平成14年度の商法改正(平成15年4月1日施行)で現物出資の検査役制度が抜本的に改正されました。この制度は、DES(デットエクイティスワップ)による相続税対策などに利用されることが多くなると思いますので、改正内容を紹介してみようと思います。
改正前の商法で、現物出資についての検査役の調査を要求していたのは、商法173条(会社設立時の現物出資と財産引き受け)、商法246条(事後設立)、商法280条の8(現物出資)の4つの場合でした。その内容は、現物出資財産の価額について裁判所の選任した検査役の調査を受けることを原則とし、次の場合に限って、検査役の調査を免除するというものでした。
1)現物出資の対象となる財産の価額が資本の5分の1を超えず、かつ、500万円を超えない場合。なお、増資の場合は、現物出資を為す者に対して発行する株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えず、かつ、新たに発行する株式の数の5分の1を超えない場合。あるいは、現物出資の目的たる財産の価格の総額が500万円を超えない場合。
2)現物出資の対象となる財産が取引所の相場のある有価証券で、取引価格を超えない価額で出資されている場合。
3)現物出資の対象となる財産が不動産で、不動産鑑定士の鑑定書を添付した弁護士の証明を受けている場合。
以上の免除の要件に該当しない場合は、裁判所に検査役の選任を申請する必要があったのですが、調査に要する時間の予測がつかないことと、多額の費用負担(非公式に調査したところでは40万円から400万円までの事例があった)が必要になることから、現物出資についてスケジュールを立て難いとの批判がありました。
このため平成14年度の商法改正では、現物出資等について税理士等の証明を得た場合は、裁判所の選任する検査役の調査を省略することを認め、それと同時に、証明制度を担保するものとして、調査を実行した税理士等に専門家としての責任を負わせる規定をおくことにしました。その内容は次の通りです。
1) 現物出資の対象となる財産の価額が資本の5分の1を超えず、かつ、500万円を超えない場合。なお、増資に際しての現物出資の場合は、現物出資者に対して与えられる株式数が発行済株式の10分の1を超えず、かつ、新たに発行する株式の数の5分の1を超えない場合か、または、現物出資の目的たる財産の価格の総額が500万円を超えない場合。
2) 現物出資の対象となる財産が取引所の相場ある有価証券で、その出資価額が取引価額を超えない場合。
3) 現物出資の対象となる財産に関する事項が相当であることについて、弁護士、弁護士法人、公認会計士(外国公認会計士を含む)、監査法人、税理士又は税理士法人の証明を受けた場合。なお、対象となる財産が不動産の場合は、上記の証明に加えて不動産鑑定士の鑑定評価も必要になる。
今回の改正で新しく採用されたのが上記の3)です。この改正は実務に大きな影響を与え、今後は現物出資等についての検査役の選任に代えて税理士等の証明が利用されることになるだけではなく、検査役の選任手続等が面倒なために敬遠されていた現物出資などが盛んに行われることになると予想されます。
ただし、税理士等の証明に基づいて現物出資を受け入れた場合は、それが定款などに定めた価額を下回るときは、取締役は不足額についての填補責任を負うことになります。しかし、検査役の調査を受けた場合は填補義務は生じません(商法192条の2第2項、同280条の13の2第4項)。したがって、評価額に争いが生じる可能性のある資産が現物出資される場合は、裁判所から検査役の選任を受けるとの手続の方が安全ですので、今後も、検査役による調査の方法が並行して利用されると予想されています。