税務職員は、なぜ、優秀なのでしょうか。簿記会計も知らない新入職員を募集し、13ヶ月の税務大学校の教育だけで税法を理解させ、現場で通用する職人を作り上げてしまう。
たぶん、採用した職員の30%ぐらいは脱落し、使い物にならないのだろうと想像していたのですが、そのような職員は5%もいないとのこと(税務署の調査担当官の言)。なぜ、このようなことが可能なのでしょうか。
他方、税理士試験に合格するためには最低でも3年、平均すれば5年を要するのが実態だと思うのですが、そのような難関を突破してきた人たちにも後れを取らないのが税務職員。
税理士の中には、難しい問題が登場すると、即、税務職員に相談するという人たちが多いのですが、その問に答えられない税務職員に対し、「彼らは勉強していない」とコメントする。
つまり、税理士自体が、自分たちよりも税法に詳しいのが税務職員だと思い込んでいる。この状況は不思議としか言いようがありません。
銀行に対する金融庁の検査、証券会社に対する証券局の検査のように、一般的な指導監督権を背景にした業務なら、ストレスを感じるのは検査を受ける側かもしれませんが、税務調査の場合は、そのような一般的な監督権限があるわけではありません。
税務職員が、なぜ、トラブルも起こさず、任意の協力の下に税務調査を行い、そして、公務員の好感度アンケート調査では常に上位をキープするようなことが可能なのか。これも不思議としか言いようがありません。
OB税理士を依頼する納税者が、何らかの便宜を期待しているのであれば、このような傾向も説明できますが、今どきの時代に、税法を無視したところでの便宜が存在するとは思えません。
実業家はシビアであり、役に立たない人材に無駄な報酬を支払うことはあり得ないとの一般通念に従えば、OB税理士は、実際に役立つ存在であるとしか説明のしようがありません。これも不思議な現象です。
税務職員は、税法を、理論ではなく、事実で語ることが、理由の一つになっているように思います。つまり、売上が計上漏れになっているか、経費が過大計上になっているのではないかとの事実認定の問題として税法を扱っているとの事実です。
確かに、実務では、税法理論よりも、事実認定の方が優先しますし、税務調査の現場で登場することが多いのは、税法理論ではなく、事実認定の問題です。
税理士が、税理士試験で学ぶのは税法理論ですが、しかし、調査の現場では、理論ではなく、事実認定が幅を利かす。それが税務職員の優秀さの根源の一つになっているように思います。
しかし、他の役所の場合は、本来の目的よりも、政治的(役所の存在価値を示す)な判断が優先する面が強く登場します。
たとえば、痴漢として逮捕された場合における警察や検察庁の取り調べの目的は、真実の解明ではなく、自白の獲得にあることは指摘するまでもありません。これは証拠の有無にかかわらず、痴漢として逮捕された者は自白させるとの政治的(役所の存在価値を示す)な判断が優先しているためと説明することができますが、税務調査の場合は、このような政治的な判断は登場しません。つまり、目標が明確だとの意味ではストレスが少ない職場なのかもしれません。
「調査を担当したのは私の後輩だったので、今回の件について相談したら、なんらかの根拠を示してもらえば、納税者の主張を認めることが可能だといっていた。何か、根拠を提出しましょう」との説明。
課税庁の職員が行った上記の説明は、まさに、当たり前の説明なのですが、OB税理士から聞くと、なぜか、調査担当者との特別の信頼関係に基づく特別の便宜のように聞こえてしまいます。
それにしても、税務職員の優秀さには驚かされます。社員教育のマニュアルを外国から輸入するのが流行った時代がありましたが、まさに、見習うべきは税務署の職員教育マニュアルではないでしょうか。