取引相場のない株式の評価として純資産価額方式が採用されることがあります。その際に、法人税相当の42%の控除が認められるか否かは、取引当事者の立場、あるいは取引類型によって異なってきます。これを一覧すれば次の通りです。
aは、単純な贈与ですので、個人Aに対する課税は行われませんが、個人Bに対しては贈与税が課税されます。そして、この場合の純資産価額の計算では42%の控除が認められます(財産評価通達186−2 評価差額に対する法人税額等に相当する金額)。これは単純贈与の場合だけではなく、負担付贈与の場合も同様です。
bないしdの場合は、個人Aには所得税法59条が適用され、法人Bには法人税法22条が適用されます。具体的には所得税基本通達59−6(株式等を贈与した場合の株価)であり、法人税基本通達9−1−14(上場有価証券等以外の株式の価額の特例)の適用なのですが、いずれの場合も42%の控除は認められません。
なお、法人Aから贈与を受けた個人B(買主)の場合は、所得税基本通達36−36(有価証券の評価)が適用されますが、そこには具体的な株価算定の方法の記載がないので、結局は、同通達23〜35共−9(株式等を取得する権利の価額)を通じ、所得税基本通達59−6(株式等を贈与した場合の株価)が適用されることになると予想できます。
では、譲渡されたのが法人Aの自己株式(金庫株)だった場合はどうでしょうか。この場合の個人Bに対する課税関係は微妙です。なぜなら、自己株式の贈与(譲渡)には次のような疑問があり、その場合の課税には後に述べる3つの課税の順番があると思えるからです。
このような疑問が生じるのは、法人税法が、自己株式の譲渡を新株の発行と同様にみなすことにしたからです(法人税法2条第17号ロ)。
仮に、上記の答が是であれば、個人Bについては、42%の控除が認められる場合と否の場合が混在することになります。なぜなら、有利な価額での新株の発行(所得税法施行令84条第4号)には次の3つの課税の順番があると説明されているからです。
このように理解した場合は、第1順位が適用された場合は42%の控除が認められることになりますが、第2順位、あるいは第3順位の場合は42%の控除は認めらないことになります。
なぜなら、第2順位、あるいは第3順位の場合は、所得税基本通達36−36(有価証券の評価)が適用され、これが同通達23〜35共−9(株式等を取得する権利の価額)を通じて、結局は、所得税基本通達59−6(株式等を贈与した場合の株価)が適用されることになると思えるからです。
これを端的に表現すれば次のような区分になります。
さて、取引類型、あるいは取引当事者の違いによって、このような差異が生じることが合理的な区別なのか否か、税法の難解さを示す一例として紹介してみました。