講師の紹介

(司会)
 夏季特別研修の最後の講義としまして、弁護士、公認会計士の関根稔先生を講師にお招きしまして、「他人の失敗から学ぶ税法 10件の事例を参考に」という講題でお話をいただくことになっております。

 講義に入る前に、先生の略歴等をご紹介させていただきます。先生は27期の司法修習を終了後、東京弁護士会に弁護士登録をされておりますが、同年に公認会計士としても登録をされております。東京経済大学講師、東京弁護士会税務特別委員会委員長、日弁連弁護士税制委員会委員長、日本税法学会常務理事等をご歴任されておられます。また、税法関係の著書、講演等多数ございまして、弁護士会における税法関係の第一人者として活躍中の先生でございます。それでは、関根先生、お願いいたします。

(関根)
 ご紹介いただきました関根です。後先のことを考えずにレジュメを大量につくってきましたので、早速始めさせていただきます。

第1章 他人の失敗から学ぶ税法

 「他人の失敗から学ぶ税法」というタイトルですが、私自身もよく失敗していますので、自分の失敗から学ぶ税法でもあるわけです。皆さんの中には、判例雑誌を購読していても、税法の判決は読まないと決めている先生方がいると思います。「僕は税務訴訟なんてやらないよ」ということで、税法関係の判決は読まないと決めている方です。私も読まないと決めている判決があります。

 例えば、船の衝突事件などの判決は読みません。でも、税務訴訟の判決はぜひ読んでみてください。というのは、税務訴訟というのは行政訴訟の判決ではなくて、民事事件の失敗事例なわけです。私は、税法を一応専門と自称していますけれども、税務訴訟になることを想定した税務処理をしたことはありません。税法に限らず、どのような処理でも、訴訟を前提にした処理をする弁護士は少ないと思います。事件にならないように気を配った処理をしたのだけれども、失敗してしまい、税務訴訟を起こさざるを得なくなるわけです。つまり、税務訴訟は、民事事件の失敗事例なのです。

 では、どんな場合に失敗するのか。これには二つの原因があります。一つは知識不足で、もう一つは税法特有の考え方です。税法は、通常の法律の常識と異なる特有の考え方をします。さて、本日の話の進め方ですが、知識の方を2時間で習得していただくというのは無理な話です。しかし、税法の特有の考え方でしたら、2時間でマスターすることも出来ます。そのような次第で、本日は、他人の失敗事例から学ぶ税法の特有の考え方を皆さんにご説明させていただきたいと思っております。

 どのように税法の失敗事例を取り上げるかということで、きょうは民法の編別といいますか、民法総則から最後には親族相続のところまでで、争われた事例を幾つか拾い上げてきました。税法の問題も時代によって変わります。バブル前の税法と、バブル中の税法と、バブルの終わった今の税法では、微妙に問題になる税法が変わっています。今日は、いま現在、問題になっている新しい事例を拾い上げてきたつもりです。

第2章 民法総則・取得時効

▲説例▲ Xは所有権移転登記請求の訴訟を提起し、平成2年11月27日に次の内容の和解を成立させた。《1》本件土地につき、原告が所有権を有することを確認する。《2》相手方は、原告に対し、本件土地につき、昭和26年7月31日時効取得を原因とする所有権移転登記手続きを行う。《3》原告は相手方に対し、和解金として金270万円を支払う。そして、弁護士には成功報酬を支払った。静岡地裁平成8年7月18日判決(国税速報平成9年9月25日号)


● 取得時効についての課税

 取得時効についての課税関係です。課税庁は、Xに対して、時効により財産を取得したとの内容の課税処分を行いました。Xは課税処分の取消を求めて税務署長を訴えたわけですが、その訴訟における結論は次のとおりです。

 土地を時効取得することによってXは利益を受けた。Xは利益を受けたのだから所得税を課税しなければならない。所得税は所得を十種類に分類しており、利子所得、配当取得、給与所得、事業所得などに分類しているが、取得時効により土地を手に入れるとの所得は、この中の一時取得に該当するというわけです。

 Xは、では、仮に、一時所得であることを認めるとしても、弁護士費用は一時所得の経費として認めて欲しいと主張しました。取得時効を確認した訴訟において、Xは、弁護士に対して報酬を支払っています。弁護士に訴訟を委任し、その訴訟で取得時効が認められ、土地を手に入れたのですから、弁護士に支払った報酬は一時所得の必要経費になるとの主張です。しかし、それは認められませんでした。

 裁判での争点ですが、納税者は一時所得の発生時期を争いました。取得時効により一時所得が発生することを認めた上での主張です。取得時効により一時所得が発生するとした判例が幾つか紹介されていますが、それらの訴訟では、所得の発生時期については四つの考え方が議論されています。

 起算日説、時効完成日説、援用日説、判決確定日説の四つです。起算日説の根拠は民法144条です。「時効の効力は其起算日に遡る」とされていますが、土地を占有し続けて20年です。そのような事実が存在するから時効取得が認められたわけです。したがって、時効の効果が起算日に遡れば、時効による土地取得の効果は20年前に遡ってしまいます。

 20年前に所得が発生したことになるのなら税務署は課税できなくなります。税務署の課税権には3年、5年、7年という期間制限があります。過少申告についての更正処分なら3年、無申告についての決定処分なら5年、悪質な脱税事例なら7年です。その期間が経過すれば、課税権自体が除斥期間によって消滅してしまうわけです。

 次に、時効完成日説です。これは起算日から10年を経過した日、あるいは20年を経過した日です。それが時効の効果が発生する日だとする最高裁判決があります。しかし、起算日から20年が時効の効果が発生する日だとすれば、それは課税権が消滅した日になってしまうわけです。何しろ、占有の起算日から39年を経過しての和解です。

 しかし、課税庁は援用日説を主張しました。時効を援用した日に課税所得が発生するとの理屈です。実務家は判決確定日説を主張しています。時効を援用する内容証明郵便を発信しても、それで裁判が勝てるかどうかは分かりません。時効を援用した段階で所得税の申告書を提出すべきと言っても、それは無理です。

 それに、時効を援用した段階で、課税庁がその事実を把握し、課税処分を行うことも無理です。だから、裁判確定日説でなければ実務は対応できないと実務家は主張します。

 このように四つの考え方があるのですが、ただ、課税の実務と判決は援用自説に確定しています。古い裁決例ですが、その裁決で時効援用時説を採用しているため、それが前例になっています。

 課税処分についての不服は、まず、税務署長に異議申立をして、その次に国税不服審判所に審判を申し立てる。その次が税務署長を被告とする税務訴訟です。その国税不服審判所の裁決書で時効援用日説を採用しています。これが前例になり、その後の判決は全て援用日を一時所得発生の日としています。本件事案である静岡地裁平成8年7月18日判決も、時効援用日に取得時効の利益が発生するとの結論です。

● 時効訴訟に要した弁護士費用

 取得時効の援用日に利益が発生するのだったら、時効取得を主張して、そのために訴訟手続を行った弁護士費用は必要経費になるはずだとの主張については、それは認められないとの結論です。

 判決が判断するところでは「弁護士費用等は本件土地の時効取得そのもののため又はこれに伴い直接要した費用とまでは言うことができない」ということです。

 裁判所に言わせれば、裁判外でも時効を援用すれば、そこで取得時効の効果は生じてしまう。だから、その後に弁護士が処理したのは、時効取得の効果が生じた上での所有権の移転登記を求めるための行為にすぎない。それは利益を発生させるための手続ではないとの判断のようです。

● 取得時効による利益の発生はあり得るか

 これが時効取得についての判決の結論です。ただ、ちょっと立ち止まって考えてみると、取得時効によって利益が発生すると思いますか。取得時効は、もともと自分の所有だったとの事実を確認する制度ではありませんか。確かに、他人の所有物を自分のものにすることもできますが、自分の所有物であるが、それが証明できないために時効を主張する制度でもあるわけです。

 昔、父親が土地を購入し、それから20年、あるいは30年が経過した。そして父親が死亡した。そうしましたら、以前の所有者、あるいは以前の所有者の遺族が訪ねてきて、あなたに土地を売却したことはないと主張し、訴訟を起こしてきた。そのような場合です。原告が対象物件の所有者であったことを立証するのは簡単です。不動産登記簿で立証できるわけです。

 そうしましたら、被告は原告から買い受けた事実を立証しなければならない。売買契約書や領収書があれば良いのですが、20年も30年も前の売買契約です。はたして契約書が保存してあるのか。当時者間では登記の推定力は使えません。そうしましたら、残念ながら、残された主張は取得時効です。

 そして、取得時効を主張して勝訴判決を得たら、税務署から、あなたは他人の土地を時効を主張して手に入れたのだから、一時所得として、所得税を申告しなさいと言われる。これは納得できない結論です。

● 消滅時効による利益の発生はあり得るか

 消滅時効の場合はどうでしょうか。取得時効についての理屈を消滅時効にも広げれば、消滅時効によっても利益が発生することになります。父親が死亡して10年も経過した頃、叔父さんが訪ねてきて、実は貴方のお父さんには5000万円を貸してあるのだと主張し、借用書を持参する。でも、相続人は、父親からはそのような話は聞いていない。

 そのような場合でも、今の要件事実裁判では相続人が敗訴します。父親が署名押印した借用書を提出すれば、原告が5000万円を融資した事実は立証されてしまう。被告は借りていない事実か、契約書自体が通謀虚偽表示であるとの事実、または、融資金を返済している事実を立証しなければならない。

 しかし、そんな立証は不可能です。なにしろ、父親からは何も聞いていないわけです。そうしましたら、相続人は消滅時効を主張する以外にない。そして、消滅時効で裁判には勝訴した。そうしましたら、税務署が来て、あなたは消滅時効で債務を免れたのだから、一時所得課税をしますと所得税の申告書を持参する。そんな理屈は納得できません。

 私は、取得時効に対して課税をするのは間違いだと思いますし、まして、消滅時効に課税するのは間違いだと思います。ただ、幸いなことに消滅時効に課税した実務例は紹介されていません。課税するような事例がないのか、あるいは消滅時効については課税しないのが実務の運用なのかは分かりません。

 しかし、取得時効については援用時に課税するというのが実務であり判例です。ただ、これは言葉に踊らされているのではないかと思います。取得時効という言葉の意味から、時効による取得との概念が生じ、そこで何かを取得したような気分になってしまう。これが時効をめぐる課税関係ということです。

● 教訓

 ここでの教訓です。裁判所での時効の援用には注意が必要です。時効を援用したときには、依頼者には、時効で勝訴したときには一時所得課税が行われると説明しておくことが必要です。そうしないと、弁護士と依頼者にとっての思わぬ課税という結論になり、勝訴したことによる弁護士に対する感謝の気持ちは半減してしまいます。

 あるいは、取得時効で和解するのだったら、過去の売買契約の事実を確認する方が良いかもしれません。つまり、20年前に買い受けているとの事実を確認するわけです。そして、ハンコ代として和解金を支払う。20年前の買い受けなら課税問題は生じません。

 和解ができない相手方だとしたら、時効を援用してから3年経過し、あるいは5年を経過してから判決を確定させた方が良いかもしれません。国の課税権は法定申告期限から3年の経過で第1回目の除斥期間になります。次が5年目です。そして7年目にも除斥期間が到来します。つまり、課税権が失われた後に判決が確定したのなら、税務署も、一時所得課税は出来ないわけです。

 では、どんな場合が3年かといいますと、弁護士のように所得税の申告書を提出している場合です。この場合は、一時所得の計上漏れは、過少申告として更正処分の対象になります。そして、更正処分は法定申告期限から3年内に限り行えるわけです。

 では、5年は何かといいますと、所得税の申告書を提出していない場合です。その人が一時所得の申告を怠ったら、それは無申告であり、決定処分が行われるわけです。決定処分は法定申告期限から5年間は行えます。

 ですから、すごく嫌らしいことを考えたら、時効の援用をした年度には所得を申告しておくことです。しかし、取得時効の援用について所得税を申告することは困難です。なにしろ、その訴訟で勝てるか否かは分かりません。だから、ほかの小さな所得を申告しておくわけです。そうすれば、その年度の法定申告期限から3年の経過で課税権は除斥期間が満了します。

 その後、地方裁判所、あるいは高等裁判所で3年間の訴訟をしていれば、判決が確定した段階では、取得時効の援用に対する課税は行えないことになるわけです。尤も、弁護士が脱税や過少申告を教唆するのは問題です。そのために悪質な脱税だと認定されてしまったら、課税権の除斥期間は7年になってしまうかもしれません。これを本件事例の教訓にさせていただきます。

第3章 物件・所有権移転の時期

▲説例▲ ゴルフ場を経営する会社の破産管財人が、ゴルフ場の造成工事と建物建築工事の引き渡しを受けたものとして課税仕入れに係わる消費税の還付申請をした。還付請求をした税額は2億6005万円。これに対して税務調査があり、課税仕入れの要件を欠く(引き渡しが未了)との認定を受け、結局、破産管財人は還付税額を2993万円に減少させた修正申告書を提出することになった。2億6005万円の段階では、還付金の還付は実際に行われず、実際に資金が動いたのは2993万円。ところが、課税庁は減少額について3449万円の過少申告加算税を課税した。破産管財人は現実に金銭が動かない本件のような場合に過少申告加算税を課税するのは間違いだと訴えた。東京高裁平成9年6月30日(国税速報平成11年6月24日)


● 消費税の計算方法

 消費税の理屈を説明させていただきます。資産を1000万円で売却する場合は、売値に消費税相当額を加えて1050万円で売却します。その年度に別の資産を購入しており、その買値が600万円で、5%の消費税相当額を加えて630万円を支払っているとすれば、消費税の計算では、お客さんから50万円を受け取り、仕入れ先には30万円を支払ったことになります。ですから、20万円が本人の預かり金になり、これを税務署に対し消費税申告納税額として納めることになるわけです。

