消費税と源泉所得税のカラクリ=================

 30台のパソコンを500万円で売却した。売主は買主に対し消費税を加えた525万円を請求することができるだろうか。答は否です(大阪地裁平成11年4月23日判決)。

 なぜなら、消費税を買主が負担するとの法律上の根拠が存在しないからです。

 消費税の導入に際しては、消費税は買主(消費者)が負担すると説明されてきました。そして免税業者の益税問題が非難されてきました。消費者が支払った税金が国庫に納付されず、免税業者の手元に残ってしまうとの非難です。しかし、このような説明は真実ではなく、益税に対する非難は消費税のカラクリに惑わされた勘違いにすぎないのです。

 消費税を負担するのは、あくまでも売主である事業者であって、消費者ではないのです。

 消費税は、法律上は、事業者の売上金額の105分の100を課税標準とし、事業者が税額を負担し、事業者が国に納める税金(いわば第2事業税)にすぎません。

 では、次に、商品代金に上積みする消費税ではなく、逆に、商品代金(労働の対価)から税額相当額を控除する源泉所得税のカラクリを取り上げてみましょう。

 aさんは1年分の給与500万円から源泉所得税30万円を差し引いた470万円の支給を受けました。しかし、正しい源泉税額は12万円であって、差額の18万円は過大に差し引かれていました。

 さて、aさんは、所得税申告(還付請求)をして、納めすぎた所得税18万円を国から取り戻すことができるでしょうか。この答は否です(最高裁平成4年2月18日判決)。この理屈について最高裁は次のように説明しています。

 ▲判例▲

 給与その他の所得についてその支払者がした所得税の源泉徴収に誤りがある場合に、その受給者が、確定申告の手続において、支払者が誤って徴収した金額を算出所得税額から控除し又は右誤徴収額の全部若しくは一部の還付を受けることはできないものと解するのが相当である。…… 誤って源泉徴収をされた(給与等を不当に一部天引控除された)受給者は、その不足分を……支払者(雇用者)に請求して追加支払を受ければ足りるのである

 ▲終わり▲

 源泉税の徴収システムは、1)従業員と雇用者との私法関係と、2)雇用者と国との公法関係に区別するとの方法で巧妙に組み立てられているのです。

 そして、従業員が、過大に徴収された所得税額を取り戻す方法は、雇主に対する未払給与請求訴訟ということになるのです。雇主が倒産してしまえば回収不能になってしまう債権です。

 国に対して過大納税分の還付請求が行えるのは、従業員ではなく、源泉徴収税額の納税義務者である雇用者です。このシステムに従えば、給与所得者は、所得税の納税義務者ではなく、単なる税負担者にすぎません。

 ▲条文▲

 所得税法183条(源泉徴収義務)

 居住者に対し国内において第28条第1項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない。

 ▲終わり▲

 税負担者といわれている者が法律上は税負担者ではなく、納税者と思われている者が単なる税負担者にすぎない。このような巧妙なカラクリの上に構築されているのが消費税と源泉所得税の徴税システムです。

 税負担者と納税義務者を入れ換えてしまう。そうすれば、税負担者は法律上の苦情を申し立てることができず、納税義務者は苦情を言う必要がない。まさに優秀な官僚が作り上げた日本の税法です。