脱税事件の起訴基準と実刑基準

 ▲ 大阪国税局は、売上金を除外し2年間で約4100万円を脱税したとして、法人税法違反の疑いで、大阪市旭区中宮寝具卸売業(会社)と同社の実質経営者yを大阪地検に告発した。▲

 これは平成15年3月26日の新聞報道ですが、4100万円は2年間の脱税額ですから、1年分の脱税額は2050万円です。バブル崩壊以前は、告発される事件、つまり、脱税として起訴されるのは最低でも税額で1億円、あるいは2億円を上回っていたように思います。それが今は4100万円の脱税でも起訴されます。

 さて、その理由ですが、「この頃は、ちょっとした経済犯罪にも検察が登場する様相を示しているので、脱税についても例外ではない」と考えるのは、どうも間違いのようです。

 平成15年6月28日朝刊には、名古屋国税局が2002年度に管内(愛知、岐阜、三重、静岡の4県)で実施した査察の結果が発表されています。それによると告発された件数は前年度と同じ20件だとのこと。つまり、査察官は、常に、前年実績を維持した告発を行うということのようです。

 したがって、経済が後退し、脱税の規模が小さくなれば、小さな金額でも告発されてしまう。つまり、経済規模を査察官のノルマで除した金額が告発基準になるというのが実態です。

 さて、不幸にして査察官に踏み込まれてしまった納税者(脱税者)と、その相談を受けた弁護士は、その後、どのように対応すべきでしょうか。実は何もありません。何か工作をすれば、それが証拠隠滅として逮捕されてしまう事態も想定されます。

 平成15年5月8日の新聞報道ですが、顧問先の教材会社について、法人税法違反の摘発を免れれるために虚偽の経理書類を作成したという理由で、新宿区に事務所を出す公認会計士が逮捕されています。

 また、この頃の時代では、政治家に口利きを依頼し、あるいは税務署のOBに斡旋を依頼するということが無意味、かつ、有害であることは説明の必要もないと思います。

 可能なのは、事実関係を正確に説明し、真実の金額以上の脱税額が認定されないように正直に説明すること以外にありません。あとは、裁判を待つことになりますが、脱税事件での量刑基準は次のような内容になっています。

◆ 量刑の判断基準


 1)  脱税額 …… 国税の本税額が基準です。
 2)  脱税率(申告率) …… 無申告が一番に悪質になります。
 3)  脱税の手段、方法 …… 脱税請負人が関与すると重くなります。
 4)  脱税の動機
 5)  脱税した資金の使途
 6)  脱税所得の取得原因
 7)  罪証隠滅工作
 8)  修正申告、納税状況 …… 納税していなければ実刑です。
 9)  経理体制の改善
 10) 同種前科、前歴 …… 前科がある場合は実刑が原則です。
 11) その他 …… 職業の種類が問われます。

 このうち重視されるのが、1)、2)、3)、8)、10)で、第1審判決時点で納税が終わっていなければ実刑を覚悟すべきです。実刑判決を言い渡してプレッシャーをかけ、控訴審までには納税させようという政策的な配慮です。

◆ 実刑の基準 …… 脱税額3億円が実刑のボーダラインといわれていますが、初犯で納税を済ませていれば4億円でも執行猶予になり、また、社会的なステータスが高い場合は5億円での執行猶予も不可能ではありません。しかし、職業の質が悪い場合や、脱税請負人を使った事件では1億5000万円の脱税でも実刑になります。

◆ 罰金の基準 ……  所得税法違反では、懲役と罰金の併科が通常で、法人税法違反では、法人に罰金、行為者に懲役が通常です。ただし、1)法人が消滅した場合、2)法人に支払能力がない場合などには、行為者へも併科する例が増えています。罰金は、求刑がほ脱税額の25〜30%で、判決は20〜25%になるのが通例です。そして、罰金を納付しなければ労役場留置という事実上の懲役が待っています。

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 仮に、脱税をする予定という相談者がいましたら、脱税は割に合わない博打だということと、脱税額は預金しておくことをアドバイスする必要があります。本税、加算税、延滞税、それに罰金で、脱税額を超えてしまうのは間違いがありません。そして、それらが納付できない場合は実刑です。