 ただ、消費税の計算は法人税等の計算とは異なります。法人税の計算では、売却した商品について、その仕入れ値を対比します。1000万円で売却した商品の買値が700万円なら、譲渡益300万円が計上されるわけです。

 しかし、消費税の計算では、そのような個別の対応は考えません。要するに、本年中の全ての売上と、本年度中の全ての仕入れを対比するわけです。仕入れた商品が本年度中に売却されたか否かは考えません。

 その意味では、費用と収益の対応ではなく、消費税は収入と支出の対応です。つまり、高額な資産、たとえば、大規模な工事を発注して引き渡しを受けた場合は、それが一時の損金として計上できない固定資産の購入である場合でも、仕入れに際して支払った消費税相当額について還付請求ができることになるわけです。

● 破産管財人のミス

 本件事例の場合は、何しろ倒産してしまったゴルフ場です。今期の売上は1億6274万円しかありませんでした。これに対し、購入した資産は88億3100万円です。クラブハウスを建築したり、ゴルフ場を造成した工事代金です。

 消費税は、法人税等と異なり、収入と支出の対応ですから、本件の場合は、1億6274万円の収入に対して、88億3100万円の支出との関係になるわけです。

 1億6274万円の売上に対しては488万円の消費税相当額を受け取っている。これは顧客からの預かり金になるわけです。そして、88億3100万円の工事を発注し、2億6493万円の消費税相当を加えて代金を支払う。

 つまり、488万円の消費税相当額を顧客から預かり、2億6493万円の消費税相当額を仕入先に支払った。だから、消費税を払い過ぎたということになるわけです。その差額の2億6005万円を払いすぎの消費税として税務署に還付の請求をします。

 破産管財人はこの計算どおりに考えたわけです。自分は破産会社の破産管財人になった。会社の収支を調べてみたらこういう売上になっていて、こういう仕入になっている。仕入というと商品の仕入のようですが、消費税法では本社ビルの建築を発注した場合も仕入です。消費税法上は、全ての資産と役務の購入が課税仕入と理解されます。

 ところが、課税庁の考え方は違っていました。どのように違うかというと、まだ88億円、あるいは80億円ぐらいかもしれませんけれども、それは課税仕入れの要件が整っていないというわけです。確かに工事の発注をしたけれども、その工事は完成していない。だから、工事業者から引き渡しを受けていないというわけです。

 先ほど資金繰りのような概念といいましたけれども、本当の資金繰りではなく、資産、あるいは役務の引き渡しを受けたか否かが判定要素になります。引き渡しを受けていれば課税仕入です。代金が支払われているか否かは関係がありません。未払いであっても引き渡しを受けていれば課税仕入になります。

 課税庁から引き渡しを受けていないと指摘されてしまった。なぜ、破産管財人が勘違いをしたかというと、破産管財人は破産会社に乗り込み、会社から全ての資産の引き渡しを受けたわけです。

 たぶん、いろいろなところに公示札を貼って歩いたと思います。建物にも公示札を貼り、建築途中の設備にも公示札を貼って歩くわけです。これは破産管財人が管理していますとの公示です。そのように、会社から物件の引き渡しを受けたのだから、物件の引き渡しは完了したと勘違いしてしまった。そして、課税仕入に当たるという理解のもとに消費税の還付請求をしたわけです。

 ところが、課税庁が指摘するには、あなたは会社から資産の引き渡しを受けたけれども、会社自体が工事会社からまだ資産の引き渡しを受けていない。工事会社から会社自体が引き渡しを受けていない資産について、破産管財人が会社から引き渡しを受けられる理由はない。指摘されてみれば確かに税務署の言うとおりです。そこで管財人は納得し、2億6005万円の還付請求を2993万円に減額する修正申告書を提出したわけです。

 ところが、その後、課税庁から2億6005万円と2993万円の差額に対して過少申告加算税を課税するといわれてしまったのです。3449万円の過少申告加算税です。なお悪いことに、過少申告加算税は財団債権だというのです。つまり、破産債権に優先して納めなければいけない債務です。

● 法人税や所得税とは異なる概念

 消費税の概念は法人税や所得税とは異なります。3%の消費税が導入されたころは、私も、消費税は無視してきました。好きな税法ではありません。それに3%ぐらいならどうってこともありません。でも、これが5%になったら、ちょっと無視できない金額になりました。この事例も2億6000万円などという大きな金額が消費税になるわけです。

 この判決を読んで、消費税もきちんと勉強しておかなければ危険だと思ったときに、また、新しい判決を見つけました(東京地裁平成9年8月8日判決 判例タイムズ九七七号104頁)。ある人が貸家に出していたビル貸室を明け渡してもらうことにしました。そして立退料を支払ったわけです。3億円の立退料です。そして、これを課税仕入として、消費税相当額1500万円を消費税の申告額から控除しました。しかし、それが認められないというわけです。

 なぜ、認められないかというと、借家していた人に対して支払う立退料は、借家権消滅の対価であり、資産の譲渡の対価ではないという理屈です。消費税は、資産の譲渡、あるいはサービスの提供に対して課税するものだから、消滅の対価については消費税は課税されない。だから、借家人に対して支払った立退料には消費税相当は含まれておらず、従って、その支払いは消費税の仕入れ税額控除の対象にはならないとの理屈です。
 

▲参考▲
 消費税基本通達5−2−7(建物賃貸借契約の解除等に伴う立退料の取扱い)

 建物等の賃借人が賃貸借の目的とされている建物等の契約の解除に伴い賃貸人から収受する立退料(不動産業者等の仲介を行う者を経由して収受する場合を含む。)は、賃貸借の権利が消滅することに対する補償、営業上の損失又は移転等に要する実費補償などに伴い授受されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当しない。

 (注)建物等の賃借人たる地位を賃貸人以外の第三者に譲渡し、その対価を立退料等として収受したとしても、これらは建物等の賃借権の譲渡に係る対価として受領されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当することになるのであるから留意する。
 

 これが法人税や所得税でしたら、貸主が立退料を支払った場合でも、第三者が立退料を支払って借家権を手に入れた場合でも、それを区別するような考え方はしません。でも、消費税は考え方が違うわけです。それを区別して考えなければならない。

 復習しますと、消費税は損益概念ではなく、資金繰りに近い概念です。ただ、単純に資金繰り概念と考えるのではなく、資産の譲渡の対価としての資金繰りか否かを考えなければならない。所得税や法人税とは全く異なる税法だと考えないと混乱してしまいます。

● 還付請求をした場合でも過少申告加算税

 事例に戻りまして、還付請求額を減額修正した場合にも過少申告加算税が課税されるのか。つまり、2億6005万円の還付請求をして2億6005万円が銀行に振り込まれ、その後に税務調査を受け、この2億6005万円の還付は間違いだということが判明し、これを返却することになった。そのような場合なら過少申告加算税が課税されてもやむを得ないかもしれません。

 しかし、管財人は、2億6005万円の還付請求をしたが、税務署の調査を受け、それが間違いだということで修正申告書を提出して、還付請求額を減額したわけです。つまり、書面上の訂正に過ぎない。それでも過少申告加算税を課税するというのが税法なのです。

 ここでちょっと脇道にそれて、実務の知恵です。不確かな事案についての申告書を提出しなければならないことがあります。たとえば、相続税の事案で、相続土地の評価は実際には3億円なのだけれども、税務署は多分5億円の評価と認定するだろう。つまり、相続税の路線価で計算すれば5億円になってしまうが、しかし、不動産鑑定士に鑑定させれば3億円だという土地について相続税の申告書を提出する場合です。

 このような場合に、税務署に戦いを挑まずに、路線価に従って5億円の評価額による申告をすれば、それはそれで良いのですけど、でも、本当は3億円でしか売却できないものを5億円の評価として相続税を納めることは無駄だと考えたら、税理士は次のような処理をします。

 評価額5億円の相続税申告書を提出し、その後に3億円の評価額に減額すべきとの更正の請求をするわけです。といいますのは、評価額3億円として相続税を申告した場合に、5億円との課税処分が行われ、異議申立の手続きなどを経て、最終的に4億円が正しいとの結論が出た場合でも、3億円と4億円の差額に対して過少申告加算税が課税されてしまうからです。

 この理屈には疑問があります。納税者が3億円と申告し、課税庁は5億円の課税処分をした。しかし、4億円で結論が出たわけです。つまり、納税者も1億円の間違いなら、課税庁も1億円の間違いです。ところが、残念ながら、税法の解釈では、課税庁にはペナルティーは課されません。納税者だけペナルティーを払わなければならないわけです。お上に歯向かった罰です。

 過大申告をした場合でも、法定申告期限から1年以内であれば更正の請求をすることが可能です。破産管財人も、仕入れ税額控除が認められるか否かに不安があれば、そのような処理をすれば良かったわけです。しかし、2億6005万円の還付請求をしてしまったために、2993万円の過少申告加算税が課税されることになってしまった。

● 帳簿の記載と帳簿の不提示

 消費税の怖さは他にもあります。帳簿の記載と帳簿の不提示です。消費税は怖いと思うのがここです。簡易課税を選択している場合は問題ありません。多くの弁護士は簡易課税だと思います。でも、実額での申告、つまり、課税売上と課税仕入を実額で計算して申告しようとすると、請求書や領収書を保存しておくことと、帳簿に取引先名を記載することなどが要件になってきます。
 

▲参考▲
 消費税法30条(仕入れに係る消費税額の控除)

 7 第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保有がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
 

 請求書や領収書を保存していなかったり、帳簿に記載していなかった場合は、仕入税額控除は認めません。請求書を保管し、帳簿に記載している場合というのは、税務署が調査に来たときに素直に帳簿などを見せた場合との判例が出ています。素直に見せないときは帳簿の記載がないものとみなされてしまうわけです。

 税務調査に苦情を言い、税務職員が、「見せてくれないなら帰るよ」ということで帰ってしまうと、その後に裁判になってから、きちんと記帳していましたと帳簿を提出してもダメです。課税仕入れは認めてくれません。

 そうすると、例えば4億円で仕入れて5億円で売却するのが商売だとしても、四億円の課税仕入は認めないことになる。5億円の売上があり、仕入はゼロとして消費税額が計算されるわけです。

 これは怖いことです。法人税や所得税では、例えば法律事務所が2億円を売上げたという場合に、帳簿を付けていなかったとしても、税務署が調査に来て、「先生、2億円を売上たのだから、先生の今年の所得は2億円だよ」ということにはなりません。

 人件費を支払い、賃借料を支払い、さらには電話料などの経費を支払っていることを認めてくれます。ですから、2億円に対して、通常でしたら1億5000万円の経費が必要なので、今年の所得は5000万円だとの課税にしてくれます。でも、消費税は違います。帳簿を見せなかったら、2億円が課税売上で、課税仕入れはゼロ。つまり、2億円に対して5%を乗じた金額を消費税として納めるとの課税処分が行われてしまいます。

 先生方が消費税の調査に立ち会うことはないと思うのですけれども、ちょっと税務職員が生意気だということで腹を立てて、そんなら帳簿なんか見せないといったら大変なことになるわけです。これが消費税のもう一つの怖さです。

● 教訓

 消費税は危険です。

第4章 債権総論・詐害行為取消権

▲説例▲ 昭和60年3月以降休業していたX社は、62年1月に所有不動産を10億7000万円で売却することになった。そして、62年12月の法人税申告では、租税特別措置法65条の8の買換特例制度を利用して所得ゼロの申告をして、63年十二月において、特別勘定を取り崩して益金に算入し、法人税7844万円とする納税申告を行った。ところが、X社は、譲渡代金をT銀行に1億1000万円、D信金に6億5786万円、親会社に2億6200万円とおのおの弁済してしまったため無資力となり、法人税は滞納となった。このため、国は、Xの親会社に対する弁済は詐害行為に当たると主張した。横浜地裁小田原支部平成7年9月26日判決(国税速報4886号10頁)


● 国も債権者です

 話が込み入っていますので、簡単にしますと、次のような事案です。親会社は子会社に対して10億円を融資しているわけです。そして、子会社は10億円相当の土地を所有しています。ですから、この土地を売却して全てを親会社に対する借金の返済として支払ってしまえば、親会社は貸倒を被らなくて済みます。

 でも、10億円の土地を売却すると法人税が課税されるかもしれない。例えば、相当前に購入した土地であり、帳簿価額は3億円だったという場合に、ここで10億円で売却すれば7億円の利益が発生するわけです。

 そうすると、地方税も含めて3億円を超える納税額です。厳密には繰越欠損金などの問題がありますから、それほど単純な話ではありませんけれども、ここでは相当額の法人税が発生するとします。

 そして、土地を売却して10億円を手にした直後に、親会社に対し借金の返済として10億円を支払ってしまう。子会社には資金は残りません。翌年の決算期に法人税を申告しますが、納税資金が一銭もありませんということで納税しない。そのような事例です。

 そうしましたら、判決では、親会社に対する弁済が詐害行為取消権に該当するということで、親会社は税務署が起こした裁判に負けてしまいました。でも、この事例の場合は、親会社への債務弁済の時点では租税債務は発生していないわけです。帳簿価格3億円の不動産を10億円で売却すれば、7億円の利益が計算されますが、その段階では租税債務は発生していません。つまり、その後に給料を支払うかもしれないし、別の商売を始めるかもしれない。そして、もっと儲けるかもしれないし、損失を計上するかもしれない。

 要するに、決算期が来て初めて納税額が計算され、そこで法人税を申告することによって具体的な租税債務が確定するわけです。だから、土地を売却した段階では租税債務は影も形もない。その段階で売却代金の全額を親会社に返済してしまったのですから、発生していない租税債権を害することはあり得ないのです。

 しかし、裁判所は、親会社への弁済の当時、いまだ発生していない債権であっても、発生の基礎となる法律関係や事実関係が生じ、債権の発生も高度の蓋然性を持って見込まれる場合には、それも被保全権利になるという判断をしています。

