減資の課税関係(発行会社の場合) ============

 増資と減資は、資本取引であり、法人税の課税関係は生じない(法人税法22条)。これが法人税法の大原則でした。しかし、金庫株の解禁以降、この原則が不確かになっています。

 そのことを説明するために、次のような資産状態の会社について、発行済み株数10株の内の1株について有償減資が行われた場合を想定してみます。


   貸借対照表(発行済み株式数10株)
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 資産 1000円│資本金   500円
         │利益積立金 500円 …… 1株当たりの純資産100円

 この会社が減資と同時に1株を消却し、株主に対して100円を払い戻す(商法213条、375条)。この場合でしたら発行会社の課税関係を心配する必要はありません。心配になるのは次のような減資が行われた場合です。

 第1の疑問(低額な払い戻しによる減資が行われた場合)

 減資と同時に1株を消却し、本来であれば1株について100円を払い戻すべきところを、60円しか払い戻さない。この場合も、資本取引には課税関係が生じないとの大原則に従えば、発行法人について課税所得が認識されることはないはずです。

 では、この会社が株主から自己株式を1株を60円で買い取った場合はどうでしょうか。この場合には、時価100円の株式を60円で買い取ったものとして、会社に対し40円相当の受贈益課税が行われると解説されています。

 減資と自己株式の買い取りは、法律的な手続は異なりますが、実現される経済的な効果は同じです。自己株式の買い取り後に、減資をして、同時に、所有する自己株式を消却してしまうとの処理が可能だからです(商法212条)。

 そして、同一の結果であれば、同一の課税関係が生じるのが税法の基本原則なのですが、その原則に従えば、1株について60円しか払い戻さない上記の減資の場合も、会社に対しては受贈益課税が行われてしまうことになります。しかし、これは、資本取引には課税関係が生じないとの法人税法の大原則に反します。

 第2の疑問(高額な払い戻しによる減資が行われた場合)

 逆に、高額な払い戻しが行われた場合も同様の疑問が生じます。つまり、1株を120円として自己株式を買い取った場合ですが、このような取引については、時価との差額20円について、高額買い入れとして、自己株式の取得価額が否認(20円相当は寄附金として扱われることになる)されます。では、1株の減資について120円が払い戻された場合はどうでしょうか。

 第3の疑問(株主平等の低額または高額減資が行われた場)

 この会社の株主は2人であり、各々が50%の均等の持分の場合に、各々の持ち株の割合に応じて上記の減資が行われた場合はどうでしょうか。本来であれば1株について100円を払い戻すべきところ、1株について60円、あるいは120円が払い戻された場合ですが、そのような払い戻しが行われた後においても、各々の株主の持分に変化はありません。

 その場合でも、1株60円、あるいは120円での自己株式の買い取りが行われた場合と同様に、会社に対して、受贈益、あるいは取得価額の否認との課税関係が生じるのでしょうか。

 株主平等の減資は、株式併合と同様であり、そこに課税所得を認識するとの理屈は登場しないはずなのですが、現行の税法には、株主平等の減資と、それ以外の減資とを区別する条文は存在しません。


 このような疑問が提起されていましたが、この疑問は会社法現代化要綱案によって解消されるようです。現代化要綱案は、「株式の消却については、自己株式の消却という制度のみに整理する」として、株主が所有したままの株式を消却する減資(強制消却)との手法を廃止することにしているからです。

 つまり、第1の疑問、あるいは第2の疑問に例示した減資手法、すなわち、株主に対し、60円、あるいは120円の払い戻しによる株式の消却の方法は禁止され、自己株式を取得し、それを消却(任意消却)するとの方法に統一されることが予定されているからです。

 ただ、当初の「会社法制の現代化に関する要綱試案」に存在した「株式の一部につき株主持株数に応じて行う強制消却は、株式併合として整理する」との条項は消えてしまいました。では、第3の疑問は解消されないことになってしまったのか。ここは会社法現代化要綱案の条文化と、それを受けての法人税法の改正を待つ必要がありそうです。