税理士が逮捕される時代

 税理士が逮捕される時代 ==================

 「脱税に関与しても、脱税報酬が支払われていない限りは、税理士に対してはお咎めなし」。これが10年前の常識でした。

 私が経験した事例でも、会社から頼まれ、架空の買掛金と未払金を計上してしまった事例や、作り替えた伝票を元に入力作業を全てやり直した事例などがありましたが、税理士の責任は全く問われないどころか、査察官からの呼び出しさえありませんでした。

 ところが、この5年間ぐらいで状況は一変しています。納税者本人が逮捕される場合は、脱税に関与した税理士も同時に逮捕され、さらに税理士が起訴されることも珍しくなくなっています。最近の新聞報道から拾い出せば次のような状況です。

 平成14年12月27日 …… 東京地検特捜部は格闘技の企画・運営会社のx社長(49)ら3人を法人税法違反で在宅起訴した。起訴されたのは、x社長のほか、脱税の指南役だったとされるy税理士(67)。

 平成15年5月8日 …… 新宿の税理士を証拠隠滅で起訴した。顧問先の教材会社が法人税法違反で摘発されないように2年分について嘘の経理書類を作って証拠隠滅をした。

 平成15年10月26日 …… 滋賀県警暴力団対策課は、建設業法違反(変更等届出)の疑いで、大津市仰木の税理士x(47)を逮捕した。x容疑者は土木建設会社役員らと共謀し、同社に借金があるにも関わらず、貸借対照表の短期借入金残高を空欄にして滋賀県に提出した。

 平成15年11月19日 …… 東京都港区の不動産会社が約6億4000万円の法人税を免れたとして東京地検特捜部は、x社長(46)と、監査役の税理士y(65)を法人税法違反容疑で逮捕した。

 平成15年12月18日 …… 子供に人気の漫画本などの出版社が法人税約7700万円を脱税したとして、東京地検特捜部は、法人税法違反罪で同社のx社長(58)を在宅起訴した。同時に告発された税理士については、関与が従属的として起訴猶予にした。

 税理士には、法定申告期限までに税務申告書を提出しなければならない究極の使命があります。期限内の申告を怠れば、それだけで無申告加算税が課税されてしまいます。過少申告の場合は、後に修正申告書を提出し、あるいは税務調査の段階で事実を明らかにすれば済むとの油断もあります。

 確かに、経営者を説得し、正直な申告書を提出させるのが税理士の使命であり、これが受け入れられない場合は依頼を断るのが正しい税理士の道かもしれません。しかし、長年の付き合いのある経営者に対し、そのような突き放した処理が行い難いのも税理士の弱さです。

 「脱税に関与しても、脱税報酬が支払われていない限りは、税理士に対してはお咎めなし」。このような10年前の取り扱いは、課税庁職員が、税理士の弱さを承知していたための取り扱いと理解することができました。

 しかし、現在は違います。なぜ、取り扱いが変わってしまったのか。これは、遡れば、強制執行妨害罪に問われた安田好弘弁護士の逮捕(平成15年12月24日に東京地裁で無罪判決)から始まったように思います。住専管理機構は告発状を提出するとの方法で、安田弁護士の逮捕について検察に協力しました。

 それまで検察は、専門家の逮捕には相当に慎重でした。国家権力の横暴として人権派弁護士から攻撃されることが必至だったからです。ところが、人権派弁護士を標榜していた人達が、検察権力を使い、債権回収を始めてしまった。これが住専管理機構が作り出した新しい社会です。


 弁護士が逮捕されてしまう時代ですから、検察官が税理士を逮捕するのに躊躇するはずがありません。他人の脱税のために自分が逮捕されてしまっては割に合いません。時代が変わったことを理解し、依頼者のために危ない橋を渡らないようにするのも専門家の知恵です。