========== 公平の概念の変質 ========== 

 父が死亡し、相続税評価額10億円の遺産を私と妹で相続することになりました。私と妹が納める相続税の総額は幾らになりますか。なお、基礎控除と相続税の税率は次のようになっています。


 基礎控除   5000万円と1000万円に相続人の数を乗じた金額の合計額
 相続税の税率
    課税価額1000万円以下           課税価額×10%
        1000万円を超え3000万円以下      ×15%
        3000万円を超え5000万円以下      ×20%
        5000万円を超え1億円以下         ×30%
        1億円を超え3億円以下            ×40%
        3億円を超える金額              ×50%

 これは私が大学で租税法を教えていたときに試験問題として出題していたものです。超過累進税率といわれる税率構造ですが、この税額計算の方法を理解していることは、租税法の公平概念について最低限の理解をしていることになります。

 さて、租税制度については幾つかの基本原理が唱えられていますが、その中で一番に重要なのが「公平」の概念です。では、なにが公平なのでしょうか。

 第1の公平 …… 1人が1年間に300万円の税金を負担するとの税制です。これは人頭税といわれる税制です。

 第2の公平 …… 獲得した所得、あるいは消費した金額に比例して税金を負担するとの税制です。消費税が、この税制になります。コーラ1本を飲んだら誰でも5円の消費税を負担します。

 第3の公平 …… 収入の段階に応じて増加する税率を適用して計算した税額を負担する税制です。これが超過累進税率です。所得税、相続税、贈与税で採用されている税率構造です。

 超過累進税率を、さらに詳しく説明すれば次のようになります。所得330万円の納税者は330万円に10%を乗じた33万円の所得税を負担します。では、所得が900万円だったらどうでしょうか。この場合は、330万円までの部分について10%を乗じた33万円と、330万円を超える570万円の部分について20%の税率を乗じた114万円との合計額147万円の所得税を負担することになります。

 所得が1800万円なら、330万円までの部分、330万円から900万円までの部分の570万円、900万円から1800万円までの部分である900万円と3つの区分に分け、各々、10%、20%、30%の税率を乗じた417万円の所得税が計算されることになります。

 これが超過累進税率といわれる税率構造ですが、経済学でいう限界効用逓減の法則に則った非常に合理的な税率構造だと説明されていますし、私自身も、超過累進税率に基づく公平概念は、実質的な公平を確保する制度として社会に誇れる優れた制度だと理解していました。しかし、このような公平感は否定されようとしています。つまり、第2の公平概念への移行です。

 所得税の税率が、この数年で劇的に引き下げられてきたことはご承知と思いますが、さらに、今回の税制改正では、相続税と贈与税の税率が大幅に引き下げられることになりました。いままでは70%だった相続税と贈与税の最高税率の50%への引き下げです。

 これに対し、消費税については、小規模事業者の免税額を3000万円から1000万円に引き下げ、簡易課税が適用される課税売上を2億円から5000万円に引き下げるとの改正が行われます。益税を許さないとの意味では正しい改正ですが、しかし、正しい改正を装った増税であることも事実です。

 そして、同時に、消費税の内税化が提案されています。これは商品代金に含まれる消費税額を見え難くしてしまうとの政策です。つまり、将来の消費税率の引き上げを目論んでの政策であることは明らかです。

 第3の公平から第2の公平への移行は時代の流れであり、それを止めることは出来ないのかもしれません。しかし、第3の公平には捨てがたい魅力があります。それと、第1の公平までの移行はなんとしても避けたいところです。人頭税は、非常に過酷な税金だったと歴史が語る税制だからです。