社でも1株5万円での増資が必要でしたが、改正後は1株1円で発行することも可能です。
  

◇ 税法の改正

  
  

《×》自己株式の取得は減資と同様

  
 株式の譲渡には譲渡所得課税が行われますが、譲渡益に対する税率は26%(平成16年1月1日以降の非上場会社株式の譲渡は20%)でしたが、これを上手に利用する人達が存在しました。

 会社が土地を所有し、その土地は30年前に購入したもので、当時の取得価額の1億円で帳簿に計上されています。しかし、現在は10億円に値上がりしていたとします。

 その土地を売却し、株主が現金を手に入れようとすれば、まず、会社が土地を売却し、その段階で9億円の譲渡益に対して50%弱、およそ4億円の法人税を納付することになります。そして、残った6億円を株主に払い戻すと、配当所得として、株主に対して、さらに、税率を50%とする所得税と地方税が課税されてしまうのです。結局、3億円だけしか株主は手にすることができません。

 しかし、株主が、会社の株式を第三者に売却してしまえば、株式譲渡益に対する税率は26%だけです。会社の株式を10億円で買い取ってくれる買い手を見付けて、その買い手に株式を売却してしまえばよいのです。

 そして、買い手(x社)は、買い取った会社(y社)と合併してしまいます。すると、10億円の自己株式の消却損と、土地の含み益を相殺することができます。何らの課税関係なく、会社が所有する土地の評価額を10億円に増額することができるのです。その後に土地を10億円で売却しても、会社には譲渡益は発生しません。

 このような節税目的の制度の悪用を防止するために、自己株式の取得を減資払い戻しと同様にみなすことにしました。
  

《×》自己株式の取得の課税関係

  
 株主が第三者から100万円で取得した株式を、その株式の発行会社に100万円で売却する。このような取り引きを実行しても、譲渡による損益はゼロですので、税負担は生じないと考えるのが常識的な理解です。

 しかし、今回の金庫株(自己株式)の改正では、このような場合については、これを譲渡と扱わず、減資払い戻しとして課税を行うことになりました。このため次のような面白い課税関係が生じることになります。

 100万円で取得した株式を、発行会社に100万円で売却した場合であっても、売主が個人である場合は減資払戻金に対して配当所得課税が行われてしまうことになります。しかし、売主が法人の場合には、同じ取り引きであっても、逆に、受取配当金の益金不算入によって、有価証券の譲渡損の計上による節税ができてしまうことになります。同じ取り引きであっても、当事者が個人と法人では、不利と有利の真反対の結論が生じることになったのです。

 新たに採用された税務上の理屈を一言で説明すれば、自己株式の取得は、売買取引ではなく、資本取引と認識されることになったと理解すれば良いと思います。減資、増資、あるいは配当金の支払いと同じ種類の資本取引です。

 そこで、まず、理解を容易にするために、この課税関係を次の設例で説明します。

 株主aが所有する株式100株を発行会社に譲渡する。aの取得価額は1株100万円で、会社への売却価格も1株100万円。そして、発行会社の1株当たりの資本構成は次の通りだとします。
  


       貸借対照表(1株当たり)
 ───────────┬────────────
  資 産   −−− │負 債     −−−
            │資本金    60万円
            │利益積立金  40万円
  


 株主aは、100万円で取得した株式を100万円で売却するのですから、売却による損益はゼロのはずです。

 しかし、税務上の計算は異なってきます。aは60万円を譲渡の対価として受け取り、差額の40万円を配当として受け取ったとみなされます。したがって、株主aには、40万円の譲渡損(100万円で取得した株式を60万円で売却した)と、40万円の配当所得が認識されることになります。

 なぜかというと、株主aに支払われるのは、株式の譲渡の対価ではなく、会社の資本の部に計上された1株当たりの資本金と留保利益の払い戻しだと理解されるからです。

 設例によれば、会社には1株当たり60万円の資本金と40万円の利益積立金が存在しますので、これが株主に払い戻されます。そして、利益積立金の株主への払い戻しは利益の配当として、配当所得課税が行われることになります。

 100万円から配当とみなされた40万円を差し引いた残額60万円は、取得価額100万円に対応する資本金の払い戻しです。このため、取得価額に不足する40万円の差額は有価証券の譲渡損失と認識されるのです。

 株主aが個人の場合であれば、通常は、有価証券の譲渡損失は分離課税の範囲内で切り捨てられ、配当所得にだけ課税されてしまいます。しかし、株主aが法人であれば、有価証券譲渡損は損金に算入されますが、受取配当金は益金不算入(一部制限がありますが)との取り扱いを受けることができるわけです。

 この結果が冒頭に説明した課税関係、つまり、100万円で取得した株式を100万円で売却した場合でも、これが個人なら配当所得課税が行われ、法人の場合なら、逆に、譲渡損の計上による節税ができてしまうとの課税関係です。

 ただ、以上のような課税の理屈は、証券取引所に上場されている株式の売買には適用されません。上場株式を売却した場合は、仮に、それが自己株式として発行会社に買い取られた場合であっても、通常の有価証券の譲渡として分離課税の対象(個人の場合)になるだけです。市場での売却では、誰が買い手かが分からないというのがその理由です。
  

《×》減資の課税関係

  
 会社が減資をして、株主が払い戻しを受けた場合の課税関係も、基本に遡って改正されました。

 株主が、減資による払い戻しを受けた場合は、それが資本等の金額の払い戻しなのか、あるいは留保利益の払い戻しなのかによって、株主の課税関係は異なってきます。

 資本等の金額の払い戻し部分であれば、株主の帳簿価額(取得価額)との差額には譲渡所得課税が行われますが、それが留保利益の払い戻しであれば、株主には配当所得課税が行われることになります。

 では、どの部分が資本等の金額の払い戻しであり、どれが留保利益の払い戻しかは、今回の税法改正前には、減資をする会社が、どのような処理をするかによって決まることになっていました。

 例えば、次のような会社が資本金を3000万円に減額し、5000万円を払い戻す場合を想定しますと、差額の2000万円について、会社が資本積立金を減じるのか、あるいは利益積立金を減じるのかによって株主の課税関係は異なっていました。
  


         貸借対照表
 ───────────┬────────────
  資 産   −−− │負 債     −−−
            │資本金    6000万円
            │資本積立金  4000万円
            │利益積立金  2000万円
  


 資本積立金を減じる場合なら、株主が払い戻しを受けた5000万円は、資本等の金額からの払い戻しとして、株主の帳簿価額(取得価額)との差額には譲渡益としての課税が行われます。しかし、会社が利益積立金を減じた場合なら、株主は、3000万円については、帳簿価額との差額について譲渡益課税を受けましたが、2000万円については配当所得としての課税を受けることになります。

