他人の税金を負担することになる第二次納税義務という制度

 自分の所得について税金を納めるのは当然ですが、ときとして他人の所得についても税金を負担させられてしまうのが税法の怖さです。そのような制度が国税の第二次納税義務と連帯納付義務なのですが、今回は、第二次納税義務について検討してみます。

 ◆ 無限責任社員の第二次納税義務(国税徴収法33条)

 合名会社と合資会社、それに無限責任中間法人が滞納した国税について、無限責任社員が負う納付義務です。商法80条などが定める無限責任社員の責任と「ほぼ同一」と考えてよいと思います。

 ◆ 清算人等の第二次納税義務(同法34条)

 法人が解散し、出資者に対して残余財産を分配したときは、《1》清算人と、《2》残余財産の分配を受けた出資者の両名が、法人の滞納税について納税義務を負います。

 ただし、納税義務を負うのは、《1》については分配した財産の価額を限度とし、《2》については分配を受けた財産の価額を限度にします。《1》は、商法134条の2などが定める清算人の責任と「ほぼ同一」ですが、「悪意又は重大な過失」を要求しないとの意味で立証が明確化されています。

 なお、第二次納税義務は、出資者に対する分配について問題になるのであって、債務の弁済については問題にしていません。そして、国税優先の原則(同法8条)があり、「国税は……その他の債権に先だつて徴収する」とされていますが、これは強制執行手続についての優先権であり、任意の弁済の段階であれば、どの債務を優先して弁済するかは、詐害行為に該当しない限り、経営者が自由に決定できることです。

 しかし、会社が解散し、清算手続に入った場合は、強制執行手続が開始した場合と同様に、国税優先の原則に従った弁済をしておいた方が無難です。債権者に対する優先弁済の順番を間違えたとして、清算人の任務懈怠に基づく損害賠償請求(商法134条の2)が考えられるからです。

 ◆ 同族会社の第二次納税義務(同法35条)

 同族株主が国税を滞納した場合は、その株式の価額を限度として、同族会社が納税義務を負うことになります。ただし、《1》株式について買受人がないことと、《2》株式の譲渡について譲渡制限があり、または株券の発行がないために譲渡に支障がある場合に限ります。

 個人事業者が、租税債務を滞納したまま法人を設立し、資産を法人に譲渡してしまうとの執行回避を防止することを目的としています。その為、対象になるのは、滞納した国税の法定納期限の1年内に取得した株式に限ります。滞納者は個人に限られませんので、子会社を設立した場合も、子会社に対する出資持分について、この条文が適用されます。

 ◆ 実質課税額等の第二次納税義務(同法36条)

 実質的な利得者に区分される次の三者が負担する第二次納税義務で、《1》実質所得者課税の原則(所得税法第12条など)、《2》資産の譲渡等を行つた者の実質判定(消費税法第13条)、《3》同族会社等の行為又は計算の否認等(所得税法第157条など)の場合には、その所得が実質的に帰属すると認定された者の納税義務です。

 ◆ 共同的な事業者の第二次納税義務(同法37条)

 納税者と生計を一にする親族又は同族株主が事業の遂行に欠くことができない重要な財産を所有し、かつ、その財産に関して生ずる所得が納税者の所得となっている場合に負う第二次納税義務です。

 つまり、経営者個人が工場建物を所有し、その工場を同族会社が無償で借り受けて事業を行っているような場合は、その工場建物の価額を限度として経営者個人が納税義務を負うことになります。

 ただし、対象になるのは「その財産に関して生じる所得」ですので、例えば、親族から無償で不動産を借りている場合の賃料相当額の利益や、経営者個人から会社が低額な賃料で工場を賃借して賃料差額の利益が発生している場合に限ります。つまり、正常な条件での賃借の場合についてまで第二次納税義務が発生するわけではありません。

 ◆ 事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務(同法38条)

 親族又は同族会社が事業を譲り受け、同一の場所で、同一又は類似の事業を営んでいる場合は、滞納者の事業に係る国税について、譲受財産を限度として、事業の譲受人が第二次納税義務を負います。ただし、その譲り受けが国税の法定納期限より1年以上前にされている場合は除きます。

 なお、譲り受けた財産は、資産と負債との差額の純資産ではなく、資産総額をいいます。したがって、3億円の資産と、同額の3億円の負債を承継し、利得が存在しない場合でも、3億円の資産額について第二次納税義務が生じることになります。

 ◆ 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務(同法39条)

 国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者から無償又は著しく低い価額により財産を譲り受け、あるいは債務の免除を受けたときは、受けた利益が現に存する限度(滞納者の親族については受けた利益の限度)において負担する納税義務です。民法424条に定める詐害行為取消権と「ほぼ同様」の内容ですが、詐害の意思を要求していないなどの面で立証を容易にしています。

 ◆ 人格のない社団等に係る第二次納税義務(同法41条)

 人格のない社団等の滞納税額について、財産の払戻を受けた者等が負う第二次納税義務です。


 組織の再構築等のために、会社を解散し、あるいは営業を譲渡するなどの処理が増えていますが、それが滞納税額から逃れることを目的としている場合は、これら第二次納税義務にも注意する必要があります。思わぬ納税額に泣かされないため、今回は、第二次納税義務を一覧してみました。