第2 会社法において確認しておくべき基本的事項

 ◆ 9個の矛盾点と「なぜ」を理解すれば会社法が理解できます。

 第1の矛盾 …… 9回の商法改正と会社法

 ◆ なぜ、会社法が必要だったのか。
 ・ それには時代背景についての理解が必要です。
 ・ 平成13年4月26日に小泉政権が成立した。
 ・ その時点での日経平均株価は1万4000円台だった。
 ・ 平成15年4月28日には日経平均が7603円まで下落した。
 ・ 日本長期銀行は外資しか引き受けず、日債銀はソフトバンクにしか売れない。
  …… 日本を経営する総理、あるいは官僚は寝られなかったのではないか。
  …… 日本の再建の手法が思い付かず、学者に再建を依頼した。
  …… 学者は、ロンドン市場を手本にした。
  …… 外資でも、オイルダラーでも、日本に投資をしてくれるカネが必要だった。

 結論 …… 不況期に、不況対策のために作られた法律です。
 影響 …… 三角合併など、外資の進出について財界はあわてふためいています。

 第2の矛盾 …… 有限会社が廃止された

 ◆ なぜ、有限会社を廃止したのか。
 ・ 最低資本金を廃止したのなら有限会社の廃止は無意味だったのではないか。
 ・ 有限会社の株式会社への取り込みは会社法を複雑にしただけではないか。
 ・ なぜ、有限会社を主人公にしたのか。
 ・ 大会社を主人公とすれば既存の知識で理解することができた。
  …… 商法と大きく変わった会社法というイメージが本音なのではないか。
  …… 矛盾と立案者の責任回避のための定款自治を採用したのではないか。
  …… 機関設計は、要するに株式会社、委員会等設置会社、有限会社で増えていない。
  …… 法律の法律としての機能(約款機能)は失われてしまった。


 結論 …… 法律を改正すること自体が、公務員の失業対策だったのだと思います。
 影響 …… 有限会社法理に従った株式会社が中小企業の基本形になると思います。
     …… 特例有限会社は旧有限会社法に従います。
     …… 法律の改正で当事者間の権利関係を変えてしまうのは不合理だからです。
     …… 中小企業は取締役会を廃止してしまいましょう(分掌変更通達)。

 第3の矛盾 …… 公開会社という会社の区分が採用された
         …… 取締役会を置かない会社を会社法の基本形にした

 ◆ なぜ、そのように会社を区分することにしたのか。
 ・ 譲渡制限の有無によって会社を2分する思想は存在しなかった。
 ・ 取締役会を置くか否かで区分すれば分かりやすかった。
 ・ 取締役会を置くか否かの区分では結局は株式会社と有限会社の区分になってしまう。

  基本形 《1》 取締役会が設置されない。
        《2》 取締役の員数は1人以上で足りる。
        《3》 監査役の設置は義務付けられない。
        《4》 取締役・監査役の任期規制がない(10年)。
        《5》 株主総会はいかなる事項についても決議することができる。
        《6》 株式の発行には特別決議を要する。
        《7》 株券は発行されない。

 結論 …… 会社法は変わったというイメージを作りたかった。
     …… 有限会社を主人公にしたのも同様の理由だろう。

 注意 …… 昭和41年よりも前に作られた会社には譲渡制限はありません。
     …… 一部の株式に譲渡制限を付けるのは中小企業では危険です(両会社の併存)。
     …… 少数株主が存在するのなら譲渡制限は付けるべきです。

 影響 …… 私達は公開会社ではない会社についての規制だけを理解しましょう。
     …… 公開会社の基本原則は証券取引法で、私達の基本原則は税法です。
     …… 大会社を前提にした会社法の解説書や講演会が役に立たない理由です。
     …… 会社法は、税法からアプローチすべき法律です。
     …… 取締役会を置く会社は株式会社で、置かない会社は有限会社と2分します。
     …… 会社制度の複雑さを解消する実務的な視点です。

 第4の矛盾 …… 合同会社を会社法で採用した

 ◆ なぜ、合同会社が導入されたのか。
 ・ 会社法部会の議論では存在しない制度でした。
 ・ 中小企業庁がLLCの採用を提案しました。
 ・ 米国における法人格の理屈は日本ほど厳密ではないようです。
 ・ 会社法は合同会社を採用し、かつ、持分会社にグルーピングした。

 影響 …… 資本金を必要とする制度と不要な制度が混ざり合ってしまった。
     …… 債務超過の合名会社を株式会社に組織変更することが可能になった。
     …… 資本金の存在意義について理論の再構築が必要になってしまった。
     …… 株式会社が合名会社の無限責任社員になれることになってしまった。
     …… 商業高校の一年生でも知っている理屈を、なぜ、議論しているのか。
     …… 資本の部に矛盾が生じてしまったことについての立案担当者の言い訳。

 注意 …… 不動産管理会社として利用することができます(実際には利用しない)。
     …… 合同会社を資本の部の脱法に利用することができます(後に具体的な事例)。

