=== 東京地裁民事3部で続く納税者勝訴の判決 ====


 東京地裁民事3部は、民事2部と共に行政訴訟専門部ですが、この3部で納税者勝訴の判決が出続けています。税務訴訟の納税者の勝訴率は、平成12年度を例にとれば全面勝訴が3%、一部勝訴を入れても6%というのが今までの実情です。1年間の納税者勝訴(一部勝訴も含め)の判決件数は17件。ところが、東京地裁民事3部では既に9件の納税者勝訴判決(一部勝訴も含め)が言い渡されています。


 一般の注目を浴びた事件として、東京都が制定した銀行に対する外形標準課税条例を無効と判断し、東京都に対する損害賠償請求を認めた事件や、日本興業銀行が行った住専に対する債権の貸し倒れ処理を認めた事件などがあります。


 なぜ、東京地裁民事3部で、突然に、納税者勝訴判決が大量に言い渡されるようになったのか。これは、偶然に納税者が勝つべき事件が東京地裁民事3部に係属することになったのではなく、一人の裁判長の個性の結果だというのが専門誌、それに週刊誌が取り上げるところです。9件の判決について、陪席は入れ替わっていますが、裁判長は同一人です。


 納税者の言い分を3%(一部勝訴も入れれば6%)しか認めない税務訴訟の現状には大きな批判がありました。しかし、突然に、納税者の言い分を一方的に認める判決が続くことにも違和感があります。3%勝訴の現状が間違っているのか、あるいは民事3部が間違っているのか。税務訴訟の現状に一石を投じる事件であることは確かです。


 そこで、東京地裁民事3部が言い渡した最新の納税者勝訴判決の事実関係と、その理屈を紹介してみます。税務の常識から考えれば、財産が無償で移転しているとの事実があれば、それは贈与でしかないのですが、しかし、要件事実的な判断からすれば、前提として贈与契約が締結されている必要があるとの理屈になるようです。


 興銀事件については高裁で国側勝訴の逆転判決が言い渡されました。他の判決も同様の運命をたどると主張する人達と、高裁も、地裁民事3部の新しい流れを無視できないと主張する人達がいます。さて、この判決についての高裁での結論はどのようなものになるでしょうか。


 事実関係 _______________________________


 父親は米国に居住する娘に、平成9年2月4日に北海道拓殖銀行から日本円に換算して2000万円をアメリカ合衆国にある娘名義の預金口座に送金した。なお、娘は昭和61年には米国国籍を取得し、平成3年からは米国に居住している。しかし、父親と娘の間には贈与契約に関する書面は残されていない。そして、平成9年9月に父親は死亡した。この送金が、贈与(死亡年中の贈与なので相続税の課税対象に取り込まれる)の事実の有無が争われることになった。


 裁判所の判断 _____________________________


 父親から娘に対し本邦に所在する現金が贈与されたといえるのは、本件各送金以前に、父親と娘との間で、本件各送金の原資に当たる邦貨に関する贈与契約が成立しており、その履行のために本件各送金手続が執られた場合に限られるというほかない。…… (贈与の事実の認定には贈与契約の存在が必要)


 本件各送金以前に、父親と娘との間で贈与契約が成立していたとすれば、それは口頭によるものであったことになるが、被告は、父親と娘との間の贈与契約は、平成9年2月5日以前に成立していたものと思料される旨主張するのみであって、それを裏付ける立証は何らできていない。…… (贈与契約の存在が立証されていない)


 遺言(一部取消・変更)公正証書中には、その作成日である平成9年2月5日以前に父親が娘に対し相当額の生前贈与をした旨の記載があるが、本件各送金が同証書の作成前にされていること、及び同証書が父親の一方的意思によって作成されたものであることに照らすと、上記記載から贈与契約自体の存在を推認することはできない。…… (一方の言い分には証拠価値はない)


 本件各送金に係る金員が相続税の課税価格に加算されるためには、父親と娘との間で本件各送金に係る贈与契約が本件各送金以前に成立していたことが必要であり、本件各送金以前の贈与契約の成立は、相続税の課税根拠事実に当たるというべきである。したがって、この点に関する主張立証責任は被告が負担すると解すべきところ、前述のとおり、被告は自己の主張を裏付ける立証ができていない。…… (だから、国側の敗訴)


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