 この会社の場合は、不動産を売却して、廃業してしまった。だから、これ以降に大きな利益や損失が発生するはずがない。だから、土地を売却した時点で、その譲渡益を基礎とする納税額はそのまま確定するはずだ。そういう権利を侵害したのだから詐害行為取消権に該当するとして、親会社は国に敗訴することになってしまったわけです。

● 所得計算の方法(三つの所得計算)

 このごろ時代が変わりまして、会社を閉鎖するとか、倒産という話が多くなっています。そこで、通常の所得計算と、解散や倒産した場合の所得計算方法の違いを説明させていただこうと思います。
 

▲参考▲
 通常の事業年度   益金−(損金+繰越欠損金)=課税所得
 解散後の事業年度  益金−(損金+繰越欠損金)=課税所得(仮納税額)
 清算結了事業年度  残余財産−資本等の金額=課税所得  
 

 通常の事業年度でしたら、益金から損金と繰越欠損金を差し引いた残額が課税所得になります。これは弁護士の場合も同じです。本年度中の儲けから本年度に発生した費用を差し引いて課税所得を計算します。そして、それに税率を乗じて納税額を計算する。これが通常の事業年度の所得計算です。

 ところが、会社を解散した場合には、そのような所得の計算はしません。解散後の事業年度の所得計算という特別の計算をします。ただ、それは仮計算であり、最終的には、清算結了事業年度の所得計算に吸収されます。そこで、清算結了事業年度の所得計算を先に見ていただきますと、残余財産から資本等の金額を差し引いた残額を課税所得にしています。
 

▲参考▲

 法人税法93条(解散による清算所得の金額の計算)

 内国普通法人等の解散による清算所得の金額は、その残余財産の価額からその解散の時における資本等の金額と利益積立金額等との合計額を控除した金額とする。
 

 これはどういう考え方かと言いますと、本来は、税金は、一生の利益に対して課税すべきものなのです。私が生まれて、生きて、死ぬまでの所得を合計し、それに税率を乗じるべきなのです。つまり、おぎゃあと生まれたときに手を開けてみたら10円玉を握っていた。私の財産は10円なわけです。それから70年の人生を生きて、最後に死ぬときに1億円を持っていた。だから、1億円から10円を差し引いたのが、私の一生の稼ぎになるわけです。途中で飲み食いしたものは所得の処分ですから、正しくは、途中で飲み食いした分を所得に加える必要もあります。

 法人の場合も同じです。最初に1億円の資本金で会社を設立し、解散した段階で財産を計算してみたら100億円になっていた。そのような場合は、99億円が会社の儲けです。途中で利益の処分として配当をしますので、正しくは、株主に配当として支払い済みの金額も残余財産に加える必要があります。

 そのような一生の計算をするのが正しい課税所得の計算です。でも、そんな課税をしようとしたら、企業は永遠ですから、何時になっても国は税金を取り立てることができません。そこで、人為的に1年ずつ区切って所得計算をすることにした。それが期間損益計算であり、その計算方法が収益から費用を差し引く利益計算です。これが通常の事業年度の所得計算です。

 でも、解散したら、通常の事業年度ではなくなるのだから、解散した後は、一生計算を行うということになるわけです。一生計算なら、残余財産から最初に出資した資本等の金額を差し引いた残額が課税所得になります。

 一生計算は、資産を換金し、借金を返済した段階での会社の残余財産額の計算です。3億円の預金が残ったという場合なら、そこから資本等の金額を差し引いた残額が清算所得になる。なぜ、資本等の金額を差し引くかといったら、それは株主が最初に払い込んだ元本だからです。利益準備金や利益剰余金も差し引きます。これは課税済だからです。そういうものを差し引いたのを課税所得として税率を乗じるのが清算結了事業年度の所得計算です。

 解散をした場合は、通常の事業年度と異なり、年度計算ではなく、一生計算をするとの制度にしますと、悪い人が登場します。会社を設立したら、直ぐに解散してしまえば良い。解散してから商売をやるわけです。そうすると、税務署は課税できなくなってしまいます。何しろ清算手続きが終わるまでは残余財産額が確定しません。

 そこで、解散しても、最後に一生計算をするだけではなく、解散後1年毎に仮計算をすることにしました。これが解散後の事業年度の所得計算です。あくまでも、一生計算についての仮計算です。

 仮計算といっても、その計算方法は、通常の事業年度の所得計算と同じです。益金から損金と繰越欠損金を差し引いた残額を課税所得として税率を乗じます。ただ、税率を乗じて計算した税額は、納税額ではなく、仮納税額になるわけです。何故、仮納税額になるかといえば、最終的に清算を終えたときに、解散したときからの全ての収支を洗い直して、残余財産から資本等の金額を差し引いて課税所得を計算するとの一生計算的な税額計算をして、そこから仮納税額を差し引くとの調整計算を行うからです。

● 上手な土地の売り方

 そうなると、この会社が3億円で購入した土地を10億円で売却して7億円の利益を計上する場合も、これが通常の事業年度か、あるいは解散後の事業年度か、清算結了事業年度かによって課税関係が違ってきます。

 通常の事業年度に売却すれば7億円の課税所得が発生します。繰越欠損金があれば良いのですが、所得から控除することが出来る欠損金は5年以内に発生したものであることが必要です。8年前に発生した欠損金が残っていても、今年の所得から差し引くことは出来ません。したがって、土地を10億円で売却した場合には、3億円を超える法人税を納めることになってしまいます。何しろ7億円の課税所得が発生してしまうわけです。

 それなら、会社を解散してしまい、細かい残務整理を終え、最後の事業年度に土地を売却してしまえば良いわけです。そこでは7億円の所得が発生したという考え方はしません。なぜならば、益金から損金を差し引くという所得計算は、清算結了事業年度では行いません。残余財産から資本等の金額を差し引いて課税所得を計算することになります。

 つまり、本件事例では所得は発生しないわけです。10億円で売却したものは全て借金の弁済に消えてしまうわけです。残余財産として株主に払い戻される資金は一銭も残っていません。したがって、事例の会社の場合は、解散し、清算結了事業年度に売却しなかったのがミスということになります。

● 税務署を出し抜く方法

 本件事例の場合は、もう少し簡単に処理する方法もありました。単純化して、親会社が子会社に対して10億円を融資し、子会社が10億円の資産を持っている事例とします。土地は3億円で購入したもので、いま10億円で売却すれば、7億円の譲渡益が発生します。親会社はこれを売却させて、売却代金を融資金の返済として回収したい。そのような場合に、解散などの余分の手間をかけずに税務署を出し抜く法です。

 売却する前に、親会社が子会社の土地に抵当権を設定してしまえば良いわけです。そうすれば、土地の売却代金に抵当権者が優先権を主張することには何の問題もなく、もちろん、詐害行為取消権の問題は生じません。では、抵当権を設定したことが詐害行為になるかといえば、抵当権を設定した段階では土地を売却していないのですから、詐害行為取消権によって保全される債権自体が存在しない。親会社に対する抵当権を設定してから売却すれば、詐害行為取消権などと余計なことを言われる必要はなかったわけです。

● 教訓

 詐害行為取消権だけではなく、不況期の税務には、連帯納税義務、第二次納税義務、国税の優先権などの知識が必要になります。これは国税通則法や相続税法の後ろの方の条文に登場します。

第5章 債権総論・保証債務の履行

▲説例▲ Xは昭和61年7月、養子の事業上の債務3000万円について連帯保証した。ところが、養子は事業を開始する前に選挙に立候補して落選し、事業資金の大半を選挙資金として消費してしまった。ついで、昭和62年8月に、養子は、三千五百万を借り入れて、3000万円の債務を返済した。養父はこれを連帯保証し、自己所有地に7500万円の根抵当権を設定した。ついで、昭和63年8月に、養子は3500万円の借入金を整理する目的で、新規に農協から3800万円を借り入れ、3500万円返済した。しかし、債務弁済を行うことができなかった。このため、Xは、本件土地を売却し保証債務の弁済に充てた。Xは保証債務履行のための譲渡所得の特例の適用を求めた。福島地裁平成8年7月8日判決(週刊税務通信平成9年2月17日号)


● 保証債務を履行するための資産の譲渡の特例

 保証債務を履行するための資産の譲渡の特例の要件です。
 

▲参考▲
 2  保証債務を履行するため資産(第33条第2項第1号(譲渡所得に含まれない所得)の規定に該当するものを除く。)の譲渡(同条第1項に規定する政令で定める行為を含む。)があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は1部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた金額(不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を除く。)を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。

 これは所得税法64条2項ですが、2項は、1項があっての条文で、1項は次のようになっています。
 

▲参考▲
 1 その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生すべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは1部を回収することができないこととなつた場合又は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは1部を返還すべきこととなつた場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこととなつた金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。

 10億円で土地を売却したけれども、相手が倒産してしまい、3億円しか回収できなかったというときは、売却代金は3億円とみなして良いということです。これが所得税法64条1項です。

 3億円で購入していた土地を10億円で売却したが、買主は3億円までの代金は支払ったものの、倒産してしまい、残金を支払ってくれない。このような場合は、売却代金は3億円だったとみなして良いわけです。取得価格が3億円の土地なら譲渡所得はゼロ、税金は一銭も納める必要がありません。つまり、按分計算をしなくても良いということです。

 売買代金10億円のうち3億円を回収したのだから、取得価格3億円のうち10分の3だけを原価とみなして、3億円から9000万円を差し引いて2億1000万円を譲渡益とみなすとの考え方はとりません。10億円の内の回収不能になった7億円は存在しなかったものとして、3億円で売却したとみなして良いというのが64条1項です。この条文が保証債務を履行するために資産を譲渡した場合に準用されます。

● 特例の適用要件は厳しい

 第三者の債務の保証をしていたところ、債務者が倒産し、保証人が所有している土地を売却して借金を返済することになったという場合。あるいは、保証人が所有する土地が競売されてしまった。そして競売価格が10億円だったという場合です。そのようなときには、所得税法64条2項の保証債務を履行するための譲渡所得の特例が利用できます。

 3億円で購入した土地が10億円で売却されれば7億円の譲渡益が発生します。しかし、保証債務を履行するために資産を売却した場合で、その売却代金が保証債務の履行に充てられ、かつ、求償権の行使が不能という場合なら、売却代金がゼロだった場合と同じく、譲渡所得はゼロと考えて良いということです。

 土地を10億円で売却したが、5億円は借金の返済に消えてしまったという場合なら、残ったた5億円を売却代金とし、そこから取得価格3億円を差し引いた2億円についてのみ課税されることになります。

 ただ、保証債務を履行す為に資産を譲渡した場合なら、常に、この特例の適用が認められるというわけではなく、特例の適用が否定された事例も少なからず紹介されています。1番多いのが、債務者が資力を喪失した後に保証したとの認定を受ける場合です。債務者の弁済不能が確定してから保証したのだから、その保証は贈与と同じであり、特例の適用は受けられないとの解釈です。

 通常、全く関係のない第三者の債務を保証することはありませんので、この条文が適用になるのは、自分が経営している会社の債務を保証した場合とか、自分の身内の債務を保証した場合です。しかし、会社が倒産し、あるいは身内が倒産してしまったために、担保物件が売却されることになった。これが本件特例の適用場面です。

 3億円で購入していた土地を10億円で売却するわけですから、そのままでは七億円に対しての譲渡所得課税が行われてしまう。そこで保証債務の履行のための譲渡所得の特例の適用を受けようとすると、貴方の場合はダメだと言われる。なぜダメかというと、会社の債務を保証した段階で、既に、会社は経営が出来ない債務超過の状態だったと指摘されてしまうわけです。

 保証債務を負担することを最初から予想した保証は、保証という形式の贈与だとの解釈です。ですから、もし、会社の債務を肩代わりしようとするのであれば、会社の倒産が予知される前に、きちんと保証契約を締結しておかなければならない。倒産することが明らかになってから急いで保証してもダメです。息子の債務を保証する場合も、商売がうまくいかなくなり、倒産することが明らかになってから保証してもダメです。

● 借金を書き換えた場合

 この事例に戻りますと、この人の場合は、債務者に資力がある段階で保証をしたわけです。養子の事業の債務3000万円について連帯保証した段階では、養子は事業を開始する予定だったし、選挙にも立候補するだけの資力があったわけです。もちろん、無資力ではありません。

 しかし、落選してしまった。たぶん、選挙で事業資金の大半を消費してしまったのだと思います。そして無資力になってしまった。養子は3000万円の借金の返済資金を農協から借り入れることになった。そして、その借入について義父が連帯保証したわけです。

 このような事例なのですが、これについて、保証債務を履行するための譲渡所得の特例、つまり、所得税法64条2項の適用が受けられないことになってしまった。なぜ、適用を受けられないかというと、求償できないことを承知の上での保証だというのです。

 何故かといえば、借り換えによる保証であっても、その保証は借り換える段階での新たな保証だ。だから、主たる債務者に資力が存在したか否かは、その借り換えの段階で判断するというのです。

 私は、これは無茶だと思っています。借り換えをせずに、最初の借入を返済せず、期限の延長をしていた場合ならokです。最初に保証した時点では養子には資力が存在したわけです。でも、借り換えた段階では資力を喪失していた。

 では、借り換えの際に、義父が保証を断ることが出来るかというと、それは無理です。そんなわけで、判決というか、課税処分というか、この結論は無茶だと思うのですけれども、これが税務訴訟の現実です。

● 税法は実質的であると同時に形式的

 税法は、経済を扱っていますので、非常に実質的であると同時に、非常に形式的なところがあります。所得税法64条には、その適用を受けるための形式要件があります。64条3項ですが、適用を受けるためには「確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨その他大蔵省令で定める事項の記載がある」ことが必要だとしているわけです。