 結論 …… 実務家が利用すべき会社法のバグの一つです(後に具体的な事例)。

 第5の矛盾 …… 種類株式にスポットライトを当てた

 ◆ なぜ、種類株式にスポットライトを当てたのか。
 ・ 種類株式は商法の時代から存在したが利用されなかった。
 ・ 商法の時代の種類株式には株主平等との関係による自制心があった。
 ・ 無議決権株式は配当優先株式に限るなどの自制心(14年4月に自制心を放棄)。
 ・ 金庫株制度では持ち合い株の解消ができなかったのではないか。
 ・ 企業は自らを商品化し、株式をファイナンスの目的にした。
   1号 剰余金の配当                   …… ファイナンス
   2号 残余財産の分配                  …… ファイナンス
   3号 株主総会において議決権を行使することができる事項 …… 企業支配
   4号 譲渡制限株式                   …… 企業支配
   5号 取得請求権付株式                 …… ファイナンス
   6号 取得条項付株式                  …… 企業支配
   7号 会社が株主総会の決議によって全部を取得すること  …… 倒産法制
   8号 特定の事項について、その種類株主総会の決議が必要 …… 企業支配
   9号 種類株主総会で取締役、監査役を選任すること    …… 企業支配

 影響 …… 株主の中に所有者と投資家が混在することになった。
     …… 企業支配を弱める株式と、強める株式が必要になった。
     …… 株主は、企業の所有者ではなく、投資家になってしまった。
     …… 投資家なら、対価を支払えば追い出すことが可能という理屈が採用された。

 注意 …… 種類株式の利用は、まだ、危険です(取得条項種類株式と社債類似)。
     …… 種類株主総会の決議が必要になります(社員持株会)。

 結論 …… 種類株式の利用は、様子を見てからにしましょう。

 第6の矛盾 …… 全部取得条項付種類株式という株式が採用された

 ◆ なぜ、全部取得条項付種類株式を採用したのか。
 ・ 会社法の検討段階では債務超過会社に限っていた。
 ・ 全部取得条項付種類株式は100%減資の手法として議論されてきた。
 ・ 条文化の技術として債務超過会社に限定することはできなかった。

 影響 …… 法律上の矛盾を生じさせてしまいました。
     …… 少数株主の追い出しが可能になってしまいました。
     …… 課税関係に注意すれば中小企業でも使えます(弟の追い出し)。

 注意 …… 中小企業で確保しておくべきは3分の2の株式です(定款変更)。

 結論 …… 会社法には権利の濫用という思想は無くなってしまったのでしょうか。
     …… 株主を所有者ではなく、投資家と位置付ける思想と整合させました。

 第7の矛盾 …… 対価の柔軟化が認められた

 ◆ なぜ、対価の柔軟化を認める必要があったのか。
 ・ 対価の柔軟化とは、どのようなことなのか。
 ・ 三角合併とは、どのようなことなのか。
 ・ 外国株を利用する対価の柔軟化は世界の常識です。
 ・ 対価の柔軟化による合併の手法は円満的な買収です。
 ・ 財界は三角合併の制限を主張しています。

 影響 …… 株券を印刷すればトヨタを買収することが可能になりました。
     …… 対価の柔軟化は三角合併を可能にしました。

 注意 …… 対価の柔軟化では課税所得が発生します。
     …… 対価の柔軟化では譲渡損失の計上が認められます(後に説明)。
     …… 非適格組織再編成がウルトラテクニックに使えます(後に説明)。

 結論 …… 不況期に作られた税法が好況期に登場しただけです。
     …… 法務担当者に対応を委せておいた失敗でしょう。

 第8の矛盾 ……  会社計算規則は誰にも読めません

 ◆ なぜ、日本で10人しか読めない会社計算規則が完成したのか。
 ・ 米国における企業統治の背景から企業結合会計が登場したのではないか。
 ・ 簿価承継では合法的な粉飾が可能になってしまうというのが理由だろう。
 ・ 日本の会計士は、それを理解しないまま日本独自の企業結合会計基準を作った。
 ・ 文書を書いたことのない会計士を立案作業に携わらせた失敗です。
 ・ 仕訳が説明してあるだけなのですが。

 影響 …… 日本の企業結合会計は、既に、世界では通用しなくなっています。
     …… 会社法と会社計算規則のねじれ現象が生じてしまいました。

 結論 …… 会社の社長どころか、弁護士にも理解できない法律が完成しました。
     …… 社長と税理士は、知らないうちに犯罪者です。

 第9の矛盾 …… 自己株式と資本(純資産)の部が改正された

 ◆ なぜ、自己株式は資産ではなく、純資産の部のマイナスになったのでしょうか。
 ・ 自己株式が有価証券から、純資産の部のマイナスになりました。
 ・ 自己株式の取得に配当所得課税が行われることに変更はありません。
 ・ 自己株式の低額譲り受けについては会社に受贈益課税が行われるのか(後に説明)。

 影響 …… 自己株式の譲り受けでは、大会社も失敗しています。
     …… 自己株式の取得という処理は、中小企業でも発生します。
     …… 相続株式の買い取りなどは中小企業でも必要とする知識です。

 結論 …… 自己株式と資本の部は、会社法と法人税法の中心的な改正項目です。

 ◆ 会社法は税理士が専門家になる法律です

 ・ なぜ、会社法は税理士が専門家になるのか。
 ・ 弁護士は会社法は使いません。
 ・ 会社法は、税法から理解するのが便利な法律です。
 ・ 会社法を、会社法として理解しても、無内容です。
  …… 会社法の「なぜ」を理解すれば、会社法、それに税法の理解は容易です。
  …… 会社法の「矛盾」が実務家が利用すべきツールです。
  …… 税法を理解するためには、会社法の理解が不可欠です。
  …… 会社法を守備範囲から除外しまったら、税法知識の差異は無限に拡大します。

 結論 …… 会社法と平成18年度税制は税理士業界の為に行われた公共事業です。