========= 連帯納付義務は危険な制度===========

 第1事例 長男が全ての財産を取得し、次男は代償金として3000万円の支払いを受けることにした。

 第2事例 父親は、なにかとトラブルを起こす次男に5000万円を支払い、遺留分を放棄してもらった。

 弁護士なら、このような処理は常に行っていることですが、ここには弁護士には隠された落とし穴があります。それが相続税法34条に定める連帯納付義務です。今回は連帯納付義務の恐怖をご紹介します。

 登場するのは資産家の娘aさんと、その弟のbさんです。aとbは、平成2年5月15日に父親から遺産を相続して相続税を申告しました。

 aは相続税の申告と同時に相続税を納めたのですが、bは延納を申請しました。相続税は、最長15年について延納することが認められています。

 aにしてみれば、bが相続税をすぐに納めるのか、あるいは延納するのかは知りようがありません。そして、相続から5年が経過した後に、aは税務署から請求書を受け取ることになりました。bが納めるべき相続税について、その納付がないので、bに代わり、aが相続税を納付すべきだとの請求です。

 bは、延納申請の条件になっている担保を提供していませんでした。そのため延納申請が却下されてしまったのです。しかし、bが担保を提供していた場合でもaが連帯納付義務から免責されるわけではありません。担保が提供されている場合でも、bが滞納すれば、aに対しては自動的に連帯納付義務の請求書が送られてくることになります。

 aとしては、自分は相続税を納めているのにもかかわらず、bの相続税まで負担させられるのは不合理です。そこで、1)連帯納付義務には第二次納税義務と同様の補充性があり、2)連帯納付義務に基づく滞納相続税の徴収は国税徴収権の濫用に当たると主張し、督促処分の取り消しを求めました。

 しかし、裁判所(東京地裁平成10年5月28日判決 判例タイムズ1016号121頁)は次のように判断し、aの主張を排斥しました。そして、この判断は東京高裁(平成11年2月25日判決)、最高裁(平成11年9月17日判決)でも維持されています。

 1)の主張について

 相続税法34条1項は、各相続人に対し、互いに連帯して相続税を納付すべき義務を課しているものであって、納付義務の履行については、民法上の連帯債務ないしは連帯保証債務と同様に、国税債権者である国との関係では補充性はないものと解される。

 2)の主張について

 相続税法34条1項の連帯納付義務は、「本来の納税義務者が現に十分な財産を有し」ているのにもかかわらず、「国税当局が同人又は第三者の利益を図る目的をもって恣意的に右相続税の徴収を行わ」ないような場合は、「正義公平の観点からみて国税徴収権の行使として」「国税徴収権の濫用に当たると評価すべき余地がないわけではない」が「原告の主張事実を前提としても……国税徴収権の濫用に当たると評価すべき事情が存すると認める」ことはできない。

 相続税法34条が定める連帯納付義務には二つの場面があります。一つが相続税について適用される連帯納付義務で、「各相続人は、お互いの相続税について、相続によって受けた利益を限度として互に連帯納付の責を負う」というものです。

 次が贈与税で、「財産を贈与した者は、受贈者が納付すべき贈与税について、贈与した財産の価額相当額を限度として連帯納付の責を負う」との条文です。

 さて、最初に紹介した説例ですが、第1事件については、判決を紹介したaさんの立場を超える悲劇が発生します。仮に、代償金が支払われなかった場合です。

 次男は遺産分割によって代償金債権を取得していますが、それが履行されるか否かは遺産分割とは別の問題です。とすれば、代償金が不履行だった場合には、受け取ってもいない代償金についても「相続によって受けた利益」として、次男は3000万円の代償金相当額の連帯納付義務を負うことになってしまいます。

 第2事例では、父親は5000万円を支払い、放蕩息子と縁を切ったのですが、息子が贈与税を納めないために、息子が納めるべき贈与税2220万円を負担させられることになってしまうのです。そして、負担した2220万円の贈与税について、それを負担したこと自体を更なる贈与(相続税法7条から9条)として、その贈与税負担行為に贈与税が課税されるとの事態も考えられないことではありません。

 地価下落の時代には、相続段階での資産の評価額よりも、連帯納付義務が現実化した段階での処分価額の方が値下がりしています。この場合、相続人は、相続した財産を処分しただけでは連帯納付義務の履行に足りず、自己の固有の財産までも処分して、連帯納付義務を履行しなければならなくなります。

 このような制度が不合理であることは指摘するまでもありません。現に、いま大阪高裁に継続している訴訟(原審は大阪地裁平成15年1月24日判決)には多数の税理士が保佐人として参加し、連帯納付義務は憲法に違反すると主張し、督促処分の取り消しを求めています。しかし、裁判所が立法について違憲判決を書くとは思えず、残念ながら、連帯納付義務についての救済は期待できそうもありません。

 弁護士が遺産分割、あるいは贈与などの処理に関与する場合は、このような連帯納付義務のリスクについても配慮した対応が必要になるのが、この頃の不況の時代の事件処理です。