 しかし、今回の改正で、減資の課税関係の思想は基本から改正されました。株数プロラタ(按分)と、純資産プロラタとの計算方法の採用です。改正法の場合は、減資について、会社がどのような処理をするかは株主には影響を与えません。

 会社の純資産を株数に応じて、あるいは純資産に応じて按分し、その按分額に従って株主が資本等の金額の払い戻し、あるいは留保利益の払い戻しを受けたことになります。

 さて、減資には、株数を減少する減資と株数を減少しない減資があります。そして、前者には株数プロラタ計算が行われ、後者は純資産プロラタ計算になります。そこで、まず、株数プロラタ計算をすることになる株数を減少する減資について検討してみます。

 なお、第6回商法改正で、商法375条(資本減少の決議)と同法289条(法定準備金の使用)が改正され、減資差損が生じる減資、あるいは法定準備金の減少の決議は行えないことになりました。つまり、次のような仕訳が生じる減資は行えないわけです。


  会計上の仕訳  資本金  2000万円 / 現  金 3000万円
          減資差損 1000万円
  

 このため、多額の利益積立金を有する会社、あるいは資産について多額の含み益を有する会社についての減資は非常に困難になりました。特に、株数を減少する減資を行うことは不可能になってしまいました。その理由を知るためにも、減資についての課税関係の理解は不可欠です。第6回商法改正については後に説明することにして、まず、減資についての課税関係を説明させて頂くことにします。
  

《×》株数を減少する減資


 株数を減少する減資には、《1》有償消却と、《2》無償消却の場合がありますが、法人の計算も、株主の計算も、共に、株式数によるプロラタ(按分)計算になります。
  


    貸借対照表(発行済み株数1万株)
  ───────┬───────
  資産 −−− │負   債 −−−−
         │資 本 金 200万円
         │資本積立金 150万円
         │利益積立金 100万円
  


 上記のような資産状況にある会社が行う有償消却について、1株200円を減資し、400円を払い戻す場合の税務上の仕訳を考えてみます。
  


  資本金   200円 / 現 金 400円
  資本積立金 150円 /
  利益積立金  50円 /
  


 利益積立金50円は、払戻金400円から、減額する資本等の金額350円を差し引くことによって算出されます。では、減額する資本等の金額350円はどのように計算されるかというと、消却直前の資本等の金額350万円(資本金と資本積立金の合計)を発行済株式総数1万株で除して、それに減資株数1株を乗じるとの方法によって計算されるのです。つまり、株式数によるプロラタ(比例按分)計算です。

 この場合の株主の課税関係ですが、株主の取得価額が1株当たり500円だとすれば、課税関係は次のようになります。


  現 金 400円 / 有価証券 500円
  譲渡損 150円 / 受取配当  50円


 これは会社に対して株式を売却した場合、つまり、金庫株の課税関係と同一です。株主は会社に対して株式を売却し、売却代金として400円を受け取る。この場合も譲渡損と配当所得の両建て計算が行われるのは前述したとおりです。

 次が、《2》の無償消却の場合の税務上の仕訳です。

 無償減資は、資本に欠損が生じた場合に、その補填の為に行われることが多いと思いますし、その場合であれば次のような処理になりますので問題はありません。


 会計上の仕訳 …… 資本金 200円 / 未処理損失 200円
 税務上の仕訳 …… 資本金 200円 / 資本積立金 200円


 そして、株主は帳簿価額を損金に計上することになります。なぜなら、減資と金庫株の取得についての課税関係は同一であり、無償減資は、株主が所有株式を無償で譲渡した場合と同様とみなされるからです(ただし、無償の減資で譲渡損が計上できるのは法人に限り、個人の場合は認められていないことに注意 所得税基本通達48−5)。

 しかし、無償減資が、上記のように多額の純資産を有する会社で行われた場合は、売主に対する寄付金課税と、会社に対する受贈益課税が行われてしまう可能性があります。なぜなら、多額の純資産を有する会社で行われた無償減資は、価値ある資産を無償で譲渡した場合と同様にみなされてしまうからです。
  

《×》株数を減少しない減資

  
 株数を減少しない減資には、《1》有償の減資と、《2》無償の減資がありますが、結局、この2つは同じ処理になります。法人の計算も、株主の計算も、共に、簿価純資産と払戻し金額のプロラタ(按分)計算です。

 なお、按分計算は、理論的には「簿価純資産」ではなく、「時価純資産」を採用すべきですが、「時価純資産」の算定は困難なので、妥協の産物としての「簿価純資産」が採用されています。

 具体的な説明の方が分かりやすいと思いますので、次のような会社を想定してみます。
  


    貸借対照表(発行済み株数1万株)
  ───────┬───────
  資産 −−− │負   債 −−−−
         │資 本 金 200万円
         │資本積立金 150万円
         │利益積立金 100万円
  


 まず、《1》の有償減資の場合について会社が行う税務上の仕訳で、資本金200円の減資について400円を払い戻した場合を考えてみます。
  


  資本金   200円 / 現 金 400円
  資本積立金 111円
  利益積立金  89円
  


 払戻額400円を、会社の純資産額450万円で除して、それに資本等の金額350万円を乗じた311円が資本等の金額の払い戻し部分で、差額の89円が利益積立金の分配部分です。

 この場合の株主の課税関係ですが、株主の取得価額が1株当たり500円だとすれば、課税関係は次のようになります。手元に残った株式の簿価は56円になります。
  


  現 金 400円 / 有価証券 444円
  譲渡損 133円 / 受取配当  89円
  


 有価証券の帳簿価額から減額する444円は、帳簿価額500円に払戻額400円を乗じ、会社が計上する簿価純資産450円で除すとの方法で計算します。つまり、会社の純資産額に対する減資払戻金のプロラタ(按分)計算です。

 次が、無償消却の場合です。

 == 説明が難解になりますので省略します。次の一覧表を参考にして下さい ===

   
減資の課税関係一覧
  

《×》自己株式の売却は増資と同一

  
 改正前の税法は、自己株式を有価証券と同様に扱っていました。したがって、自己株式を処分したときには、譲渡益を計上し、あるいは譲渡損を計上することになりました。

 しかし、改正税法は、自己株式の売却を増資と同様にみなすことにしました。したがって、自己株式を売却しても課税所得は発生しません。自己株式の売却は増資と同様にみなされますので、自己株式の帳簿価額と売却価額との差額は、資本積立金に増減されることになります。
旧条文新条文

 新設

17 資本積立金額 法人(連結申告法人を除く。)のイからワまでに掲げる金額の合計額から当該法人のカからムまでに掲げる金額の合計額を減算した金額をいう。
  ロ 自己の株式を譲渡した場合(合併、分割又は株式交換により新株を発行することに代えて自己が有していた自己の株式を交付した場合を除く。)における譲渡対価の額(新株予約権の行使により新株を発行することに代えて自己が有していた自己の株式を交付した場合には、当該新株予約権の発行価額に相当する金額を含む。)から当該自己の株式の当該譲渡の直前の帳簿価額を減算した金額


