遺留分減殺請求と死後認知についての相続税法の改正
相続税の実務では、遺留分減殺請求と死後認知があった場合の処理について疑問が指摘されていました。遺留分減殺請求がなされた場合や、死後認知の判決が確定した場合についての次のような疑問です。
平成15年の改正前の相続税法32条は、遺留分減殺請求の通知がなされた時点、あるいは死後認知の判決が確定した時点が、第1と第2の起算日になると定めていました。したがって、遺留分義務者は、遺留分減殺請求の通知を受け取った日から4ヶ月以内に更正の請求を行う必要がありました。
しかし、遺留分減殺請求の通知がなされても、それに応じるか否か、また、応じるとしても幾らの代償金を支払うか等が確定しない段階で、相続税についてのみ、金額を確定する形での更正の請求を行うことは実際には困難でした。そのため具体的な価額弁償金が確定した段階が上記の起算日になるとの実務が採用されていました。そして、判決も、そのような実務を追認していました(最高裁平成4年11月16日判決 判例時報1441号66頁)。
ところが、死後認知請求事件で、東京地裁が、認知の判決が確定した日が更正の請求の起算日になり、その時点での更正の請求を怠った場合は、その後の救済は受けられないと、まさに、相続税の条文を文字通りに解釈した判決を言い渡したことから、遺留分減殺請求を含め、上記の2点の疑問が再燃することになってしまいました(平成13年5月25日東京地裁判決 国税速報5339号)。
そこで改正されたのが相続税法32条です。遺留分減殺請求などについて、更正の請求の起算日を次のように定めました。
さらに、相続税法32条を受けた相続税法施行令8条は、死後認知について次のように定めています。
つまり、遺留分減殺請求については「返還すべき額が確定したとき」が減殺請求権者が行う相続税の申告期限の起算日であり、減殺義務者が行う更正の請求についての起算日になるとの実務が、条文上も再確認されたわけです。
死後認知については2度に分けての処理が必要になりました。認知判決が確定した日が更正の請求についての1度目の起算日であり、弁済すべき額が確定した日が2度目の起算日になるとの取り扱いです。これは嫡出子が行う更正の請求だけではなく、認知請求者(非嫡出子)が行う相続税の申告についての起算日にもなります。
そして、1度目の更正の請求では、1)法定相続人が増えたことによる相続税の減少と、2)法定相続割合による相続税の再配分が更正の請求理由になり、2度目の更正の請求では、具体的な取得財産に応じた相続税の再配分が更正の請求理由になります。
このように、相続税法32条の改正によって、遺留分減殺請求については単純明瞭になりましたが、死後認知については2度の手続が必要になってしまいました。
さて、ここまでが相続税法32条の改正についての説明ですが、さらに、相続税法基本通達32−3(死後認知があった場合の更正の請求)の改正についてもフォローしておく必要があります。
32−3のなお書きは、相続税法32条が要求した2度の処理を、第2回目に一度に行う便法を認めました。しかし、これは嫡出子が行う更正の請求についての便法です。したがって、この通達によって、認知請求者(非嫡出子)が行う一度目の相続税の申告義務が免除されるわけではありません。
相続税法と基本通達の改正にもかかわらず、やはり、注意を要するのが遺留分減殺請求や死後認知だと記憶しておく必要があることに変わりはないようです。