税務訴訟の最高裁判決 ===========

 最近、続けて、税務訴訟について6件の最高裁判決が言い渡されました。最高裁判決の判断基準になったのは何なのか。今回は、裁判所の判断基準と、税法の理屈について、6件の判決を分析してみることにします。

 《1》税務調査の際に帳簿書類を提示しなかった場合は、青色申告の承認の取消事由である帳簿の保存がない場合に該当する(平成17年3月10日第一小法廷判決)

 「税務調査において……帳簿書類の提示を拒み続けた場合は……帳簿書類を保管していたとしても」、「帳簿書類を備え付け……取引を記録し、かつ、帳簿書類を保存」するとの要件に欠け、青色申告の承認取消事由に該当すると判断しました。これは消費税法30条の仕入税額控除の要件である「帳簿及び請求書等を保存しない場合」においても争点になりますが、最高裁は、消費税についても同様の判断をしています(平成16年12月16日第一小法廷判決)

 この判決についての疑問は、「保存」という言葉を「提示」と読み替えてしまっていることです。条文解釈の限界を超えた判断です。

 《2》贈与を受けたゴルフ会員権について、名義書換料の支払いは、その後のゴルフ会員権の譲渡について「資産の取得に要した金額」に加算される(平成17年2月1日第三小法廷判決)

 「所得税法60条1項……は、増加益に対する課税の繰延べにあるから……受贈者の譲渡所得の金額の計算において、受贈者の資産の保有期間に係る増加益に贈与者の資産の保有期間に係る増加益を合わせたものを超えて所得として把握することを予定していない……。受贈者が贈与者から資産を取得するための付随費用は……資産の取得に要した金額として収入金額から控除される」。

 この判決についての疑問は、所得税法59条と60条について、それが制定された歴史的経過について誤解し、また、相続、あるいは贈与、さらには負担付贈与などの場合の課税関係の整合性に問題を生じさせてしまったことにあります。

 《3》基準年度の課税売上が3052万円の場合について、消費税の納税義務が免除される事業者については、基準年度の課税売上から消費税相当額を控除することはできない(平成17年2月1日第三小法廷判決)

 「消費税の納税義務を負わず……自らに課される消費税に相当する額を転嫁すべき立場にない免税事業者……は、消費税相当額を控除することは法の予定しない」。「基準期間に当たる課税期間について……納税義務を免除される消費税の額を含まない」。

 この判決についての疑問は、消費税の納税義務者が、事業者なのか、消費者なのかとの根源的な問題に遡ることになります。判決は、消費税の負担者を消費者との前提で論じてますが、これは条文解釈としては疑問のある解釈です。

 《4》米国法人の子会社である日本法人の代表取締役が親会社から付与されたストックオプションを行使して得た利益は、給与所得に該当する(平成17年1月25日第三小法廷判決)

 「代表取締役であったA社からではなく……A社の発行済み株式の100%を有している親会社」からの支給でも、それは「職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益」なので、「権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された……給与所得に当たる」。

 この判決についての疑問は、雇用関係にない当事者間の支払いを給与所得と認定したことです。一時所得との納税者の主張は無茶ですが、しかし、給与所得との認定も強引です。これは雑所得とすべき事案だったと思います。

 《5》税理士と課税庁の職員が結託して行った納税者に対する詐欺事案についても、納税者に対する過少申告加算税の賦課は適法である(平成17年1月17日第二小法廷判決)

 「A税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから……税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、又は仮装することを容認していたと推認するのが相当」であり、過少申告加算税の賦課は正当である。

 税理士と課税庁職員が結託した詐欺事件について、詐欺の被害者に対し過少申告加算税を賦課した事例です。税務訴訟では、納税者の手が一点でも汚れていたら救済されません。

 《6》日本興行銀行が住宅金融専門会社に対して行った解除条件付き債権放棄でも、貸倒損失の損金算入が認められる(平成16年12月24日第二小法廷判決)

 「興銀が……非母体金融機関に対して債権額に応じた損失の平等負担を主張することは……平成8年3月末までの間に社会通念上不可能となっており、当時のA社の資産等の状況からすると、本件債権の全額が回収不能であることは客観的に明らかとなっていた」。したがって、「本件債権の放棄が解除条件付きでされたことによって左右されるものではない」。

 解除条件付の債権放棄について貸倒損失の計上は、税法の常識では認められません。債権放棄の有無にかかわらず、債権の回収不能は社会通念上は確定していたとの認定ですが、しかし、当時、国会では、破産手続による平等弁済も議論されていたはずです。


 二つの考え方が存在するために争われるのが訴訟ですが、その二つの考え方は、法律解釈と常識との争いだとも言えます。上記の事案を見る限りは、最高裁は、条文解釈よりも、常識を優先しているように思えます。したがって、条文には適合するが、常識に反する事案に遭遇したときは、最高裁判決に救済を期待することができるかもしれません。しかし、条文には適合するが、常識には反するという事案では、最高裁の救済は難しいと考えた方が良さそうです。