 つまり、会社が1株2万円で買い取った自己株式を4万円で売却した場合なら、差額の2万円については増資払込と同様にみなされ、資本積立金と理解されることになったのです。
  

◇ 中小企業に与える影響

  
 1)個人オーナーが所有する株式の会社による買取りは不可

 改正前の商法は4つの場合に自己株式を取得することを認めていました。その中の一つが、株主について相続が発生した場合の買い取りです。会社は株主から自己株式を買い取りますが、それは売買との取り引きですので、株主には譲渡所得課税が行われることになります。つまり、有価証券譲渡益として26%(平成15年1月1日から20%)の税負担です。

 ところが、現在の税法では、個人オーナーが会社に対して株式を売却した場合は、前述してきたように、配当所得と譲渡所得課税が行われてしまうのです。配当所得は総合課税の対象になり、地方税を含めて50%近い税率になります。つまり、個人株主が会社に対して自己株式としての売却を行えなくしてしまったのが今回の税制改正です(平成16年税制改正で、相続税の申告期限から3年内に譲渡した場合は、配当所得課税を行わず、譲渡所得課税を行うとの特例が導入された)。

 2)親会社が所有する株式の会社による買取りは有利

 親会社が100万円で取得した株式を、株式の発行会社に対して100万円で売却する。このような取り引きで節税が出来ることになってしまったのが改正税法です。親会社が支払いを受けた100万円については、発行会社に資本構成の割合に応じて、たとえば、40万円は配当で、残りの60万円が資本の払い戻しとみなされます。すると、40万円の配当部分は益金不算入になり、帳簿価額100万円の株式を60万円(資本の払い戻し部分)で売却することによって発生した損失は、親会社の税務計算では、譲渡損として損金に算入されることになります。

 3)株式の社員に対する譲渡価格と会社の買取り価格の問題

 上場株式の場合は、株式には一物一価が成立しますが、非上場株式については一物二価が成立します。つまり、支配株主にとっての株価と、少数株主が所有する場合の株価は異なるとの理屈で税法は作られています。

 支配株主であれば、株式は、会社が所有する純資産と、会社が稼ぎ出す利益を総合した価値があります。しかし、少数株主にとっての株価は配当を受け取るだけの価値です。

 したがって、支配株主にとっての株価は1株3000円だが、少数株主にとっての株価は1株500円という現象が生じることになるのです。

 さて、この株式を発行会社自身が自己株式として買い取る場合の株価は、1株3000円なのでしょうか、あるいは1株500円なのでしょうか。

 仮に、会社にとっての株価が1株3000円だということになれば、社員から1株500円で買い受けた場合は、差額の2500円について、会社は受贈益課税を受けることになってしまいます。これが新しい税法上の問題として生じてしまっているのですが、実務の取り扱いでも未だ答えは出ていません。

 4)1株1円での発行と1株500円での発行

 額面制度が廃止されました。したがって、1株を1円で発行することも、1株を500円で発行することも、会社は自由に行えることになりました。

 では、債務超過の会社に対して資金援助をする場合に発行する株式数は何株が適正でしょうか。改正前でしたら、増資払込金を5万円で除した株数が上限でした。しかし、額面制度がなくなってしまった現在では、1円について1株を発行することも、1000万円について1株を発行することも自由です。さて、このような増資が、税法上も自由に行えるのか否か。このような疑問が生じてしまっているのが現行の税法です。
  

◆ 第4回改正(新株予約権 平成14年4月1日施行)

  

◇ 商法の改正

  
 ▲改正の要旨▲
  1 譲渡制限会社における会社が発行する株式の総数に関する制限の廃止
  2 種類株式の自由化
  3 新株予約権
  4 計算書類のホームページでの公開
  

《×》授権資本制度の廃止

  
 譲渡制限会社の授権資本の制限が緩和されました。つまり、譲渡制限のある会社については、資本金の4倍を授権資本の限度とするとの制限が撤廃され、資本金の100倍、あるいは200倍の授権資本を確保することも可能になりました。
旧条文新条文

 商法166条(定款の絶対的記載事項)
 3 会社の設立に際して発行する株式の総数は会社が発行する株式の総数の4分の1を下ることを得ず

 商法166条(定款の作成、絶対的必要事項)
 4 会社の設立に際して発行する株式の総数は会社が発行する株式の総数の4分の1を下ることを得ず但し株式の譲渡に付取締役会の承認を要する旨の定款の定ある場合に於ては此の限に在らず


 したがって、何らかの理由で10倍、あるいは20倍の増資をする場合に、改正前でしたら何度かに分けての増資と定款変更の手続が必要だったのですが、改正後は、一度の手続で行えることになりました。
  

《×》無議決権株式の制限の撤廃

  
 配当優先株式については、無議決権株でなければならないとの制限が撤廃されました。ただし、議決権を制限した株式は発行済株式の2分の1を超えて発行することは出来ません。
旧条文新条文

 商法242条(議決権なき株式)
 会社が数種の株式を発行する場合に於ては定款を以て利益の配当に関し優先的内容を有する種類の株式に付株主に議決権なきものとすることを得但し其の株主は優先的配当を受くる旨の議案が定時総会に提出せられざるときは其の総会より、其の議案が定時総会に於て否決せられたるときは其の総会の終結の時より優先的配当を受くる旨の決議ある時迄は議決権を有す

 廃止

  

《×》新株予約権(ストックオプション)の導入

  
 新株予約権の制度が導入されましたが、これと新株引受権は明確に区別することが必要です。特に、税法では、新株予約権と新株引受権は明確に区別して扱っています。
旧条文新条文

 新設

 商法280条の19(新株予約権の意義)
 新株予約権とは之を有する者(以下新株予約権者と称す)が会社に対し之を行使したるときに会社が新株予約権者に対し新株を発行し又は之に代へて会社の有する自己の株式を移転する義務を負ふものを謂ふ

  

《×》計算書類の公開

  
 会社の貸借対照表は、定款で定めた方法で公告することになっていましたが、中小企業では、それが守られていなかったのが現実です。そこで、ホームページへの掲載も認めることにしました。ただし、官報などへの掲載の場合は貸借対照表の要旨の公告で済ませることが可能ですが、ホームページへの掲載の場合は貸借対象表の全ての掲載が必要です。また、掲載するホームページのURLを会社の登記簿に記載することが要求されます。
旧条文新条文

