● 相続と事業継承の税務

 第1 土地の時代からカネと株式の時代
 第2 土地についての相続対策
 第3 相続時精算課税の相続対策的な利用
 第4 遺言信託の利用と条件付又は負担付遺贈
 第5 相続前の対策としての会社法と税法
 第6 相続後の対策としての会社法と税法
 第7 まとめ

第1 土地の時代からカネと株式の時代

 20年前のバブルの頃は3億円の現金を持っていたら無駄だと言われたと思います。3億円の現金を持っていれば、7億円の融資を受け10億円の土地を購入することができます。そうすれば、翌年には11億円の土地になり、あるいは12億の土地になっているわけです。ですから、あの頃は現金を持っている者は少なく、借金をしている人達が大量に存在しました。要するに資産家というのは、金持ちではなく、土地持ちだったのです。

 現在も、依然として土地には価値がありますが、それ以上に、現金や株式に価値が出てきました。私の周りでも、5億円の現金、あるいは10億円の現金を持っている人達が存在します。

 株式を持っている人達も、上場成金の登場で増えてきました。上場していない場合でも、自分が経営する会社の株式の評価額が上昇し、相続税の計算においても多額の株式評価額になってしまう人達が増えています。

 さらには、戦後60年が経過し、創業者の相続が終わり、いまは2代目、3代目の相続になっています。そして、バブルと、バブル崩壊を生き残ってきた会社は、それなりに内部留保を蓄えていますが、これが株価を引き上げる要因になっているわけです。

 そのような時代ですから、事業承継を考えるとすれば、土地と金融資産、それに株式についての検討が必要になります。

 さらに、大都市に限るかもしれませんが、使えないビルが増えています。使えないビルといいますのは、低中層のビルで、床が上がっていないビルです。最新のオフィスビルはLANケーブルが引けるように床が上がっています。さらにはオフィスビルはガラス張りの40階建てになっています。すると10階、15階のビルで、床が上がっていないビルには良いテナントは入らなくなってしまいます。

 もし、皆さんが、ビル持ちの資産家で、建坪150坪程度の10階建のビルを所有している場合に、そのままビルが朽ちるまで、二流、三流のテナントを入れて維持していくか、あるいは建て替えるかという選択が迫られることになります。

 しかし、ビル持ちとはいえ、40階建てのビルに建て替える力はありません。それ故、現在、5階、10階のビルは取り壊され、高層ビルが建築されようとしています。私の事務所からは東京の約半分が見渡せるのですが、先日、建築中のクレーンを数えましたら19個もありました。それが全て40階建のビルを建築するためのクレーンなのです。東京のバブルは、少なくとも今後10年は続くと思います。そのような時代背景を前提として、土地やビルを持っている人達の相続税対策が必要になるのです。

 もう一つは、後継者のいない事業経営者が増えていることです。戦後の多産の時代が終わり、いまは少子化の時代です。そして、子供達は大学に進学し、サラリーマンになってしまう時代です。その為に、会社を継ぐ者がいなく、会社の経営をどうしようかと考える経営者が増えています。

 それらが、相続と事業承継、それに相続税についての時代背景となっているわけです。そして、相続税はもちろん、相続と事業承継にも、税法の知識は不可欠だというのが、今回の講演のテーマです。

 …… 日本弁護士連合会の平成19年研修叢書に収録して出版予定 ……