======= 路線価という不思議 ========

 相続税法も、他の税法の例に漏れず、実務は通達によって運用されています。相続税法基本通達、相続税法個別通達、財産評価基本通達、財産評価についての幾つかの個別通達が拠り所とされているところです。

 そして、財産評価通達は、相続税22条が「財産の価額は時価」によると定めている言葉を受け、財産評価についての一つのジャンルを構築し、その内容は何十冊もの解説書を生み出すまでに増殖しています。財産評価通達が定める領域はあらゆる財産に及びます。

 土地についても、所有地の他に、借地権、貸宅地、貸家建付地などの評価方法を定め、また、地形よって奥行価格補正、側方路線価影響加算、二方路影響加算、三方又は四方路線価影響加算、不整形地の評価、無道路地の評価、間口が狭小な土地の評価などを定めています。

 圧巻なのが取引相場のない株式の評価方法で、類似業種比準方式、純資産方式、配当還元方式などを定め、企業の規模、あるいは株主の立場によって、それぞれの組合せを変えて適用することにしています。

 しかし、刑務所の壁のように厳然たる存在を誇ってきた財産評価通達ですが、ここで、ややほころびを示してきました。その一つが借地に供している土地(底地)の評価が問題になった事例であり、間口狭小地の評価が問題になった事例です。

 まず、底地の評価が問題になった裁決例を取り上げてみます。それに先だって底地はどのように評価するのかについて、財産評価基本通達を紹介すれば次の通りです。

 

 財産評価基本通達25は底地の価額について、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって評価すると定めています。そして、財産評価基本通達27は借地権価格について、地域ごとに国税局長の定める借地権割合を更地価格に乗じて計算した金額によって評価すると定めています。つまり、借地権価格控除方式です。

 第1事案

 本件宅地の上には、10階建の借地権付分譲マンションが建築されており、マンションは相続開始日現在、84名により区分所有され、敷地には、マンションの賃借権敷地権の登記がされていました。そして、この敷地(底地)の評価が問題になりました。課税庁は、財産評価基本通達に基づき7億2000万円と評価しましたが、平成9年12月11日裁決は、通達による評価方式に収益還元方式による調整を加え、底地価額は6000万円が正しいと、次のように判断して課税処分を取り消しました。

 底地価額は、単なる地代徴収権の価額にとどまらず、将来借地権を併合して完全所有権とする潜在的価値に着目して価格形成されているのが一般的であると認められている。しかしながら、1)底地と借地権とが併合されて完全所有権が復活する可能性が著しく低く、また、2)契約更新等に係る一時金の取得の可能性がないなど、底地が、地代徴収権に加えて将来底地と借地権とが併合されて完全所有権となる潜在的価値に着目して価格形成されていると認め難い特別の事情があることにより、借地権価額控除方式によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、相続税法第22条の時価を算定するために他の合理的な方式によることも相当と解される。

 第2事案

 公道から幅員約2.15メートル、長さ約17メートルの専用通路を経由して有効部分に接続する路地状敷地603.50平方メートルの評価が問題になった事案です。課税庁が財産評価基本通達によって評価した価額(4億9867万8622円)について、東京高裁平成13年12月6日判決は、相続土地の時価は2億8957万9039円が正しいと、次のように判断して課税処分を取り消しました。

 本件土地の評価上の特性としては、路地状敷地であること、再建築が不可能なこと、規模が大きいことであるところ、これら一般的基準にはなじみにくい特性を含む本件土地の評価にあたり、その個別的要因、特殊性を十分考慮して、土地価格比準表等に基づく個別格差率だけでなく、路地状敷地の取引事例分析、土地残余法による効用格差分析に基づく検討も加えて、右鑑定評価による評価法が正当である。

 路線価による評価額は、30年前には実勢価格の3分の1でしたし、20年前は路線価格の2分の1でした。その為に全ての矛盾は解消されていたのですが、現在の路線価は公示価格の8割とされています。それに、最近の土地不況で、路線価でも売れないとされているのが土地の取引価格です。そろそろ実務家も、路線価の呪縛から離れても良い時代かもしれません。