 新設

 商法283条(計算書類の承認)
 5 会社は取締役会の決議を以て会社が第1項の承認を得たる後遅滞なく貸借対照表に記載又は記録せられたる情報を電磁的方法にして法務省令に定むるものに依り同項の承認を得たる日後5年を経過する日迄不特定多数の者が其の提供を受くることを得べき状態に置く措置を執ることとすることを得


 公示を実行あらしめるために、合併、資本減少などについて、債権者保護手続を行う場合は、その公告には、貸借対照表を公告した官報の掲載年月日などを同時に掲載することが要求されることになりました。
  

◇ 税法の改正

  
  

《×》適格ストックオプションの限度額

  
 適格になるストックオプションの限度額が1000万円から1200万円に増額になりました。適格ストックオプションというのは課税時期の先送りが可能なオプションです。先送りというのは次のような意味です。

 仮に、会社の社員がストックオプションの割り当てを受けるとします。例えば、現時点での株価が1株1000円の場合に、権利行使価格を1200円としてストックオプションの割り当てを受けます。

 その後、この会社の株価が1株1400円まで上昇したとします。そこで権利を行使すれば、1200円の払い込みで、1400円の株式が取得できることになります。これは利益ですので、本来であれば、差額の200円について、その時点での給与所得課税を受けることになります。

 しかし、適格のストックオプションであれば、権利行使したときには課税関係は生じません。将来、この株式を1200円以上で売却したときに、取得価額の1200円との差額について有価証券譲渡益課税を行うというのが適格ストックオプションです。

 適格ストックオプションには幾つかの要件があります。例えば、限度額は1200万円であり、10年以内に行使しなければならないとの要件などです。

 非適格のストックオプションについては、受給者の立場に応じて、給与所得課税、事業所得課税、雑所得課税になります。

 ストックオプションは、改正前は取締役や社員に限って割り当てることが可能でした。しかし、改正後は誰に対する割り当ても自由に行えます。例えば顧問弁護士や、顧問税理士、さらには取引先に割り当てることも可能です。ただし、取締役や従業員以外にストックオプションが割り当てられた場合は、非適格のストックオプションとして、権利行使時に事業所得として課税されることになります。
  

◇ 中小企業に与える影響

  
 中小企業が、第三者の出資を得て増資をする場合にも、社長自身に対してストックオプションを割り当てておけば、権利行使によって株主としての支配権を回復することが可能です。
  

◆ 第5回改正(責任の軽減 平14年5月1日施行)

  

◇ 商法の改正

  
 ▲改正の要旨▲
  1 監査役の機能の強化
  2 取締役等の会社に対する責任の軽減
  

《×》取締役等の会社に対する責任の軽減

  
 大和銀行が、ニューヨークで多額の投資活動を行い、多額の損失を計上した事件について、取締役等に対し、大阪地裁平成12年9月20日判決(判例時報1721号3頁)が総額で7億7500万ドル(830億円)の支払いを命じる判決を言い渡しました。これを危機感として改正された条文です。
旧条文新条文

 新設

 商法266条(取締役の会社に対する弁済又は損害賠償責任)
 7 第1項第5号の行為に関する取締役の責任は其の取締役が職務を行ふに付善意にして且重大なる過失なきときは第5項の規定に拘らず賠償の責に任ずべき額より左の金額を控除したる額(次項第2号に於て限度額と称す)を限度として第343条に定むる決議を以て之を免除することを得
 ◆1 決議を為す株主総会の終結の日の属する営業年度又は其の前の各営業年度に於て其の取締役が報酬其の他の職務遂行の対価(其の取締役が使用人を兼ぬる場合の使用人としての報酬其の他の職務遂行の対価を含む)として会社より受け又は受くべき財産上の利益(次号及第3号に定むるものを除く)の額の営業年度毎の合計額中最も高き額の4年分に相当する額
 ◆2 其の取締役が会社より受けたる退職慰労金の額及使用人を兼ぬる場合の使用人としての退職手当中取締役を兼ぬる期間の職務遂行の対価たる部分の額並に此等の性質を有する財産上の利益の額の合計額と其の合計額を其の職に在りたる年数を以て除したる額に4を乗じたる額との何れか低き額
 ◆3 其の取締役が第280条の21第1項の決議に基き発行を受けたる第280条の19第1項の権利を就任後に行使したるときは行使の時に於ける其の会社の株式の時価より第280条の20第4項に規定する合計額の1株当りの額を控除したる額に発行を受け又は之に代へて移転を受けたる株式の数を乗じたる額、其の権利を就任後に譲渡したるときは其の価額より同条第2項第3号の発行価額を控除したる額に譲渡したる権利の数を乗じたる額
 17 代表取締役の行為に関する責任に付ては第7項第1号中「4年分」とあるは「6年分」と、同項第2号中「4」とあるは「6」と、第12項第1号中「4年分」とあるは「6年分」とす
 18 社外取締役の行為に関する責任に付ては第7項第1号中「4年分」とあるは「2年分」と、同項第2号中「4」とあるは「2」と、第12項第1号中「4年分」とあるは「2年分」とす

  

◆ 第6回改正(委員会の設置 平成15年4月1日施行)

  

◇ 商法の改正

  
 ▲改正の要旨▲
  1 現物出資、財産引受及び事後設立の目的たる財産の価格の証明
  2 種類株主の取締役等の選解任権
  3 所在不明株主の株式売却制度等の創設
  4 株券失効制度の創設
  5 減資と準備金の減少手続の合理化
  6 委員会等設置会社の創設
  7 計算規定を商法施行規則に移行
  

《×》現物出資についての財産価格の証明制度

  
 現物出資するときには原則として検査役の調査を受けることが必要でした。商法173条(会社設立時の現物出資と財産引き受け)、商法246条(事後設立)、商法280条の8(現物出資)の4つの場合です。

 しかし、この制度には批判がありました。まず、検査役の調査にはどのぐらいの時間がかかるのか、また、いくらぐらいの費用がかかるのかわからないとの批判です。

 不動産については弁護士が証明すればよいことになっていましたが、改正法では、不動産に限らず、すべての資産について弁護士、弁護士法人、会計士、税理士または税理士法人の証明でよいとされました。仮に、無形の固定資産について100億円の価値があると税理士が証明すれば、資本金100億円の会社を作ることも可能になったのです。
旧条文新条文

 商法173条(検査役選任・定款変更の通知)
 3 第168条第1項第5号又は第6号の財産が不動産なる場合に於て同項第5号又は第6号に掲ぐる事項が相当なることに付弁護士又は弁護士法人の証明を受けたるとき其の事項に付亦前項に同じ此の場合に於ては其の不動産に付不動産鑑定士の鑑定評価を受くることを要す