 ですから、保証債務の履行の適用を受けようとする場合は、明細書を添付し、保証債務の履行の特例の適用を受けると記載しておかなければならないわけです。保証債務を履行するために資産を売却したが、主たる債務者に対して求償権を行使しても回収できなかったとの事実を記載した所得税の申告書を提出しておかなければダメなのです。

● 譲渡所得の意味

 ここで脇道にそれますが、譲渡所得という概念を説明させていただきます。譲渡所得というと、通常は、売買による所得と理解してしまいます。でも、譲渡所得は売買による所得ではありません。債権譲渡といいますが、あれは債権の売買だけではない。債権を代物弁済した場合でも、贈与の場合でも、遺贈の場合でも、全て、債権譲渡です。

 つまり、譲渡というのは、売買ではなく、所有権を移転する一切の行為をいうわけです。そうしますと、譲渡所得というのは、売買による所得ではなく、所有権を移転するための一切の行為をいうことになります。もちろん、売買も譲渡所得です。

 3億円で購入しておいた資産を、いま10億円で売却すれば、これは譲渡所得の問題です。3億円で購入しておいた資産を10億円の債務の担保に入れていたところ、結局、その担保物件で代物弁済することになった。このような場合も譲渡所得の問題です。

 競売も譲渡です。でも、他人の債務を担保するために抵当権を設定していたところ、これが競売されてしまったという場合に、譲渡所得の申告が必要だと思い付くものでしょうか。

 そこで、これを含めないところで所得税の申告書を提出してしまった後に、税務調査を受け、譲渡所得の計上漏れがあると指摘されれば、それは正しい指摘になるわけです。そこで、これは第三者の債務を履行するために競売されてしまったものなので、保証債務を履行するための資産の譲渡の場合の特例の適用を受けたいと申し出て、その特例を受ければ譲渡所得はゼロになると主張しても、所得税の申告書に、特例の適用を受けると書いてないからダメと言われてしまう可能性があるわけです。

 ただ、実務は、それほど無茶ではありません。所得税法64条4項には「税務署長は、確定申告書の提出がなかった場合又は前項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出がなかったこと又はその記載がないことについてやむを得ない事情があると認められるときは、第2項の規定を適用することができる」と記載してあります。

 ですから、確定申告書に記載がない場合でも、やむを得ない事情があれば、保証債務の履行のための資産の譲渡の特例の適用を認めてくれるわけです。でも、やむを得ない事情がある場合が、どのような場合なのかは税務署長の判断次第です。裁判例では、この事情の存在を否定した事例も紹介されています。

● 税務署の第一線と訴訟理論は異なる

 税務署の第一線は、それほど硬直的ではありません。保証債務を履行するための特例であることの記載がない場合であっても、競売されてしまった場合や、怖い貸金業者が押しかけてきて土地を取られてしまったという場合なら、特例の適用を認めてくれます。

 つまり、真実、保証債務を弁済するために資産を譲渡した場合なら、その後の形式にはこだわりません。しかし、それなら、確定申告書に特例の適用を受けるとの記載がないことを理由として特例の適用を否定した判決などが出るはずはない。なぜ、そのような判決が存在するのでしょう。

 これは税務署の第一線段階の理論と、その後の理論が異なるということです。つまり、国税不服審判所への審査請求と地方裁判所での行政訴訟の段階での理論は、税務署の第一線の理論とは違う国の税法かと思うぐらいに理屈が異なるのです。

 弁護士は、税務訴訟の判例を読んで、税務署というのは非常に融通のきかない処理をすると思い込んでいます。でも、税務の第一線で仕事をしている税理士は、税務署を、結構、融通がきく役所だと理解しています。

 例えば、国税局に勤務後、退職して税理士になった方などと話をしていて、「この事例はダメですね」と話すと、その税理士は、「いや、これは大丈夫です」と答える。どこに違いがあるのかというと、私は判例理論から税法を理解し、彼は実務の第一線理論で税法を考えているわけです。税務の第一線は非常に柔軟な考え方をしてくれます。

 ですから、この養子の保証の事例などは、税務の第一線で上手に交渉すれば、保証債務の履行のための資産の譲渡の特例を認めてくれたはずです。なぜなら、社会の常識として、この事例に特例を適用することは当たり前のことです。最初に保証した段階では養子には資力があったわけです。資力がなくなってから借り換えていますが、その段階では保証人には逃げるチャンスはなかったわけです。やむを得ず借り換え債務についても保証したわけです。

 そうしたら、税務署の第一線の職員が、最後に借り換えた段階では養子は弁済する資力を失っていたから、求償権の行使が不能であることを承知して行った保証になり、保証債務の履行のための譲渡所得の特例の適用は受けられないなんて指摘をするはずはありません。

 でも、どういうわけか税務署の第一線との交渉がとん挫し、課税処分をされてしまうと、異議申立、審査請求、訴訟の段階では別の理屈が登場します。

 国税局出身の税理士さんが、「大丈夫ですよ。ただ、審査請求になったらだめですよ」という言い方をすることがあります。「何故ですか」と質問すれば、「だって、これは認めないわけにいかないでしょ。こんな常識に合わないような課税処分は出来ません」と答える。

 しかし、審査請求になったら、彼らは自分の主張を押し通して、戦いに勝つことしか考えません。もちろん、税務訴訟になったら、それ以上にダメです。

 弁護士は喧嘩早いですから、税務署との交渉を辛抱せず、すぐに、「認められないならいいよ。私は裁判を起こすから」とやってしまう。あるいは、異議申立をして、3カ月を経過すると、すぐに、国税不服審判所の審査請求に移行してしまう。異議申立の後三カ月を経過しても税務署が異議決定をしない場合は、審査請求に移行できることになっています。同じように、審査請求をしても裁決が遅れる場合は、訴訟に進めてしまう。

 弁護士は、税務署よりも裁判所を信頼しているわけです。しかし、これは明らかな間違いです。税務訴訟における納税者側の勝訴率は何%だと思いますか。行政訴訟の勝訴率は10%といわれているそうですが、その勝訴した事件の4割までが特許事件なんだそうです。それを除いてしまったら、行政訴訟の勝訴率は5%。税務訴訟の統計が発表されていますが、1部勝訴を含めても納税者の勝訴率は5%です。

 つまり、税務訴訟では絶対に勝たせてくれないのが日本の裁判所なのです。私の理解では、課税処分を是認する判決が矛盾なく書ける場合は国側の勝訴です。では、課税処分を是認する理由が書けない場合は納税者が勝訴するかというと、その場合は、事実を変えてしまってでも国側を勝訴させるのが裁判所です。どう考えてもこんな判決は恥ずかしくて書けないと裁判官が思うような無茶な課税についてなら、もしかすると、納税者の勝訴の判決を書いてもらえるかもしれません。

 でも、税務署の第一線ではそんな処理はしません。税務職員は何の権力もありません。ただの一般市民です。だから、常識に基づいた処理をしてくれます。ですから、課税処分を受けてしまい、その取消を求めて税務署長に対して異議申立をすることになったとしても、急いで審査請求、さらに急いで訴訟に移行するのは間違いです。

 さらに言えば、税務署との交渉では、弁護士は表に出るべきではないと思っています。弁護士が税務署の窓口を訪れるのは難癖を付ける場合だけです。税務職員も弁護士が来ると構えてしまいます。ですから、私の場合は、税理士から相談を受けると、事実と理屈については税理士と協議し、作戦を練りますが、しかし、税務署には税理士に行ってもらいます。

 相談にくる税理士も、裁判所は正義を守ってくれるところだと誤解していますので、税務署が非常識な課税処分をしたので裁判を起こしてくれないかとの相談が多いわけです。そこで裁判所の実態を説明し、税務署の第一線での交渉を再開させるのが私の最初の仕事です。交渉で全てを認めてもらえなくても、半分でも認めてもらえるなら結論を出しましょうとのアドバイスです。

 なぜ、税務調査の段階、異議申立の段階、審査請求の段階、訴訟の段階で理屈が異なってくるかというと、公務員流のプライドが基礎にあると思っています。税務調査段階ではプライドを持ち出す人はいません。異議申立段階での取り消しなら、その税務署の中だけのプライドです。でも、審査請求になったら国税局全体のプライドです。訴訟になったら行政と官僚のプライドがかかってきます。行政は間違えないというのが彼らのプライドです。そして、行政は特段の事情のない限り是認するというのが裁判所の常識です。

● 特例の適用については注意の上にも注意が必要

 裁判所は次のような言い方をします。「これは課税を減免する特例であるから、より厳格に解すべきである」。でも、これは間違いです。特例だから厳格に解する必要があるわけはないのであって、条文に書いてある通りに解釈すれば良いわけです。条文が特例的な書き方になっているか、原則的な書き方になっているかは、ただの条文作成上の都合です。

 原則として非課税としておいて、この場合は特例をもって課税するという書き方をしても、原則として課税としておいて、この場合は特例をもって非課税にすると書いても良いわけです。あくまでも条文の作り方の問題であり、どれが特例かというのは意味がないことです。

 しかし、納税者の主張を否定するときに、裁判所は、枕詞のように、「これは特例であるから厳格に解すべきである」と書きます。ですから、保証債務を履行する場合の譲渡所得の特例の適用を受けようとする場合は、相当厳格に、揚げ足を取られないように処理しておかないと危険です。

● 教訓

 大きな金額を動かす際には、もう1人の当事者の存在を思い起こすべきです。調停の場合などでは、相手方との利害だけにとらわれて処理してしまいがちです。この事例でしたら銀行、あるいは農協との交渉だけに目をとらわれてしまいます。

 そのようなときにも、ここには相手方と当方の2人だけではなく、もう1人、つまり、税務署長が座っていることも思い出すべきです。税務署長は、そこでは口出しません。その代わり、調停が終了してから分け前を要求してきます。ですから、交渉の席、あるいは調停の席には、無口な税務署長が座っていると考えていただいた方が良いと思います。

第6章 債権各論・契約の解除

▲説例▲ X法人はA(個人)との間に土地の交換契約を締結した。ところが、課税庁から交換特例の適用を否定され2億7000万円の法人税が課税された。交換特例が否定された理由は、X法人が所有する土地が固定資産でないことにあるようで、同時に、Aに対しても交換特例を否定するとの課税処分(所得税)が行われている。そこで、X法人はAを被告として、交換契約の無効の訴えを起こした。X法人の主張は、「交換差金等以外の課税問題が生じないことを前提として土地の交換契約を締結したところ、課税庁から法人税法50条の適用を否定された。これは民法上の錯誤に該当し、契約は無効だ」というもの。逆に、Aは、X法人が約束していた特約、つまり、「交換により税金その他予定外の損失が発生した場合はX法人が負担する」との特約を根拠に、税額相当の損害金を請求した。東京地裁平成7年12月26日判決(判例時報1576号51頁)


● 事件の背景

 この事案は、多分、地上げの頃の問題なのだと思います。X法人は土地を地上げしたのですが、その土地にはA個人の土地がくさび形のように入り込んでいた。それでは地上げが完成しないので、X法人はAのところに何度も土地の購入を申し込んだ。しかし、Aは売却してくれない。たぶん、売却しても税金が大変だというのが理由だと思います。

 そこで、X法人は、それなら土地を交換すれば良いということで、Aに土地の交換を申し入れたのだと思います。X法人は、地上げしている土地から近いところに別の土地を所有していたので、それをAに提供し、それと交換にAの土地を取得したわけです。

 先ほど説明したように、譲渡所得というのは売買による所得に限られるわけではない。交換も譲渡です。所有権を移転する一切の行為は譲渡です。X法人の所有地をAに渡し、Aの所有地をX法人に渡せば、相互に土地を譲渡したことになってしまう。両者に譲渡所得課税が行われるわけです。でも、これは大丈夫だろう。なぜなら、交換特例があるとX法人は考えたわけです。

● 交換特例の内容

 固定資産を交換した場合は、一定の要件を満たすことを条件にして、譲渡所得課税を猶予しています。譲渡がなかったとみなしてくれるわけです。所得税法58条と法人税法50条ですが、その内容は、ほとんど同じです。
 

▲参考▲
 所得税法58条(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)

 居住者が、各年において、1年以上有していた固定資産で次の各号に掲げるものをそれぞれ他の者が1年以上有していた固定資産で当該各号に掲げるもの(交換のために取得したと認められるものを除く。)と交換し、その交換により取得した当該各号に掲げる資産(以下この条において「取得資産」という。)をその交換により譲渡した当該各号に掲げる資産(以下この条において「譲渡資産」という。)の譲渡の直前の用途と同1の用途に供した場合には、第33条(譲渡所得)の規定の適用については、当該譲渡資産(取得資産とともに金銭その他の資産を取得した場合には、当該金銭の額及び金銭以外の資産の価額に相当する部分を除く。)の譲渡がなかつたものとみなす。
 1) 土地(建物又は構築物の所有を目的とする地上権及び賃借権並びに農地法第2条第1項(定義)に規定する農地の上に存する耕作に関する権利を含む。)
 2) 建物(これに附属する設備及び構築物を含む。)
 3) 機械及び装置
 4) 船舶
 5) 鉱業権(租鉱権及び採石権その他土石を採掘し又は採取する権利を含む。)
 

 括弧書きが多く条文は難解ですが、要するに、1年以上所有していた資産を、相手も一年以上所有していた資産と交換する。そして、相手が交換のために取得した資産ではいけない。固定資産であることも要件になっていて、同種の資産の交換でなければダメ。最後に、交換により取得した資産を従前の用途と供さなければダメ。これが交換特例の適用を受けるための要件です。

 例えば、土地と建物の交換はダメです。ですから、建物の建っている土地と、別の建物の建っている土地を交換する場合は、土地は土地と、建物は建物と交換し、それぞれが交換特例の要件を充足していなければダメなわけです。

 この条文の2項は「交換の時における取得資産の価額と譲渡資産の価額との差額がこれらの価額のうちいずれか多い金額の100分の20に相当する金額をこえる場合には、適用しない」としています。

