DESの判例分析

 デット・エクィティ・スワップの課税関係 ===========

 債務免除益を計上することなく、貸倒損失が計上できるデット・エクィティ・スワップ(DES)は、まさに、魔法の小槌です。しかし、使い方を間違えると、貸倒損失が否認され、寄附金課税との結果になってしまうかもしれません。そこで、今回は、DESについての判例と実務を検討してみることにしました。

 判例編 _____________________

 DESとの手法が採用された事例ではないのですが、関係会社への出資の事例としてなら幾つかの判例が公表されています。そして、全ての事例で納税者が敗訴しています。

 第1判決 …… 有価証券の評価損の計上が否認された事例(平成元年9月25日東京地裁判決 判例時報1328号22頁)

 原告は、累積欠損を抱えた海外子会社について、昭和56年6月に950万ドルの第1次増資を行い、その全部を引き受けた。その結果、原告が所有する株式の取得価額は1994万ドルになったが、それでも子会社の純資産はマイナス2040万ドルで、1株当たりの純資産はマイナス101ドルだった。そのため原告は、昭和57年5月に、有価証券評価損45億円を計上し、所有株式の簿価をゼロにした。その後も海外子会社は欠損を計上し続けたため、昭和57年7月には1985万ドルの第2次増資を、さらに、昭和59年5月には1200万ドルの第3次増資を行い、その全てを引き受けた。

 このような事案について、裁判所は、次のように判断し、評価損の計上を否認しました。

 「原告が、……第1次増資の払込みに応じたのは、子会社が原告にとって……重要性を有するから……原告が、子会社に対し……第1次増資の払込金程度の経済的価値を認めていたもの」「単に数額的に債務超過にあり又はその債務超過の額がある程度増加したからといって、……評価損損金算入要件の資産状態の著しい悪化が生じたものと判断するわけにはいかない」。

 第2判決 …… 有価証券の譲渡損の計上が否認された事例(平成12年11月30日東京地裁判決 週刊税務通信2662号)

 A社には、ソフトウエアの開発を目的とするB社と、投資事業を目的とするC社の二つの子会社があったが、両社とも経営が悪化し、A社からの多額の融資を受けていた。そこで、A社は、銀行の指導もあり、A社が計上する4億円の利益を原資として、不良債権化した貸金を処理することにし、その方法として、B社とC社に増資をさせ、その増資新株を別会社に譲渡することによって有価証券譲渡損を計上した。

 「債務超過状態である子会社の新株発行に際して……額面金額……が1株5万円であるにもかかわらず……1株当たり約144万円……の払込みをし」「新株発行に際して、額面金額である発行価額を大幅に超える払込みを行うのは、通常の経済人を基準とすれば合理性はなく、不自然・不合理な経済行為である」。「一連の行為によって……子会社に対する貸付金を有価証券売却損という……損金に計上するという目的があった」ので、同族会社の行為計算として否認される。

 第3判決 …… 有価証券の譲渡損の計上が否認された事例(平成平成13年1月17日福井地裁判決 週刊税務通信2668号)

 この事案は第2判決と同様の案件で、その理由は指導したのが同一の税理士だという事情にあります。1株100万円の発行価額で新株を引き受け、その株式を第三者に売却することによって譲渡損を計上し、同時に行った上場株式の売却益を圧縮することにしました。

 「増資払込とそれに引き続く本件貸付金の処理とを全体的にみれば……本件増資払込金……に相当する額を債務免除したものと考える余地もないではない」。「実質的に債務免除による貸倒損失に当たるか否かが問題となる」。しかし、「平成5年3月期末における債務超過額は、本件増資払込金……528億9735万5000円をはるかに下回る286億8652万9397円であったこと」など「に照らせば、回収不能が客観的に確認できるとは到底いえない」。

 実務編 _____________________

 法人税基本通達などから予想するDESの課税関係は微妙に入り繰ります。仮に、20億円の債権が、時価10億円の出資金になってしまう場合を例に、債権者側の税務処理を分類すれば次のようになります。

 《1》 子会社に対して100%の支配関係があるなど、適格現物出資の要件が存する場合なら、債権の簿価が承継され、出資金の簿価は20億円になります(法人税法施行令119条1項7号)。その後の評価損の計上は《2》の要件に従い、出資金の譲渡については、適格現物出資の株式保有要件との関係が問題になりますが、それがクリヤーできれば、譲渡損の計上が認められることになります。

 《2》 支配関係にある子会社へのDESなら、出資金の簿価は20億円になります。それが第1判決の教訓であり、法人税基本通達9−1−12(増資払込み後における株式の評価損)であって、9−1−15(企業支配株式等の時価)だからです。DES実行の直後に出資金の評価損を計上することは認められません。

 《3》 合理的な再建計画に基づくDESの場合は、出資金の簿価は10億円になり、差額の10億円の損金処理が可能になります。それが法人税基本通達2−3−14(債権の現物出資により取得した株式の取得価額)であり、9−4−2(子会社等を再建する場合の無利息資付け等)の取り扱いだからです。

 《4》 債権者集会の決議など、会社の再建のために行われるDESなら、10億円相当の出資金の取得と、10億円の貸倒損失の計上になります。法人税基本通達9−6−1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)に規定されるところです。

 《5》 上記のいずれにも該当しない場合でも、実際には、10億円しか回収できない債権のDESなら、出資金の帳簿価額は10億円になり、差額の10億円は貸倒損失になります。

 《6》 さらに、以上のいずれの要件も満たさない場合は、取得した出資金の時価と債権額の差額について、寄附金と認定されるリスクがあり、出資金を処分した場合でも譲渡損の計上が否認される結果になってしまうかもしれません。


 債務の整理と企業の再建、あるいは相続税対策にとって、DESという魔法の小槌の利用は不可欠です。商法は、DES(現物出資)について、弁護士、あるいは税理士に、検査役の調査証明に代わる証明書の作成を認め、会社法現代化要綱は証明書の作成も不要にするなど、さらにDESを使いやすいものにしようとしています。

 しかし、課税関係については上記の通り注意を要するところが多いのがDESです。

 DESの注意点 _____________________

 上記の《1》のDESの場合に、仮に、これが親会社が第三者から購入してきた債権である場合は、次のような課税上のリスクがあります。つまり、10億円の債権を、仮に、3億円で購入してきて、これを適格現物出資した場合を想定すると、増資した会社は次のような仕訳をするとの指摘があるからです。


 現物出資された債権の簿価  3億円 / 資本金          10億円
                   / 資本積立金       ▲ 7億円

 債務           10億円 / 現物出資された債権の簿価  3億円
                   / 債務消滅益         7億円



 平成18年度税法では、これが非適格の現物出資の場合でも、債務免除益を計上するという取り扱いになるようです。