 商法173条(検査役の変態設立事項の調査、裁判所の変更処分)
 2 前項の規定は左の各号に掲ぐる場合に於ては其の各号に定むる事項に付ては之を適用せず
 ◆3 第168条第1項第5号又は第6号に掲ぐる事項が相当なることに付弁護士、弁護士法人、公認会計士(外国公認会計士を含む)、監査法人、税理士又は税理士法人の証明(同項第5号又は第6号の財産が不動産なるときは其の証明及不動産鑑定士の鑑定評価)を受けたる場合 同項第5号又は第6号に掲ぐる事項

  

《×》種類株式のさらなる自由化

  
 種類株式がさらに自由化され、利益や利息の配当、残余財産の分配等について、様々な株式が発行できることになりました。さらには株式の譲渡制限のある会社については、取締役の選任について特別の権限を有する種類株式の発行まで認められることになりました。
旧条文新条文

 商法222条(数種の株式の発行)
 会社は利益若は利息の配当、残余財産の分配、株式の買受、利益を以てする株式の消却又は議決権を行使することを得べき事項に付内容の異る数種の株式を発行することを得

 商法222条(数種の株式の発行)
 会社は左に掲ぐる事項に付内容の異る数種の株式を発行することを得但し第6号に掲ぐる事項に付内容の異る数種の株式を発行するには株式の譲渡に付取締役会の承認を要する旨の定款の定あることを要す
 ◆1 利益又は利息の配当
 ◆2 残余財産の分配
 ◆3 株式の買受
 ◆4 利益を以てする株式の消却
 ◆5 株主総会に於て議決権を行使することを得べき事項
 ◆6 其の種類の株主の総会(他の種類の株主と共同して開催するものを含む)に於ける取締役又は監査役の選任

  

《×》所在不明の株式の競売制度

  
 株主の所在が不明の場合でも、株主については消滅時効の適用がありませんので、永久に、株主として扱わなければなりませんでした。たぶん、上場会社には、このような株主が大量に存在したのだと思います。そこで、送達不能の期間が5年を超える場合は、会社は、その株主が所有する株式を競売し、あるいは競売に代えて、市場価格で売却し、あるいは裁判所の許可を得て売却することが出来ることになりました。

 売却を行うについて、会社は公告などの手続を行う必要がありますが、その期間が満了した時点で、株式は無効になり、会社は競売のために新たに株券を再発行することになります。
旧条文新条文

 新設

 商法224条の4(所在不明の株主の株式売却制度)
 会社は左の各号の何れにも該当する株式(株券喪失登録の為されたる株券に係る株式を除く以下本条及次条に於て同じ)に付ては取締役会の決議を以て其の株式を競売することを得此の場合に於ては其の代金を従前の株主に支払ふことを要す
 ◆1 其の株式に付株主名簿に記載又は記録ある株主に対し第224条の2第1項の規定に依り通知及催告を為すことを要せざるもの
 ◆2 其の株式に付前号の株主が継続して5年間会社の配当する利益又は利息の支払に関する法律 (昭和23年法律第64号)第1項 に規定する住所等に於て利益及利息の支払を受領せざりしもの

  

《×》紛失株式の届出制度

  
 株券を紛失した場合は除権判決の手続を取る必要がありましたが、これは非常に面倒でした。そこで新たに「株券を紛失したる者は会社に対して株券紛失登録の申請を為すこと」ができるとの制度が創設されました。

 株券喪失登録がされた株券は、株券喪失登録の日の翌日から1年の経過によって無効になります。
旧条文新条文

 新設

 商法230条の2(株券喪失登録)
 取締役は株券喪失登録簿を作り前条第1項の株券喪失登録の申請ありたるときは之に左の事項を記載又は記録することを要す
 ◆1 其の申請に係る株券の番号
 ◆2 前号の株券を喪失したる者の氏名及住所
 ◆3 第1号の株券に係る株式の名義人の氏名及住所
 ◆4 株券喪失登録の日

  

《×》委員会等設置会社の創設

  
 監査特例法が改正され、委員会等設置会社の制度が創設されました。委員会等設置会社とは、大会社と、みなし大会社で、委員会等設置会社の制度の適用を受けることを定款で定めた会社です。

 委員会等設置会社には、1)指名委員会、2)監査委員会、3)報酬委員会の三つの委員会と、執行役が置かれますが、監査役は置かれません。各々の委員会は取締役3名以上で組織しますが、その過半数は社外取締役にするとの制限があります。委員会等設置会社の職務は執行役が行います。
旧条文新条文

 新設

 監査特例法21条の5(委員会及び執行役の設置等)
 委員会等設置会社には、次に掲げる機関を置かなければならない。
 (1)指名委員会
 (2)監査委員会
 (3)報酬委員会
 (4)1人又は数人の執行役
 2 委員会等設置会社には、監査役を置くことができない。委員会等設置会社を設立する場合についても、同様とする。


 取締役の任期は1年で、取締役は経営の基本方針を決定し、執行役の職務の執行を監督します。1)指名委員会は取締役の選任と解任に関する議案を決定し、2)監査委員会は執行役の職務の執行を監査します。3)報酬委員会は取締役及び執行役が受ける個人別の報酬の内容を決定します。

 執行役は取締役会が選任し、取締役会の決議をもって会社を代表すべき代表執行役を定めます。

 委員会等設置会社の組織を簡単に説明してしまえば、通常の会社の取締役が執行役と呼ばれ、代表取締役が代表執行役と呼ばれることになった会社です。そして、取締役会は、常設の株主総会の如く、執行役の業務の執行を監督します。そして、監督を有効ならしめるために3つの委員会が設置される会社です。

 委員会を構成する委員の過半数は社外取締役にするなど、監督と執行を分離した制度ですが、執行役が取締役を兼ねることを認めるなど、その分離は不完全なものです。
  

《×》計算規定を商法施行規則に移行

  
 商法286条(創立費の繰延)から同法287条の2(引当金)などの計算規定を商法施行規則に移行しました。
  

◇ 税法の改正

  
  

《×》商法の減資手続と税法の齟齬の発生


 商法375条(資本減少の決議)と同法289条(法定準備金の使用)が改正され、減資差損が生じる減資、あるいは法定準備金の減少の決議は行えないことになりました。つまり、次のような仕訳が生じる減資は行えないわけです。


  会計上の仕訳  資本金  2000万円 / 現  金 3000万円
          減資差損 1000万円


 会社が株主に対して金銭等を払い戻すことができるのは、《1》利益の配当、《2》中間配当、《3》資本または法定準備金の減少、《4》清算手続における残余財産の分配に限られ、債権者保護の趣旨で、各々の使用できる財源は限定されています。

 ところが、上記のような処理が行われますと、本来は配当決議をもって支払われるべき財源が、減資決議をもって払い戻されるとの矛盾が生じてしまいます。そこで、減資決議、あるいは法定準備金の減少決議をもって払い戻すことのできる金額は、減少すべき資本の額、あるいは減少すべき資本準備金と利益準備金の額を超えることができないと定めたわけです。

