読み難くなった商法と法人税法


  民法    11万6812文字
  商法    17万7033文字
  法人税法 22万6660文字

 民法、商法、それに法人税法の文字数を数えてみた結果が上記の数字です。

 最近、商法と法人税法の条文が読み難くなりました。以前には、商法の条文は、民法と同様に、2項、3項、せいぜい4項で終わりでしたが、この頃は、6項、7項は当たり前で、中には23項(商法266条)などというのもあります。さらに、1項毎が長文になってしまったのも条文を読み難くしている理由です。

 税法、特に、法人税法については、条文の難解さは以前からの傾向でしたが、商法の改正を受け、あるいは連結納税制度の導入によって改正された法人税法は、さらに、読み難くなりました。そして、税法は、「法」だけでは終わらず、「政令」「規則」とペアになりますが、これらについて文字数を数えてみれば次の通りです。


 法人税法施行令は  46万0899文字
 法人税法施行規則は 10万5157文字

 これを単純に合計すれば、商法は、民法に比較し1.5倍の分量があり、税法は、商法に比較し4.5倍の分量があることになります。

 さらには、税法は、法人税だけでは終わらず、国税だけを考えても、国税通則法、国税徴収法、所得税法、相続税法、消費税法、租税特別措置法、そして、それらの法律についての施行令、施行規則がセットになりますので、その難解さは群を抜くことになります。

 税法の基本理念は、公平と簡素化と言われていましたが、とても、簡素化とはいえないのが現状の姿です。では、なぜ、このような難解な条文になってしまったのでしょうか。その理由は説明するまでもなく、商法の相次ぐ改正と、それを追いかけざるを得ない法人税法の宿命です。

 そして、さらに指摘できるのが、商法と税法における基本理念の喪失です。

 商法の基本理念は、《1》債権者の保護と、《2》株主平等と言われていました。これらの基本理念が、条文を具体的な事案に当てはめる際の解釈指針として利用できました。つまり、条文解釈の方向が決まっていたわけです。

 しかし、現行の商法では《1》は変質してしまいました。債権者保護手続さえ行えば、株主が払い込んだ資本金さえ配当してしまうことができるのです。種類株式の多様化によって《2》が失われてしまったことは説明するまでもありません。

 今の商法の基本理念を、あえて掲げるとすれば、「何でもあり」と、「デスクロージャ」でしょうか。しかし、「何でもあり」では解釈指針には使えません。

 税法の基本理念は、《1》課税の公平と、《2》簡素化と言われていました。《1》が維持されているか否かについては議論がありますが、少なくとも《2》が失われてしまったことについては反論はないと思います。税法は簡素化とはほど遠いところにあります。

 こちらも、今の法人税法の基本理念をあえて掲げるとすれば「租税回避の防止」でしょうか。しかし、前提になる基本理念のないところで、何が、租税回避なのかを判断しなければならない。これも難しい判断です。

 組織再編成税制を理解できる専門家は日本には10人しかいないとまで語られているのが現在の税法です。国民の行動規範であるべき法律を理解している者が、日本に10人しかいないという現状には問題がありますが、しかし、この流れを止めることは困難と思えます。

 さて、実務家として、このような時代にどのように対応すべきでしょうか。

 《1》専門分野を限定し、それ以外は別の専門家に相談すべきか。しかし、相互に関連するのが法律であり、分野毎に切り離せないのが税法です。

 《2》日々研鑽すべきか。しかし、研鑽に使える時間には限度がありますし、受験生のような勉強を続けることは実際には困難です。

 《3》責任限定の委任契約書を作るか。しかし、手術についての同意書と同じで、そのような書面で過失が免責されることになるとは思えません。


 商法については、会社法の現代化法案が議論され、今秋に要綱案を完成し、来年2月を目処に法相に答申。そして、来年の春には国会に提出し、平成19年には改正法が施行される予定だと報道されています。当然のことながら、商法の改正に合わせての法人税法の大幅な改正も予想されます。

 さて、文化大革命のような制度破壊の時代にどのように生き残るか。専門家も自己研鑽をしないと、破壊された瓦礫の中に埋められてしまう時代なのかもしれません。