 ですから、建物付きの土地を、別の建物付きの土地と交換する場合に、建物と土地を合計すれば両方とも10億円だという場合でも、一方は土地が7億円で建物が3億円。他方は建物が7億円で土地が3億円だという場合は交換特例の適用は受けられません。建物と建物では3億円と7億円の交換になってしまい、2割以上の価額差が生じてしまいます。

 本件事例で、なぜ、交換特例の適用が否定されたかというと、たぶん、X法人の所有地は固定資産ではなかったからです。棚卸資産だったわけです。税法にいう固定資産とは、土地や建物のことではなく、所有者が固定資産として利用する資産をいうわけです。ですから、販売用の土地や建物は固定資産ではなく棚卸資産です。そして、Xが所有していた土地は棚卸資産だったわけです。

 そこでXは考えたのです。棚卸資産である土地を固定資産にしてしまえば良い。そのためには、土地を、貸借対照表の棚卸資産の部でなく、固定資産の部に計上すれば良いと考えたのだと思います。

 しかし、税務上は、貸借対照表で、棚卸資産から固定資産に移動しただけでは固定資産とはみなしてもらえないわけです。固定資産というのは、たとえば、貸しビルを建てるための土地、本社ビルを建てるための土地などをいうわけです。でも、Xの所有地は、そのような目的を持った土地ではありません。

 そのような土地をAの所有地と交換した。そうしましたら、税務調査を受け、交換特例の適用を否認されてしまった。X法人は税務署に異議申立をして、さらに審査請求をしているわけです。これが事件の背景です。

● 税金の錯誤と契約の無効

 X法人はAに対して交換契約の錯誤無効を主張しました。交換特例が適用され、譲渡所得課税が行われないと考えていたところ、その適用がない。これは動機の錯誤になるので、交換契約は錯誤により無効だとの主張です。

 なぜ、Xが交換契約の錯誤無効を主張したかというと、その目的は税金にあるとしか思えません。といいますのは、Aに対して交換契約の無効を主張しても、Xが回復するのはAの土地がくさび形に入りくんでいる地上げ未完成地です。それは意味のないことです。せっかく整った土地の地形を悪くしてしまうだけです。

 X法人は、土地の交換と同時に、交換特例が否定されない程度の交換差金を支払い、それをもってAに建物を建ててあげたわけです。でも、土地の交換が無効になってしまったら、Aは交換前の土地に戻ってこなければならない。そこには建物は存在せず、ススキしか生えていない。Aは、その土地にテントを張って住む以外ないわけです。

 なぜ、こんな無駄なことをするかといえば、交換契約を無効にし、譲渡が無かったことにしてしまい、課税処分を取り消してしまおうという目論見があったからだと思います。バブルが終わってしまったので、地形を整えても売却できるとは思えない。それなら、交換契約を無効にしてしまい、課税を取り消してしまった方が有利だ。多分、このように考えたのだと想像するわけです。

 XはAを被告とする訴訟を起こし、そこで錯誤無効を主張しました。そうしましたら、なんと、裁判所はX法人を勝たせてしまったわけです。課税関係の錯誤が、契約の錯誤になると判断したわけです。Xは、交換差金等以外の課税問題を生じないで交換を実現できるとの動機を相手方に表示しており、かつ課税上の特例の適用が否定され、多額の課税負担を免れないとすれば、Xとしては本件交換の申込みをせず、Aもその承諾をしなかったと言えるから、右の点は本件交換の意思表示の内容の重要部分、すなわち、交換契約の要素になっていたものと言わなければならない。だから、本件交換は要素の錯誤により無効になるというのが裁判所の判断です。

● 財産分与事件から始まった判決の流れ

 課税関係についての錯誤というのは、後に説明しますが、財産分与を取り消した最高裁判決から始まった流れだと思います。財産分与の判決以前では、課税関係の錯誤を私法上の錯誤と認めるなどという考え方は全く無視されていました。

 税金は、取引をした結果に対して課税されるのであって、結果が予想していたところと異なったからといって、遡って原因を取り消すことが出来るとの発想はありませんでした。しかし、後に説明します財産分与事件から、その流れが変わってきました。その流れの変化を利用したのが本件事案です。

 つまり、税務署に対して異議申立をして、審査請求をして、この取引には交換特例が適用されるはずだと主張しても、それは認められない。税務訴訟を起こしても納税者の勝訴率は5%しかないという社会です。それならばということで、Aを被告として取引自体を無効にしてしまうわけです。それが、この事例ではないかと思います。

● 期間損益計算と契約の無効

 X法人は契約を無効にしてしまった。これで万歳でしょうか。実は落とし穴があるわけです。X法人は交換契約を無効にしてしまい、譲渡契約を取り消してしまおうと考え、この訴訟を起こしたわけです。

 しかし、交換契約が無効になったところで、X法人に対する課税は取り消されません。Aに対する課税処分は取り消されます。なぜかといえば、Aに対する譲渡所得課税と、X法人に対する譲渡所得課税は、課税の構造が異なるからです。Aは個人ですから、個人の譲渡所得として個別対応計算をします。しかし、X法人は期間損益計算です。

 私が、仮に、自宅を第三者に売却したとします。その後、3年を経過した後に、この売買契約が無効と確認された場合には、私は3年前の譲渡所得の申告について更正の請求をすることができるわけです。契約は無効になってしまったので、所得税の計算をやり直して、納めすぎの税金を返してくださいという更正の請求をすることが可能です。

 でも、私がある依頼者から2000万円の着手金をもらいましたが、3年後、その依頼者とトラブルを起こし、依頼者に着手金を返還することになった。そのような場合に、3年前に弁護士の事業所得として申告した2000万円を依頼者に返還したので、税金の計算をし直し、納めすぎの税金を返して欲しいと更正の請求をしても認められません。なぜ認めないかというと、事業所得は、譲渡所得と異なり、期間損益計算をするからです。

 個人の場合は、1月1日から12月31日迄の所得計算です。ですから、3年前に売上に計上した2000万円は、その年度の所得であり、今年に返還した2000万円は、今年の損失になるとの考え方をとります。法人の所得計算も、個人の事業所得と同じに、期間損益計算になっています。ですから、3年前に土地を売却したことにより利益が発生したら、それは、その年度の所得です。

 その後、訴訟をして、結局、3年後に交換契約の無効が確認されたとしても、遡っての利益の修正は行いません。それは無効が確認された年度の損失ということになるわけです。つまり、3年前に計上した利益が失われた事による損失は、その失われた年度に計上する損失です。

 例えば、3年前に3億円の帳簿価額の資産を10億円で売却し、7億円の利益を計上したが、それが今期に取り消されてしまったら、10億円の代金を返還して、帳簿価格3億円の土地を取り戻すことになりますから、結局、7億円の損失が計上されることになります。これが今期の損失です。

 3年前の決算というのは、3年前に株主総会で確定しているわけです。だから、三年前の法人税についての更正を認めたら、3年前の決算を作り替えることになってしまいます。それを許したら、3年前に行った配当まで違法になってしうかもしれません。

 法人税の計算が、このような構造になっていますことから、X法人が訴訟によって交換契約を錯誤無効にしてしまっても、それは錯誤無効で取り消された年度の損失になるだけです。交換契約を締結した年度の課税処分を取り消すことは不可能です。

 この事件の後日談を聞いているわけではありませんので、私が勘違いしているかもしれません。でも、もしかしたら、Aとの間の交換契約を錯誤無効で取り消したこと自体に錯誤があり、したがって、錯誤無効とした判決自体を錯誤により取り消すなどとの訴訟を起こすことになるのかもしれません。

● 教訓

 個人と法人の課税の理屈は異なります。個人は所得の種類によって、個別対応計算をする所得と、期間損益計算をする所得に分けます。しかし、法人の場合は、常に、期間損益計算です。期間損益計算の場合は、その後に契約が解除されても、遡っての所得の修正は行いません。

第7章 債権各論・売買

▲説例▲ Aの経営する会社には社員持株会がある。退職社員が所有する株式は会社が買い取り、他の社員に割り当てることになっているが、今回は引き受ける社員がいないので、Aが買い取ることにした。買い取り価格は額面相当の1株50円。社員も、額面額で取得した株式なので、50円での買い取りには異議がない。仙台地裁平成3年十一月12日判決(判例時報1443号46頁)


● 判決の結論

 判決の結論は、社長に対する贈与税の課税です。同族会社の株式の評価が問題になったのですが、同族会社の株式を社長が社員に売り渡す場合だったら額面の50円で良いわけです。でも、社員から社長が買い戻す場合は、50円ではダメで、719円でないと贈与税を課税するというのです。

 ですから、売買価額と719円との差額である669円は、社長が社員から贈与を受けた金額になるわけです。この贈与に課税するといわれてしまったのがこの事例です。

 社長は、課税処分の取り消しを求め、何故、社員に対してなら50円での売却で良くて、自分が買い受ける場合は50円ではダメなのだと苦情を申し立てたわけです。社員持株会に50円で譲渡したときも、社員が退職するについて他の社員に50円で買い取らせた場合も、50円での売却が認められているではないかとの主張です。しかし、裁判所は納税者の主張を認めませんでした。株式には719円の価値があるとの判断です。

● 株式の評価の方法(一物二価)

 株式の評価を説明しますと、それだけで一冊の本が出来上がります。ここで問題になるところだけを紹介させていただきますと、株式の評価には一物二価が成立します。

 まず、原則的評価方法が適用になる支配株主。つまり、オーナーに適用されることになる株式評価方法です。これは、純資産方式と類似業種比準方式という二つの株価算定方法を折衷して株価を計算します。これを定められた割合で加重平均した価格が支配株主に対して適用される株価になります。

 純資産方式というのは、会社の純資産を基礎に株価を算定する方法です。会社が所有する資産を時価で評価し、そこから債務を差し引いて純資産価額を算出する。さらに調整を要するのが含み益に対する法人税相当額です。含み益部分についての法人税相当額を、純資産価額から差し引きます。差し引きをする趣旨は次の通りです。

 会社には10億円の資産と3億円の借金があるとします。すると、純資産は7億円です。しかし、会社が10億円の現金を持っている場合なら良いのですが、これが土地かもしれない。そして、会社の貸借対照表には、帳簿価格3億円の資産として、その土地が計上してある。しかし、その土地を時価評価すると10億円になるという場合は問題です。

 3億円の土地を10億円に評価替えするためには、その土地を売却しなければならない。しかし、帳簿価額3億円の土地を10億円で売却すれば、7億円の譲渡益が発生してしまう。それには法人税が課税されます。だから、換金すれば法人税が課税される含み益部分について、仮に法人税を課税したとしたら納税することになる税額相当額を債務に計上することを認めるわけです。

 つまり、会社が所有する資産を時価評価し、そこから会社の債務を差し引き、さらに、資産を時価評価することによる含み益相当に対して課税される法人税相当額を将来の債務として控除する。法人税相当額は税率を42%として計算することになっていますので、7億円の譲渡益なら法人税相当額は約3億円。つまり、純資産7億円から法人税相当額3億円を差し引いた残額である4億円が、この会社の株式の純資産価格になるわけです。

 次に、類似業種比準方式というのは、上場されている会社と比較して、対象会社の株価を計算する方法です。何を比較するかというと、配当、利益、純資産の三つです。例えば、対象会社が鉄鋼業を経営しているとしたら、新日本製鉄や日本鋼管と比較することになります。

 新日鉄は1割配当をしているが、対象会社は2割配当しているとしたら、対象会社の株価は、新日鉄の株価の2倍になります。同じように、利益や純資産も比較し、三つの比較要素により計算した価額を3分の1にして、それを対象会社の株価にします。

 どの会社の株価と比較するかは、毎月、業種別に詳細な一覧表が国税庁から発表されます。ただ、不思議なのは、どの上場会社を類似業種の資料として取り込んだかが、国からは全く公表されていないこと。鉄鋼業の場合の類似業種の株価は幾ら幾らですと公表されるのですが、それに新日鉄が入っているのか否か、あるいは別の会社が入っているのか、国税庁の担当者以外には分からないわけです。

 そのような不明確な基準ですが、でも、税務の実務では、このように計算した純資産価額と類似業種比準価格を定められた割合で加重平均して、対象会社の株価を計算している。これが支配株主に適用される原則的評価方法になるわけです。

 でも、少数株主なら配当還元方式で良いのです。年間の配当額を10%で除した金額が株価になるわけです。ですから、額面50円の株式について、1年間で5円の配当をしている会社の株式評価額は50円になります。
 

▲参考▲
 相続税財産評価通達188−2(同族株主以外の株主等が取得した株式の評価)

 前項の株式の価額は、その株式に係る年配当金額(183(評価会社の1株当たりの配当金額等の計算)の(1)に定める1株当たりの配当金額をいう。ただし、その金額が2円50銭未満のもの及び無配のものにあつては2円50銭とする。)を基として、次の算式により計算した金額によつて評価する。ただし、その金額がその株式を179(取引相場のない株式の評価の原則)の定めにより評価するものとして計算した金額を超える場合には、179(取引相場のない株式の評価の原則)の定めにより計算した金額によつて評価する。

 その株式に係る年配当金額÷10%×その株式の1株当たりの資本金の額÷50円

 税務では、取引相場のない株式については、このような二つの価格が成立します。したがって、社長から社員に株式を売り渡す場合なら額面でもokです。なぜなら、この場合は社員の立場で株価を算定すれば良いわけです。ここで問題になるのは贈与税だからです。贈与税が課税されるのは社員ですから、社員の立場での株価を算定します。社員にとっては50円の株式です。それを50円で購入したのだから、贈与税の課税対象になる利益はないとの結論になります。

 ただし、社員から社長が買い戻す場合は、社長の立場で株価を算定します。贈与税の課税の問題ですから、贈与税が課税される社長の立場での株価の算定です。社長にとっては幾らの株価かというと、原則的評価方法で719円だということになる。それを五十円で買い戻したのだから、1株669円の贈与利益が成立することになるわけです。それが取引相場のない株の相続税上の評価方法です。