旧条文新条文

 商法375条(資本減少の決議)
 資本の減少を為すには第343条に定むる決議に依ることを要す
 2 資本の減少に関する議案の要領は第232条に定むる通知に之を記載又は記録することを要す

 商法375条(資本減少の決議)
 資本の減少を為すには減少すべき資本の額及左の各号に掲ぐる場合に於ける其の各号に定むる事項に付第343条に定むる決議を為すことを要す此の場合に於ては其の各号に定むる金額の合計額は減少すべき資本の額を超ゆることを得ず
 ◆1 株主に払戻を為す場合 払戻に要すべき金額
 ◆2 株式の消却を為す場合 消却すべき株式の種類及数、消却の方法並に消却に要すべき金額
 ◆3 資本の欠損の填補に充つる場合 填補に充つるべき金額
 2 前項第1号の払戻は各株主の有する株式の数に応じて之を為す但し会社の有する自己の株式に付ては同号の払戻は之を為さず
 3 資本の減少に関する議案の要領は第232条に定むる通知に之を記載又は記録することを要す
 

 この改正自体は、至極尤もな改正であり、不完全だった減資の手続を正当に補充したに過ぎないのですが、この結果、多額の利益積立金、あるいは多額の資産の含み益を抱える会社では減資決議が行えないとの結果になってしまいました。特に、株式数を減少する減資は不可能との結果になってしまったのです。

 そのことを理解して頂くために次のような資産状態の会社を想定してみます。説明を簡単にするために発行済株式数は2株だととします。


       貸借対照表
  ────────┬────────
  資産 100億円│資本金  10億円
          │利益積立金90億円
  

 このような会社で1株を消却する場合は50億円の払い戻しが必要になりますが、そのような減資を行うことはできません。商法375条は、株主に払戻を為す場合の「払戻に要すべき金額」は「減少すべき資本の額を超ゆることを得ず」としているからです。

 では、1株を消却して5億円を払い戻すのなら良いのか。商法上は適法な手続になりますが、税法上は問題です。なぜなら、減資には金庫株の買い取りと同様の課税関係が適用されることになっているからです。

 金庫株と同様の課税が行われるとすれば、1株について5億円を払い戻した減資に対して行われるのは、株主が時価50億円の価値がある株式を、会社に対して5億円で譲渡したとみなしての課税です。つまり、株主は45億円の寄付金を支払ったものとみなされ、会社は45億円の受贈益を受けたものとみなされます。

 しかし、このような課税には矛盾があります。なぜなら、金庫株の買い取りは「売買」ですが、減資は「資本取引」だからです。資本取引について、減資をする会社に受贈益を認識することは理論的に不可能ですし、また、個人株主に対して所得税法59条を適用し、低額払い戻しの減資について、低額譲渡としての課税を行うことも不可能だからです。

 そこで、いま検討されている会社法現代化法案は、《1》株式の消却と、《2》減資を原則として分離してしまうとの解決策を示しています。つまり、《1》は株式の併合として理解し、《2》は株数を減じない減資と理解することになるわけです。

 そのような方法であれば、商法と税法との間に生じた上記の矛盾を解決することができるからです。

 参考資料 …… 株式数を減少する不平等減資(T&Amaster64号38頁 武田昌輔税法研究グループ)

 Q 会社の欠損補てんのため、社長の持株の一部を無償で減資することとしました。もし、通常どおり減資払戻しをしたとすれば3000万円の払戻しが必要となりますが、これは資本等取引ですから課税問題は生じないと解してよいですか。

 A 本来、会社が払戻しをすべき3000万円の払戻しをしなかったときは、いわば未払金3000万円が債務免除になったことと同様であるから、債務免除益として課税の問題が生ずる(自己株式の受贈)。この点、株主の全部に対して行う無償減資とは異なることになる。以上のことから、社長だけからの無償自己株式の取得は資本等取引とはならない。


 参考資料 …… 時価と異なる価額での株数を減少する減資(週刊税務通信2818号46頁 諸星健司)

 株式消却は基本的には資本等取引に該当しますが、資産の譲渡における譲渡対価は時価を原則とするのが法人税法の基本的な考え方ですから、時価と乖離した金額で株式の消却が行われた場合には、その差額は経済的利益の供与となると考えられます。

交付される金銭等の額発行法人側の税務処理株主側の税務処理
 時価を超える金額での株式の消却又は自己株式の取得  時価を超える部分の金額は寄附金または交際費等となる。
 そのため、時価の金額に基づき算出されたみなし配当金額は利益積立金額を減額し、それ以外の部分は資本金及び資本積立金額を減額する、なお、時価を超える部分の金額は寄附金又は交際費等として利益積立金額の減額となる。
 時価を基にみなし配当金額及び株式の譲渡損益を算出し、時価を超える部分の金額は受贈益(受取配当等の益金不算入額の適用はない)として処理する。
 時価未満での株式の消却又は自己株式の取得  時価に基づき算出したみなし配当金額は利益積立金額を減算し、それ以外の部分は資本金及び資本積立金額を減額するとともに、時価に満たない部分の金額は利益積立金額の増加(受贈益)として処理する。その結果、受贈益が課税所得となる。  時価に基づきみなし配当金額及び譲渡損益を算出し、みなし配当金額及び譲渡利益金額を計上するとともに、受領した金銭等の額が時価に満たない場合のその満たない部分の金額は株式発行法人に対する寄附金として処理する。


 《 時価未満での株式消却の例 》

 株式の時価500に対して株式消却により交付した金銭等が400であった場合(消却資本等金額は350、減少する資本の金額は100とします)、税務上次の仕訳が生じるものと考えます。

 《1》発行法人の税務仕訳

 資 本 金  100 / 現   金 400
 資本積立金  250 / 受 贈 益 100
 利益積立金  150

 《2》株主の税務仕訳(消却された株式の帳簿価額は300とします)

 現   金  400 / 有価証券   300
 寄 附 金  100 / みなし配当  150
            / 有価証券譲渡益 50


 上記の武田解説は、株数を減少する不平等の強制消却(商法213条)が可能であることを前提に、これが1株当たりの時価を下回る払い戻し額によって行われた場合は、自己株式を時価を下回る価額で譲り受けた場合と同様に、会社に対し、受贈益課税が行われると説明しています。

 さらに、諸星解説は、株数を減少する一律公平の減資についても、それが1株当たりの時価を下回る払い戻し額によって行われた場合は、自己株式を時価を下回る価額で譲り受けた場合と同様に、会社に対し、受贈益課税が行われると説明しています。

 この場合に、売主(株主)が個人の場合に、所得税法59条の低額譲渡に該当するか否かについてまでは解説していません。

 なお、諸星氏の例示した仕訳については、次のようになるのが正しいのではないかとの指摘があります。つまり、無償(寄附金)部分は、配当所得ではなく、有価証券譲渡益になるとの指摘です。

