==== 合併と繰越欠損金の関係は組織再編成税法で様変わり =====


 a社は、毎期利益を計上している同族のb社を吸収合併しました。しかし、この合併には次のような事情がありました。1)a社は、もともと休業状態の会社で9000万円を超える繰越欠損金を抱えていたこと、2)合併後に営まれた事業はb社が営んでいた事業のみであること、3)a社は合併と同時に商号をb社に変更していること。


 そして、a社は合併後、b社から承継した事業で利益を獲得すると共に、a社の繰越欠損金(5年内の青色繰越欠損金)を損金に算入して利益を相殺してしまいました。


 このような事案について審判所は次のように判断して繰越欠損金の損金算入を否認しました。a社は、5年内の青色繰越欠損金を利用するために、逆さ合併の形式を採用したのであるが、これは法人税法57条(青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰り越し)の規定の趣旨に反する繰越欠損金の損金算入であり認められない。


 「逆さ合併」とは次のような概念です。本来であれば事業を行っているb社を存続会社とし、休業状態のa社を消滅会社として合併すべきところ、この方法ではa社の繰越欠損金が利用できなくなってしまう。そこで、逆に、a社を存続会社とするが、しかし、その実態はb社の事業の継続にあり、合併の目的は、単にa社の繰越欠損金を利用することだけにある。


 これは「逆さ合併」について最近に公表された裁決事例(平成13年1月22日裁決)です。しかし、せっかく公表された裁決ですが、この理屈は昨年度の組織再編成税制によって過去の知識になっています。組織再編成税制では、繰越欠損金の理論は今までの取り扱いとは全く異なります。


 組織再編成税制での取り扱い______________________


 適格合併が行われた場合に、合併存続法人(上記の例ではa社)の繰越欠損金が利用できることは当然として、被合併法人(b社)に繰越欠損金があるときは、これも合併存続法人の繰越欠損金とみなして、合併後のa社の所得計算において利用することができます(法人税法57条2項)。


 適格合併というのは、一定の要件を整えた合併です。つまり、1)100%の持分関係のある会社間の合併、あるいは、2)50%を超える持株関係があり、かつ、従業員等の80%が承継され、かつ、事業が承継される合併、さらには、3)相互に関連する事業を共同で営むための合併で、2)の要件に加え、事業が相互に関連し、かつ、事業の規模が5倍以内であり、さらに合併法人から交付を受けた株式を継続して保有することが見込まれる株主の持株が80%以上であること。


 しかし、適格合併の場合であっても、次のような事実がある場合は、b社(消滅会社)の繰越欠損金だけではなく、a社(存続会社)の繰越欠損金も使えなくなってしまうとの恐ろしい結果になります(法人税法57条3項、6項。繰越欠損金と同様の意味を持つ資産の含み損については法人税法第62条の7)。


 つまり、消滅会社と存続会社との間の50%を超える持株関係が合併の直前に成立したものである場合は、その成立した日以前に生じた繰越欠損金は利用できなくなるとの制限です。


 たとえば、a社には4年前に発生した繰越欠損金10億円があるとします。そして、a社は、20%の持分を持っていたb社について、ここで第三者が所有していた株式を買い取り、100%の子会社にしてからb社を吸収合併しました。


 このような場合は、100%持分の子会社の吸収合併として適格合併にはなりますが、しかし、この合併をしたが為に、a社が保有していた繰越欠損金10億円は利用できなくなってしまうのです。なぜなら、a社の繰越欠損金は、b社との「50%を超える持分関係」が生じるより前に発生した繰越欠損金だからです。


 一読して頂いただけでは理解して頂くのが困難な取り扱いですが、合併と繰越欠損金の取り扱いについては、組織再編成によって、従前の取り扱いは全て廃止され、全く新しい概念が取り入れられることになったと、頭の片隅に知識をストックして頂けたらと思います。