● 相続における株式の評価

 株式の評価額は、多くは、相続の場面で問題になります。そこで、次のような事例を紹介させていただきたいと思います。

▲説例▲ Xは、持株割合が36%の株主(中心的な同族株主)がいる会社の7・4%の株式を相続により取得した。これにより原則的評価方法、つまり、類似業種比準方式と純資産方式の折衷方式が適用された。36%の株を持っている筆頭株主とは五親等の関係にあるXは、六親等を親族の基準にするのは時代錯誤であり、また、5%を区別の基準にするのは合理性がないと課税処分の取り消しを求めた。東京地裁平成8年12月13日(速報税理平成9年3月21日号)


 支配株主になるか、あるいは少数株主になるかは、その個人が持っている株数だけで比較するのではないのです。六親等の親族が所有している全ての株式を合計して、それが50%を超えれば、全員が同族株主であり、支配株主です。

 私が10%の株式しか所有していない場合でも、私の兄が90%の株式を所有していれば、私も同族株主であり、支配株主です。相続税の取り扱いでは、六親等の親族の持株を合計して判定することになっています。

 これが相続税の株価の算定についての簡単な説明ですが、本当は、もう少し複雑です。それを説明するのが本件事例です。原告から五親等の距離にある株主が36%の株式を所有していたが、原告自身は7・4%の株式しか所有していません。五親等の距離といったら誰になるのか。従兄が四親等ですから、その子供です。そんな遠くの人が支配株主だと、原告までもが支配株主になってしまうわけです。そして、支配株主としての株価算定方式が適用される。

 でも、これはおかしい。そこで、財産評価通達はもう一つの区別の基準を作っています。私の持株が5%未満なら、私を支配株主とはみなさないことにしようとの別の基準です。その基準を受けるためには、また、さらに別の要件を満たす必要があり、5%未満なら全てokということではないのですが、ただ、この事例の場合は5%基準が問題になりました。そして、原告の持株が7・4%でしたので、株価は支配株主として評価されてしまったわけです。

 そこで訴訟を起こしました。しかし、税務訴訟の勝訴率は5%の社会ですから、予想通り、納税者を敗訴させるとの判決がでました。原告は、支配株主として、1株1万6743円の評価額での相続税を納めることになりましたが、もし、これが少数株主になれば評価額は500円です。

 この500円というのは、毎年50円の配当をもらう株式の評価額です。毎年五十円の配当をもらう株式が、1万6743円という評価額にされてしまい、1株当たり8125円の相続税を納めることになってしまいました。納めた相続税分を配当で取り戻そうとしたら、50円の配当で8125円を取り戻す分けですから、160年ほどを要することになります。配当からは2割の源泉所得税が差し引かれますので、たぶん、原告は二百歳ぐらいまで生きていないと税金分を取り戻せないことになる。

 先ほど、税法は実質的であると同時に非常に形式的だと説明しましたが、ここでもいえます。相続税の株式の評価は非常に形式的です。財産評価通達に株価算定の方式が規定されていますが、これが株価算定の憲法です。したがって、裁判所も、これに従った判決を書きます。

 確かに、裁判所も、国税庁の担当官が作成した通達に書いてあるから国の課税処分を是認するとまでの判断はしていません。通達というのは、単に、上級庁からの下級庁に対する一般的指揮命令書にすぎないのですから、これが国民を拘束するはずはありません。

 しかし、裁判所が判断していることは通達の追認でしかありません。純資産方式とは何々であり、類似業種比準方式とは何々であるとの理由を縷々述べた後に、よって、課税庁の計算は妥当であり、一律公平の課税をする以上は、一定の基準を以て課税することも正当なものと是認できると判断するのが基本というか、全ての税務判決です。まさに通達の解説書のような判決を書くのが裁判所の仕事です。

 どうして取引相場のない株式の評価は通達に従って形式的に計算され、それを裁判所が追認するかというと、取引相場のない株式の時価を計算する方法は、世の中には存在しないわけです。だから、幾らにでも評価できる。幾らにでも評価できることを認めてしまったら、逆に、課税庁の行った評価方法を正しいとする根拠は無くなってしまう。だから、裁判所も国税庁の通達にしがみついているというのが実態だと思います。

 しかし、譲渡制限のある株式についてトラブルが発生し、それが裁判所に持ち込まれると、これには税金が関係しませんので、裁判所は自由に株価を算定します。

 私人間の取引なら、株価に幅があってもおかしくはありません。その幅の範囲内の金額を断言すれば良いだけです。しかし、課税処分の場合は幅では困りますので、一定の金額を根拠を以て算定しなければならない。そうしたら通達以外には計算の根拠がない。通達が定めている計算方式を少しでも変更したら、何の根拠も無くなってしまうわけです。だから、税務署も裁判所も通達どおりに判断する。そのために税務署の第一線理論と裁判所理論は一致することになるわけです

 これを逆に言えば、通達に反していないように処理をすれば、これは裁判所も税務署も認めざるを得ないと思うわけです。

 では、この人の場合はどうすればよかったのか。7・4%の株式を相続しました。これが5%未満でなかったことから、財産評価通達を適用し、支配株主としての株価算定が行われてしまった。では、その対策です。

 話は簡単です。2人の相続人に3・7%ずつが相続されるように遺産分割をすれば良かったわけです。先ほども説明しましたように、贈与税や相続税は、取得者の立場で評価額を算定します。そうしますと、相続財産に7・4%の株式が含まれていたということではなく、相続人が何%の株式を相続したかが問題になるわけです。だから、各々の相続人の取得分を5%未満にしてしまうわけです。

 私が3・7%の株式を相続し、私の兄が3・7%の株式を相続すれば、各々の持株は5%を下回ります。そうすれば、私も兄も配当還元価格の適用が受けられるわけです。

● 取引相場のない株式が遺産にある場合の遺言書

 遺言書の場合は次のような処理になります。兄と弟が出資して会社を経営していたのですが、不仲になってしまった。現在は兄が会社を経営し、その会社は相当の資産を所有しています。弟は30%程度の株式を所有していますが、その株式で何の権利を行使できるかというと、何の権利も行使できない。兄に買ってくれと申し入れても、兄は買い取ってくれない。そこで、弟の死亡が予想される状況になったわけです。

 しかし、弟の相続人が、そのまま30%の株式を相続したら、それだけでも3億円ぐらいの評価額になってしまいます。そうすると、1億円を超える相続税を納めることになる。そんな株式なら放棄してしまいたいのですが、遺産の一部を相続放棄する方法はありません。兄の方もタダでもいらないといっています。そんなものもらっても贈与税が大変ということです。

 そこで、遺言書を作成し、相続人各々に4・9%ずつの配分にしました。そして、4・9%ずつの割り振りで余った分は、親戚のおばさんに取得してもらう。途中に婚姻関係が二つ入れば、社会的には親戚でも、法律上は他人です。そんな他人に15%の株式を遺贈してしまうわけです。

 相続人各人は4・9%ずつの取得ですから少数株主になる。親戚のおばさんととは親族関係がありませんので、それも少数株主です。つまり、配当還元価格での株式の評価で済ますことが出来るわけです。

 もし含み資産を抱えている同族会社が顧問先にありましたら、株式の評価と相続についても、生前にアドバイスしておくべきではないかと思います。

● 無価値の遺産がある場合の死因贈与契約書

 死因贈与契約も利用できそうです。弟の相続人としては、実際には価値がなく、相続税だけが課税されてしまう株式は欲しくないのです。しかし、1部遺産について相続を放棄する手続はない。そこで、死因贈与契約書の利用です。必要な遺産だけを死因贈与してもらい、相続は放棄する。そうすれば、死因贈与された遺産は相続人が取得し、その他の遺産は国が取得することになります。

 このごろは価値のない資産が増えてきました。例えば、借地権です。いま相談を受けている事件でも借地権の処理に困っています。親は借地上の建物に1人で住んでいたのですが、死亡し、3人の相続人が借地権を相続することになりました。しかし、相続人は皆さん、自宅を持っているわけです。遺産として借地権を残してくれたのですが、誰も欲しがらない。

 この借地権を第三者に売却しようとしても、それを地主が了承しません。裁判所に申し立てれば譲渡の許可が得られますけれども、いまどき裁判所の許可を得てまで借地権を購入してくれる買主を見つけるのは不可能。地主が買い取ってくれれば良いのですが、地主も足元を見て、購入してくれない。では、3人の相続人で共同してアパートでも建築しようかと考えても、そのような資力はないし、借金するのも嫌。利用の方法が思い付かないまま、毎月、何万円ずつの地代だけは支払っていくことになるわけです。

 しかし、借地権を相続したために数100万円の相続税が課税されている。他の相続財産がありますので、相続を放棄することも出来なかった。そのような場合には、価値ある資産だけについて死因贈与契約書を作成し、相続人は相続を放棄してしまえば良いわけです。ただ、実際にそのような処理を実践したことがないので、実行する場合は、さらに他に与える影響などを考えてみる必要がありますが、これも使える手法だと考えています。

● 教訓

 税務通達は税法の世界では憲法です。税法の分野では、法律よりも、判例よりも通達が優先します。裁判所の判断も、大部分は通達に従った内容です。税務問題について判断する場合は、まず、通達の調査が必要です。

第8章 親族・財産分与

▲説例▲ Aは、昭和37年6月に結婚し、二男一女をもうけた銀行員であるが、部下の女子行員と関係をもったため妻から離婚を申し渡された。妻は、新宿区にある居宅に残って子供を育てたいとの条件を提示した。そこで、Aは女子行員と裸一貫から出直すことを決意し、妻の意向に沿う趣旨で、建物と敷地の全部を妻に財産分与することにした。その後、Aは女子行員と結婚して一男をもうけることになるのだが、上司から、このような財産分与を行うと所得税を課税されるとの指摘を受け、試算したところ、2億2224万円の税額になることがわかった。Aは、そのような課税がなされることを知っていれば財産分与はしなかったから、財産分与契約は錯誤により無効だと主張して、元妻に対する本件不動産の移転登記の抹消を求めた。最高裁平成元年9月14日(判例時報1336号93頁)


● 財産分与の課税関係

 ご承知のとおり、この事案は課税関係に錯誤があるということで、差し戻し審の東京高裁が財産分与契約を無効にしました。財産分与に関する課税関係についての紛争は、税法的には第二時代です。

 第一時代は、財産分与に課税された納税者が、財産分与に譲渡所得課税を行うのは間違いだと主張し、課税庁と争った時代です。財産分与したところ譲渡所得課税をされてしまった。だから、課税処分の取り消しを求めて税務署長を訴えたわけです。

 しかし、第一時代は、勝訴率5%の税務訴訟ですから、ことごとく納税者が敗訴することになりました。地裁、高裁が判断するには、譲渡所得の本質は値上がり益であり、したがって、財産分与として資産が譲渡される際には値上がり益課税を行う必要があるというものでした。

 つまり、昔に1億円で購入した土地が値上がりし、今の時価は10億円になっている。これを財産分与として譲渡したのだから、いままでに発生していた値上がり益が、ここでの財産分与により実現することになる。だから、その値上がり益に課税するという理屈を採用したわけです。

 しかし、これは間違いです。譲渡所得の本質は値上がり益課税にあるのかもしれませんが、だからといって譲渡所得課税を行うという所得税法の条文はどこにもありません。そこで、最高裁は、財産分与の本質は値上がり益課税にあるとの課税本質論ではなく、さらに、財産分与は有償契約だとの理屈を追加しました。

 「財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである」と、財産分与契約が、一種の代物弁済であるとの趣旨の判断をしました。

 財産分与には譲渡所得課税を行うとの最高裁判決がでてしまった以上は、財産分与に譲渡所得課税をするのは間違いだと主張して訴訟を起こしても、納税者が勝てるわけはありません。そこで、第二時代に移ったわけです。

 税務署長を訴えるのはやめて、財産を渡した女房を被告として訴訟を起こすことにしました。こんな多額の譲渡所得課税が行われるのだったら、財産分与はしなかったとの主張です。だから、財産分与には課税関係についての錯誤があると主張し、訴訟を起こしたわけです。

 それについても幾つかの判例が紹介されています。多くの判決は、課税関係についての錯誤は私法上の錯誤にはならないとの趣旨の判断をしています。

 確か、タクシーの運転手さんの例では、1部資産を手元に残し、その他の財産を財産分与として妻に渡したのですが、その運転手さんは次のように主張しました。手元に残した財産を全て売却しても納めきれないほどの所得税が課税されてしまったとの主張です。それに対し裁判所は、「土地を売却して所得税を納めるだけが唯1の方法ではなく、銀行から借金をして税金を納める方法もあり」との気の毒な判断をして夫を敗訴させています。

 しかし、本件事例の原告である銀行員は最高裁まで争ったわけです。地裁では銀行員が敗訴しました。高裁でも敗訴しました。多分、高裁では第1回結審での敗訴です。でも、最高裁まで持っていったら、最高裁が錯誤を認めてくれたというより、錯誤の可能性を認めてくれたわけです。

 上告人は財産分与の際に、財産分与を受ける被上告人に対して課税されることを心配して気づかう発言をしていた。「おまえ、税金は大丈夫か」という妻に対する気づかいの発言ですが、これは贈与税を意識していたようです。妻も、自分に贈与税が課税されると思っていたのですが、税金のことは私の方で考えるからと答えたようです。

 記録によれば、「被上告人も自己に課税されるものと理解していたことが伺われる。そうすれば、上告人において、右財産分与に伴う課税の点を重視していたのみならず、他に特段の事由がない限り、自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示には表示していたものと言わざるを得ない」。だから、要素の錯誤の成否、上告人の重大な過失の有無等について、さらに審理を尽くさせるために高裁に差し戻したわけです。