 《1》発行法人の税務仕訳

 資 本 金  100 / 現   金 400
 資本積立金  250 
 利益積立金   50 
 資本積立金  100 / 受 贈 益 100

 《2》株主の税務仕訳(消却された株式の帳簿価額は300とします)

 現   金  400 / 有価証券    300
            / みなし配当    50
            / 有価証券譲渡益  50
 寄 附 金  100 / 有価証券譲渡益 100
  

《×》同族判定基準を発行済株数から議決権数に変更

  
 財産評価基本通達が改正され、取引相場のない株式を評価する場合の同族株主の判定基準が、持株割合から議決権割合に変更になりました。単元株式制度の導入、あるいは無議決権株や、議決権制限株の導入を受け、会社の支配の基準が持株割合から議決権割合に変更になったのを受けての改正です。

 ただし、法人税法の同族判定基準は持株割合で変更はありません。この結果、財産評価基本通達と法人税の同族判定基準が異なることになりましたが、その理由は次のようなところにあります。

 法人税における留保金課税は、法人税率と所得税率の差を理由としますので、配当金の支払基準になる持株割合を判定基準にするのが合理的です。これに対し、相続税財産評価基準は、支配株主か否かを株式評価の判定基準にしていますので、議決権割合が同族株主の判定基準に採用されることになります。ただし、配当請求権のない自己株式(商法293条)は、法人税の同族判定でも、発行済株式数から差し引かれます。

 なお、財産評価についての従前の取り扱いでは、無議決権株式(配当優先株)については、これを含めたところと、含めないところで持株割合を計算するとの二重の判定を要求していましたが、計算方法は客観的であり、一義的に明確でした。

 しかし、議決権制限株式や、普通株式への転換権を付して発行する無議決権株式が認められた現行の商法では、このような形式的な判定基準で処理することはできません。

 この点については、「商法改正は行われたばかりで、種類株式の活用実態が明らかではないことから、その判定方法については財産評価基本通達に定めないことにした」と解説されています(「財産評価基本通達の一部改正について」通達等のあらましについて(情報)。
  

《×》デット・エクイティ・スワップによる相続税対策

  
 現物出資についての財産価格の証明制度が創設されたことによって、デット・エクイティ・スワップが可能になりましたが、これは企業の再建手法として利用されると共に、相続税の節税にも利用されます。

 デット・エクイティ・スワップというのは、会社に対する貸付金を現物出資し、資本に振り替えてしまうとの手法です。これが債務超過会社に対する債権についても実行できるようになりました。

 仮に、資産20億円、負債40億円の会社を想定しますと、配当率は5割ですから、10億円の債権の実勢価格は5億円でしかないことになります。しかし、債務者の立場で考えれば、10億円の債務には10億円の価値(弁済義務)があります。これを10億円の価値ある資産として資本に振り替えても、債権者に益することはあっても、害することはないはずです。そのような理屈が債権額でのデット・エクイティ・スワップが認められる理由です。

 さて、中小企業では、このデット・エクイティ・スワップを相続税の節税に利用することが可能です。オーナーが会社に多額の資金を投下し、それが会社に対する貸付金として残っている場合は、債権のままならば、債務超過会社に対する債権であっても券面額での評価です。

 しかし、デット・エクイティ・スワップを実行し、債権を資本に振り替えてしまえば、出資金としての評価に切り換えてしまうことができます。債権を放棄するとの方法も可能ですが、そのような手法では会社に債務免除益が計上されてしまいます。これを上手に避ける手法がデット・エクイティ・スワップです。
  

《×》デット・エクイティ・スワップと法人税

  
 デット・エクイティ・スワップが行われた場合の法人税の課税関係を検討してみます。数字が入ったほうが分かりやすいと思いますので次のような資産状態の会社に対する債権を考えてみます。
  


      貸借対照表
  ───────┬───────
  資産 20億円│負債  40億円
         │資本金 10億円
  


 このような会社について、債権者が10億円の債権(会社にとっては負債)を現物出資した場合を考えてみます。

 債務者にとっては資本取引ですので課税関係は生じませんから、ここで検討するのは債権者の課税関係です。つまり、デット・エクイティ・スワップを行った場合の損失の計上ですが、これが許されるか否かについては次のように意見が分かれます。

 第1説 …… 10億円の債権を出資金に振り替えるだけであり、出資時点では損失は計上されない。将来、出資金を処分したときに譲渡損が計上されることになる。

 第2説 …… 帳簿価額10億円の債権の現物出資であっても、その時価は5億円にすぎない。したがって、出資によって取得されるのは5億円の出資金であり、出資の時点で5億円の損失が計上されることになる。これは、帳簿価額10億円で、実勢価格5億円の土地を現物出資する場合の課税関係と同じである。

 上記のどちらの説が採用されるのかについては、すでに答えの出ている問題だと思うのですが、これを断言した資料などは見あたりません。

 さらに、仮に第2説を採用した場合には次のような問題も生じてしまいます。現物出資前には、券面額10億円の債権には5億円の価値がありました。債務者会社には40億円の債務の引当になる20億円の資産が存在したからです。

 しかし、現物出資によって10億円の債務が資本に振り替わってしまうと、この会社は、資産20億円、負債30億円の会社に生まれ変わってしまいます。つまり、債務超過額は縮小し、現物出資に応じなかった債権者の弁済額は5億円だけ増加するのです。

 しかし、資本金は10億円から20億円に増加しますが、現物出資によって手に入れた10億円の出資金について、引当になる残余財産はゼロです。

 したがって、第2説を採用するとすれば、現物出資によって計上される損失は10億円ということになってしまいます。しかし、5億円の実勢価格が存在した債権を、現物出資によってゼロにしてしまう処理が、税務上、是認されるか否か。このような疑問が消えないのがデット・エクイティ・スワップです。

 (注)デット・エクイティ・スワップと損金処理について判断した判決

 平成12年11月30日東京地裁判決(週刊税務通信2662号 国税速報5337号 月刊税務事例2002年10月) 東京高裁13年7月5日控訴棄却(判例集未登載)

 福井地裁平成13年1月17日判決(週刊税務通信2668号)平成14年5月15日名古屋高等裁判所金沢支部(裁判所ホームページ)
  

《×》連結納税制度の導入

  
 連結納税制度が導入されました。例えば、グループ企業について一体として申告したい場合があります。A社は欠損だが、B社は多額の利益を計上しているという場合には、それを全て合計して申告できるのなら税務上は有利です。それを可能にしたのが連結納税制度です。

 連結納税制度は、内国法人である親会社と、発行済株式の全てを直接又は間接に保有されるすべての内国法人である100%子会社のグループで行われます。連結納税制度を適用するか否かは納税者の選択に任されます。

