前回に引き続いて取引相場のない株式の評価です。まず、前提を思い出して頂きます。相続税における支配株主としての時価は5万円で、少数株主としての時価は500円。法人税における支配株主としての時価は8万円ですが、所得税の場合の株価算定の結果も同額になるはずです。
この取引については実際に行われた取引価額が税法上も是認されるはずです。
所得税の取り扱いでは、支配株主にとっての株価は、譲渡直前の状況で、かつ、純資産価額と類似業種比準価額の折衷方式を採用することになっています。つまり、売主にとっての時価は1株8万円です。しかし、低額譲渡について、それを時価での売却とみなしての課税を行うとの所得税法59条は、個人から個人への譲渡には適用されません。
所得税法59条は、法人に対する贈与と、法人に対する遺贈、それに法人に対して行われた著しく低い価額での譲渡について、「その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす」ことにしています。そして、「著しく低い価額での譲渡」とは、「資産の譲渡の時における価額の2分の1に満たない金額」としています。つまり、個人から個人への低額譲渡については所得税法59条は適用されないわけです。
したがって、1株500円での譲渡は、正当な価額での譲渡が行われた取引として税務上も是認されます。
さて、買主である社員(少数株主)に対する課税関係ですが、これも当事者が行った取引が税務上も是認されることになります。
個人間の売買について、買主について検討されるのは贈与税の課税の可否です。相続税法7条は、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」には「対価と譲渡があった時における時価との差額」が贈与されたものとみなすことにしています。しかし、贈与税での少数株主としての株価は500円(配当還元価額)です。したがって、時価相当の対価を支払って株式を購入した買主(少数株主)には、贈与税を課税すべき利得は認識されません。
所得税法は売主(支配株主)に対して1株を8万円で売却したと認定しての課税を行います。買主である法人には課税関係は生じないと説明されています。
まず、売主についての課税関係ですが、所得税基本通達59−6が特に要求した要件(前回のレポートで説明した【4】の要件)に従えば、支配株主か否かは売却直前の売主の立場で判定されることになります。したがって、今回の取引における売主にとっての株価は8万円です。
1株500円での売却は、法人に対して行われた「著しく低い価額での譲渡」に該当しますので、所得税法59条が適用され、「その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみな」されてしまいます。
しかし、所得税基本通達59−6は、買主である法人には適用されません。少数株主である買主にとっての株価は500円ですが、これを買主は500円で買い受けています。したがって、買主(会社)が同族関係者に含まれ、支配株主として株価が算定されるとの特別の事情がない限り、買主に対して受贈益課税が行われることはありません。
ただ、売主にとっての株価が8万円で、買主にとっての株価が500円との理屈、つまり、一つの取引に二つの株価を認定するとの理屈に問題はないのか、これはいま議論されているところです。
所得税法は社員株主が行った500円での売却は是認しますが、買主であるオーナー(支配株主)に対しては5万円との差額について贈与税を課税します。
まず、売主である社員にとっての株価は、所得税においても、相続税においても1株500円です。したがって、500円のでの売却に税務署がクレームを付けることはありません。
しかし、買主(支配株主)にとっての株価は5万円です。個人から個人への売却について、買主側に課税されるのは通常の場合は贈与税です。そして、贈与税に適用される財産評価基本通達に従って計算した支配株主にとっての株価は5万円(仙台地裁平成3年11月12日 判例時報1443号46頁)。つまり、買主に対しては4万9500円の贈与を受けたものとみなしての贈与税が課税が行われてしまうわけです。
取引相場のない株式の評価方法を理解したら一人前の税理士です。その知識を一枚のレポートで説明し尽くすことは不可能なのですが、どこに問題点があるかを記憶するための資料として利用して頂けたらと考え、その課税関係を整理してみました。
さらに、株式が発行会社によって金庫株として買い取られる場合の適正な株価、さらには、金庫株が時価に比較し、低額、あるいは高額な価額で発行会社に買い取られた場合の課税関係など、さらに複雑な課税関係が控えているのが取引相場のない株式についての課税関係です。