コンプライアンスという言葉が流行です。「法令遵守」と訳されていますが、法律に違反する行為だけではなく、明るみに出た場合は信用を失墜してしまうような企業行動も含めて理解する場合が多いようです。
さて、「法令遵守」は当然のことと言われてしまえば反論はできませんが、では、法律を守るとはどういうことなのでしょうか。
どれも経営判断としては経済的合理性があります。では、これらの行為はコンプライアンスに適合しているといえるのでしょうか。このことについては、取締役の「法令遵守」が争点になった証券会社の損失補填事件が参考になります。
株主代表訴訟が起こされ、損失補填を行ったことが取締役の法令違反行為になるか否かが問われました。最終的には独占禁止法違反の有無が争点になり、判決は、「平成2年3月時点では、その行為が独占禁止法に違反すると認識しなかったことにやむを得ない事情がある」と判断して株主の請求を棄却しました(最高裁平成12年7月7日判決)。しかし、判決は、独占禁止法違反の行為も「法令遵守」義務に反すると判断しています。つまり、独占禁止法の片隅に書いてある条項もコンプライアンスの基準になるとの判断です。
しかし、独占禁止法、あるいは証券取引法の片隅に書かれた条文がコンプライアンスの基準だとしたら、法律家にあらざる経営者にコンプライアンスの判断を求めることは不可能です。上記の4つの処理について、合法と違法を区別することができる経営者がはたして何人いるのでしょうか。
ところが、この判断を何十年前から行ってきた業界があります。それが税理士業界です。1)から3)については不可。4)については要件が整えばokと、即座に答を出すことができる業界です。
1)については1億円で譲渡したとみなされ、差額の7000万円は寄付金と認定され損金計上が否認されてしまいます。2)と3)についても同様です。交際費の支払いと認定され、損金算入が否定されます。これらが経営判断として合理的で正当なものだと評価されたとしても、税法上の合理性は認められません。
4)はどうでしょうか。これも原則としては寄付金として損金算入が否定されますが、特別の要件を満たせば是認される場合もあります。それが、「子会社等の解散などに伴い、損失負担をしなければ、今後より大きな損失を蒙ることが社会通念上明らかである場合に、やむを得ず行う相当な理由」がある損失の負担です(法人税基本通達9−4−1と9−4−2)。
この税務判断の結果は、たぶん、コンプライアンスにもっとも通じた法律家が出す答と一致するはずです。
企業経営は、いままで密室で行われてきました。しかし、税理士業務は密室では終わりません。第三者である課税庁に納得してもらう処理が必要であり、その基準がコンプライアンスだったのです。
税法と通達という形式基準を実務に当てはめた上で、経済の最先端に存在する企業経営を処理し、実質的な合理性を守る。これが税理士が行ってきたことです。何がコンプライアンスかが分からなくなってしまったときには、経営者と法律家は、税理士に質問してみると良いのではないでしょうか。