 親会社は連結所得に対する法人税を申告し、100%子会社は連帯納付責任を負います。連結所得の申告時には個別帰属額等を記載した書類を税務署に提出します。

 連結決算で生じた欠損金は5年間の繰越控除が認められます。連結納税の適用開始前に生じた欠損金額は、親会社については連結納税制度において繰越控除できますが、子会社の繰越欠損金は切り捨てになります。
  

◆ 第7回改正(取締役会の決議による自己株式の取得 平成15年7月30日施行)

  
 ▲改正の要旨▲
  1 取締役会決議による自己株式の取得
  2 中間配当限度額の計算方法の見直し
  

《×》取締役会決議による自己株式の取得

  
 自己株式の取得については定時総会の決議を必要としていましたが、これでは柔軟な対応が行えず不便だとの理由から、取締役会決議による自己株式の取得が認められることになりました。ただし、取締役会の決議に基づく自己株式の取得は取引上などに公開されている株式に限ります。
旧条文新条文

 商法211条の3(自己株式の買受け)
 会社は取締役会の決議を以て其の子会社の有する自己の株式を買受くることを得

 商法211条の3(子会社からの自己株式の買受け)
 会社は左に掲ぐる場合には取締役会の決議を以て自己の株式を買受くることを得
 ◆1 其の子会社の有する自己の株式を買受くるとき
 ◆2 取締役会の決議を以て自己の株式を買受くる旨の定款の定ある場合に於て第210条第9項本文に規定する方法に依り自己の株式を買受くるとき
  

◆ 第8回改正(株券不発行制度の導入 平成16年10月1日 施行)

  
 ▲改正の要旨▲
  1 株券不発行制度の導入と株式振替制度
  2 譲渡制限のある会社の株式の不発行
  

《×》株券不発行制度の導入


 会社は株券を発行しないことを定款で決めることができることになります。商法227条(定款の定めによる株券の不発行)です。譲渡の対抗要件は、取得者の住所氏名を株主名簿に記載することで、名義書換は株主名簿に記載された株主と譲受人の共同申請によって行います。
 この条文は公開会社と非公開会社を区別することなく適用されます。しかし、公開会社が株券不発行会社になった場合は、上場廃止になってしまうため、公開会社の場合は、「株券等決済合理化法」の施行日(平成16年6月9日から5年以内の政令で定める日)に一斉に移行することが予定されています。
旧条文新条文

 新設

 商法206条の2(株式を発行しない場合の対抗要件)
 株券を発行せざる旨の定款の定ある場合に於ては株式の移転は前条第1項の名義書換を為すに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず
 2 前項に規定する場合に於ては会社は左の場合を除くの外前条第1項の名義書換を為すことを得ず
 ◆1 株主又は其の相続人其の他の一般承継人及株式を取得したる者が共同して請求を為したる場合
 ◆2 株式を取得したる者が株主又は其の一般承継人に対し名義書換の意思表示を為すべきことを命ずる確定判決を得て請求を為したる場合、第204条の3第1項の請求を為したる者が同項の株主に代金を支払ひたる旨を証する書面を提出して請求を為したる場合其の他の株式を取得したる者の請求に依る名義書換を為すも利害関係人の利益を害する虞なきものとして法務省令に定むる場合
 ◆3 会社が株式交換又は株式移転に因りて完全子会社となりたる場合其の他の請求に依らずして名義書換を為すも利害関係人の利益を害する虞なきものとして法務省令に定むる場合
 3 第1項に規定する場合に於ては株主は会社に対し其の株主に付株主名簿に記載又は記録せられたる事項を証明したる書面の交付を請求することを得


 定款変更によって株券の発行を廃止することにした場合は、商法351条(株券を不発行とする場合の通知)によって、「株券は無効となる旨を其の日の2週間前に公告し且株主及株主名簿に記載又は記録ある質権者には各別に之を通知することを要」します。
 
 この場合は、株券は当然に無効になり、回収の必要はありません。商事法務1707号は、このことについて次のように説明しています。「株券廃止会社への移行に当たって、株券を回収する必要はなく、株券を発行しない旨の定款変更の効力が生じた時点で、当該会社の既発行の株券はすべて無効になる。これは、株式会社から有限会社への組織変更において株券を回収しないことになっている(有限会社法64条〜66条)のと同様の取扱いである」。
  

《×》譲渡制限のある会社の株式の不発行


 株式の譲渡について取締役会の承認を要する旨の定めるのある会社については、株券不発行の定めがない場合でも、株主の請求がない限り、株券の発行は要しないことになります。商法226条(株券発行の時期)の但し書きです。
  

◆ 第9回改正(電子公告制度の導入 平成17年2月1日施行)

  
 ▲改正の要旨▲
  1 電子公告制度の導入
  2 電子公告調査機関を設置
  3 債権者保護手続の省略
  

《×》電子公告制度の導入と電子公告調査機関の設置


 現行の商法は、株式会社の公告について、官報、または時事に関する日刊新聞に限定していますが、これに加えてインターネットによる電子公告が認められることになります。

 会社は、電子公告の方法を採用することを定款で定め、電子公告を行うURLを会社登記簿に記載することになります。

 サーバーの故障や、ハッカーの書き換えなどの事態を想定し、公告の中断期間が掲載すべき期間の10分の1以下であるときは、速やかに公告中断の事実を付加して公告すれば良いとされています。また、公告が適法に行われたことを認証するために電子公告調査機関を設置することにしています。
旧条文新条文

 新設

 第5章 電子公告調査機関
 第457条(電子公告調査)
 この法律の規定による公告(第283条第4項の規定による公告を除く。以下この章において同じ。)を電子公告により行おうとする会社は、当該公告について第100条第6項(第147条において準用する場合を含む。)又は第166条ノ2第1項の規定により電子公告を行うべき期間中、当該公告の内容である情報が第166条第6項の状態に置かれているかどうかについて、法務省令で定めるところにより、法務大臣の登録を受けた者(以下「調査機関」という。)に対し、調査(以下「電子公告調査」という。)を行うことを求めなければならない。


 なお、貸借対照表については、電子公告の方法が既に認められていることから、全文の掲載を要求するとの現行の制度を維持し、電子公告調査機関の調査を受けることを要求しないこととされています。
  

《×》債権者保護手続の省略


 合併、会社分割、資本減少、準備金減少の債権者保護手続について、官報公告に加えて、新聞公告又は電子公告を行った場合は、会社分割の場合の不法行為債権者を除き、個別の催告を不要としています。会社分割の場合に、不法行為債権者への個別の催告を要求したのは、会社分割によって、資産を一方の会社に集中させ、債務を他方の会社に残してしまうとの濫用を考慮したためだそうです。

 
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