 私は、高裁で、銀行員の主張は否定されると思っていました。多分、重大な過失のところで否定するだろうと。もし、課税関係の錯誤を認め、私人間の契約を無効にする理屈を認めたら大変です。しかし、高裁も錯誤を認めたのです。

 今度は奥さんの方が大変です。財産分与の除斥期間は2年です。だから、ここで財産分与が取り消されてしまうと、離婚してから2年以上が経過してしまっているため、あらためて財産分与を請求することが出来なくなってしまうわけです。でも、裁判所は。「時効の停止に関する民法161条の規定を類推適用する余地があり、財産分与の錯誤無効が確定した後に行う協議に係る処分の請求が除斥期間の定めによって妨げられるものとは解されない」との判断をして、奥さんの心配を切り捨てています。

 奥さんは次のような主張もしました。銀行員はいろいろと勉強をしていて、財産分与の課税関係についても銀行の参考書に書いてあるではないかと主張したわけです。しかし、裁判所は、「被控訴人が本件離婚問題の発生前にこれらの教材または資料等に接して一般知識として右の点を理解していたことは当然かつ容易にこれを理解し得たと認めるべき証拠はない」と判断して、奥さんの主張を排斥しています。そして、財産分与契約は錯誤により無効との判断をしました。

● 私法紛争で課税を取り消す

 課税関係の錯誤を理由として、私人間の契約を取り消してしまった。そして、財産分与契約が取り消されれば、遡って、財産分与に対する課税も取り消すことができます。

 国税通則法23条2項と、それを受けた国税通則法施行令6条は、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に係る契約が、解除権の行使によつて解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によつて解除され、又は取り消されたこと」を更正の請求理由としています。

 この財産分与の判決から、税法上の錯誤を理由として私法契約を取り消し、これによって税法上のトラブルを解決するとの実務の流れが出てきたわけです。課税上のトラブルで税務署長を訴えても、納税者が勝訴できる可能性は5%です。しかし、私人間のトラブルなら、勝訴の可能性は50%です。

 この流れの一つとして登場したのが、先ほど説明しました交換契約を課税の錯誤を無効として取り消してしまうとの事例だと思います。しかし、今後も課税関係の錯誤を理由として契約を取り消してくれるかというと、また、揺れ戻しがあるのではないかと想像しています。

 例えば売買契約を締結するに際して、売主が、「この家を売却しても居住用資産の特別控除の特例が受けられるんですね。だから、売却するんです」と言っていたら、特例の適用が受けられない場合には売買契約は錯誤無効だと主張できるのか。そんなことを認めたら取引の安全なんて無くなってしまいます。あるいは重大な過失との要件で救済できるのかもしれませんが、しかし、そのような税法の規定を知らなかったら重大な過失といえるような常識的な条文だけではないのが税法です。

● 判決の利用

 この判決は利用できます。税法上の錯誤を理由として、私法契約を取り消してくれた判決が二つもあるわけです。一つは財産分与で、一つは交換契約です。それなら、最初から課税関係を契約に取り込んでしまえば良いわけです。

 私は、税法を専門と標榜していますので、税法のミスの相談を受けることが多いのですが、多くの事案は、身内間の取引についてのミスです。たとえば、ゴルフ会員権の名義を父親から息子に変更したとか、同族会社に無償で借地権を設定したというような事例です。

 第三者に土地を売却したが、それに課税されるとは思わなかったという相談はありません。第三者との取引でしたら、実際に利得がありますので、そこに課税関係が生じることは誰でも分かります。

 しかし、身内間の取引、あるいは同族会社間の取引だと、利益が実感できる形では認識されないことがあります。たとえば、会社の所有地に社長の自宅を建築したような場合です。そのような取引では社長と会社との利害を区別して考えることはしません。

 そこで、特約の利用です。身内間の契約だったらどんな特約でも書き込むことができます。例えば、社長と会社が土地を交換するとの取引について相談を受けたら、そこで危険だと思うところを、全て、特約として書き込んでしまえばよいわけです。

 課税関係は、いくらチェックしても安心できないところがあります。予想したところと全く異なる箇所で課税関係が生じてしまう。完璧にチェックしたつもりでも、自分の知識が完璧でない場合があります。そのようなときには、契約書を作成したら、特約条項に課税関係についての疑問を書き込んでしまえばよいわけです。

 たとえば、「この契約は所得税法58条の交換特例が適用されることを前提に契約するのだが、もし後に課税庁から、交換価額に2割以上の差違があり、これがため交換特例の適用が認められないとの指摘を受けたときには、一方の土地の交換割合を増額することによって等価になるように調整するものとする」。そのような特約です。

 さらに、「交換持分割合の調整をもってしても所得税法58条の適用が受けられないときは、譲渡所得税の課税を受けることになる当事者は、相手方に対して本契約の解除を申し入れることができる」。そのような特約です。

 このような特約が有効か否かは議論があると思いますが、私は有効だと理解しています。課税関係についての錯誤無効を理由として契約を無効に出来るわけですから、当事者が課税関係について合意をすることが否定されるはずはありません。このような特約も、公序良俗に反しない限りは有効だと思います。

 このような特約には副次的効果も期待できます。仮に、特約の要件に欠けるところがあり、課税処分をすると税務署が指摘してきた場合は、課税処分の前提になる契約が解除されてしまう契約です。契約が解除されてしまえば、更正の請求により、課税処分も取り消されてしまう。そうしたら、そんな面倒な課税処分を税務署が行うとは思えません。

 課税関係でリスクを侵す必要はありません。心配な条項は全て契約書に取り込んでしまう。このような教訓を、この財産分与の判決は教えてくれていると思います。

● 税金の錯誤を否定した判決

 税金の錯誤を理由として契約を取り消してしまうという世の中の流れに対して、それを認めなかった判決も出てきました。父親から買い受けた土地を、その購入価格で会社に現物出資をした事例です。

 父親から購入した価額は路線価による評価額です。しかし、路線価は贈与税と相続税でしか利用できません。会社に対して現物出資をしたことによる評価額は、その時点での実勢価格が採用されることになります。

 そして、現物出資も譲渡ですから、実勢価格での譲渡が行われたものとしての譲渡所得課税が行われるわけです。しかし、この人達は路線価による現物出資も認められると勘違いしていたのだと思います。そこで路線価での現物出資をしてしまった。それに対して譲渡所得課税が行われました。

 そこで、この人達は、路線価での現物出資には課税されないと錯誤していたので、現物出資は錯誤無効になると主張したわけです。しかし、裁判所は納税者の主張を排斥しました。現物出資という行為に錯誤理論が適用されるかとの基本的な疑問がありますが、それは別として、なぜ、裁判所が錯誤を否定したのか。

 それは、錯誤が税務訴訟において主張されたからだと想像しています。つまり、財産分与の事例も、先ほどの交換特例の事例も、訴訟は契約の当事者の間で争われた通常の民事訴訟なわけです。民事訴訟なら、裁判所も、5対5の平等の立場で事実を認定し、法律判断をしてくれます。しかし、現物出資の例は税務訴訟として争われたわけです。この場合は、税務訴訟の勝訴率は5%との現実が登場します。つまり、原則として国を勝たせる行政訴訟の実態です。

 このように、幾つかの判例があり、税金の錯誤と、私法契約の無効は、いまホットな話題です。そして、税金も私法契約に取り込んでしまうとの契約テクニックは、これからの契約書作成のノウハウになると思います。

● 教訓

 税務訴訟は民事訴訟で解決することです。逆に、民事訴訟は税務処理で解決するのが良いかもしれません。上手に遺産分割をすれば、相続税を節税するとの方法で、当事者が争っている財産の総額を増やすことが出来るかもしれません。

第9章 相続・代償金

▲説例▲ Aは遺産分割により、他の相続人から代償金として4億250万円の支払いを受けることにした。ところが、Aの法定相続割合は27分の1であるにもかかわらず、更正処分によりAが負担することになったのは、相続税の総額1億4135万円のうちの1億1775万円。これは相続税総額の83%相当する。このような結果になったのは、不動産の相続税評価額と実勢価格に開きがあり、他の相続人が取得した主な資産は土地であるのに、Aが取得したのは代償金4億250万円だったためなのだが。前橋地裁平成4年4月18日判決(判例時報1478号103頁)。


● 代償金の課税関係

 この頃はバブルも終わりましたので、このような事例は少なくなりました。逆に、相続税が課税された段階での評価額よりも、遺産分割が終了した段階での相続税額の方が大きいとの逆転現象も生じています。

 しかし、バブルの時代は、実勢価格では10億円だが、相続税評価額では5億円だというような土地が存在しました。そのような遺産分割について、兄弟が2人いたとしたら、兄が土地を取得する代わりに、弟に代償金を支払うことになる。

 その場合の代償金ですが、何しろ、兄は時価10億円の土地を手に入れているわけです。それが遺産分割段階では15億円にも値上がりしている。だから、その半額ということで7億円を要求したが、弁護士の説得で5億円の代償金を受け取ることで納得した。

 すると、相続税の計算はどのようになるか。もともとの相続財産は5億円です。兄は5億円の土地を取得し、5億円の代償金を支払う。だから、相続税法の計算では、兄の相続財産はゼロになってしまうわけです。

 弟は、相続財産5億円のうちから代償金として5億円を受け取る。したがって、相続税の全額を弟が負担することになってしまう。仮に、弁護士が弟の委任を受けていて、弟を説得し、計算上は7億円の代償金を請求できるのだが、現金で支払ってもらえるのなら5億円でも良いのではないかと説得していた。そうしましたら、相続税の総額が弟の負担との結論になってしまった。

 依頼者が飛んできて、「先生、私の方で相続税の全額を負担させられることになってしまいました」と言われたら、成功報酬はもらえなくなってしまいます。

● 調整についての合意が必要

 代償金の課税関係を説明しようと思いますのは、代償金については、二つの考え方があることをご理解いただこうと考えたからです。これは相続税法基本通達11の2−9です。代償金の課税関係について基本的なところを取り決めています。
 

▲参考▲
 相続税法基本通達11の2−9(代償分割が行われた場合の課税価格の計算)

 代償分割の方法により相続財産の全部又は1部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。

 (1)代償財産の交付を受けた者  相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額
 (2)代償財産の交付をした者  相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額

 (注)「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるから留意する。

 つまり、代償金も相続税の課税に取り込まれるのですが、代償金を受け取った相続人は、相続により取得した財産に、その代償金を加えた価額の合計額を相続財産として相続税を負担する。これが(1)です。

 代償金を支払った相続人は、相続により取得した財産から、代償金の金額を差し引いた価額を相続財産として相続税を負担する。これが(2)です。

 次に、相続税法基本通達11の2−10です。こちらは例外的な合意をすることが出来ると取り決めています。
 

▲参考▲
 相続税法基本通達11の2−10(代償財産の価額)

 11の2−9の(1)及び(2)の代償財産の価額は、代償分割の対象となつた財産を現物で取得した者が、他の共同相続人又は包括受遺者に対して負担した債務(以下「代償債務」という。)の額の相続開始の時における金額によるものとする。ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該代償財産の価額はそれぞれ次に掲げるところによるものとする。

 (1)共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によつて計算して申告があつた場合  当該申告があつた金額
 (2)(1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となつた財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における通常の取引価額を基として決定されているとき  次の算式により計算した金額

 A×C÷B

 (注)算式中の符号は、次のとおりである。
 Aは、代償債務の額
 Bは、代償債務の額の決定の基となつた代償分割の対象となつた財産の代償分割の時における価額
 Cは、代償分割の対象となった財産の相続開始の時における価額(昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」(以下「評価基本通達」という。)の定めにより評価した価額をいう。)

 ここに記載してある算式で計算してみれば分かるのですが、要するに、代償金を、時価と相続税評価額の比で圧縮するとの計算方法を採用しています。先ほどの5億円の評価額で、実際には15億円だという土地について、5億円の代償金を受け取ったとの事例で計算すると次の通りです。

 この場合は、5億円の代償金を、15分の5の割合で圧縮計算をするわけです。つまり、1億6666万円です。弟がもらったのは1億6666万円で、兄が渡したのは1億6666万円だの計算になるわけです。したがって、兄が取得したのは、5億円から1億6666万円を差し引いた3億3333万円で、弟が取得したのは1億6666万円です。

 ただ、相続税についての話し合いの結果、このような結論が出たのなら良いのですが、相続税についての話し合いのないまま、遺産分割についてのみの調停で結論が出てしまうと面倒です。代償金の圧縮計算をするのか、しないのか、そこが分からなくなってしまうわけです。

 当然、兄は、圧縮計算をしない方が有利ですから、圧縮計算をしない相続税の申告書を提出する。しかし、弟の方は、圧縮計算をした方が有利だから、圧縮計算をした上での相続税の申告書を提出する。さて、税務署は、どちらに軍配を上げるでしょうか。負けた方は過少申告加算税を負担することになります。

 ですから、もし、弁護士が調停の場で大きな金額の遺産分割をまとめようというときには、その段階で、相続税の申告書、更正の請求書、あるいは修正申告書を作成し、調停の場で相続税の申告方法についても合意してから調停をまとめないと、後に、弁護士自身がトラブルに巻き込まれてしまう場合もあり得るわけです。

● 教訓

 争いのある遺産分割には注意が必要です。遺言書を作成する場合、遺産分割協議を行う場合、遺産分割の調停の合意をする場合は、相手方との関係だけではなく、税務署との関係も配慮すべきです。

第10章 相続・遺贈

▲説例▲ Aの遺産は、長男が経営するビル管理会社に貸し付けているビルの敷地で、その相続税評価額は7000万円。Aは、この敷地を管理会社に遺贈することにした。ところが遺贈後に、他の相続人から管理会社に対する遺留分減殺請求があり、管理会社は翌年度に3000万円の価額弁償をした。最高裁平成4年11月16日判決(判例時報1441号66頁)


