===== 東京地裁民事3部で15勝6敗 ======


 いま東京地裁民事3部(行政事件専門部)が話題です。税法に関して3部が言い渡した判決で公表されたものを、納税者が勝訴した事件は○、敗訴した事件には●を付け、時系列に沿って並べると次の通りです。

 つまり、2001年1月からは1件を除き、全件について納税者の勝訴。しかし、それまでは納税者の全件の敗訴でした。

 平成12年 9月29日 ● 民事訴訟における交換取引錯誤無効
 平成12年11月30日 ● 増資新株の低額譲渡と不良債権処理
 平成12年11月30日 ● 相続税額の取得費加算
 平成12年12月21日 ● 滞納国税に係る債権差押処分
 平成12年12月21日 ● 贈与により取得したゴルフ会員権の名義書換料
 平成13年 1月31日 ○ 建物明渡猶予期間中の小規模宅地
 平成13年 2月28日 ○ 換価代金等配当処分取消し
 平成13年 3月 2日 ○ 日本興行銀行事件
 平成13年 3月28日 ○ 再開発と代替地の取得
 平成13年 5月25日 ○ 認知判決の確定と更正の請求
 平成13年 5月25日 ○ 違約金の収益計上時期
 平成13年11月 9日 ○ 第三者割当てによる含み益の移動(旺文社事件)
 平成14年 1月22日 ○ 更正の予知/通法65「調査」の意義
 平成14年 1月22日 ● 寄与分の相続財産性
 平成14年 3月 7日 ○ 固定資産審査委員会の決定取消し
 平成14年 3月26日 ○ 東京都外形標準課税訴訟
 平成14年 4月18日 ○ 海外の子への生前贈与
 平成14年 7月11日 ○ 小規模宅地の要件
 平成14年 8月27日 ○ プログラム等準備金の損金算入要件
 平成14年11月 5日 ○ 名目役員報酬と年金受給権の判定
 平成14年11月26日 ○ ストックオプション訴訟

 なぜ、このような偏りをもった答(判決)が登場するのか。個々の事件について取り上げれば、指摘したい論点は幾つでもあるのですが、ここは全体的に考察するとのアプローチを採用してみようと思います。

 第1の理由 偶然に納税者が勝つべき事案が3部に配点された。

 そのような偶然は存在しないように思います。事件の配点について恣意があるのなら、そのような偏った事件配分も可能ですが、しかし、そのような作為がなされているとは聞いていません。そして、東京地裁のもう一つの行政専門部である2部は、相変わらず納税者の勝訴率3%との税務訴訟の判決を書き続けています。

 第2の理由 公平に判断すると税務訴訟には納税者が勝つべき事案が多い。

 いままでの判決が間違っていたとの理解です。確かに、通常の民事訴訟の原告勝訴率は75%を維持しているのに、税務訴訟の納税者勝訴率が3%という現状は、民事3部の判決とは逆の意味での偏りがあります。その偏りを修正したら、なんと、1件を除いた全件が納税者が勝つべき事案だったとの理屈です。しかし、そうだとしたら、納税者勝訴率3%との歴史は何だったのでしょうか。

 第3の理由 ある日突然、裁判官が傾向をもった判決を書こうと思い立った。

 これはあり得ない理屈です。なぜなら、行政訴訟は合議であり、常に、3名の裁判官が関与します。そして、納税者が勝ち続ける地裁民事3部の裁判官は、裁判長こそ同一人ですが、陪席の裁判官は入れ替わっています。もし、「ある日突然、裁判官が傾向をもった判決を書こうと思い立った」との理由を支持するのなら、突然に3名の裁判官がそのように思い立ち、その後に3部に配属された陪席の裁判官(合計で8名)も同様に思い立ったと理解しなければなりません。

 第4の理由 3名での合議とは言っても、裁判長の指示は絶対である。

 裁判長の指示は絶対であり、会社における部長と平社員との関係が裁判所でも成立しているとの理解です。このように理解すれば、「ある日突然に傾向をもった判決を書こうと思い立った」のは、裁判長1人で充分です。しかし、このような憲法までも無視した合議が行われているとは思えません。

 第5の理由 合議とはいっても、結局は判決は1人で書いている。

 しかし、この理屈も成立しないように思います。地裁民事3部の判決が、全件、同一人によって書かれているとは思えないからです。それに、その後の合議での全員の賛成を得る必要があるとの意味で、上記の第3と第4の疑問を解消する必要があります。

 第6の理由 原告勝訴でも、被告勝訴でも、どのような結論でも出せるのが判決。

 確かに、裁判になる事案ですから、原告の言い分も尤もであり、被告の言い分も尤もだとの事件は多いように思います。とすれば、裁判官がどちらかの主張を取り上げようと、答を先に決めてしまえば、納税者が勝ち続けるとの判決を作り出すことができるのかもしれません。しかし、なぜ、そのように答を先に決めた判断が登場するのかについて、上記の第3から第5までの疑問を解消する必要があります。

 第7の理由 司法制度を守るために傾向のある判決を書いている。

 どこかで最高裁長官が訓辞したのかもしれません。いまのまま、国民の権利を認めない裁判所を続け、朝日新聞を代表とするマスコミの批判を許していたら、陪審制、参審制が導入されてしまう。しかし、素人に裁判ができるはずがない。今の制度を守るために、より国民の権利を擁護する視点での判断を期待すると。陰謀史観ですが、しかし、そのようにでも考えなければ、行政部のエリート裁判官が、ある日突然に行政に刃向かう判決を書き出す。このことの意味がわかりません。




 納税者勝訴率3%との実務にも大きな疑問がありますが、納税者が勝ち続ける地裁民事3部の判決にも大きな疑問があります。さて、このような地裁民事3部の判決なのですが、はたして、高裁では幾つが生き残るのでしょうか。既に、日本興行事件と、海外の子への生前贈与事件では、高裁で逆転の判決が言い渡されています。