==== 私法上の法律構成による否認 ========

 税法の判断はわかり難いとの意見を聞くことが多いのですが、その理由の一つが税法の判断基準にあるように思います。税法も、法である以上は、当事者が選択した法形式を前提に、それに税法を当てはめて課税要件を判断することになります。

 しかし、最近、当事者が選択した法形式を無視するとの手法を採用した判決が言い渡されました。「私法上の法律構成による否認」との判断基準です。そこで、この判決を参考に、裁判所の判断基準を検証してみようと思います。

 まず、裁判所は、「私法上の法律構成による否認」を次のように説明しています。

 所得に対する課税は、私法上の行為によって現実に発生している経済的効果に即して行われるものであるから、第一義的には私法の適用を受ける経済取引の存在を前提として行われる。
 しかしながら、その経済取引の意義内容を契約当事者の合意の単なる表面的、形式的な意味によって判断するのは相当ではなく、裁判所による事実認定の結果として、納税者側の主張と異なる課税要件該当事実を認定し、これに従った課税が行われることは当然のことである。
 たとえ、取引が通謀虚偽表示に当たると認定されなくても、事実認定の結果として、課税要件に該当する事実認定がなされれば、当該認定事実に従った課税が行われるべきである。

 いままでは、当事者が選択した法形式を否認する方法は次の2つでした。つまり、私法取引を通謀虚偽の仮装行為と認定し、私法上の効果を否定してしまう方法と、同族会社の行為計算否認(法人税法132条など)を適用し、私法上の法律効果は認めた上で、税負担を不当に減少させる行為として「税務署長の認めるところにより法人税の額を計算」してしまうとの手法です。

 しかし、今回の判決は、この2つの否認原理ではなく、「事実認定の結果として、課税要件に該当する事実認定がなされれば、当該認定事実に従った課税が行われるべきである」との新しい否認手法を提案しているようです。

 つまり、当事者が採用した法形式とは異なる法形式を課税庁が独自に認定し、認定した法形式に対し課税要件を当てはめるとの手法です。

 簡単に言えば、当事者が交換契約を締結した場合に、それが相互の売買契約とも認識できる場合は、相互の売買契約と認定しての課税を行うとの判断基準です。しかし、そのような認定手法を課税庁に認めたら、「何でもあり」になってしまうと思うのですが、その実際の適用は如何なるものなのか。これを「私法上の法律構成による否認」を採用した大阪高裁判決から解明してみようと思います。

 外国税額控除の可否について判断した事案で、第一審は納税者の主張を認めましたが、控訴審は納税者の請求を棄却しました。大阪高裁平成14年6月14日判決で、判決全文は大阪高裁のホームページに掲載されています。

 原告(銀行)は、P社に対し、2億7266万ドルを支払って、S社に対する貸付金債権を取得した。S社は、原告に対し、元本2億7266万ドルを返済し、年利8.16パーセントの割合で計算した利息を支払った。なお、利息の支払額からはメキシコ国に納付することとなる源泉鋭(利息に対して15パーセント)が差し引かれた。そして、原告は、メキシコ国源泉税について外国税額控除を適用した法人税の確定申告書を提出した。

 このような取り引きについて、判決は、次のように判断しました。

 本件取引は、原告主張のとおり、原告がP社から、手形買取という方法で融通した資金の額と期間に見合う金利を得る取引であることは否定できないものの(したがって、本件取引を仮装行為ということはできない。)、原告が、P社に、メキシコ国源泉税の負担軽減を図るために原告の外国税額控除の余裕枠を利用させ、同社からその利用に対する対価を得ることを主たる目的とした取引であるといわざるを得ない。

 したがって、外国税額控除の適用は受けられないとの判断です。当事者が締結した法形式(融資契約)の効果を否定することなく、また、同族否認との法人税法の条文を利用することなく、当事者が締結した契約の意味内容について、課税庁に独自の認定(外国税額控除の余裕枠の売買)を行うとの権限を与えたわけです。

 裁判所は、「上記の解釈は、要件事実の認定に必要な法律関係については、表面的に存在するように見える法律関係に即してではなく、真実に存在する法律関係に即して要件事実の認定がなされるべきことを意味するにとどまり、真実に存在する法律関係から離れて、その経済的成果や目的に即して法律要件の存否を判断することを許容するものではない」と判示していますが、このような区別が存在するのか、仮に、存在したとして、そのような区別を行うことが可能なのかは大いに疑問があるところです。

 この事案について、原告(銀行)が行った取り引きが正当なものか、また、これに外国税額控除の適用を認めることが正当か否かについては議論があると思います。しかし、その事を別にして、契約形式の意味内容について、課税庁に独自の解釈権限を与えるとの「私法上の法律構成による否認」との理屈は、非常に危険な解釈手法として注意することが必要です。