税理士が逮捕される時代 ==================
「脱税に関与しても、脱税報酬が支払われていない限りは、税理士に対してはお咎めなし」。これが10年前の常識でした。
私が経験した事例でも、会社から頼まれ、架空の買掛金と未払金を計上してしまった事例や、作り替えた伝票を元に入力作業を全てやり直した事例などがありましたが、税理士の責任は全く問われないどころか、査察官からの呼び出しさえありませんでした。
ところが、この5年間ぐらいで状況は一変しています。納税者本人が逮捕される場合は、脱税に関与した税理士も同時に逮捕され、さらに税理士が起訴されることも珍しくなくなっています。最近の新聞報道から拾い出せば次のような状況です。
税理士には、法定申告期限までに税務申告書を提出しなければならない究極の使命があります。期限内の申告を怠れば、それだけで無申告加算税が課税されてしまいます。過少申告の場合は、後に修正申告書を提出し、あるいは税務調査の段階で事実を明らかにすれば済むとの油断もあります。
確かに、経営者を説得し、正直な申告書を提出させるのが税理士の使命であり、これが受け入れられない場合は依頼を断るのが正しい税理士の道かもしれません。しかし、長年の付き合いのある経営者に対し、そのような突き放した処理が行い難いのも税理士の弱さです。
「脱税に関与しても、脱税報酬が支払われていない限りは、税理士に対してはお咎めなし」。このような10年前の取り扱いは、課税庁職員が、税理士の弱さを承知していたための取り扱いと理解することができました。
しかし、現在は違います。なぜ、取り扱いが変わってしまったのか。これは、遡れば、強制執行妨害罪に問われた安田好弘弁護士の逮捕(平成15年12月24日に東京地裁で無罪判決)から始まったように思います。住専管理機構は告発状を提出するとの方法で、安田弁護士の逮捕について検察に協力しました。
それまで検察は、専門家の逮捕には相当に慎重でした。国家権力の横暴として人権派弁護士から攻撃されることが必至だったからです。ところが、人権派弁護士を標榜していた人達が、検察権力を使い、債権回収を始めてしまった。これが住専管理機構が作り出した新しい社会です。
弁護士が逮捕されてしまう時代ですから、検察官が税理士を逮捕するのに躊躇するはずがありません。他人の脱税のために自分が逮捕されてしまっては割に合いません。時代が変わったことを理解し、依頼者のために危ない橋を渡らないようにするのも専門家の知恵です。