滞納税金などで債務超過になった場合(会社法版) ==========

 銀行借入に加えて、滞納税金などで債務超過になってしまった。このような会社の再建策を検討してみます。

 民事再生法 …… 会社が生き残るためには、経常収支がプラスであることと、最低でも6ヶ月間の資金繰りが可能であることが必要です。民事再生の場合は、抵当権の実行を止めることができませんので、工場施設を有する場合は、工場の確保について抵当権者との協議が必要となります。具体的には、分割弁済を提案するか、あるいはスポンサーによる工場設備の買い取りです。しかし、このような方法をとっても、租税債務は一般優先債権(民事再生法122条)とされ免除の対象にはなりません。民事再生の申立には、裁判所への予納金(200万円から1000万円)と、同額程度の申立代理人への弁護士費用の支払いが必要です。民事再生の手続を利用し、実際に再建できた企業は、おそらく、申立件数の1割を下回るはずです。利益が確保できていない企業の場合は、裁判所の手を借りても、やはり、利益は確保できません。

 会社更生法 …… 会社更生法ならば、抵当権の実行を止めることが可能です。しかし、租税債務について免除を受けることはできません(会社更生法168条3項)。会社更生法の場合は、経営者は追放され、管財人が会社の経営を肩代わりするのが原則ですので、管財人にしかるべき人物を得る必要があることと、それなりのコストの負担が必要です。その意味では、少なくとも社員300名程度の規模の会社でないと採用できない手法です。

 破産と私的整理 …… 破産と私的整理(営業を廃止してしまう)は、同一の手続です。裁判所に予納金を積んで、倒産整理を破産管財人に任せてしまうか、あるいは社長(又は弁護士)が倒産処理を行うかの違いです。ただ、注意していただきたいのは、破産管財人は倒産会社の味方ではないということです。たとえば、倒産の間際に不適正な処理をしている場合は、破産管財人は、その処理について否認権等を行使しますし、事情によっては、旧経営者を告発することさえ考えられます。

 さて、以上のような倒産処理については、どのような書籍にも説明がありますので、詳細はそれぞれの専門書籍に譲るとして、次に説明するのは、裁判所を利用せず、商法と税法を意識した企業の生き残り戦略です。

 分割型分割 …… 優良部門だけを分割型分割(兄弟会社の設立)してしまう方法です。旧商法は、分割元会社の「債務の履行の見込」を要件としていましたが、会社法は、この要件を外しました。しかし、債権者に対する催告手続が必要とされていますので、優良部門だけの分離には債権者からの異議が出てしまうはずです。さらに、租税債務については、連帯納付義務(国税通則法第9条の2)がありますので、優良部門だけを会社分割しても、租税債務から逃れることは出来ません。

 分社型分割 …… 優良部門だけを分社型分割(子会社の設立)してしまう方法です。「債務の履行の見込」が廃止されましたし、分社型分割については債権者保護手続が不要(商法374条の4第1項但書)ですので、優良部門を、子会社として分離してしまう手法が使えます。また、国税通則法9条の2の連帯納付義務も適用になりません。なぜなら、分社型分割は、会社分割によって社外に流出するのと同額の出資金が分割会社の資産に計上されるからです。

 営業譲渡 …… 優良部門だけを営業譲渡してしまう方法もあります。ただし、この場合に注意すべきは、強制執行妨害罪(刑法96条の2)や、詐害行為取消権(民法424条)と、国税の第二次納税義務(国税徴収法38条)です。国税通則法38条は、「納税者がその親族その他納税者と特殊な関係のある個人又は同族会社……に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみられる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合……は、その譲受人は、譲受財産を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う」としているからです。この場合の納税義務の限度になる「譲受財産」は、資産(積極財産)の合計額であり、資産から負債を差し引いた純資産ではありません。

 別会社の設立 …… 事業は静かに廃業し、得意先を懇意な別会社に引き取ってもらう方法です。つまり、会社分割や、営業譲渡などの複雑な手法を利用せず、単に、廃業と別会社の設立という手順を採用する方法です。この場合に注意すべきは、売掛金、その他の資産について、一切、新会社には移転しないということです。これを移転した場合は、上記の強制執行妨害罪(刑法96条の2)、詐害行為取消権(民法424条)、国税の第二次納税義務(国税徴収法38条)などが問題になってしまうからです。そして、新会社は旧社と同様の商号を利用しないことも重要です(商法26条)。

 そして、最後にウルトラCの倒産対策を一つ。完全に行き詰まり、本当に倒産するまで経営を続ける努力をすることです。その間、役員としての報酬が受け取れます。債務総額30億円の倒産でも、それが40億円になってからの倒産でも結果は同じことです。ただし、詐欺だ、計画倒産だと言われないように、経営継続について最善の努力をすることが必要です。この方法で、結局、再建できてしまった会社を幾つか知っています。明日の営業は予測が出来ないのが会社経営です。先を読まない(先が読めない)のも一つの経営姿勢です。


 チェックリスト ……
 会社は利益を計上していますか。
 支払手形を発行していますか。
 土地建物を所有していますか。
 回収不能の債権がありますか。
 従業員は何名ですか。
 手持ちの現金は幾らくらいあるのですか。
 銀行借入は幾らで、個人保証をしていますか。
 親戚などを保証人に加えていますか。
 個人は土地建物を所有していますか。
 資金繰りが破綻するのは何時ですか。
 2事業年度の税務申告書をご持参下さい。