● 税法のミスは取り返しが付かない

 本日のテーマは、具体的な事件から税法特有の考え方を理解していただこうというものです。今までの説明で、どこまで税法の特有の考え方を理解していただいたか不安ですが、最後に、税法の特有の考え方の全てが登場するミス事例を使って、税法的な発想の復習をしてみようと思います。

 これは訴訟になった事案ですが、私も同じような案件の相談を受けたことがあります。本妻がいて、本妻との間には5人の子供がいる。でも、本妻との生活は10年近く前に破綻していて、いまは愛人と生活している。こういう場合は、愛人とは言わずに、重婚的内縁というのでしょうか。その内妻との間には娘が1人いる。そして、現在は貸しビル業を経営しているのですが、その人が遺言書を作成することになった。

 全ての財産を内妻との間に生まれた子供に相続させれば良いのですが、子供は小さい。そこで、内妻を株主として設立していたビル管理会社に全ての遺産を遺贈することにしたわけです。そうすれば、内妻は株主として、事実上、全ての遺産を取得することが出来ます。

 本件事例も同じです。相続財産はビル管理会社に貸しつけているビルの敷地で、その評価額は7000万円。これを管理会社に遺贈する。多分、管理会社の株主は長男だったのだと思います。遺産を会社に遺贈することにより、実質的に、長男に遺産を渡してしまうことを考えたのでしょう。そのような処理をした結果、五つのミスが生じてしまいました。

 第1のミスは、譲渡所得課税です。譲渡所得は売買所得ではありません。所有権を移転する一切の行為を譲渡というわけです。だから、相続も贈与も譲渡です。もちろん、遺贈も譲渡です。ですから、法人に遺贈したことについて譲渡所得課税が行われることになりました。死亡と同時に、法人に対して遺産を売却したものとみなしての譲渡所得課税が行われることになってしまったわけです。これは所得税法59条の1項に書いてあります。
 

▲参考▲
 所得税法59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)

 次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。

 1 贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
 2 著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)
 

 本件で課税の根拠になったのは、1号の「遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)」との条項です。

 この場合は「その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす」とされています。

 これに対し、「父親が子供に遺産を遺贈したり、贈与したりしても、子供に相続税や贈与税が課税されることがあっても、譲渡所得課税は行われていないではないか」との疑問があると思います。でも、課税しないのが例外なのです。所得税法59条は「贈与(法人に対するものに限る。)」としています。だから、個人から個人への贈与には譲渡所得課税はしません。

 でも、それ以外のものには課税します。戦争が終わった直後に出来た税法では、相続のときも譲渡所得課税を行っていました。個人から個人への贈与にも譲渡所得課税を行っていたわけです。しかし、そのような課税をすると、相続のときには、相続税を課税した上に、譲渡所得課税もすることになる。これは二重課税に思えます。

 本当は二重課税ではないのです。課税の対象が異なります。一方は相続との資産取得原因に対しての相続税の課税であり、他方は資産の譲渡との値上がり益の実現との事実についての譲渡所得課税です。でも、素朴な印象では二重課税に思えます。

 そこで、相続の際には譲渡所得課税はしないとの法改正を行いました。ただ、贈与の場合は譲渡所得課税を行っていました。しかし、贈与の場合も、取得者に贈与税を課税し、贈与者には譲渡所得を課税することは二重課税に見えます。そこで、届出をすれば譲渡所得課税を行わないとの改正を経て、その後、贈与の場合は常に譲渡所得課税は行わないとの現在の条文が出来上がったわけです。

 しかし、これは個人間の贈与と相続についての改正であって、法人に対する遺贈については、「そのときにおける価額によって譲渡したものとみなす」との条文は改正されていません。だから、法人に対して遺贈し、あるいは贈与すると譲渡所得課税が行われてしまうわけです。

 第2のミスです。法人に対する受贈益課税です。もし、法人に対して遺贈せず、内妻、あるいは内妻との間の子に対する遺贈でしたら、相続税は全く課税されませんでした。相続税評価額7000万円の敷地ですから、妻と5人の子供がいる相続なら、基礎控除だけでも1億1000万円になります。しかし、本件事案では、遺贈を受けたのは会社です。会社には相続税は課税されません。法人税が課税されます。

 第3のミスです。路線価が利用できず、実勢価格での課税が行われてしまいました。相続でしたら、土地は路線価で評価されます。この頃は、路線価も相当に割高になりましたが、それでも公示価格の八掛け程度に収まっています。しかし、個人が法人に遺贈した場合は相続税評価額は利用できません。相続税評価額が利用できるのは、相続税の場合と、贈与税の場合だけです。

 本件事案の場合は、渡した方、つまり、被相続人には譲渡所得課税が行われ、もらった方、つまり、法人には法人税が課税されます。ですから、課税価額は相続税評価額ではなく、実勢価格で計算されます。相続税評価額が7000万円でしたから、実勢価格は8500万円程度になるはずです。

 ここまでのミスの合計を計算してみますと、次のようになります。もし、単純な相続にしておけば相続税はゼロ。しかし、法人に対する遺贈にしてしまったことで、まず、被相続人に対して譲渡所得課税が行われ、法人に対しては受贈益課税が行われる。多分、相続税評価額である7000万円以上の税額になってしまったと思います。

 第4のミスです。期間損益計算による損失を被っています。法人は実勢価格九千万円相当の土地の遺贈を受けました。そのため4000万円近い法人税を納めたと思います。

 その後、遺留分減殺請求があり、3000万円を支払ったわけです。そこで、法人は、最終的にもらったのは実勢価格9000万円から価格弁償金3000万円を差し引いた6000万円だと主張したわけです。だから、9000万円を所得に計上した昨年の法人税の課税の一部を取り消して欲しいとの主張です。

 しかし、それは認められないというのです。法人が9000万円もらったのは前事業年度ではないか。そして、3000万円を支払ったのは本事業年度になる。法人は期間損益計算をするのだから、今年の損失と昨年の利益を通算することは出来ない。昨年の利益9000万円は確定しているから、今年の損失として3000万円を計上する処理になるとの結論です。

 この法人が、今年も多額の所得を計上している会社なら、価額弁償金を支払ったことによる損失を、その所得から差し引けばよいわけです。しかし、所得を計上している会社でなければ、3000万円の所得は、結局は切り捨てになってしまうわけです。

 第5のミスです。ここでは出てきませんけれども、借地権の評価ということでも、この事例はミスになっています。この土地はビル管理会社に貸し付けられていましたが、その契約は年6%の相当地代を支払う契約でした。相当地代の支払いを受けている土地は、更地評価額から2割の評価減をしてくれることになっています。しかし、判決は、この事例では評価減の必要がないというのです。

 なぜなら、相当地代を受け取っている場合であっても、第三者が土地を使用している状況では、譲渡も難しく、それなりの使用制限もある。しかし、その第三者が土地の遺贈を受けた場合には、使用制限による減額を行う必要はないとの判断です。

 この最高裁判決には少数意見まで付いていまして、税法を研究するものにいわせると、多数意見も、また、少数意見も間違っているという意味で、いろいろと批判のある判決ですが、しかし、課税の基本は、この判決が指摘するとおりです。

 税法のミスが怖いと思うのは、ボタンを一つかけ間違えただけで、取り返しの付かない問題が幾つも発生してしまうことがあることです。この事例も、法人に遺贈するのではなく、相続人に遺贈しておけば良かったとの一つのミスで五つのミスが生じてしまっているわけです。

● 限定承認の課税関係

 所得税法59条、つまり、みなし譲渡所得について説明したついでに、限定承認についての課税関係も説明しておきます。債務超過の恐れのある場合は限定承認をするとういのが民法理論です。

 ですから、例えば株主代表訴訟の被告になっている取締役が死亡したときには限定承認の手続を選びます。相続を単純承認したら、被告の地位を承継することになり、敗訴した場合は、相続人が全ての責任を承継したことになってしまいます。

 しかし、相続を放棄したら、その訴訟で勝訴した場合も、全ての遺産を失ってしまうことになります。だから、限定承認です。しかし、これは間違いです。限定承認をすると、相続後4カ月を経過してから税務職員が訪ねてきて、すべての遺産を時価で売却したものとみなしての譲渡所得課税を行いますと言ってきます。

 なぜ譲渡所得課税が行われるかというと、所得税法59条です。「相続(限定承認に係るものに限る。)」の場合は、「その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす」としています。

 では、なぜ、限定承認をしたら譲渡所得課税をするのかというと、これは次のような理屈です。

 例えば、父親が3億円で購入したもので、今では時価10億円になっている土地があり、これを限定承認により相続したとします。すると、限定承認の場合は、10億円の遺産を相続しますけれども、同時に10億円の借金もあり、それを弁済するために相続した土地を売却処分することになります。そして、10億円の譲渡代金で相続債務を返済する。しかし、土地を売却したのは相続人です。したがって、相続人に対しては、3億円で取得した土地を10億円で売却したものとしての譲渡所得課税が行われることになってしまいます。

 そこで、限定承認をした場合は、相続した時点で、父親が3億円で購入した土地を10億円で売却したものとみなしての譲渡所得課税を行ってしまうことにしたわけです。7億円の売却益が父親に発生し、それについての2億円の所得税を父親が納めることになる。しかし、これは限定承認の手続の中で弁済すればよい。つまり、2億円の税金も、父親から承継した10億円の借金も、限定承認の手続きの中で清算してしまえば良いわけです。

 相続人は、相続した土地を10億円で売却し、10億円の現金を手に入れますが、その土地についての値上がり益は父親の段階で課税されています。だから、相続人は、10億円の取得価額の土地を10億円で売却したことになり、相続人が譲渡した段階では譲渡所得は発生しません。

 でも、株主代表訴訟の被告になっている場合は限定承認はできません。所有している土地は売却したものとみなされ、譲渡所得課税を受けることになる。その後、株主代表訴訟で敗訴すれば良いのですが、勝訴してしまった場合は、譲渡所得課税を受けただけ無駄な税金を支払ってしまったことになってしまいます。

 あるいは、社長が死亡したが、会社を承継する相続人がいないので、会社に勤めていた番頭さんに経営を承継してもらう場合も、同じような問題が生じます。社長は、通常、会社の借金について個人保証をしています。したがって、会社の経営を引き継いだ番頭さんが会社を倒産させてしまったら、社長の遺族は保証債務を負担することになってしまいます。しかし、相続段階で保証を解除してもらうことは不可能です。

 このような場合には、相続放棄も、単純承認も、限定承認もできません。相続を放棄すれば家を失うことになり、単純承認をすれば連帯保証債務を引き受けることになります。限定承認すれば、相続段階での譲渡所得課税が行われてしまうわけです。

 どうしたら良いと思いますか。これは先ほど説明した死因贈与契約です。亡くなる前に遺産だけを、例えば孫に贈与するとの死因贈与契約書を作成しておく。そして、相続が発生したら、相続人は相続を放棄してしまう。そして、孫が死因贈与契約に基づき遺産を取得し、相続税を申告する。死因贈与契約なら譲渡所得課税は行われません。相続税が課税されるだけです。詐害行為取消権などの問題が生じる可能性がありますが(東京地裁平成10年1月29日判決 判例タイムズ987号214頁)、それにしても、限定承認に比べ、死因贈与契約は利用できる手法ではないかと思っています。

● 教訓

 税法のミスは取り返しがつきません。

第11章 税法の学び方

 1) 実務を利用してください。実務に税金問題が登場したら、税法の条文まで遡って調べてください。税法にはいろいろな分野があります。法人税、所得税、相続税、贈与税、消費税。そして、所得税の場合は、利子所得、配当所得、事業所得などと10個の所得に分類されます。

 しかし、そのような種類のある税法のうち、弁護士が使うのは2割か3割の部分です。一生懸命に税法の基礎から勉強して税法の全てを学習しても、弁護士の実務には、全ての税法が登場するわけではありません。しかし、実務に登場する税法は、また、明日も実務に登場する税法です。

 2) 租税判例の利用です。最初に説明しましたように、租税判例を民事処理の失敗事例として読んでみてください。これは面白く読めます。なにしろ、他人の失敗事例です。

 3) 税理士の利用です。考えることが好きな税理士さんを見つけてください。税理士さんの大部分は法人税の申告で事務所を経営しています。でも、中には資産税が好きだという税理士さんもいます。資産税というのは、相続税、贈与税、譲渡所得です。これが弁護士業に登場する税法です。資産税が好きな税理士さんを見つけたら財産です。

 4) 税務六法を利用してください。普通の模範六法ぐらいの厚さの税務六法法令編があり、同じ厚さの通達編がありますので、全体では模範六法の倍の厚さになります。それに、税法は毎年改正されますので、毎年買いかえなければならない。でも、所得税法、法人税法、相続税法、消費税法などの基本は変わりません。租税特別措置法は良く変わりますけど、基本法は変わりませんので、1回買えば3年くらい使えると思います。

 5) 専門書籍の利用はダメです。「法人税の計算」とか、あるいは偉い学者の先生が書いた「租税法」などの書籍がありますが、そんな本を買って読もうとは考えないでください。五ページ読んで、読むのをやめてしまうはずです。税理士さんの本を探せば、それは税金の計算の本ですし、学者の本を読めば、租税法律主義などとの形式論議だけです。そんなものは実務では役に立ちません。

 6) 定期刊行物の利用です。私が1番読みやすいと思っているのは『週刊税務通信』という税務研究会で出している週刊の雑誌です。弁護士でも読める雑誌です。ただ、それを購読しても、おもしろいと思う記事は三冊に一つかもしれません。でも、それを言ったら、『判例時報』だって実際に役に立つ記事は、1カ月に一つか二つです。

 7) 東京弁護士会が発行している『法律家のための税法』という赤い本がありますから、あれを利用してみてください。

 8) 遠慮なく関根弁護士に電話してください。大概事務所にいますし、先生方から相談を受けるのは大歓迎です。相談を受けたから請求書を送るなんてことはしていません。いつ電話をしていただいても大歓迎です

 
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